写真の向こうの依頼人~クライアント~1-③
ー/ー「で、話というのはな」
あらかた食べ終えて、食後のお茶を啜りながら、所長は、最初の話に戻る。
時計の針は、そろそろ十二時に近付いている。だいぶ早いランチライムだったが、二人は大満足である。
「お前、丸さん、憶えているか?」
「生活安全課の? 忘れるわけないでしょう? 忘れたころに変な依頼持ってくるし。最近はご無沙汰でしたけど」
「そう。まあ、定年になって、今は交番に嘱託で週三回行ってるんだが」
所長の警察官時代の同期で親友の丸田氏は、何度か依頼人を紹介してくれたことがあり、瑛比古さんも知っている。
「ってことは、事件って訳じゃないんですね」
丸田氏が持ち込むのは、事件要素のない、個人的な相談事がほとんどだった。
丸田氏本人の相談ではなく、丸田氏が気にかけて相談に乗っている事のうち、瑛比古さん向きのモノを持ち込んでくる。
相談料は丸田氏がポケットマネーで払うので、所長は出血大サービスしてしまうため、ほとんど利益にならない。
丸田氏に限らず、所長は金銭的な部分におおらかというか(はっきり言えば無頓着)、儲けを考えないため、赤字になる案件も多い。
そこらへんは、経理担当の花代さんが苦労して、所長がどんぶり勘定で依頼を受けないよう、所長単独では依頼人と会わないようセッティングし、金額的な話は他の者が話すように『配慮』している。
そうは言っても所長の個人的な知り合いは、どうしたって所長と『密談』するようになる。
だから、所長の知り合いが依頼人だったり紹介者だったりする時は、赤字覚悟でことにあたる――たとえタダ働きとなろうとも、引き受けた依頼には、きちんと応える、それが明知探偵事務所のモットーである。
もっとも丸田氏が持ち込んでくるのは、ほとんど瑛比古さん単独で対応できる範囲なので、持ち出しはあまりない。
つまるところ、霊がらみの依頼ばかりなのである。
「事件性があれば、自力で何とかしちまうさ。ただ同然で自分等の仕事押し付けるヤツじゃないからな」
「タダで協力させる人もいますけどね」
「ま、まあ、こっちも色々便宜図ってもらうこともあるから、お互い様、ということでな」
誰とは言わないが、所長も思い当たった様子で、軽く諌める。
「まあ、これを見てくれ」
差し出されたのは、一枚の写真。
「なあ、生きてると思うか?」
単刀直入に、あえて主語を付けずに、聞いてくる。
「……用件も言わず、いきなりですか?」
「先入観が無い方がいいだろう?」
「わかってますよ。ちょっと抵抗してみただけです」
それは、どこにでもある、スナップ写真。
満面の笑顔の若い男女が、生後間もないであろう赤ん坊を挟んで写っている。
「で、誰について聞きたいんですか?」
「わかったのか?」
「この写真の中で、生気のない人は、いません」
「みんな生きているんだな?」
「死んでは、いません」
「引っかかる言い方だな? 何だ?」
「依頼したがっているのは、この男性ですか?」
「……いや、そっちじゃない。奥さん、女性の方だ」
瑛比古さんは、もう一度、写真を『視』る。
写真自体は、大分前のモノらしい。
写真の赤ん坊からは、確立された自我が感じられる。
メイよりも大きい……だがナミより年は下だろう。
他に伝わってくるのは……喪失……寂寥……孤独。
求めあう想い……だが存在感がバラバラの方向からきている。
そばにいるのに、まったく違う方を見ている、感じ?
男性からは、はっきりと意思が伝わってくる。
会いたい。
探して。
愛する家族を希求してやまない、想い。
だけど。
「この女性が、本当に依頼してきたんでしょうか?」
「そう言われると、ハイ、とは言えねえな」
「?」
「丸さんが、ほっとけなくなったらしい。この写真はよ、ほら、東中のそばで起きた行方不明事件の家族なんだ。三年前の」
「ああ、あの」
日曜日の夕暮れ時、公園で起きた神隠し。
「お前は丁度、美晴ちゃん亡くして一年くらいで、ハル坊が受験だったり何だりで、忙しくしていたんだよな。丸さん、あの時の担当だったんだ。国際問題がらみかも、なんて思惑なんかもあって、お前に頼む筋の事件じゃないと思ったらしい」
「で、今になって、何で?」
「ま、生きているんだとすれば、やっぱりお前に頼むヤマじゃなかったってこった」
「……確かに、この三人には、霊瘴は感じられません。ただ……」
ざらつくような、違和感。
男性が、希求するほどに、女性は、求めていない……否。
彼女も求めている、彼以上に、強い思いで。
けれど……。
「彼女は……少なくとも、この写真の女性は、依頼を望んでいません」
あらかた食べ終えて、食後のお茶を啜りながら、所長は、最初の話に戻る。
時計の針は、そろそろ十二時に近付いている。だいぶ早いランチライムだったが、二人は大満足である。
「お前、丸さん、憶えているか?」
「生活安全課の? 忘れるわけないでしょう? 忘れたころに変な依頼持ってくるし。最近はご無沙汰でしたけど」
「そう。まあ、定年になって、今は交番に嘱託で週三回行ってるんだが」
所長の警察官時代の同期で親友の丸田氏は、何度か依頼人を紹介してくれたことがあり、瑛比古さんも知っている。
「ってことは、事件って訳じゃないんですね」
丸田氏が持ち込むのは、事件要素のない、個人的な相談事がほとんどだった。
丸田氏本人の相談ではなく、丸田氏が気にかけて相談に乗っている事のうち、瑛比古さん向きのモノを持ち込んでくる。
相談料は丸田氏がポケットマネーで払うので、所長は出血大サービスしてしまうため、ほとんど利益にならない。
丸田氏に限らず、所長は金銭的な部分におおらかというか(はっきり言えば無頓着)、儲けを考えないため、赤字になる案件も多い。
そこらへんは、経理担当の花代さんが苦労して、所長がどんぶり勘定で依頼を受けないよう、所長単独では依頼人と会わないようセッティングし、金額的な話は他の者が話すように『配慮』している。
そうは言っても所長の個人的な知り合いは、どうしたって所長と『密談』するようになる。
だから、所長の知り合いが依頼人だったり紹介者だったりする時は、赤字覚悟でことにあたる――たとえタダ働きとなろうとも、引き受けた依頼には、きちんと応える、それが明知探偵事務所のモットーである。
もっとも丸田氏が持ち込んでくるのは、ほとんど瑛比古さん単独で対応できる範囲なので、持ち出しはあまりない。
つまるところ、霊がらみの依頼ばかりなのである。
「事件性があれば、自力で何とかしちまうさ。ただ同然で自分等の仕事押し付けるヤツじゃないからな」
「タダで協力させる人もいますけどね」
「ま、まあ、こっちも色々便宜図ってもらうこともあるから、お互い様、ということでな」
誰とは言わないが、所長も思い当たった様子で、軽く諌める。
「まあ、これを見てくれ」
差し出されたのは、一枚の写真。
「なあ、生きてると思うか?」
単刀直入に、あえて主語を付けずに、聞いてくる。
「……用件も言わず、いきなりですか?」
「先入観が無い方がいいだろう?」
「わかってますよ。ちょっと抵抗してみただけです」
それは、どこにでもある、スナップ写真。
満面の笑顔の若い男女が、生後間もないであろう赤ん坊を挟んで写っている。
「で、誰について聞きたいんですか?」
「わかったのか?」
「この写真の中で、生気のない人は、いません」
「みんな生きているんだな?」
「死んでは、いません」
「引っかかる言い方だな? 何だ?」
「依頼したがっているのは、この男性ですか?」
「……いや、そっちじゃない。奥さん、女性の方だ」
瑛比古さんは、もう一度、写真を『視』る。
写真自体は、大分前のモノらしい。
写真の赤ん坊からは、確立された自我が感じられる。
メイよりも大きい……だがナミより年は下だろう。
他に伝わってくるのは……喪失……寂寥……孤独。
求めあう想い……だが存在感がバラバラの方向からきている。
そばにいるのに、まったく違う方を見ている、感じ?
男性からは、はっきりと意思が伝わってくる。
会いたい。
探して。
愛する家族を希求してやまない、想い。
だけど。
「この女性が、本当に依頼してきたんでしょうか?」
「そう言われると、ハイ、とは言えねえな」
「?」
「丸さんが、ほっとけなくなったらしい。この写真はよ、ほら、東中のそばで起きた行方不明事件の家族なんだ。三年前の」
「ああ、あの」
日曜日の夕暮れ時、公園で起きた神隠し。
「お前は丁度、美晴ちゃん亡くして一年くらいで、ハル坊が受験だったり何だりで、忙しくしていたんだよな。丸さん、あの時の担当だったんだ。国際問題がらみかも、なんて思惑なんかもあって、お前に頼む筋の事件じゃないと思ったらしい」
「で、今になって、何で?」
「ま、生きているんだとすれば、やっぱりお前に頼むヤマじゃなかったってこった」
「……確かに、この三人には、霊瘴は感じられません。ただ……」
ざらつくような、違和感。
男性が、希求するほどに、女性は、求めていない……否。
彼女も求めている、彼以上に、強い思いで。
けれど……。
「彼女は……少なくとも、この写真の女性は、依頼を望んでいません」
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