闇から逃れるように辿り着いた場所は、青々とした草原と荒涼な大地、連なる山脈、石造りの街に守られていました。
心地好い薫風が吹き抜け、草花の香りが漂い、牧羊の鳴き声が響く、のどかな風景。
温かく素朴な料理、軽快なブラスバンド、飾り気なく豪快に笑い、陽気に歌う人達…… 皆さんは、ここは凡庸で娯楽も何もない、労働者ばかりの退屈な所だ、と言いました。
ですが、私にとっては、きらきらした温かな光と、甘いお砂糖が降りかかった、生まれて初めて感じる、穏やかで、何よりも尊いものでした。
大切な人と平和に暮らすこと。一緒に食事をして、何でもないことを話して、笑って、ぶつかって、泣いて、触れて、抱き合って眠ること。
身体ごと、心を愛し合うこと、その人の子を授かって、親となること。
幾千年もの長い年月の中で、地球の人間……生物が繰り返してきた営み……
――たったそれだけのことが、どうしてこんなにも、困難で、脆くて、呆気ないのでしょうか。
もし、神様が全て見ておられるのなら、今のこの世界を、どうお考えなのでしょう。
ある日、突然。罪無き人の命が簡単に奪われ、日常が壊される。
平和を説いていた人が、命賭けの戦いに参加するという哀しい事態。
悲しみ、嘆き、泣いて、叫んで、絶望して……自ら死を選ぶ命までが存在するという、人間の酷な現実。
生き物らしく、普通に生きることすら赦されない。そんな理不尽な世界が、存在して良いのですか……?
全てが崩れ落ち、終わってしまった所には、何が救いになるのでしょう?
神様は、本当にいらっしゃるのですか……?
幸せを呼ぶという、青い鳥は、どこにいるのでしょう……?
――どうか、これ以上……もう、何も壊さないで……