第2話「理由」

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「……仕方ない事なの。どうしようもないのよ」  愁いを携えて、彼女は窓の外に視線を向けた。  彼女の一挙一動に、私は視線を奪われたが、何とか次の言葉を続けた。 「……どういう事?」  彼女はその質問にフフッと、天使のように微笑み返した。 「女の価値って、何だと思う?」  彼女の脈略のない答えに、私が目を白黒させていると、彼女はクスクスと、小鳥がさえずるようにおかしそうに笑うのだ。 「女は、美しくなければ生きている価値がないって、言ってやったのよ」  悪戯っぽく小首を傾げて微笑む彼女は、息を呑む程、可愛らしかった。 *** 「……と言う、訳よ」 (……)  私は彼女から紡がれた説明の言葉を、頭で整理した。  彼女は私には興味なさそうに、紫からオレンジのグラデーション色に染まった空を眺めていた。 「要は、牧野先輩の友達の彼氏が、貴方の事を好きになってしまって、その事に牧野先輩たちが怒ってるって事?」  彼女は、空を眺めなが静かに頷いた。 「とんだ、言い掛かりよね? 何で私が怒られなくちゃいけないのかしら? そんな男、私記憶にもないのに。勝手に私を好きになったのは、その男なのに。しかも、自分の彼氏でもない、友人の彼氏の事でしょ?」 「まあ、確かに……」  そう答えつつも、私には牧野先輩たちの行動は、共感性の高い「女」という生き物の性のように思えて、納得出来る所もあった。  こういった時、「女」というものは「男」を責めず、同性の「女」を責める傾向がある。  同列でまだ立ち向かっても分がある、「女」を攻撃する。  男には力では絶対敵わないと、本能で女は分かっている。負け戦を回避する防衛本能というか、これはある種、「生き物」としては当然の行動と言えるだろう。  その考えが、思わず口に出てしまっていたようで、彼女はちょっと驚いたように私を見遣った。 「こういう時、つまらない人間なら、『そうだよね、貴方は悪くない』って慰めるか、『その男を誘惑したんじゃないの?』って疑うものなのに……貴方、面白いわね」  そう言いながら、彼女は薔薇が花開くように微笑んだ。  私はその微笑みに、本当に薔薇の香りが漂って来そうだと、胸が詰まった。 「……それで、仕方ないってどういう事なの?」 「ああ、それは私が『美しい』から、男が夢中になっても仕方がないって事」  そう何も悪びれなる事なく、彼女はニッコリ笑った。  彼女が中途半端な美貌の持ち主なら、私も少なからず、反感を覚えたかもしれないが――確かにそれはその通りだなと、納得してしまった。  女の私がそう思うくらいなのだ。男なんてイチコロだろう。  彼女にちょっとでも微笑まれようものなら、一瞬で恋に落ちそうだ。  彼女は、そう言う事が許されるくらいに美しかった。 つづく



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第2話「理由」

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「……仕方ない事なの。どうしようもないのよ」  愁いを携えて、彼女は窓の外に視線を向けた。  彼女の一挙一動に、私は視線を奪われたが、何とか次の言葉を続けた。 「……どういう事?」  彼女はその質問にフフッと、天使のように微笑み返した。 「女の価値って、何だと思う?」  彼女の脈略のない答えに、私が目を白黒させていると、彼女はクスクスと、小鳥がさえずるようにおかしそうに笑うのだ。 「女は、美しくなければ生きている価値がないって、言ってやったのよ」  悪戯っぽく小首を傾げて微笑む彼女は、息を呑む程、可愛らしかった。 *** 「……と言う、訳よ」 (……)  私は彼女から紡がれた説明の言葉を、頭で整理した。  彼女は私には興味なさそうに、紫からオレンジのグラデーション色に染まった空を眺めていた。 「要は、牧野先輩の友達の彼氏が、貴方の事を好きになってしまって、その事に牧野先輩たちが怒ってるって事?」  彼女は、空を眺めなが静かに頷いた。 「とんだ、言い掛かりよね? 何で私が怒られなくちゃいけないのかしら? そんな男、私記憶にもないのに。勝手に私を好きになったのは、その男なのに。しかも、自分の彼氏でもない、友人の彼氏の事でしょ?」 「まあ、確かに……」  そう答えつつも、私には牧野先輩たちの行動は、共感性の高い「女」という生き物の性のように思えて、納得出来る所もあった。  こういった時、「女」というものは「男」を責めず、同性の「女」を責める傾向がある。  同列でまだ立ち向かっても分がある、「女」を攻撃する。  男には力では絶対敵わないと、本能で女は分かっている。負け戦を回避する防衛本能というか、これはある種、「生き物」としては当然の行動と言えるだろう。  その考えが、思わず口に出てしまっていたようで、彼女はちょっと驚いたように私を見遣った。 「こういう時、つまらない人間なら、『そうだよね、貴方は悪くない』って慰めるか、『その男を誘惑したんじゃないの?』って疑うものなのに……貴方、面白いわね」  そう言いながら、彼女は薔薇が花開くように微笑んだ。  私はその微笑みに、本当に薔薇の香りが漂って来そうだと、胸が詰まった。 「……それで、仕方ないってどういう事なの?」 「ああ、それは私が『美しい』から、男が夢中になっても仕方がないって事」  そう何も悪びれなる事なく、彼女はニッコリ笑った。  彼女が中途半端な美貌の持ち主なら、私も少なからず、反感を覚えたかもしれないが――確かにそれはその通りだなと、納得してしまった。  女の私がそう思うくらいなのだ。男なんてイチコロだろう。  彼女にちょっとでも微笑まれようものなら、一瞬で恋に落ちそうだ。  彼女は、そう言う事が許されるくらいに美しかった。 つづく



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