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第90話 その後の羽成親子

ー/ー



 大騒動の翌日、新聞社やテレビ局などの各メディアを通じて、日本全国へ報道された。しかしながら、離島であったために野次馬が駆けつけることを免れたのは不幸中の幸いと言えよう。
 とはいえ、面白可笑しく事実を改(ざん)された報道は、リゾート地をはじめとした観光業にとって大打撃となった。羽馴町長は緊急記者会見を開き、騒動の火消しに躍起だった。
 以上が騒動後の動きだが、肝心な当事者たちの顛末は以下に続く。
 源夏美の機転によって、警察が即時に現場へ駆けつけた。近隣住民らは直ちに沈静化したが、当人たちは警察官へ目もくれず、(いさか)いに終わりが見えなかった。
 警察官は直ちに身体拘束を試みたものの、二人は抵抗。人並外れた馬鹿力を持つ羽成親子に警察官は苦戦を強いられ、最終的には発砲さえ辞さない状況となる。
 強硬手段となってしまったものの、警察官はようやく羽成親子を拘束することが出来た。彼らの罪状は暴行罪ならびに公務執行妨害、現行犯逮捕となった。
 地域の治安を乱したとして、羽成親子は本島の地方裁判所への送検および起訴を検討されていた。だが、近隣住民の嘆願によって不起訴となった。
 しかしながら、騒動後の羽成親子の肩身は非常に狭いものとなり、彼らは村八分も同然の立ち位置となってしまった。
「義之、父さんに顔を見せていかなくていいのかい?」
 義之は高校を卒業し、本島の建設会社へと就職が決まっていた。単身上京する甥っ子を、切なく見守る文恵だった。
「心配ねぇ、あんな男に顔を見せる義理はないさ」
 文恵の老婆心を切り捨てるように、義之は一蹴する。騒動以来、もはや彼は勘当も同然の事態に。
「最後なんだ。せめて親父さんに顔くらい見せてやったらどうだ、クソアニキ」
 夏美は、物陰から毒舌を吐いている。心底嫌悪する従兄だが、それでも義理は果たせと言いたげだ。
「アニキ、行かないで......!」
 一方、秋子は瞳を潤ませて別れを惜しんでいる。兄同然に優しかった彼との今生の別れ、堪えていた涙は抑えきれずに慟哭となる。
「妹たちよ、達者でな!」
 羽馴海岸に接岸している汽船が、出発の汽笛を上げる。それはまるで、彼らの別れを急いているかのようだ。
 汽船の姿は徐々に遠ざかり、義之の影もみるみる小さくなっていく。源親子は、遠くなっていく彼の姿を両手の大振りで見送り続ける。
 甥っ子との別れに、文恵も涙を堪えきれなかった。彼女もまた、別れを惜しむ家族の一人だったのだ。
――
『チーン』
 その頃、健造はいつものように仏壇前で合掌していた。
「和代、よしゆきはこの島を出て行った。この間までおむつ履いてたはずなんだが、ガキの成長ってのは早いもんだなぁ」
 合掌する眼前で、遺影の和代が微笑んでいる。親子の亀裂は綴じることなく、終いには瓦解した。
 このような事態を、彼女も想像だにしなかったであろう。
「『おとうさぁーん!』あの声が懐かしいぜ」
 健造は懐古していた、自身の脇腹へ駆け込んできた幼い義之の姿を。あの時、善意の嘘に逃げなければ、そんな悔恨が健造の脳裏をよぎる。
「『義之、一体何の用だ? まぁいい。せっかくだからお前もおかあさんに挨拶しとけ』あんな言い方するんじゃなかったなぁ......」
 健造の悔恨は際限がない。鬼の目にも涙、今の彼にはその言葉が相応しい。
「『今の話、俺は一切承知しねぇぞっ!!! お前は俺の後継ぎとして玉のように育ててきたんだ!!!』そんことはない。俺はただ、お前との別れを認めたくなかっただけなんだ......」
 健造にとって、別れという言葉はあまりに重すぎた。彼はおそらく、運命に抗っていたのかも知れない。
「ブハッ......!! 和代、どうやら俺の命もそう長くねぇらしい。今まで内緒にしてて、悪かったなぁ。まぁ、お前はとっくに知ってたかもしれねぇなぁ?」
 健造、突然の吐血。それも無理はない、心が惑う度、彼は酔いに任せて本心をひた隠しにしてきた。
 医者からは再三忠告されていたが、それでも彼はそれを聞き入れなかった。
「さぁてと......俺の最期の一仕事、和代は見届けてくれるよな?」
 健造の病状は、長年の飲酒による肝臓(がん)。じわじわと病魔に蝕まれていた事実を、義之はおろか実妹の文恵さえも知る由はなかった。


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 大騒動の翌日、新聞社やテレビ局などの各メディアを通じて、日本全国へ報道された。しかしながら、離島であったために野次馬が駆けつけることを免れたのは不幸中の幸いと言えよう。
 とはいえ、面白可笑しく事実を改|竄《ざん》された報道は、リゾート地をはじめとした観光業にとって大打撃となった。羽馴町長は緊急記者会見を開き、騒動の火消しに躍起だった。
 以上が騒動後の動きだが、肝心な当事者たちの顛末は以下に続く。
 源夏美の機転によって、警察が即時に現場へ駆けつけた。近隣住民らは直ちに沈静化したが、当人たちは警察官へ目もくれず、|諍《いさか》いに終わりが見えなかった。
 警察官は直ちに身体拘束を試みたものの、二人は抵抗。人並外れた馬鹿力を持つ羽成親子に警察官は苦戦を強いられ、最終的には発砲さえ辞さない状況となる。
 強硬手段となってしまったものの、警察官はようやく羽成親子を拘束することが出来た。彼らの罪状は暴行罪ならびに公務執行妨害、現行犯逮捕となった。
 地域の治安を乱したとして、羽成親子は本島の地方裁判所への送検および起訴を検討されていた。だが、近隣住民の嘆願によって不起訴となった。
 しかしながら、騒動後の羽成親子の肩身は非常に狭いものとなり、彼らは村八分も同然の立ち位置となってしまった。
「義之、父さんに顔を見せていかなくていいのかい?」
 義之は高校を卒業し、本島の建設会社へと就職が決まっていた。単身上京する甥っ子を、切なく見守る文恵だった。
「心配ねぇ、あんな男に顔を見せる義理はないさ」
 文恵の老婆心を切り捨てるように、義之は一蹴する。騒動以来、もはや彼は勘当も同然の事態に。
「最後なんだ。せめて親父さんに顔くらい見せてやったらどうだ、クソアニキ」
 夏美は、物陰から毒舌を吐いている。心底嫌悪する従兄だが、それでも義理は果たせと言いたげだ。
「アニキ、行かないで......!」
 一方、秋子は瞳を潤ませて別れを惜しんでいる。兄同然に優しかった彼との今生の別れ、堪えていた涙は抑えきれずに慟哭となる。
「妹たちよ、達者でな!」
 羽馴海岸に接岸している汽船が、出発の汽笛を上げる。それはまるで、彼らの別れを急いているかのようだ。
 汽船の姿は徐々に遠ざかり、義之の影もみるみる小さくなっていく。源親子は、遠くなっていく彼の姿を両手の大振りで見送り続ける。
 甥っ子との別れに、文恵も涙を堪えきれなかった。彼女もまた、別れを惜しむ家族の一人だったのだ。
――
『チーン』
 その頃、健造はいつものように仏壇前で合掌していた。
「和代、よしゆきはこの島を出て行った。この間までおむつ履いてたはずなんだが、ガキの成長ってのは早いもんだなぁ」
 合掌する眼前で、遺影の和代が微笑んでいる。親子の亀裂は綴じることなく、終いには瓦解した。
 このような事態を、彼女も想像だにしなかったであろう。
「『おとうさぁーん!』あの声が懐かしいぜ」
 健造は懐古していた、自身の脇腹へ駆け込んできた幼い義之の姿を。あの時、善意の嘘に逃げなければ、そんな悔恨が健造の脳裏をよぎる。
「『義之、一体何の用だ? まぁいい。せっかくだからお前もおかあさんに挨拶しとけ』あんな言い方するんじゃなかったなぁ......」
 健造の悔恨は際限がない。鬼の目にも涙、今の彼にはその言葉が相応しい。
「『今の話、俺は一切承知しねぇぞっ!!! お前は俺の後継ぎとして玉のように育ててきたんだ!!!』そんことはない。俺はただ、お前との別れを認めたくなかっただけなんだ......」
 健造にとって、別れという言葉はあまりに重すぎた。彼はおそらく、運命に抗っていたのかも知れない。
「ブハッ......!! 和代、どうやら俺の命もそう長くねぇらしい。今まで内緒にしてて、悪かったなぁ。まぁ、お前はとっくに知ってたかもしれねぇなぁ?」
 健造、突然の吐血。それも無理はない、心が惑う度、彼は酔いに任せて本心をひた隠しにしてきた。
 医者からは再三忠告されていたが、それでも彼はそれを聞き入れなかった。
「さぁてと......俺の最期の一仕事、和代は見届けてくれるよな?」
 健造の病状は、長年の飲酒による肝臓|癌《がん》。じわじわと病魔に蝕まれていた事実を、義之はおろか実妹の文恵さえも知る由はなかった。