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第40話 シミュレーションルーム

ー/ー



 訓練場の二階、シミュレーションルームがあるそこは複数の卵型機器が均等に配列されていた。
 半透明の卵型機器の中には座席が一席分あり、ウミヘビ達はそこに座って蓋を閉じ、シミュレーションをしているようだ。そのシミュレーションの様子は宙に浮かぶ、無数のホログラム映像で見る事ができる。
 故に誰がどこで何をしているのか、筒抜けだ。

『よぉ〜っし! 勝者、タリウムだぁっ!』

 知った声、しかし知った声とは抑揚が全く異なる掛け声と共に、卵型機器の一つの蓋がパカリと上に開き、半分に割れる。

「うぅ〜。再教育の百本ノックきついッス」
「けど六十勝したじゃん〜! あと四十っ!」
「具体的な数字出されると更に辛い……」

 中からは座席に座っていたタリウムと、座席には座らず一緒に入っていた、もう一人のウミヘビが現れる。
 もう一人のウミヘビの容姿は淡紫色の髪、銀白色の瞳、白い肌と、人間としては特徴的な見目だが、カラフルな色素を持つウミヘビの中では特別おかしな訳ではない。
 それよりもモーズが目を引いたのは、彼がタリウムに瓜二つな顔をしていた所だ。
 銀白色の瞳の形に鼻筋に耳の形に、ギザギザとした歯が生える口。背丈も全く同じで声もそっくりと、あまりにも似通っている。

「彼らは双子、なのか?」
「あ〜。双子とは違うんだけど、あの二人、ゲームの2Pカラーみたいだよなぁ」
「にぴーからー? とは?」
「あ、しまった通じないんだった」

 モーズとフリーデンがタリウムともう一人のそっくりさんを眺めながら話していると、視線に気付いたそっくりさんが銀白色の瞳を輝かせて駆け寄ってきた。

「お〜っ! 噂のフレッシュマンじゃん〜! なぁなぁ、あの水銀さまを使役したって本当か!?」
「うおっ」

 モーズの周りでぴょんぴょん跳ね、全身を舐めるように見詰めてくるタリウムのそっくりさん。
 何というか、言動が軽薄だ。軽い。似ているのは見た目だけで、中身は異なるらしい。

「いや、あれは彼が私を引き摺っていったようなもので、決して使役など……。ええと、私の事は知っているようだが改めて。モーズだ、よろしく頼む」
「礼儀正し〜っ! あ、自己紹介な自己紹介。俺の名はズバリッ(カリウム(K))だっ!」

 そっくりさんこと《カリウム(K)》は自身を指差し、堂々と名乗った。
 カリウム。別名ポタシウム。セレンと同じく人体必須元素のうちの一つだ。
 そしてタリウムは人体の中でカリウムとよく似た代謝経路を介する。だから劇物にも関わらず、人はタリウムをカリウムを取り込むようにすんなりと体内に招き入れてしまうのだ。
 彼らの見目が色素を除きそっくりなのも、元となる毒素の特徴を反映してだろうか。

「いつもタリウムがお世話になってますぅ〜。な〜んちゃってっ!」
「何目線なんスか」

 のそのそと卵型機器から出て、モーズらの前に歩いてくるタリウム。
 近くで見比べてみると、二人が酷似しているのがよりわかる。

「ちなみに3P目……。もう一人そっくりな奴いるぞ」
「もしや、ナトリウムか?」
「おっ正解。でもここには居ないみてぇだから、紹介はまた今度な」

 ナトリウム。カリウムと非常に性質が似ている元素。所謂、塩。これもまた人体必須元素の一つ。
 タリウムとカリウムが似ているのならば、芋蔓式でナトリウムとも似ているのでは、とモーズは踏んだのだが正解だったようだ。

「部屋使う気ならここ使います? 俺もう休憩入りたいし」
「んえ〜っ!? タリウムの根性なしっ!」
「悪いな〜。じゃ使わせて貰うわ」

 卵型機器をタリウムに譲って貰ったモーズらは早速、中に入る。安楽椅子に似た座席にはモーズが座り、人一人分立てるスペースにはフリーデンが立って機器の操作と説明をしてくれた。
 その間、閉じられた卵型機器の外では、透明なカバー越しにクロールがジッと中の様子を伺っている。

「ここに座って身体のデータをスキャンして、意識を仮想空間に飛ばすんだ。身体に寄生しているアイギス諸共な。仮想空間ならアイギスを酷使しても貧血になったりしないから安心安全っ」
「とても便利だな」
「ただ実際に身体を動かしている訳じゃないから筋肉が付いたりはしないぞ。寧ろ横になり過ぎたら身体が固まっちまう。だからジムが別に用意してある。出来るのはあくまで、シミュレーションだ」
「成る程、わかった」

 モーズに説明をしながら、フリーデンは宙に浮いているホログラムキーボードパネルをタッチし、設定を操作する。

「とりあえず何か適当に仮想敵を……。操作は俺がやるとして……」
「先生、わざわざ操作しなくっても俺が相手になりますよ」

 その時コンコンと、卵型機器のカバーをノックしてクロールが言った。

「それに新人の雑魚もウミヘビの制御、体験した方がいいでしょう?」

 空いた卵型機器を指差し、同じ仮想空間に敵役として自分が入ると、彼はそう言っているのだ。

「クロールは仮想敵としては早いだろ。モーズはまだアイギスろくに使えないんだし」
「だからぁ。体験ですよ、体験。ウミヘビの怖さわかっていないようだし? クスシとして理解を深めなきゃあ、その雑魚まーた迂闊な事しますよ?」
「お前そうやってモーズのこと叩きのめす気か? 平和的じゃない事はやめろって」
「いや、一理ある」

 クロールの提案を断ろうとするフリーデンの気遣いを押して、モーズの方がクロールの意見に賛同した。
 何せ実際にモーズは、アイギスを連れずにネグラに入るという軽はずみな行動をクロールの前でしたのだから。彼が気にするのも当然だ、と考えたのだ。

「確かにウミヘビの理解を深めるには直接、交流した方が早い。それで私に何が足りないか知れたら万々歳だ」
「ええっ!? モーズ、大丈夫かよ?」
「あぁ。クロール、未熟者の身だがここは一つよろしく頼む」

 思いの外あっさりと承諾を得られた事にクロールは面を食らった顔をしたが、やがてニィと口角をあげ意地の悪い笑みを浮かべた。

「ええ、ええ。有意義な体験を、させてやるよ」


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次のエピソードへ進む 第41話 《塩素(Cl)》


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 訓練場の二階、シミュレーションルームがあるそこは複数の卵型機器が均等に配列されていた。
 半透明の卵型機器の中には座席が一席分あり、ウミヘビ達はそこに座って蓋を閉じ、シミュレーションをしているようだ。そのシミュレーションの様子は宙に浮かぶ、無数のホログラム映像で見る事ができる。
 故に誰がどこで何をしているのか、筒抜けだ。
『よぉ〜っし! 勝者、タリウムだぁっ!』
 知った声、しかし知った声とは抑揚が全く異なる掛け声と共に、卵型機器の一つの蓋がパカリと上に開き、半分に割れる。
「うぅ〜。再教育の百本ノックきついッス」
「けど六十勝したじゃん〜! あと四十っ!」
「具体的な数字出されると更に辛い……」
 中からは座席に座っていたタリウムと、座席には座らず一緒に入っていた、もう一人のウミヘビが現れる。
 もう一人のウミヘビの容姿は淡紫色の髪、銀白色の瞳、白い肌と、人間としては特徴的な見目だが、カラフルな色素を持つウミヘビの中では特別おかしな訳ではない。
 それよりもモーズが目を引いたのは、彼がタリウムに瓜二つな顔をしていた所だ。
 銀白色の瞳の形に鼻筋に耳の形に、ギザギザとした歯が生える口。背丈も全く同じで声もそっくりと、あまりにも似通っている。
「彼らは双子、なのか?」
「あ〜。双子とは違うんだけど、あの二人、ゲームの2Pカラーみたいだよなぁ」
「にぴーからー? とは?」
「あ、しまった通じないんだった」
 モーズとフリーデンがタリウムともう一人のそっくりさんを眺めながら話していると、視線に気付いたそっくりさんが銀白色の瞳を輝かせて駆け寄ってきた。
「お〜っ! 噂のフレッシュマンじゃん〜! なぁなぁ、あの水銀さまを使役したって本当か!?」
「うおっ」
 モーズの周りでぴょんぴょん跳ね、全身を舐めるように見詰めてくるタリウムのそっくりさん。
 何というか、言動が軽薄だ。軽い。似ているのは見た目だけで、中身は異なるらしい。
「いや、あれは彼が私を引き摺っていったようなもので、決して使役など……。ええと、私の事は知っているようだが改めて。モーズだ、よろしく頼む」
「礼儀正し〜っ! あ、自己紹介な自己紹介。俺の名はズバリッ、《カリウム(K)》だっ!」
 そっくりさんこと《カリウム(K)》は自身を指差し、堂々と名乗った。
 カリウム。別名ポタシウム。セレンと同じく人体必須元素のうちの一つだ。
 そしてタリウムは人体の中でカリウムとよく似た代謝経路を介する。だから劇物にも関わらず、人はタリウムをカリウムを取り込むようにすんなりと体内に招き入れてしまうのだ。
 彼らの見目が色素を除きそっくりなのも、元となる毒素の特徴を反映してだろうか。
「いつもタリウムがお世話になってますぅ〜。な〜んちゃってっ!」
「何目線なんスか」
 のそのそと卵型機器から出て、モーズらの前に歩いてくるタリウム。
 近くで見比べてみると、二人が酷似しているのがよりわかる。
「ちなみに3P目……。もう一人そっくりな奴いるぞ」
「もしや、ナトリウムか?」
「おっ正解。でもここには居ないみてぇだから、紹介はまた今度な」
 ナトリウム。カリウムと非常に性質が似ている元素。所謂、塩。これもまた人体必須元素の一つ。
 タリウムとカリウムが似ているのならば、芋蔓式でナトリウムとも似ているのでは、とモーズは踏んだのだが正解だったようだ。
「部屋使う気ならここ使います? 俺もう休憩入りたいし」
「んえ〜っ!? タリウムの根性なしっ!」
「悪いな〜。じゃ使わせて貰うわ」
 卵型機器をタリウムに譲って貰ったモーズらは早速、中に入る。安楽椅子に似た座席にはモーズが座り、人一人分立てるスペースにはフリーデンが立って機器の操作と説明をしてくれた。
 その間、閉じられた卵型機器の外では、透明なカバー越しにクロールがジッと中の様子を伺っている。
「ここに座って身体のデータをスキャンして、意識を仮想空間に飛ばすんだ。身体に寄生しているアイギス諸共な。仮想空間ならアイギスを酷使しても貧血になったりしないから安心安全っ」
「とても便利だな」
「ただ実際に身体を動かしている訳じゃないから筋肉が付いたりはしないぞ。寧ろ横になり過ぎたら身体が固まっちまう。だからジムが別に用意してある。出来るのはあくまで、シミュレーションだ」
「成る程、わかった」
 モーズに説明をしながら、フリーデンは宙に浮いているホログラムキーボードパネルをタッチし、設定を操作する。
「とりあえず何か適当に仮想敵を……。操作は俺がやるとして……」
「先生、わざわざ操作しなくっても俺が相手になりますよ」
 その時コンコンと、卵型機器のカバーをノックしてクロールが言った。
「それに新人の雑魚もウミヘビの制御、体験した方がいいでしょう?」
 空いた卵型機器を指差し、同じ仮想空間に敵役として自分が入ると、彼はそう言っているのだ。
「クロールは仮想敵としては早いだろ。モーズはまだアイギスろくに使えないんだし」
「だからぁ。体験ですよ、体験。ウミヘビの怖さわかっていないようだし? クスシとして理解を深めなきゃあ、その雑魚まーた迂闊な事しますよ?」
「お前そうやってモーズのこと叩きのめす気か? 平和的じゃない事はやめろって」
「いや、一理ある」
 クロールの提案を断ろうとするフリーデンの気遣いを押して、モーズの方がクロールの意見に賛同した。
 何せ実際にモーズは、アイギスを連れずにネグラに入るという軽はずみな行動をクロールの前でしたのだから。彼が気にするのも当然だ、と考えたのだ。
「確かにウミヘビの理解を深めるには直接、交流した方が早い。それで私に何が足りないか知れたら万々歳だ」
「ええっ!? モーズ、大丈夫かよ?」
「あぁ。クロール、未熟者の身だがここは一つよろしく頼む」
 思いの外あっさりと承諾を得られた事にクロールは面を食らった顔をしたが、やがてニィと口角をあげ意地の悪い笑みを浮かべた。
「ええ、ええ。有意義な体験を、させてやるよ」