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寵姫 アナベル 12話

ー/ー



「では、受け入れ入るための準備期間がほしいところですね」
「はい。それと、コラリーさまから夜会の招待状もいただいています。この夜会に参加したいと考えていますわ」
「それは良いですね。……ああ、それではこうしましょう」

 ロマーヌの案に、アナベルはぱぁっと表情を明るくさせた。

 彼女に教えられながら、アナベルは丁寧に手紙を書く。

 王妃イレインに対して、王妃陛下の優しい心遣いに感謝すること、ありがたく侍女をいただくこと、ただまだ宮殿に慣れていないのから一週間ほど時間がほしいこと――……

「これでどうかしら?」
「……ええ、よろしいでしょう」

 ロマーヌがしっかりと内容を確認し、アナベルに微笑みかける。

 ホッとしたようにアナベルが息を吐くと、丁寧に折り、封筒に入れた。

「封をして、王妃イレインに渡してもらいましょう」
「そうですね」

 封をするために必要なものを取り出すロレーヌ。

 小さなキャンドルにマッチで火をつけて、スプーンを用意し、シーリングワックスを溶かす。

「……綺麗な色ですわね」
「シーリングワックスの色は種類が豊富ですから、アナベルさまも今度探してみてはいかがですか?」
「そうですね、楽しそうですわ」

 紫色のワックスを溶かして、封筒の上に垂らす。シーリングスタンプをぎゅっと押して、固まるまで待ち、そっと離して確認した。

「綺麗にできましたね。では、これを王妃陛下に渡しましょう」
「メイドに頼めばよいかしら?」
「ええ。では、それを頼んだら今日の授業を開始しましょう」

 にっこりと微笑むロマーヌの瞳がきらりと光る。

 アナベルは内心「ひぇっ」と叫んだが、表には出さずに微笑む。

「よろしくお願いいたしますわ、カルメ伯爵夫人」

 手紙は近くにいたメイドに頼む、アナベルはロマーヌにビシバシとスパルタで教え込まれた。

 文句を言わずにロマーヌについてくるアナベルは、彼女にとっても大事な生徒になっていた。

 一通りのことを終えて、昼食に時間になり、一緒に食べることになった二人は、食堂まで歩いていく。

「……カルメ伯爵夫人、頼みたいことがあります」
「私に?」
「はい。……実は、娼館から三人ほどこの宮殿にきてもらうことになっています。その人たちにも、わたくしと同じように教養を身につけさせたいのです」
「娼館……?」

 目を丸くしたロマーヌに、アナベルは昨日のことを話した。

 彼女は口元に手を添えて、考え込む。

「なぜ、娼館だったのですか? いくら腕が良いからと言って、あまりにも無謀な賭けなのでは?」
「――あの娼館にいる人たちは、男性の扱いエキスパート。……さらに、自分の身も守れるほどの腕前と、持ち前の美貌(びぼう)で情報を得てくれるでしょう。――王妃イレイン側の、男性を相手にしても」

 にやり、とアナベルは口角を上げた。

 一つでも多く、王妃イレインの情報がほしい。

「貴族の男性を相手にするなら、教養も必要となるでしょう? もちろん、娼館でもそれ相応の振る舞いを学んではいるでしょうけれど……より深く、美しく、男性を魅了できる人が必要だと思ったのです」

 アナベルはぴたりと足を止め、胸元で手を組んでロマーヌを見つめる。

「……ダメですか……?」

 不安そうに揺れる瞳を見て、ロマーヌはふるふると首を横に振った。

「よかった! それは数日後に迎えに行きますわね」
「……面白いことを思いつきますね、アナベルさま」
「あら、適材適所という言葉があるでしょう? わたくしは、それを実行しているだけですわ」

 貴族の令嬢しかしらない男性たちにとっては、刺激的かもしれないが、その刺激がうまくいくことをアナベルは祈っている。

「どんな方々がこちらへ?」
「三人ともわたくしに劣らず美女です。色気はわたくしよりもありますわね。……それと、護衛を兼ねていますので、強いと思います」

 彼女たちの実力を、アナベルは知らない。そして、彼女たちもまた、アナベルが彼女たちをどう扱おうとしているのか知らないだろう。

 知っているのは、アナベルの護衛をするということだけだろう。

「うふふ、楽しくなりそうですわね」

 にっこりと微笑むアナベルの瞳には、炎が宿っている。ロマーヌはゴクリと唾を飲んだ。

(――エルヴィス陛下は、面白い女性を連れてきたものね――……)

 ともに昼食を()り、そのあとお茶を飲んで穏やかな時間を過ごし、再びロマーヌにいろいろなことを学ぶ。

 夜に自室へ戻ると、アナベルはベッドに座って小さく肩をすくめた。

 肩に手を置いて、揉んでみる。

 剣の稽古を始めてからまだそんなに経っていないというのに、肩が凝っていた。

(……今日はエルヴィス陛下、いらっしゃるかしら?)

 ちらりと扉のほうに視線を移し、エルヴィスの姿を思い浮かべると、アナベルはかぁっと頬を赤らめる。

(……いつになったら、慣れるのかしら……)

 両手で頬を包み込みように添えると、扉がノックされた。

「はい、どうぞ」
「アナベルさま、王妃陛下からです……」
「ええ……?」

 まさかこんなに早く二通目が届くとは思わなくて、アナベルは目を(またた)かせる。

 手紙の内容を確認すると、アナベルは目元を細めた。

「……コラリーさまの夜会っていつでしたっけ?」
「二週間後、ですね」
「でしたら、華々しくわたくしの侍女としてデビューしてもらいましょう」

 アナベルは視線を落として、じぃっと手紙を見つめる。

「デビュー?」
「ええ、夜会に連れていこうと考えていますの」
「え、……その、彼女を、ですか?」

 アナベルはメイドと視線を合わせて、ゆっくりと首を縦に動かした。



次のエピソードへ進む 寵姫 アナベル 13話


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「では、受け入れ入るための準備期間がほしいところですね」
「はい。それと、コラリーさまから夜会の招待状もいただいています。この夜会に参加したいと考えていますわ」
「それは良いですね。……ああ、それではこうしましょう」
 ロマーヌの案に、アナベルはぱぁっと表情を明るくさせた。
 彼女に教えられながら、アナベルは丁寧に手紙を書く。
 王妃イレインに対して、王妃陛下の優しい心遣いに感謝すること、ありがたく侍女をいただくこと、ただまだ宮殿に慣れていないのから一週間ほど時間がほしいこと――……
「これでどうかしら?」
「……ええ、よろしいでしょう」
 ロマーヌがしっかりと内容を確認し、アナベルに微笑みかける。
 ホッとしたようにアナベルが息を吐くと、丁寧に折り、封筒に入れた。
「封をして、王妃イレインに渡してもらいましょう」
「そうですね」
 封をするために必要なものを取り出すロレーヌ。
 小さなキャンドルにマッチで火をつけて、スプーンを用意し、シーリングワックスを溶かす。
「……綺麗な色ですわね」
「シーリングワックスの色は種類が豊富ですから、アナベルさまも今度探してみてはいかがですか?」
「そうですね、楽しそうですわ」
 紫色のワックスを溶かして、封筒の上に垂らす。シーリングスタンプをぎゅっと押して、固まるまで待ち、そっと離して確認した。
「綺麗にできましたね。では、これを王妃陛下に渡しましょう」
「メイドに頼めばよいかしら?」
「ええ。では、それを頼んだら今日の授業を開始しましょう」
 にっこりと微笑むロマーヌの瞳がきらりと光る。
 アナベルは内心「ひぇっ」と叫んだが、表には出さずに微笑む。
「よろしくお願いいたしますわ、カルメ伯爵夫人」
 手紙は近くにいたメイドに頼む、アナベルはロマーヌにビシバシとスパルタで教え込まれた。
 文句を言わずにロマーヌについてくるアナベルは、彼女にとっても大事な生徒になっていた。
 一通りのことを終えて、昼食に時間になり、一緒に食べることになった二人は、食堂まで歩いていく。
「……カルメ伯爵夫人、頼みたいことがあります」
「私に?」
「はい。……実は、娼館から三人ほどこの宮殿にきてもらうことになっています。その人たちにも、わたくしと同じように教養を身につけさせたいのです」
「娼館……?」
 目を丸くしたロマーヌに、アナベルは昨日のことを話した。
 彼女は口元に手を添えて、考え込む。
「なぜ、娼館だったのですか? いくら腕が良いからと言って、あまりにも無謀な賭けなのでは?」
「――あの娼館にいる人たちは、男性の扱いエキスパート。……さらに、自分の身も守れるほどの腕前と、持ち前の|美貌《びぼう》で情報を得てくれるでしょう。――王妃イレイン側の、男性を相手にしても」
 にやり、とアナベルは口角を上げた。
 一つでも多く、王妃イレインの情報がほしい。
「貴族の男性を相手にするなら、教養も必要となるでしょう? もちろん、娼館でもそれ相応の振る舞いを学んではいるでしょうけれど……より深く、美しく、男性を魅了できる人が必要だと思ったのです」
 アナベルはぴたりと足を止め、胸元で手を組んでロマーヌを見つめる。
「……ダメですか……?」
 不安そうに揺れる瞳を見て、ロマーヌはふるふると首を横に振った。
「よかった! それは数日後に迎えに行きますわね」
「……面白いことを思いつきますね、アナベルさま」
「あら、適材適所という言葉があるでしょう? わたくしは、それを実行しているだけですわ」
 貴族の令嬢しかしらない男性たちにとっては、刺激的かもしれないが、その刺激がうまくいくことをアナベルは祈っている。
「どんな方々がこちらへ?」
「三人ともわたくしに劣らず美女です。色気はわたくしよりもありますわね。……それと、護衛を兼ねていますので、強いと思います」
 彼女たちの実力を、アナベルは知らない。そして、彼女たちもまた、アナベルが彼女たちをどう扱おうとしているのか知らないだろう。
 知っているのは、アナベルの護衛をするということだけだろう。
「うふふ、楽しくなりそうですわね」
 にっこりと微笑むアナベルの瞳には、炎が宿っている。ロマーヌはゴクリと唾を飲んだ。
(――エルヴィス陛下は、面白い女性を連れてきたものね――……)
 ともに昼食を|摂《と》り、そのあとお茶を飲んで穏やかな時間を過ごし、再びロマーヌにいろいろなことを学ぶ。
 夜に自室へ戻ると、アナベルはベッドに座って小さく肩をすくめた。
 肩に手を置いて、揉んでみる。
 剣の稽古を始めてからまだそんなに経っていないというのに、肩が凝っていた。
(……今日はエルヴィス陛下、いらっしゃるかしら?)
 ちらりと扉のほうに視線を移し、エルヴィスの姿を思い浮かべると、アナベルはかぁっと頬を赤らめる。
(……いつになったら、慣れるのかしら……)
 両手で頬を包み込みように添えると、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
「アナベルさま、王妃陛下からです……」
「ええ……?」
 まさかこんなに早く二通目が届くとは思わなくて、アナベルは目を|瞬《またた》かせる。
 手紙の内容を確認すると、アナベルは目元を細めた。
「……コラリーさまの夜会っていつでしたっけ?」
「二週間後、ですね」
「でしたら、華々しくわたくしの侍女としてデビューしてもらいましょう」
 アナベルは視線を落として、じぃっと手紙を見つめる。
「デビュー?」
「ええ、夜会に連れていこうと考えていますの」
「え、……その、彼女を、ですか?」
 アナベルはメイドと視線を合わせて、ゆっくりと首を縦に動かした。