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通りすがりの未知人~ストレンジャー~ 1-①

ー/ー



 週末の朝は、ナミが朝ごはんに腕をふるうことになっている。

 いつもは朝からバタバタしている土岐田(ときた)家であるが、週末は割合ゆったり過ごせるので、朝ごはんもじっくり味わうことができる。

 時間のゆとりがあるので作りたいと言ったナミのため、最初は瑛比古(テルヒコ)さんがナミと一緒に『親子でクッキング!』としていたのだか、気がつけばナミが主導するようになり、今ではナミに任せて瑛比古さんの休息日になっていた。


「チイニイたん、今日は何を作るんでしゅか?」

 朝の7時前だというのに、メイは元気一杯である。

「ホットサンドとコーンスープ、あとサラダだよ」

 土曜日の朝は六時から、近所の直売所で朝市があり、新鮮な農産物が格安で手に入る。

 先程、メイを連れて二人で買い出しに行ってきた。

 常連のナミには、いつもオマケして貰えるが、メイを連れて行くとオマケ率が格段にアップする。

 今朝も規格外のトマトとキュウリをサービスしてもらった。


 メイは可愛いからなあ。


 しかし、決してサービスだけが目的ではない。他に二つ理由がある。


「まあ、かわいいお嬢ちゃんね」

「お兄ちゃんとお買いものなんてえらいなあ」

 という、賛辞が嬉しくてたまらないのだ。


 もっとも、直売所のおじちゃんおばちゃん達にとっては、ナミも十分に可愛らしいので、そのナミがメイを自慢げに連れ歩く様子が、微笑ましくて仕方がないのである。

 その上、可愛らしい二人が、

「トマトしゃんピカピカ!」

「採りたての野菜は新鮮なんだよ」

「しんしぇん!」

「この市場の野菜は美味しいね」

 などと持ち上げるので、ますますサービスしてしまう、というのが真実である。


 まあ、結果的にサービスしてもらっているので、ナミが真実を知らなくても万々歳、なのであるが。


 そんな採りたて新鮮なサービス野菜を前に、ナミはメイのリクエストに応えつつ、調理を開始する。

「チーズも入れてくだしゃい。むにゅーってなるの」

「とろけるチーズとハムに、トマトとキュウリも入れるからね」

「わーい」

 瑛比古さんが甘やかしたせいか、初めは野菜が苦手だったメイも、最近はほとんど偏食しなくなってきた。

 メイを連れ出すもう一つの理由がそれだ。

(瑛比古さんに割合偏食があるせいだと思われるが。ナミに偏食がないのは美晴さんの躾の賜物である)

 直売所の裏には畑が広がっており、メイを連れて収穫を体験させてもらったり、野菜の生育を見せてもらったりしたおかげで、野菜に興味を持ち、食わず嫌いせず食べてくれたおかげで、トマトやキュウリ、レタスなどはすぐクリアー出来た。

 ニンジンはこの間のグラッセで食べられるようになった。

 ハンバーグの真ん中にマッシュポテトと炒めた挽き肉を混ぜて団子にしたものを入れて作った『なんちゃって特大ハンバーグ』は、兄二人にも好評だった。


 あとはピーマン、ナスをどう料理するかだな。


 家計をにらみつつ、メイの健全な成長を図ることに執念を燃やすナミである。

 ハルから栄養学の教科書や資料の栄養成分表を借りて(看護学校の授業にあると聞いて、ナミはその授業だけ潜り込みたくなった)、最近は献立づくりの参考にしている。

(栄養成分表、と言っても、ただのプリントとかではなく、れっきとした書籍なんである。日本内外の様々な食材を網羅しつつ、カロリーだけでなく、水分・タンパク質・脂質・糖質・ビタミン・ミネラル、おまけにその食材の豆知識まで微に入り細に入り載っている。食材だけでなく、加工品やファストフードまで載っているので、ハルが看護学校を卒業したら譲ってもらう約束までしているナミである)


「中兄ちゃん、起こしてきてくれる?」

 朝練(あされん)こそないが、休日も部活のキリには、早めに朝ごはんを用意してある。

 お弁当用にご飯も炊いて、おにぎりも握ってある(パンだけでは足りないので)。


「おっきいニイたんは?」

「疲れているから、ギリギリまで寝かせてあげよう」


 ハルの憔悴しきった顔が目に浮かぶ。


 実習で疲れただけ、と言っていたが、それだけとは思えない。

 先週はそこまで疲弊していなかった。ここ二、三日、特に疲れている感じがする。

 ハルはキリと違って高校では体育会系の部活はやってこなかった。

 中学ではバスケ部に入っていたが、高校進学後はボランティア関係の部活に入っていた。

「バスケは楽しみ程度で十分。部活だとしんどいし」とあっけらかんと言っていた、とキリに聞いたことがある。

 確かに運動部に比べたら体力的には楽かもしれないし、遠征やユニフォーム代などの出費も少ない。

 それだけが理由ではないかもしれないが、今思うと、家計のことやスポーツ活動に付き物の親の送迎の負担も、ハルは気にしていたんじゃないだろうか、とナミは最近考える。








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 週末の朝は、ナミが朝ごはんに腕をふるうことになっている。
 いつもは朝からバタバタしている|土岐田《ときた》家であるが、週末は割合ゆったり過ごせるので、朝ごはんもじっくり味わうことができる。
 時間のゆとりがあるので作りたいと言ったナミのため、最初は|瑛比古《テルヒコ》さんがナミと一緒に『親子でクッキング!』としていたのだか、気がつけばナミが主導するようになり、今ではナミに任せて瑛比古さんの休息日になっていた。
「チイニイたん、今日は何を作るんでしゅか?」
 朝の7時前だというのに、メイは元気一杯である。
「ホットサンドとコーンスープ、あとサラダだよ」
 土曜日の朝は六時から、近所の直売所で朝市があり、新鮮な農産物が格安で手に入る。
 先程、メイを連れて二人で買い出しに行ってきた。
 常連のナミには、いつもオマケして貰えるが、メイを連れて行くとオマケ率が格段にアップする。
 今朝も規格外のトマトとキュウリをサービスしてもらった。
 メイは可愛いからなあ。
 しかし、決してサービスだけが目的ではない。他に二つ理由がある。
「まあ、かわいいお嬢ちゃんね」
「お兄ちゃんとお買いものなんてえらいなあ」
 という、賛辞が嬉しくてたまらないのだ。
 もっとも、直売所のおじちゃんおばちゃん達にとっては、ナミも十分に可愛らしいので、そのナミがメイを自慢げに連れ歩く様子が、微笑ましくて仕方がないのである。
 その上、可愛らしい二人が、
「トマトしゃんピカピカ!」
「採りたての野菜は新鮮なんだよ」
「しんしぇん!」
「この市場の野菜は美味しいね」
 などと持ち上げるので、ますますサービスしてしまう、というのが真実である。
 まあ、結果的にサービスしてもらっているので、ナミが真実を知らなくても万々歳、なのであるが。
 そんな採りたて新鮮なサービス野菜を前に、ナミはメイのリクエストに応えつつ、調理を開始する。
「チーズも入れてくだしゃい。むにゅーってなるの」
「とろけるチーズとハムに、トマトとキュウリも入れるからね」
「わーい」
 瑛比古さんが甘やかしたせいか、初めは野菜が苦手だったメイも、最近はほとんど偏食しなくなってきた。
 メイを連れ出すもう一つの理由がそれだ。
(瑛比古さんに割合偏食があるせいだと思われるが。ナミに偏食がないのは美晴さんの躾の賜物である)
 直売所の裏には畑が広がっており、メイを連れて収穫を体験させてもらったり、野菜の生育を見せてもらったりしたおかげで、野菜に興味を持ち、食わず嫌いせず食べてくれたおかげで、トマトやキュウリ、レタスなどはすぐクリアー出来た。
 ニンジンはこの間のグラッセで食べられるようになった。
 ハンバーグの真ん中にマッシュポテトと炒めた挽き肉を混ぜて団子にしたものを入れて作った『なんちゃって特大ハンバーグ』は、兄二人にも好評だった。
 あとはピーマン、ナスをどう料理するかだな。
 家計をにらみつつ、メイの健全な成長を図ることに執念を燃やすナミである。
 ハルから栄養学の教科書や資料の栄養成分表を借りて(看護学校の授業にあると聞いて、ナミはその授業だけ潜り込みたくなった)、最近は献立づくりの参考にしている。
(栄養成分表、と言っても、ただのプリントとかではなく、れっきとした書籍なんである。日本内外の様々な食材を網羅しつつ、カロリーだけでなく、水分・タンパク質・脂質・糖質・ビタミン・ミネラル、おまけにその食材の豆知識まで微に入り細に入り載っている。食材だけでなく、加工品やファストフードまで載っているので、ハルが看護学校を卒業したら譲ってもらう約束までしているナミである)
「中兄ちゃん、起こしてきてくれる?」
 |朝練《あされん》こそないが、休日も部活のキリには、早めに朝ごはんを用意してある。
 お弁当用にご飯も炊いて、おにぎりも握ってある(パンだけでは足りないので)。
「おっきいニイたんは?」
「疲れているから、ギリギリまで寝かせてあげよう」
 ハルの憔悴しきった顔が目に浮かぶ。
 実習で疲れただけ、と言っていたが、それだけとは思えない。
 先週はそこまで疲弊していなかった。ここ二、三日、特に疲れている感じがする。
 ハルはキリと違って高校では体育会系の部活はやってこなかった。
 中学ではバスケ部に入っていたが、高校進学後はボランティア関係の部活に入っていた。
「バスケは楽しみ程度で十分。部活だとしんどいし」とあっけらかんと言っていた、とキリに聞いたことがある。
 確かに運動部に比べたら体力的には楽かもしれないし、遠征やユニフォーム代などの出費も少ない。
 それだけが理由ではないかもしれないが、今思うと、家計のことやスポーツ活動に付き物の親の送迎の負担も、ハルは気にしていたんじゃないだろうか、とナミは最近考える。