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写真の向こうの依頼人~クライアント~3-①

ー/ー



 夕食後。


 キリは部活でまだ帰らず、ナミはメイとお風呂。

 瑛比古(テルヒコ)さんはハルと食器洗いに勤しんでいた、そんな時。


「そういえば、佐原(サワラ)主任、母さんの友達だったんだって? 何で教えてくれなかったんだよ」

「へ? 知らなかった?」

「知らないよ!」

「そうか、てっきり知っていると思ってたよ」


 出産の度、美晴(ミハル)さんが世話になっていたし、メイを身籠った時は、無事出産を迎えることが出来るよう、内科と産科の調整に奔走してくれていたから、ハルは病院スタッフとしての佐原ミチしか知らないのも無理はない。

 オマケに佐原ミチ……ミチ(ねえ)は美晴さん以外の患者さんに対しても、熱心に対応していたから。


 美晴さんを特別扱いしなかった、勤務時間内は。

 勤務時間外は、時間があれば美晴さんに付き添ってくれていた。


 それは大抵、ハル達の世話で瑛比古さんがいない時であり、ハルが知らなかったのも仕方ないだろう。


 とても患者思いで友達思いの、優しくて、しっかり者……と、美晴さんは紹介してくれたっけ、入院して初めて会った時に。

 助産師になったばかりで、まだまだ初々しい頃。

 資格自体は春には取得していたが、病院の方針で最初は看護師として働き、晴れて助産師としての研修に入り、今ようやく独り立ちするのだと、自分のことのように話してくれた。

 自分が子供を産む時は、ミチに赤ちゃんを取り上げてもらうんだ、ちょっと予定が早まっちゃったけど、間に合いそうでよかった、と。


 新人助産師のミチは、まだ高校生の瑛比古さんから見ても、可愛らしい笑顔で、病棟を明るくしていた。

 出産後、一人立ちして初めて取り上げた赤ちゃんが、美晴さんの子で嬉しいと、涙ぐんでいた。

 一見、新人らしい感情の起伏があるものの、その実、手際よく、時にしたたかに仕事をこなしていた。


 そして。


 四年後(三月の早生まれのハルと四月生まれのキリは、学年では五学年差でも年齢は四歳差である、念のため)、キリの出産の時は腰の低い、けれど優秀な助産師と評判だった……実はすでに産科病棟を掌握(しょうあく)していたことを、瑛比古さんは気付いていたけど。


 閑話休題(かんわきゅうだい)


「で、実習上手く行ってんの?」

「まあ、ボチボチ」

「ふーん」

「何?」


 何か言いたそうな瑛比古さんの様子に、ハルの方がしびれを切らす。


「……今日の昼頃さ、何してた?」

「飯食ってたけど?」

「そっか」

「親父はどうせ、唐揚げ定食だろ?」

「む? 何故わかる?」

「……朝から『今日は木曜日~』って鼻歌歌ってたじゃん。いいな、明知屋(あけちや)の唐揚げ」

「ほいほい、また今度テイクアウト頼んでくるから。で、飯以外に! 何かあったろ?」

「……佐原主任から聞いたのか?」

「ミチ姐さん? いや。何、あの人関わってんの? あ、もしかして大失敗してめちゃくちゃ叱られたとか? あ、それか」

「違う! 別に叱られてない! ただ……」

「ただ?」

「……なんか、ちょっと、見えちゃっただけ」


 わずかに顔をこわばらせるハルの様子に、それが『ちょっと』というレベルではないことを、瑛比古さんは感じ取る。


「……まあ、病院って、色々あるしな」


 深追いせず、話を打ち切る。


 ……とりあえず、ミチ姐に連絡を取ろう。


 誰に似たのか頑固なところがあるハルは、なかなか口を割らないだろうし。

 あっさりミチの名前を漏らすあたりは迂闊(うかつ)というか、まだまだ甘いところがあるので、つつけばポロリとしゃべりそうだが。

 実習中で心身ともに疲労している今の時期に、余計なストレスもかけたくない。


 


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 夕食後。
 キリは部活でまだ帰らず、ナミはメイとお風呂。
 |瑛比古《テルヒコ》さんはハルと食器洗いに勤しんでいた、そんな時。
「そういえば、|佐原《サワラ》主任、母さんの友達だったんだって? 何で教えてくれなかったんだよ」
「へ? 知らなかった?」
「知らないよ!」
「そうか、てっきり知っていると思ってたよ」
 出産の度、|美晴《ミハル》さんが世話になっていたし、メイを身籠った時は、無事出産を迎えることが出来るよう、内科と産科の調整に奔走してくれていたから、ハルは病院スタッフとしての佐原ミチしか知らないのも無理はない。
 オマケに佐原ミチ……ミチ|姐《ねえ》は美晴さん以外の患者さんに対しても、熱心に対応していたから。
 美晴さんを特別扱いしなかった、勤務時間内は。
 勤務時間外は、時間があれば美晴さんに付き添ってくれていた。
 それは大抵、ハル達の世話で瑛比古さんがいない時であり、ハルが知らなかったのも仕方ないだろう。
 とても患者思いで友達思いの、優しくて、しっかり者……と、美晴さんは紹介してくれたっけ、入院して初めて会った時に。
 助産師になったばかりで、まだまだ初々しい頃。
 資格自体は春には取得していたが、病院の方針で最初は看護師として働き、晴れて助産師としての研修に入り、今ようやく独り立ちするのだと、自分のことのように話してくれた。
 自分が子供を産む時は、ミチに赤ちゃんを取り上げてもらうんだ、ちょっと予定が早まっちゃったけど、間に合いそうでよかった、と。
 新人助産師のミチは、まだ高校生の瑛比古さんから見ても、可愛らしい笑顔で、病棟を明るくしていた。
 出産後、一人立ちして初めて取り上げた赤ちゃんが、美晴さんの子で嬉しいと、涙ぐんでいた。
 一見、新人らしい感情の起伏があるものの、その実、手際よく、時にしたたかに仕事をこなしていた。
 そして。
 四年後(三月の早生まれのハルと四月生まれのキリは、学年では五学年差でも年齢は四歳差である、念のため)、キリの出産の時は腰の低い、けれど優秀な助産師と評判だった……実はすでに産科病棟を|掌握《しょうあく》していたことを、瑛比古さんは気付いていたけど。
 |閑話休題《かんわきゅうだい》。
「で、実習上手く行ってんの?」
「まあ、ボチボチ」
「ふーん」
「何?」
 何か言いたそうな瑛比古さんの様子に、ハルの方がしびれを切らす。
「……今日の昼頃さ、何してた?」
「飯食ってたけど?」
「そっか」
「親父はどうせ、唐揚げ定食だろ?」
「む? 何故わかる?」
「……朝から『今日は木曜日~』って鼻歌歌ってたじゃん。いいな、|明知屋《あけちや》の唐揚げ」
「ほいほい、また今度テイクアウト頼んでくるから。で、飯以外に! 何かあったろ?」
「……佐原主任から聞いたのか?」
「ミチ姐さん? いや。何、あの人関わってんの? あ、もしかして大失敗してめちゃくちゃ叱られたとか? あ、それか」
「違う! 別に叱られてない! ただ……」
「ただ?」
「……なんか、ちょっと、見えちゃっただけ」
 わずかに顔をこわばらせるハルの様子に、それが『ちょっと』というレベルではないことを、瑛比古さんは感じ取る。
「……まあ、病院って、色々あるしな」
 深追いせず、話を打ち切る。
 ……とりあえず、ミチ姐に連絡を取ろう。
 誰に似たのか頑固なところがあるハルは、なかなか口を割らないだろうし。
 あっさりミチの名前を漏らすあたりは|迂闊《うかつ》というか、まだまだ甘いところがあるので、つつけばポロリとしゃべりそうだが。
 実習中で心身ともに疲労している今の時期に、余計なストレスもかけたくない。