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踊り子 アナベル 6話

ー/ー



 自分のお腹が空いていることに気付かないくらい、アナベルは現状を把握(はあく)できていなかったようで、もぐもぐと黙って食べている。

 ミシェルとクレマンは視線を()わしてうなずいた。

 お腹が満たされたところで、ミシェルとクレマンが同時に「これからどうしたい?」とアナベルに(たず)ねる。

 アナベルはミシェルを見てから、クレマンに顔を向けた。

「……えっと、その前に……どうして、こんなにたくさんの人と一緒に旅をしているの?」
「ああ、伝えてなかったか。オレたちは旅芸人なんだ。各地を巡って、芸を披露(ひろう)して生計を立てている」
「……旅芸人?」
「あ、そっかぁ。アナベルちゃんは見たことないかもねぇ。こういうのよ」

 すくっとミシェルが立ち上がり、毛皮のコートを脱ぐと近くに置いてあった剣を持ち、鞘から抜く。そして、その剣を器用に操りながら舞い始める。

 彼女の身体は柔らかく、まるで羽が生えているかのように軽やかな剣舞だった。

「さすがミシェル!」
「あの剣舞はやっぱりミシェルだけのものよねぇ」
「うーん、いつか抱きたい……」
「子どもの前でなにを言ってんだ!」

 ばこっと殴られたのは若い男性だった。「いってぇな!」と文句を言いつつ、アナベルの視線に気付いて、気まずそうに肩をすくめる。

 舞終わり、頭を下げるミシェルに、みんな盛大な拍手を送った。

 もちろん、アナベルも。彼女の目はキラキラと輝いていた。初めて見た剣舞に魅了されたかのように、ぽぅっとしている。

「こんな感じで芸を披露(ひろう)して、お金をもらうの。あたしが一番得意なのは、この剣舞。どうだった?」
「とってもカッコ良かったです!」

 興奮冷めやらぬ様子で、アナベルがキラキラとした瞳をミシェルに向けて、感想を伝える。彼女は一瞬目を丸くして、「えへへ」と照れたように笑った。

「『カッコイイ』なんて嬉しいわぁ。この一座の男性陣なんて、そんなこと言ってくれないもの」
「……そうなんですか?」
「あー、まぁ。見慣れているしなぁ。ま、それは置いといて、だ。嬢ちゃん」
「アナベル、よ。クレマン座長」
「……アナベル。お前には選択肢が二つある。オレらの一座に加入するか、旅の途中で孤児院に入るか、だ。もしもこの一座に加入するなら、お前にも芸を仕込まないといけない。まだ小さいお前にはわからないかもしれないが、芸を覚えるのはかなーりキツイからな?」
「そんなに(おど)かさなくてもいいのに……」

 ミシェルが唇を尖らせてぽそりとつぶやくと、ぎろりとクレマンに睨まれる。

 彼女は肩をすくめて、それからアナベルの背後に立って頭を撫でた。

 アナベルは考えを巡らせた。このままこの旅芸人の一座に入ることと、孤児院に入ること……どちらのメリットもデメリットもわからないことだった。だが、旅芸人ということは少なからず、様々な情報を得られるのではないか? と思いつく。

「……たくさん、練習します。だから、アナベルを仲間にしてください!」

 村を焼いた犯人を(さが)すためにも、情報は多いほうが良い。

 アナベルは頭を下げて、この一座に入ることを懇願(こんがん)した。

 ミシェルとクレマンは、互いに顔を見合わせて、それからクレマンがアナベルの腋の下に手を入れてひょいと持ち上げる。

 自分の肩に座らせると、すぅっと大きく息を吸って――……

「新人のアナベルだ! 徹底的にいろいろ教え込め!」

 そう、宣言した。

 わぁぁああっ! と歓声が上がった。

 どうやら、アナベルのことを歓迎してくれるようだった。そして、村にいたときはあれだけ人見知りだったのに、ここの人たちは普通に話せている自分に気付く。

(きっと、ショックなことが多すぎたんだ……)

 自分を花嫁にしようとした貴族、魔物に襲われて陰から落ちたこと。焼かれた村……。そのすべてが、アナベルの心に強いショックを与えてしまい、心身ともに疲労していた。

 そんなアナベルに、救いの手を差し伸べたこの旅芸人一座に感謝しつつも、彼女は自分の目的のためにがんばろうと心の中で決意を固める。

「これからよろしくねぇ、アナベルちゃん」
「よろしくお願いします、ミシェルさん」

 ミシェルが手を差し出したので、アナベルはその手を取って握手をした。

「あ、ミシェルだけずるーい」

 二人が握手をしているのを見て、女性陣が手を伸ばす。

「ゲッ、こっち来るなよ!」
「座長が肩車しているのがいけないんですよー」
「わかった、わかったから……、どさくさに紛れて股間を撫でんな、尻を揉むな!」

 きゃっきゃと楽しそうに笑う女性たちにたじろいているクレマン。ミシェルが「おいで」と腕を広げたので、避難するように彼女に手を伸ばす。

 ミシェルに抱っこしてもらって、女性たちに翻弄(ほんろう)されているクレマンの姿を見たミシェルが肩をすくめて、

「本当、うちの座長は女性にモテモテだわー。教育に悪いだろうから、隠れていようね~」

 と、アナベルを抱っこしたままテントの中に入った。

 そして、テントの中に入ると、先程の話かい男性がミシェルに「コートを」と手渡す。

「ありがとう。さっきの剣舞、どうだった?」
「え、ぁ、えっと、……とても、セクシーでした……」
「うふふ、ありがとう」

 毛皮のコートを受け取ってぱさっと羽織ると、男性に剣舞の感想を求めたミシェル。

 男性の感想を聞いて、パチンとウインクすると、男性は顔を真っ赤にさせてテントから出ていった。



次のエピソードへ進む 踊り子 アナベル 7話


みんなのリアクション

 自分のお腹が空いていることに気付かないくらい、アナベルは現状を|把握《はあく》できていなかったようで、もぐもぐと黙って食べている。
 ミシェルとクレマンは視線を|交《か》わしてうなずいた。
 お腹が満たされたところで、ミシェルとクレマンが同時に「これからどうしたい?」とアナベルに|尋《たず》ねる。
 アナベルはミシェルを見てから、クレマンに顔を向けた。
「……えっと、その前に……どうして、こんなにたくさんの人と一緒に旅をしているの?」
「ああ、伝えてなかったか。オレたちは旅芸人なんだ。各地を巡って、芸を|披露《ひろう》して生計を立てている」
「……旅芸人?」
「あ、そっかぁ。アナベルちゃんは見たことないかもねぇ。こういうのよ」
 すくっとミシェルが立ち上がり、毛皮のコートを脱ぐと近くに置いてあった剣を持ち、鞘から抜く。そして、その剣を器用に操りながら舞い始める。
 彼女の身体は柔らかく、まるで羽が生えているかのように軽やかな剣舞だった。
「さすがミシェル!」
「あの剣舞はやっぱりミシェルだけのものよねぇ」
「うーん、いつか抱きたい……」
「子どもの前でなにを言ってんだ!」
 ばこっと殴られたのは若い男性だった。「いってぇな!」と文句を言いつつ、アナベルの視線に気付いて、気まずそうに肩をすくめる。
 舞終わり、頭を下げるミシェルに、みんな盛大な拍手を送った。
 もちろん、アナベルも。彼女の目はキラキラと輝いていた。初めて見た剣舞に魅了されたかのように、ぽぅっとしている。
「こんな感じで芸を|披露《ひろう》して、お金をもらうの。あたしが一番得意なのは、この剣舞。どうだった?」
「とってもカッコ良かったです!」
 興奮冷めやらぬ様子で、アナベルがキラキラとした瞳をミシェルに向けて、感想を伝える。彼女は一瞬目を丸くして、「えへへ」と照れたように笑った。
「『カッコイイ』なんて嬉しいわぁ。この一座の男性陣なんて、そんなこと言ってくれないもの」
「……そうなんですか?」
「あー、まぁ。見慣れているしなぁ。ま、それは置いといて、だ。嬢ちゃん」
「アナベル、よ。クレマン座長」
「……アナベル。お前には選択肢が二つある。オレらの一座に加入するか、旅の途中で孤児院に入るか、だ。もしもこの一座に加入するなら、お前にも芸を仕込まないといけない。まだ小さいお前にはわからないかもしれないが、芸を覚えるのはかなーりキツイからな?」
「そんなに|脅《おど》かさなくてもいいのに……」
 ミシェルが唇を尖らせてぽそりとつぶやくと、ぎろりとクレマンに睨まれる。
 彼女は肩をすくめて、それからアナベルの背後に立って頭を撫でた。
 アナベルは考えを巡らせた。このままこの旅芸人の一座に入ることと、孤児院に入ること……どちらのメリットもデメリットもわからないことだった。だが、旅芸人ということは少なからず、様々な情報を得られるのではないか? と思いつく。
「……たくさん、練習します。だから、アナベルを仲間にしてください!」
 村を焼いた犯人を|捜《さが》すためにも、情報は多いほうが良い。
 アナベルは頭を下げて、この一座に入ることを|懇願《こんがん》した。
 ミシェルとクレマンは、互いに顔を見合わせて、それからクレマンがアナベルの腋の下に手を入れてひょいと持ち上げる。
 自分の肩に座らせると、すぅっと大きく息を吸って――……
「新人のアナベルだ! 徹底的にいろいろ教え込め!」
 そう、宣言した。
 わぁぁああっ! と歓声が上がった。
 どうやら、アナベルのことを歓迎してくれるようだった。そして、村にいたときはあれだけ人見知りだったのに、ここの人たちは普通に話せている自分に気付く。
(きっと、ショックなことが多すぎたんだ……)
 自分を花嫁にしようとした貴族、魔物に襲われて陰から落ちたこと。焼かれた村……。そのすべてが、アナベルの心に強いショックを与えてしまい、心身ともに疲労していた。
 そんなアナベルに、救いの手を差し伸べたこの旅芸人一座に感謝しつつも、彼女は自分の目的のためにがんばろうと心の中で決意を固める。
「これからよろしくねぇ、アナベルちゃん」
「よろしくお願いします、ミシェルさん」
 ミシェルが手を差し出したので、アナベルはその手を取って握手をした。
「あ、ミシェルだけずるーい」
 二人が握手をしているのを見て、女性陣が手を伸ばす。
「ゲッ、こっち来るなよ!」
「座長が肩車しているのがいけないんですよー」
「わかった、わかったから……、どさくさに紛れて股間を撫でんな、尻を揉むな!」
 きゃっきゃと楽しそうに笑う女性たちにたじろいているクレマン。ミシェルが「おいで」と腕を広げたので、避難するように彼女に手を伸ばす。
 ミシェルに抱っこしてもらって、女性たちに|翻弄《ほんろう》されているクレマンの姿を見たミシェルが肩をすくめて、
「本当、うちの座長は女性にモテモテだわー。教育に悪いだろうから、隠れていようね~」
 と、アナベルを抱っこしたままテントの中に入った。
 そして、テントの中に入ると、先程の話かい男性がミシェルに「コートを」と手渡す。
「ありがとう。さっきの剣舞、どうだった?」
「え、ぁ、えっと、……とても、セクシーでした……」
「うふふ、ありがとう」
 毛皮のコートを受け取ってぱさっと羽織ると、男性に剣舞の感想を求めたミシェル。
 男性の感想を聞いて、パチンとウインクすると、男性は顔を真っ赤にさせてテントから出ていった。