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09.Fall Down/Toad The Wet Sprocket

ー/ー



「ところでアミオさん! アタシ達のライブどうだった? まぁ二曲しか観てないけど」
 直前のやり取りなど無かったかのように、嫌味たっぷりでミチヨがライブの感想を求めてきた。

 正直どんな言葉が正解なのかわからず、拙い表現で感想を述べるコトにした。

「いや、ホント凄かったよ。うん。今まで聴いたコトの無いような音楽だったし、音はデカイし迫力あったし……なんか全身ズタズタにされた気分」

 言い終わるやいなや、マキとミチヨは顔を見合わせて笑った。

「全身ズタズタって! それ褒めてないでしょ?」
「音がデカかっただけじゃん!」

 ケタケタと笑いながら交互に俺の背中をバシバシと叩いた。

 言葉のチョイスをやや誤った気がしたが、確かに意識だけは人体骨格標本にされたのだから間違いない。

 ただ、褒め言葉にはなっていなかったので補足として言葉を付け加えるコトにした。

「全身ズタズタは言い過ぎかもしれないけど、歌も凄かったよ。最後から二番目の曲なんて、死んだ婆ちゃんに抱き締められたみたいで泣きそうになったから」

 言ってて自分でもよくわからなかったが、そう感じたのだから仕方がない。

 俺に少しでも音楽の知識があれば、あのフレーズはどうだの、曲の構成がどうだの言えたのかもしれないが。

「婆ちゃんて! あまりの音の大きさに三途の川でも見えた?」

 マキが馬鹿にしたように俺の肩をポンポンと叩きながら、残念な人を諭すように慰めた。

「あ、ライブハウスも初めてだったよね? ドリンクチケット使い忘れないようにしなよ? もったいないし。あそこ、バーカウンターだから」

 音響の機械が並んでいるブースの裏手に小さな窓があり、そこでドリンクを受け取れるようだ。

 考えてみたら、仕事を終えて猛ダッシュでライブハウスに入り、何も口にしておらず喉がカラカラだった。

 ポケットに手を突っ込み、レシートと間違えて捨ててしまいそうなドリンクチケットを取り出して、バーカウンターに進む。

 ピンクの髪で耳を通り越して顔までピアスをバチバチに開けまくっている女の子にビールを注文した。

 チケットと引き換えに、仕入れ先のビール会社の名前が入ったフニャフニャの紙コップに、並々と注がれたビールを受け取り、一口啜って喉を潤す。

「あー! アタシもビール飲みたい! 一口ちょうだいね」

「じゃあボクも」

 ミチヨに引ったくられた紙コップはマキの手に移り、中身は既に半分ぐらいに減っていた。

 必死に奪い返そうと手を伸ばすが、マキはプイと背を向けてビールを飲みながら逃げる。

「お疲れー! あ、ビールちょーだい」

 片付けを終えて、ちょうどフロアに出てきたサクラが、マキから紙コップを渡され、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら残りのビールを胃袋に入れた。

「くぁ~たまらん! ライブの後のビールは最高ですなぁ」

 俺の前で、サクラは満面の笑みで空になった紙コップを握り潰した。まだ一口しか飲んでなかったのに!

「あ、マツノさんライブどうでした? あと、物販押し付けてゴメンなさいね?」

「なんかね? 全身ズタズタで死んだ婆ちゃんに会ってきたらしいよ?」

 俺が口を開く前に、マキがざっくりとし過ぎた説明をしてミチヨとゲラゲラ笑っている。

 俺はと言えば、何ともバツが悪いので、目も合わさず頭をボリボリ掻くしかなかった。

「アハハ! ライブの感想としては20点てトコだけど、何か感じ取ってくれたなら良かった。ま、こんなバンドなんですよ。私達」

 感じ取ったってコトになるのかは不明だが、俺の人生に今まで無かったモノに触れたという点で言えば、収穫は有ったと言えよう。

「この後も色々出るんで、せっかくだから観て行ってくださいね? 特にトリのequal(イコール) romamce(ロマンス)ってバンドが悔しいけど格好いいんで」

 観て行けって言われても、この空間に居場所を作るのが難しい。

 物販カウンターに目をやると、エリカがヒマそうに一点を見つめて座っている。そういえば、さっきお釣りを立て替えてたんだった。

「あ、お疲れ様。あの、さっき俺、500円お釣りで立て替えてたんだけど」

 小声で申し訳なさ満載で言うと、エリカはチラリとコチラを見て、カウンターに並んだ音源を一枚渡してきた。

「毎度ありがとうございます」

 礼を言った後の無言の圧がハンパ無い。これでは取り立ては無理そうだ。500円は落としたと思って諦めるコトにして、音源を肩から下げたトートバッグに入れた。

「お婆ちゃん……」

「……はい?」

「お婆ちゃんが見えたって、さっき」

 ライブを観た俺の感想が、彼女の耳にも届いていたらしい。全員から責め立てられるのか。

「あ、いや、ゴメンなさい。キミの歌声聴いてたら、ちょっと婆ちゃん思い出して……こんな感想で申し訳ない」

 叱責なら甘んじて受けるつもりで謝罪すると、エリカは少し寂しそうな表情をして、伏し目がちに口を開いた。

「最後から二番目に演った曲だよね? あれ、表向きは庭の大きな木が家族を見守ってるって感じの歌詞なんだけど、ホントは私、自分のお婆ちゃんのコト歌ってるんだよね」

「そうだったんだ? へぇ~そういうのって伝わるモンなんだね? 不思議」

「ただ、私……お婆ちゃん亡くなって、一緒に過ごして、楽しかったコト……とか、優しくして……くれた……コト……とか、お婆ちゃんに……ありがとうって、ちゃんと、言えてなくて……」

「お、いや、ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 エリカが嗚咽混じりに話始めたのだが、周囲には大きめな音でBGMが流れていて会話の内容が聞こえてないだけに、俺が泣かしたみたいになっちゃうだろ? コレ。

 だから男子校出身てこういう時に弱い……スマートにハンカチ渡したり出来ないから。

「あの……音源欲しいんですけど……大丈夫ですか?」

「あ、は、はい。ゴメンなさいね? ちょっとドラえもんの映画で、しずかちゃんがお嫁入りする話思い出しちゃっただけなんで、ええ。大丈夫です。500円です」

 適当な理由を付けて、泣きながら俯いてしまっているエリカに代わり、とりあえず脇から客を捌く。

 音源を手渡し、小声で失礼しますと申し訳なく受け取った500円玉を金庫に仕舞う。

 物販のやり取りの間にやや落ち着きを取り戻したエリカが、チーンと鼻をかんで俺を睨み付けた。

「そんな柴田理恵みたいな理由で泣いたりしません! ホンっト最低! アミオのクセに生意気!」

「あぁぁ、お婆ちゃんの話なんかしてゴメンなさい。俺に音楽の知識があったら、『あの転調は○○のアルバムの何曲目のサビ前みたいで良かった』とか、『あの曲のイントロは××の名曲を思わせる』とか気の利いた感想が言えたんだけど」

「ふぅ~ん。逆に、もしそんなコト言ってきてたら、ひっぱたいて二度と口利かなかったと思うけどね」

「えぇ?! 何で?」

「じゃあ例えば、アミオがオリジナリティを追求して一生懸命作ったラーメンを誰かに食べてもらったとするでしょ? その感想で、『お、旨い! これ○○って店の味にソックリ』って言われて嬉しい? ラーメンをラーメンに例えられるって屈辱じゃない?」

「うぅ……俺、ラーメン作らないけど確かにそうかも」

「だから感想なんてアレでイイのよ」

「そうか……俺、てっきり感想がショボい上に、お婆ちゃんのコトが地雷だったから怒られたのかと思ってたよ」

「怒ったんじゃないのよ。ただ、私……」

 急に表情が曇り、何かを言い淀んでいる様子だった。

「メンバーにも言ってなかったんだけどね、歌辞めようかと思ってて……でも、アミオの感想聞いて辞めるのやめた!」

「おぉサラっと爆弾発言! っていうか辞めるなんて勿体無いよ。あんなに歌上手いのに」

「上手いだけじゃダメなんだよ。歌が歌えるなんて、同じ言語で話が出来る程度のコトだもの。だからこそ、何を歌うかが大事なんだけどね」

「そうなんだ? 俺なんて昔、同級生とカラオケ行った時に『キモい』って言われてから歌なんてほとんど歌ってないんだから」

「ふぅ~ん。それなのに弾き語りなんてするんだ?」

「あ……」

 エリカに感想を必死に伝えてるつもりだったが、今初めて自分が歌を苦手としてるコトに気付いた。

 そうだよ! 俺の歌聴いたヤツから、昔『キモい』って言われてるんじゃん!

「そ、そうですよねー? 大丈夫なんですかねー? 俺」

 春先の坊主頭が濃厚になってきた。


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「ところでアミオさん! アタシ達のライブどうだった? まぁ二曲しか観てないけど」 直前のやり取りなど無かったかのように、嫌味たっぷりでミチヨがライブの感想を求めてきた。
 正直どんな言葉が正解なのかわからず、拙い表現で感想を述べるコトにした。
「いや、ホント凄かったよ。うん。今まで聴いたコトの無いような音楽だったし、音はデカイし迫力あったし……なんか全身ズタズタにされた気分」
 言い終わるやいなや、マキとミチヨは顔を見合わせて笑った。
「全身ズタズタって! それ褒めてないでしょ?」
「音がデカかっただけじゃん!」
 ケタケタと笑いながら交互に俺の背中をバシバシと叩いた。
 言葉のチョイスをやや誤った気がしたが、確かに意識だけは人体骨格標本にされたのだから間違いない。
 ただ、褒め言葉にはなっていなかったので補足として言葉を付け加えるコトにした。
「全身ズタズタは言い過ぎかもしれないけど、歌も凄かったよ。最後から二番目の曲なんて、死んだ婆ちゃんに抱き締められたみたいで泣きそうになったから」
 言ってて自分でもよくわからなかったが、そう感じたのだから仕方がない。
 俺に少しでも音楽の知識があれば、あのフレーズはどうだの、曲の構成がどうだの言えたのかもしれないが。
「婆ちゃんて! あまりの音の大きさに三途の川でも見えた?」
 マキが馬鹿にしたように俺の肩をポンポンと叩きながら、残念な人を諭すように慰めた。
「あ、ライブハウスも初めてだったよね? ドリンクチケット使い忘れないようにしなよ? もったいないし。あそこ、バーカウンターだから」
 音響の機械が並んでいるブースの裏手に小さな窓があり、そこでドリンクを受け取れるようだ。
 考えてみたら、仕事を終えて猛ダッシュでライブハウスに入り、何も口にしておらず喉がカラカラだった。
 ポケットに手を突っ込み、レシートと間違えて捨ててしまいそうなドリンクチケットを取り出して、バーカウンターに進む。
 ピンクの髪で耳を通り越して顔までピアスをバチバチに開けまくっている女の子にビールを注文した。
 チケットと引き換えに、仕入れ先のビール会社の名前が入ったフニャフニャの紙コップに、並々と注がれたビールを受け取り、一口啜って喉を潤す。
「あー! アタシもビール飲みたい! 一口ちょうだいね」
「じゃあボクも」
 ミチヨに引ったくられた紙コップはマキの手に移り、中身は既に半分ぐらいに減っていた。
 必死に奪い返そうと手を伸ばすが、マキはプイと背を向けてビールを飲みながら逃げる。
「お疲れー! あ、ビールちょーだい」
 片付けを終えて、ちょうどフロアに出てきたサクラが、マキから紙コップを渡され、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら残りのビールを胃袋に入れた。
「くぁ~たまらん! ライブの後のビールは最高ですなぁ」
 俺の前で、サクラは満面の笑みで空になった紙コップを握り潰した。まだ一口しか飲んでなかったのに!
「あ、マツノさんライブどうでした? あと、物販押し付けてゴメンなさいね?」
「なんかね? 全身ズタズタで死んだ婆ちゃんに会ってきたらしいよ?」
 俺が口を開く前に、マキがざっくりとし過ぎた説明をしてミチヨとゲラゲラ笑っている。
 俺はと言えば、何ともバツが悪いので、目も合わさず頭をボリボリ掻くしかなかった。
「アハハ! ライブの感想としては20点てトコだけど、何か感じ取ってくれたなら良かった。ま、こんなバンドなんですよ。私達」
 感じ取ったってコトになるのかは不明だが、俺の人生に今まで無かったモノに触れたという点で言えば、収穫は有ったと言えよう。
「この後も色々出るんで、せっかくだから観て行ってくださいね? 特にトリの|equal《イコール》 |romamce《ロマンス》ってバンドが悔しいけど格好いいんで」
 観て行けって言われても、この空間に居場所を作るのが難しい。
 物販カウンターに目をやると、エリカがヒマそうに一点を見つめて座っている。そういえば、さっきお釣りを立て替えてたんだった。
「あ、お疲れ様。あの、さっき俺、500円お釣りで立て替えてたんだけど」
 小声で申し訳なさ満載で言うと、エリカはチラリとコチラを見て、カウンターに並んだ音源を一枚渡してきた。
「毎度ありがとうございます」
 礼を言った後の無言の圧がハンパ無い。これでは取り立ては無理そうだ。500円は落としたと思って諦めるコトにして、音源を肩から下げたトートバッグに入れた。
「お婆ちゃん……」
「……はい?」
「お婆ちゃんが見えたって、さっき」
 ライブを観た俺の感想が、彼女の耳にも届いていたらしい。全員から責め立てられるのか。
「あ、いや、ゴメンなさい。キミの歌声聴いてたら、ちょっと婆ちゃん思い出して……こんな感想で申し訳ない」
 叱責なら甘んじて受けるつもりで謝罪すると、エリカは少し寂しそうな表情をして、伏し目がちに口を開いた。
「最後から二番目に演った曲だよね? あれ、表向きは庭の大きな木が家族を見守ってるって感じの歌詞なんだけど、ホントは私、自分のお婆ちゃんのコト歌ってるんだよね」
「そうだったんだ? へぇ~そういうのって伝わるモンなんだね? 不思議」
「ただ、私……お婆ちゃん亡くなって、一緒に過ごして、楽しかったコト……とか、優しくして……くれた……コト……とか、お婆ちゃんに……ありがとうって、ちゃんと、言えてなくて……」
「お、いや、ちょ、ちょっと、大丈夫?」
 エリカが嗚咽混じりに話始めたのだが、周囲には大きめな音でBGMが流れていて会話の内容が聞こえてないだけに、俺が泣かしたみたいになっちゃうだろ? コレ。
 だから男子校出身てこういう時に弱い……スマートにハンカチ渡したり出来ないから。
「あの……音源欲しいんですけど……大丈夫ですか?」
「あ、は、はい。ゴメンなさいね? ちょっとドラえもんの映画で、しずかちゃんがお嫁入りする話思い出しちゃっただけなんで、ええ。大丈夫です。500円です」
 適当な理由を付けて、泣きながら俯いてしまっているエリカに代わり、とりあえず脇から客を捌く。
 音源を手渡し、小声で失礼しますと申し訳なく受け取った500円玉を金庫に仕舞う。
 物販のやり取りの間にやや落ち着きを取り戻したエリカが、チーンと鼻をかんで俺を睨み付けた。
「そんな柴田理恵みたいな理由で泣いたりしません! ホンっト最低! アミオのクセに生意気!」
「あぁぁ、お婆ちゃんの話なんかしてゴメンなさい。俺に音楽の知識があったら、『あの転調は○○のアルバムの何曲目のサビ前みたいで良かった』とか、『あの曲のイントロは××の名曲を思わせる』とか気の利いた感想が言えたんだけど」
「ふぅ~ん。逆に、もしそんなコト言ってきてたら、ひっぱたいて二度と口利かなかったと思うけどね」
「えぇ?! 何で?」
「じゃあ例えば、アミオがオリジナリティを追求して一生懸命作ったラーメンを誰かに食べてもらったとするでしょ? その感想で、『お、旨い! これ○○って店の味にソックリ』って言われて嬉しい? ラーメンをラーメンに例えられるって屈辱じゃない?」
「うぅ……俺、ラーメン作らないけど確かにそうかも」
「だから感想なんてアレでイイのよ」
「そうか……俺、てっきり感想がショボい上に、お婆ちゃんのコトが地雷だったから怒られたのかと思ってたよ」
「怒ったんじゃないのよ。ただ、私……」
 急に表情が曇り、何かを言い淀んでいる様子だった。
「メンバーにも言ってなかったんだけどね、歌辞めようかと思ってて……でも、アミオの感想聞いて辞めるのやめた!」
「おぉサラっと爆弾発言! っていうか辞めるなんて勿体無いよ。あんなに歌上手いのに」
「上手いだけじゃダメなんだよ。歌が歌えるなんて、同じ言語で話が出来る程度のコトだもの。だからこそ、何を歌うかが大事なんだけどね」
「そうなんだ? 俺なんて昔、同級生とカラオケ行った時に『キモい』って言われてから歌なんてほとんど歌ってないんだから」
「ふぅ~ん。それなのに弾き語りなんてするんだ?」
「あ……」
 エリカに感想を必死に伝えてるつもりだったが、今初めて自分が歌を苦手としてるコトに気付いた。
 そうだよ! 俺の歌聴いたヤツから、昔『キモい』って言われてるんじゃん!
「そ、そうですよねー? 大丈夫なんですかねー? 俺」
 春先の坊主頭が濃厚になってきた。