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第1話「美しい彼女」

ー/ー



私には今でも忘れられない言葉がある。

“女は、美しくなければ生きている価値はない”
 
 妖艶に微笑みながら十四歳の彼女が、周りの醜く五月蝿い害虫共に、発した言葉だ――

 彼女は輝くように美しかった。

 艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、黄金比率に基づく整った顔立ち、宝石のように輝く瞳、潤った薄紅の唇、豊かな乳房に、引き締まった括れ、誰もが羨むボディライン、長く美しい脚――

 全てが完璧だった――

 この世界が生み出した、まさに「奇跡」のような存在――

 努力によって作られた、まがいものの「美しさ」とは明らかに違う――

 彼女は生まれたままの姿で、息を呑むほど美しかったのだ――


***

『女』
 人間の性別の一つで、子を産みうる身体の構造になっている方。男でない人。女子。女性。婦人。
本来卵子を作る器官をそなえている方。

『美しさ』
 美しい事。乱れや不整合がなくて心をうつ様子。 または、その度合い。

『価値』
 あるものを他のものよりも上位に位置づける理由となる性質、人間の肉体的、精神的欲求を満たす性質、あるいは真・善・美・愛あるいは仁など人間社会の存続にとってプラスの普遍性をもつと考えられる概念の総称。ほとんどの場合、物事のもつ、目的の実現に役に立つ性質、もしくは重要な性質や程度を指す――


 その少女は、夕暮れ時の図書室の窓際で、(うれ)いを身に纏い、白魚のような美しい指で開いた本に、視線を落として佇んでいた。

 私は思わず息を呑んだ。

 ――美しい

 彼女の姿は夕暮れのオレンジ色を逆光に受けて、幻想的な絵画のようだった。まるで現実感がないのだ。

 私が凝視している事に気が付くと、彼女は長く(たお)やかな睫毛の帯びた瞼を(またた)かせ、孤愁漂う黒く大きな瞳で、私を捉えた。

 私の心臓はその視線に貫かれ、ドクンと鳴った。

「……何、かしら?」

 その鈴のように心地よく響く、彼女の声に呼びかけられて、私は感極まって、すぐには返事が出来なかった。

「……あっ、……えっと……その……」

 彼女は私のその様子に、フフッと顔を綻ばせた。

「どうしたの? ……何か用かしら?」

 彼女は開いていた本を、そっと閉じた。ただそれだけの仕草なのに、私の心は高鳴り、足から力が抜けそうになる。

 ただ存在するだけで、周りの人間を魅了する――彼女は一体、何なのだ?

「……あ、あの……牧野(まきの)先輩たちが呼んでいて……」

 ああと、何か思い当たったように、彼女は自然に目線を上に泳がせた。

「貴方、牧野先輩の取り巻きか何かなの?」

「あ、いえ、違うけど……でも、牧野先輩たち、凄い怒ってるみたいだったから、早く行った方がいいかも……」

 彼女はウンザリと溜め息を吐いた。そんな姿さえ、麗しい。というか、普段よりもっと美しさが増した気がした。

「怒らせておけばいいわ。だって、どうしようもない事だから」

「……何か、あったの?」

 単なる好奇心か、彼女を心配してか、自然とその質問が、私の口から飛び出した。

 今、思うと、このたった一つの質問が、平凡でありきたりな私と、特別な彼女の世界を繋いだのだ。


つづく


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私には今でも忘れられない言葉がある。
“女は、美しくなければ生きている価値はない”
 妖艶に微笑みながら十四歳の彼女が、周りの醜く五月蝿い害虫共に、発した言葉だ――
 彼女は輝くように美しかった。
 艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、黄金比率に基づく整った顔立ち、宝石のように輝く瞳、潤った薄紅の唇、豊かな乳房に、引き締まった括れ、誰もが羨むボディライン、長く美しい脚――
 全てが完璧だった――
 この世界が生み出した、まさに「奇跡」のような存在――
 努力によって作られた、まがいものの「美しさ」とは明らかに違う――
 彼女は生まれたままの姿で、息を呑むほど美しかったのだ――
***
『女』
 人間の性別の一つで、子を産みうる身体の構造になっている方。男でない人。女子。女性。婦人。
本来卵子を作る器官をそなえている方。
『美しさ』
 美しい事。乱れや不整合がなくて心をうつ様子。 または、その度合い。
『価値』
 あるものを他のものよりも上位に位置づける理由となる性質、人間の肉体的、精神的欲求を満たす性質、あるいは真・善・美・愛あるいは仁など人間社会の存続にとってプラスの普遍性をもつと考えられる概念の総称。ほとんどの場合、物事のもつ、目的の実現に役に立つ性質、もしくは重要な性質や程度を指す――
 その少女は、夕暮れ時の図書室の窓際で、|愁《うれ》いを身に纏い、白魚のような美しい指で開いた本に、視線を落として佇んでいた。
 私は思わず息を呑んだ。
 ――美しい
 彼女の姿は夕暮れのオレンジ色を逆光に受けて、幻想的な絵画のようだった。まるで現実感がないのだ。
 私が凝視している事に気が付くと、彼女は長く|嫋《たお》やかな睫毛の帯びた瞼を|瞬《またた》かせ、孤愁漂う黒く大きな瞳で、私を捉えた。
 私の心臓はその視線に貫かれ、ドクンと鳴った。
「……何、かしら?」
 その鈴のように心地よく響く、彼女の声に呼びかけられて、私は感極まって、すぐには返事が出来なかった。
「……あっ、……えっと……その……」
 彼女は私のその様子に、フフッと顔を綻ばせた。
「どうしたの? ……何か用かしら?」
 彼女は開いていた本を、そっと閉じた。ただそれだけの仕草なのに、私の心は高鳴り、足から力が抜けそうになる。
 ただ存在するだけで、周りの人間を魅了する――彼女は一体、何なのだ?
「……あ、あの……|牧野《まきの》先輩たちが呼んでいて……」
 ああと、何か思い当たったように、彼女は自然に目線を上に泳がせた。
「貴方、牧野先輩の取り巻きか何かなの?」
「あ、いえ、違うけど……でも、牧野先輩たち、凄い怒ってるみたいだったから、早く行った方がいいかも……」
 彼女はウンザリと溜め息を吐いた。そんな姿さえ、麗しい。というか、普段よりもっと美しさが増した気がした。
「怒らせておけばいいわ。だって、どうしようもない事だから」
「……何か、あったの?」
 単なる好奇心か、彼女を心配してか、自然とその質問が、私の口から飛び出した。
 今、思うと、このたった一つの質問が、平凡でありきたりな私と、特別な彼女の世界を繋いだのだ。
つづく