寵姫 アナベル 3話
ー/ー 馬車に揺られて数十分。
目的の場所についたようだ。
馬車の扉が開き、パトリックが手を差し出す。アナベルはその手を取って馬車を降りる。
「……ここは?」
「王都にある孤児院の一つです」
「王都には、そんなに孤児院がありますの?」
「ええまぁ……。とりあえず、中に入りましょう」
パトリックはアナベルをエスコートした。
エスコートをしているときは顔を赤らめないパトリックを見て、仕事とプライベートのオンオフでこんなにも表情の違いが出るものかと内心驚いたアナベルであった。
「あ、あら、これはパトリックさま。ご機嫌麗しゅうございます」
子どもたちは庭先で遊んでいた。みんな笑顔で楽しそうに笑い声を上げている。
小さな子たちのまぶしい笑顔を眺めていると、年配の女性が話しかけてきた。
「アナベルさま、こちらはこの孤児院の院長のミレー夫人です。ミレー夫人、この方はエルヴィス陛下の寵姫、アナベルさまです」
「エルヴィス陛下の……? まあ、それでは、号外の新聞に書かれていたことは、本当でしたのね……!」
目をキラキラと輝かせながら、彼女はアナベルを見つめる。
なぜそんなに輝いた瞳を向けられているのかわからなかったアナベルだが、にこっと可愛らしく微笑んだ。
「お初にお目にかかります。アナベル・ロラ・アンリオと申します」
すっとカーテシーをすると、ミレー夫人もカーテシーをしてくれた。そこで、おや? とアナベルは少し目を見開く。
そのカーテシーは、カルメ伯爵夫人を思わせる優雅さと気品があったからだ。
「ようこそ、ミレー孤児院へ。寵姫アナベルさまのご来訪を、心より歓迎いたします」
「ミレー夫人はカルメ伯爵人の伯母なんですよ」
「まぁ、そうでしたの。カルメ伯爵夫人には、いつもお世話になっております」
カルメ伯爵夫人の親戚に会うとは思っていなかったので、アナベルは心底驚いた。だが、それを顔に出さず、顎の近くで指を合わせて柔らかく口角を上げる。
そして、ふと彼女が気になることを口にしていたことを思い出した。
「あの、号外の新聞とは……?」
「エルヴィス陛下が自ら寵姫を迎えられた、と。その女性はとても美しいと書かれておりましたの」
見せましょうか? と尋ねられ、アナベルは丁重に断った。
「では、こちらへどうぞ」
ミレー夫人に案内されて、孤児院の中に入る。
お茶を淹れてもらい、「どうぞ」と勧められたので、こくりと一口飲んだ。
「……それで、どうして寵姫がこのような場所へ?」
怪訝そうなミレー夫人に、アナベルはちらりとパトリックを見る。
彼は小さくうなずいた。――この人は信用しても大丈夫、というように。
「実はわたくし、慈善活動をしたいのです」
「……え?」
その言葉が意外だったのか、ミレー夫人は目を大きく見開いた。
「……わたくし、孤児だったのです。住んでいた村が焼かれて……家族も、村人たちも全員……」
話しているうちに涙が込み上げそうになった。ハンカチを取り出すと、そっと目元を拭う。
「――孤児になったわたくしですが、幸いにもクレマン座長が率いる旅芸人の一座に拾われました。そこで、様々なことを学びました」
生きる術のほとんどは、そこで学んだと言っても過言ではない。
「……わたくしは、すべての人にその力を得てほしいと、考えております」
真摯なまなざしでミレー夫人を見つめるアナベルに、彼女は息を呑んだ。
「それが、貴女の『寵姫としての在り方』ですか?」
こくり、とアナベルがうなずく。
「エルヴィス陛下には、絶対的な味方が一人でも多く必要です。わたくしは、彼の宿り木になりたい。わたくしのもとで、少しでも安らいでもらいたい。……それは、寵姫ではなく、個人の考えでもあるのですが……」
彼に抱かれて、自分の想いをハッキリと理解した。
彼の苦悩を少しでも分け与えてほしい、と。
エルヴィスを取り巻く環境はあまりにも寂しく、厳しく、自分の腕の中で彼を温めてあげたい。
これを、愛と呼ばずになんというのか。
アナベルは笑う。儚く、美しく、彼を焦がれるように。
その笑みを見て、ミレー夫人はアナベルがエルヴィスのことを心から愛しているのだと悟った。
そして彼女もまた、エルヴィスに愛されているのだ、と。
「……エルヴィス陛下は、本当に愛する人を見つけたのですね……」
しっとりとした口調で、それでも嬉しそうに微笑むミレー夫人に、アナベルは首をかしげた。
「では、アナベルさま。貴女は孤児院で、なにをどう教えるつもりなのですか?」
「……まずは、文字の読み書きを。それをマスターしたら、魔法の使い方、と徐々に段階を踏んでいきたいのです。子どもたちの考え方は十何でしょう? 今日のあることに関しての飲み込みは、きっと早いと思います」
「……誰が、教えるのですか?」
「お許しをいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」
アナベルの提案に、ミレー夫人は驚嘆のまなざしを彼女に向ける。
ミレー夫人は悩むように視線を落とす。ふと、アナベルの手が緊張からか震えていることが視界に入った。
(――どうして、そこまでするのかしら?)
視線を彼女の手から顔へ移動させる。意志の強そうな瞳を見つめ、口を開く。
「なぜ、貴女がそこまでするのですか?」
「……子どもたちの未来を、守りたいから」
旅芸人の一座で旅をしていた頃、いろいろな人が一座に入り、抜けていった。
なかには、アナベルと同じように孤児だった人もいた。その人は読み書きもろくに出来ず、かなり低い値段で娼館に売り飛ばされそうになったところを、クレマンが助けて一座に加わった。
彼女はそれから読み書きを学び、踊り子たちをサポートする衣装係として働いていたが、その裁縫の腕が目を引き、とある町の裁縫店にスカウトされ――クレマンから『自分の人生なんだから、自分で選べ』と彼女に選択肢を与えた結果、地に足のついた生活をしてみたかったと裁縫店で働くことを決めた。きっと今日も元気に働いているだろう。
目的の場所についたようだ。
馬車の扉が開き、パトリックが手を差し出す。アナベルはその手を取って馬車を降りる。
「……ここは?」
「王都にある孤児院の一つです」
「王都には、そんなに孤児院がありますの?」
「ええまぁ……。とりあえず、中に入りましょう」
パトリックはアナベルをエスコートした。
エスコートをしているときは顔を赤らめないパトリックを見て、仕事とプライベートのオンオフでこんなにも表情の違いが出るものかと内心驚いたアナベルであった。
「あ、あら、これはパトリックさま。ご機嫌麗しゅうございます」
子どもたちは庭先で遊んでいた。みんな笑顔で楽しそうに笑い声を上げている。
小さな子たちのまぶしい笑顔を眺めていると、年配の女性が話しかけてきた。
「アナベルさま、こちらはこの孤児院の院長のミレー夫人です。ミレー夫人、この方はエルヴィス陛下の寵姫、アナベルさまです」
「エルヴィス陛下の……? まあ、それでは、号外の新聞に書かれていたことは、本当でしたのね……!」
目をキラキラと輝かせながら、彼女はアナベルを見つめる。
なぜそんなに輝いた瞳を向けられているのかわからなかったアナベルだが、にこっと可愛らしく微笑んだ。
「お初にお目にかかります。アナベル・ロラ・アンリオと申します」
すっとカーテシーをすると、ミレー夫人もカーテシーをしてくれた。そこで、おや? とアナベルは少し目を見開く。
そのカーテシーは、カルメ伯爵夫人を思わせる優雅さと気品があったからだ。
「ようこそ、ミレー孤児院へ。寵姫アナベルさまのご来訪を、心より歓迎いたします」
「ミレー夫人はカルメ伯爵人の伯母なんですよ」
「まぁ、そうでしたの。カルメ伯爵夫人には、いつもお世話になっております」
カルメ伯爵夫人の親戚に会うとは思っていなかったので、アナベルは心底驚いた。だが、それを顔に出さず、顎の近くで指を合わせて柔らかく口角を上げる。
そして、ふと彼女が気になることを口にしていたことを思い出した。
「あの、号外の新聞とは……?」
「エルヴィス陛下が自ら寵姫を迎えられた、と。その女性はとても美しいと書かれておりましたの」
見せましょうか? と尋ねられ、アナベルは丁重に断った。
「では、こちらへどうぞ」
ミレー夫人に案内されて、孤児院の中に入る。
お茶を淹れてもらい、「どうぞ」と勧められたので、こくりと一口飲んだ。
「……それで、どうして寵姫がこのような場所へ?」
怪訝そうなミレー夫人に、アナベルはちらりとパトリックを見る。
彼は小さくうなずいた。――この人は信用しても大丈夫、というように。
「実はわたくし、慈善活動をしたいのです」
「……え?」
その言葉が意外だったのか、ミレー夫人は目を大きく見開いた。
「……わたくし、孤児だったのです。住んでいた村が焼かれて……家族も、村人たちも全員……」
話しているうちに涙が込み上げそうになった。ハンカチを取り出すと、そっと目元を拭う。
「――孤児になったわたくしですが、幸いにもクレマン座長が率いる旅芸人の一座に拾われました。そこで、様々なことを学びました」
生きる術のほとんどは、そこで学んだと言っても過言ではない。
「……わたくしは、すべての人にその力を得てほしいと、考えております」
真摯なまなざしでミレー夫人を見つめるアナベルに、彼女は息を呑んだ。
「それが、貴女の『寵姫としての在り方』ですか?」
こくり、とアナベルがうなずく。
「エルヴィス陛下には、絶対的な味方が一人でも多く必要です。わたくしは、彼の宿り木になりたい。わたくしのもとで、少しでも安らいでもらいたい。……それは、寵姫ではなく、個人の考えでもあるのですが……」
彼に抱かれて、自分の想いをハッキリと理解した。
彼の苦悩を少しでも分け与えてほしい、と。
エルヴィスを取り巻く環境はあまりにも寂しく、厳しく、自分の腕の中で彼を温めてあげたい。
これを、愛と呼ばずになんというのか。
アナベルは笑う。儚く、美しく、彼を焦がれるように。
その笑みを見て、ミレー夫人はアナベルがエルヴィスのことを心から愛しているのだと悟った。
そして彼女もまた、エルヴィスに愛されているのだ、と。
「……エルヴィス陛下は、本当に愛する人を見つけたのですね……」
しっとりとした口調で、それでも嬉しそうに微笑むミレー夫人に、アナベルは首をかしげた。
「では、アナベルさま。貴女は孤児院で、なにをどう教えるつもりなのですか?」
「……まずは、文字の読み書きを。それをマスターしたら、魔法の使い方、と徐々に段階を踏んでいきたいのです。子どもたちの考え方は十何でしょう? 今日のあることに関しての飲み込みは、きっと早いと思います」
「……誰が、教えるのですか?」
「お許しをいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」
アナベルの提案に、ミレー夫人は驚嘆のまなざしを彼女に向ける。
ミレー夫人は悩むように視線を落とす。ふと、アナベルの手が緊張からか震えていることが視界に入った。
(――どうして、そこまでするのかしら?)
視線を彼女の手から顔へ移動させる。意志の強そうな瞳を見つめ、口を開く。
「なぜ、貴女がそこまでするのですか?」
「……子どもたちの未来を、守りたいから」
旅芸人の一座で旅をしていた頃、いろいろな人が一座に入り、抜けていった。
なかには、アナベルと同じように孤児だった人もいた。その人は読み書きもろくに出来ず、かなり低い値段で娼館に売り飛ばされそうになったところを、クレマンが助けて一座に加わった。
彼女はそれから読み書きを学び、踊り子たちをサポートする衣装係として働いていたが、その裁縫の腕が目を引き、とある町の裁縫店にスカウトされ――クレマンから『自分の人生なんだから、自分で選べ』と彼女に選択肢を与えた結果、地に足のついた生活をしてみたかったと裁縫店で働くことを決めた。きっと今日も元気に働いているだろう。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
馬車に揺られて数十分。
目的の場所についたようだ。
馬車の扉が開き、パトリックが手を差し出す。アナベルはその手を取って馬車を降りる。
「……ここは?」
「王都にある孤児院の一つです」
「王都には、そんなに孤児院がありますの?」
「ええまぁ……。とりあえず、中に入りましょう」
「王都にある孤児院の一つです」
「王都には、そんなに孤児院がありますの?」
「ええまぁ……。とりあえず、中に入りましょう」
パトリックはアナベルをエスコートした。
エスコートをしているときは顔を赤らめないパトリックを見て、仕事とプライベートのオンオフでこんなにも表情の違いが出るものかと内心驚いたアナベルであった。
「あ、あら、これはパトリックさま。ご|機嫌《きげん》|麗《うるわ》しゅうございます」
子どもたちは庭先で遊んでいた。みんな笑顔で楽しそうに笑い声を上げている。
小さな子たちのまぶしい笑顔を眺めていると、年配の女性が話しかけてきた。
「アナベルさま、こちらはこの孤児院の院長のミレー夫人です。ミレー夫人、この方はエルヴィス陛下の|寵姫《ちょうき》、アナベルさまです」
「エルヴィス陛下の……? まあ、それでは、号外の新聞に書かれていたことは、本当でしたのね……!」
「エルヴィス陛下の……? まあ、それでは、号外の新聞に書かれていたことは、本当でしたのね……!」
目をキラキラと輝かせながら、彼女はアナベルを見つめる。
なぜそんなに輝いた瞳を向けられているのかわからなかったアナベルだが、にこっと可愛らしく微笑んだ。
「お初にお目にかかります。アナベル・ロラ・アンリオと申します」
すっとカーテシーをすると、ミレー夫人もカーテシーをしてくれた。そこで、おや? とアナベルは少し目を見開く。
そのカーテシーは、カルメ伯爵夫人を思わせる優雅さと気品があったからだ。
「ようこそ、ミレー孤児院へ。寵姫アナベルさまのご来訪を、心より歓迎いたします」
「ミレー夫人はカルメ伯爵人の伯母なんですよ」
「まぁ、そうでしたの。カルメ伯爵夫人には、いつもお世話になっております」
「ミレー夫人はカルメ伯爵人の伯母なんですよ」
「まぁ、そうでしたの。カルメ伯爵夫人には、いつもお世話になっております」
カルメ伯爵夫人の親戚に会うとは思っていなかったので、アナベルは心底驚いた。だが、それを顔に出さず、顎の近くで指を合わせて柔らかく口角を上げる。
そして、ふと彼女が気になることを口にしていたことを思い出した。
「あの、号外の新聞とは……?」
「エルヴィス陛下が自ら寵姫を迎えられた、と。その女性はとても美しいと書かれておりましたの」
「エルヴィス陛下が自ら寵姫を迎えられた、と。その女性はとても美しいと書かれておりましたの」
見せましょうか? と|尋《たず》ねられ、アナベルは丁重に断った。
「では、こちらへどうぞ」
ミレー夫人に案内されて、孤児院の中に入る。
お茶を|淹《い》れてもらい、「どうぞ」と勧められたので、こくりと一口飲んだ。
「……それで、どうして寵姫がこのような場所へ?」
|怪訝《けげん》そうなミレー夫人に、アナベルはちらりとパトリックを見る。
彼は小さくうなずいた。――この人は信用しても大丈夫、というように。
「実はわたくし、慈善活動をしたいのです」
「……え?」
「……え?」
その言葉が意外だったのか、ミレー夫人は目を大きく見開いた。
「……わたくし、孤児だったのです。住んでいた村が焼かれて……家族も、村人たちも全員……」
話しているうちに涙が込み上げそうになった。ハンカチを取り出すと、そっと目元を拭う。
「――孤児になったわたくしですが、幸いにもクレマン座長が率いる旅芸人の一座に拾われました。そこで、様々なことを学びました」
生きる|術《すべ》のほとんどは、そこで学んだと言っても過言ではない。
「……わたくしは、すべての人にその力を得てほしいと、考えております」
|真摯《しんし》なまなざしでミレー夫人を見つめるアナベルに、彼女は息を|呑《の》んだ。
「それが、|貴女《あなた》の『寵姫としての在り方』ですか?」
こくり、とアナベルがうなずく。
「エルヴィス陛下には、絶対的な味方が一人でも多く必要です。わたくしは、彼の宿り木になりたい。わたくしのもとで、少しでも安らいでもらいたい。……それは、寵姫ではなく、個人の考えでもあるのですが……」
彼に抱かれて、自分の想いをハッキリと理解した。
彼の苦悩を少しでも分け与えてほしい、と。
エルヴィスを取り巻く環境はあまりにも寂しく、厳しく、自分の腕の中で彼を温めてあげたい。
これを、愛と呼ばずになんというのか。
アナベルは笑う。|儚《はかな》く、美しく、彼を焦がれるように。
その笑みを見て、ミレー夫人はアナベルがエルヴィスのことを心から愛しているのだと悟った。
そして彼女もまた、エルヴィスに愛されているのだ、と。
「……エルヴィス陛下は、本当に愛する人を見つけたのですね……」
しっとりとした口調で、それでも嬉しそうに微笑むミレー夫人に、アナベルは首をかしげた。
「では、アナベルさま。貴女は孤児院で、なにをどう教えるつもりなのですか?」
「……まずは、文字の読み書きを。それをマスターしたら、魔法の使い方、と徐々に段階を踏んでいきたいのです。子どもたちの考え方は十何でしょう? 今日のあることに関しての飲み込みは、きっと早いと思います」
「……誰が、教えるのですか?」
「お許しをいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」
「……誰が、教えるのですか?」
「お許しをいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」
アナベルの提案に、ミレー夫人は|驚嘆《きょうたん》のまなざしを彼女に向ける。
ミレー夫人は悩むように視線を落とす。ふと、アナベルの手が緊張からか震えていることが視界に入った。
(――どうして、そこまでするのかしら?)
視線を彼女の手から顔へ移動させる。意志の強そうな瞳を見つめ、口を開く。
「なぜ、貴女がそこまでするのですか?」
「……子どもたちの未来を、守りたいから」
「……子どもたちの未来を、守りたいから」
旅芸人の一座で旅をしていた頃、いろいろな人が一座に入り、抜けていった。
なかには、アナベルと同じように孤児だった人もいた。その人は読み書きもろくに出来ず、かなり低い値段で娼館に売り飛ばされそうになったところを、クレマンが助けて一座に加わった。
彼女はそれから読み書きを学び、踊り子たちをサポートする衣装係として働いていたが、その裁縫の腕が目を引き、とある町の裁縫店にスカウトされ――クレマンから『自分の人生なんだから、自分で選べ』と彼女に選択肢を与えた結果、地に足のついた生活をしてみたかったと裁縫店で働くことを決めた。きっと今日も元気に働いているだろう。