表示設定
表示設定
目次 目次




コハナとのんこ3

ー/ー



 それからは何事もなく、撮影は無事に終わった。
 リンゴちゃんも何も無かったように、帰っていった。

 だけど、私は気になっていた。

 カメラのピントが私達に合わない不具合。
 カメラの向こう側を見るリンゴちゃんの様子。
 現場に来てたというリンゴちゃんの親友……。

 なんだか、気持ち悪い。

「大丈夫ですか?」

 そう聞いてきたのは、メイクを落としてくれている金咲だった。

「え?」

 なぜ金咲が大丈夫かって聞いてきたのかが解らなくて、金咲を見上げる。

「コハナさん、顔色が悪いので……冷たい飲み物でも飲みますか?」

 心配そうに、金咲が聞いてくれる。
 普段は私のことなんて理解できてないのにさ、こういう時は妙に私を理解するんだ、この人は。
 だから、大好き。

「有難う、ちょっと気持ち悪くて……飲み物もらうわ」

 そう私が返すと、金咲は「少し待っててください」とだけ言って、部屋から出て行った。
 椅子に座ってその様子を見てたお母さんが、立ち上がり、鏡と向かい合う私の後ろに立つ。

「疲れた? コハナ? 今回の撮影大変だったものね、リンゴさん、あなたの足を引っ張ってたわ」

 そう言ったお母さんは、ちょっと怒っているみたいだった。
 私がイライラしてたのが伝わってたんだね、きっと。

 でも、違う。
 気持ち悪いのはイライラしたのが原因じゃない。

「……ねぇ、お母さん、今回の動画ボツにしない? コラボも無かったことにしてさ?」

 私が言うと、お母さんは携帯電話を取り出して、私の頭を優しく撫でた。

「わかったわ、向こうの人に連絡してみるわね」

 お母さんはそう言うと、部屋から出て行く。

 一人きりになった部屋で、私は下を向く。

 別に、リンゴちゃんが嫌で動画をボツにするわけじゃない。
 まぁ、二度と会いたくないけど。

 でも、ただ、何となく。

 あの動画を出したらいけない気がしたんだ。

 リンゴちゃんの親友、のんこが、目に見えない何者かが、もし本当にいたのなら……。

 考えた瞬間、ゾッとした。

 お化けなんて信じないけど。

 今回は何か嫌な感じがする。

 その時だった。

「りんご、おあり、ごばな、どどだぢ、なろー」

 声がして、顔を上げると、それは鏡に映っていた。
 私の背後に、赤黒い大きな人が立っている。

 いや、人間じゃないわ。
 だって、目も、鼻もない。
 全身が赤黒い。

 不気味に開かれた口だけが、はっきりと見える。

 慌てて私は振り向いたけど、そこには誰もいない。
 でも、鏡を見ると、私の後ろに立っていた。

「きゃあ!」

 叫んで私は椅子から転げ落ちる。
 私が立ち上がろうとすると、ちょうど視線の先に姿見が見えた。

 赤黒いアイツが、私のすぐ近くにいる。

「いやぁ!」

 叫びながら逃げ出そうとするけど、それは赤黒いそいつに足を掴まれて止められた。

「や、やだ、はなしてっ!」

 涙が浮かぶ。
 姿見を見ると、そいつは私の足を掴みながら、私を見下ろしていた。

「どどだぢ、なろー、ごばな、どどだぢぃぃ」

 そいつは楽しげに言う。
 何て言ってるのかがわからなかったけど、私は。

「何でもする! だから助けて!」

 と、叫んだ。

 するとそいつはにんまり笑い、地面に溶けていくように消えてしまった。

「……た、助かったの?」

 私が呟くと、部屋のドアが開いて、青い顔をしたお母さんが入って来た。

「お、お母さ──!」

「いい、コハナ、落ち着いて聞いて」

 私の言葉を遮り、お母さんは私に駆け寄ると、私の肩を掴む。
 少し痛いくらい、強く。

「さっき、リンゴさんが、事故で亡くなったわ」

 それを聞いた瞬間、一気に体が冷えるような感覚に支配された。

 もしも、赤黒いアイツが、リンゴちゃんの言っていた『のんこ』なのだったら。

 私は『何でもする』と言ってしまった。
 私は……どうなるの?

 この先、一体自分がどうなってしまうのかが恐ろしい一方で、もしも今後アイツがカメラにでも写り込んだなら……チャネル登録者が増えるかもしれないと。

 そう思った私は、込み上げる気持ちを抑えきれず、笑顔になっていた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む タイチとのんこ


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 それからは何事もなく、撮影は無事に終わった。
 リンゴちゃんも何も無かったように、帰っていった。
 だけど、私は気になっていた。
 カメラのピントが私達に合わない不具合。
 カメラの向こう側を見るリンゴちゃんの様子。
 現場に来てたというリンゴちゃんの親友……。
 なんだか、気持ち悪い。
「大丈夫ですか?」
 そう聞いてきたのは、メイクを落としてくれている金咲だった。
「え?」
 なぜ金咲が大丈夫かって聞いてきたのかが解らなくて、金咲を見上げる。
「コハナさん、顔色が悪いので……冷たい飲み物でも飲みますか?」
 心配そうに、金咲が聞いてくれる。
 普段は私のことなんて理解できてないのにさ、こういう時は妙に私を理解するんだ、この人は。
 だから、大好き。
「有難う、ちょっと気持ち悪くて……飲み物もらうわ」
 そう私が返すと、金咲は「少し待っててください」とだけ言って、部屋から出て行った。
 椅子に座ってその様子を見てたお母さんが、立ち上がり、鏡と向かい合う私の後ろに立つ。
「疲れた? コハナ? 今回の撮影大変だったものね、リンゴさん、あなたの足を引っ張ってたわ」
 そう言ったお母さんは、ちょっと怒っているみたいだった。
 私がイライラしてたのが伝わってたんだね、きっと。
 でも、違う。
 気持ち悪いのはイライラしたのが原因じゃない。
「……ねぇ、お母さん、今回の動画ボツにしない? コラボも無かったことにしてさ?」
 私が言うと、お母さんは携帯電話を取り出して、私の頭を優しく撫でた。
「わかったわ、向こうの人に連絡してみるわね」
 お母さんはそう言うと、部屋から出て行く。
 一人きりになった部屋で、私は下を向く。
 別に、リンゴちゃんが嫌で動画をボツにするわけじゃない。
 まぁ、二度と会いたくないけど。
 でも、ただ、何となく。
 あの動画を出したらいけない気がしたんだ。
 リンゴちゃんの親友、のんこが、目に見えない何者かが、もし本当にいたのなら……。
 考えた瞬間、ゾッとした。
 お化けなんて信じないけど。
 今回は何か嫌な感じがする。
 その時だった。
「りんご、おあり、ごばな、どどだぢ、なろー」
 声がして、顔を上げると、それは鏡に映っていた。
 私の背後に、赤黒い大きな人が立っている。
 いや、人間じゃないわ。
 だって、目も、鼻もない。
 全身が赤黒い。
 不気味に開かれた口だけが、はっきりと見える。
 慌てて私は振り向いたけど、そこには誰もいない。
 でも、鏡を見ると、私の後ろに立っていた。
「きゃあ!」
 叫んで私は椅子から転げ落ちる。
 私が立ち上がろうとすると、ちょうど視線の先に姿見が見えた。
 赤黒いアイツが、私のすぐ近くにいる。
「いやぁ!」
 叫びながら逃げ出そうとするけど、それは赤黒いそいつに足を掴まれて止められた。
「や、やだ、はなしてっ!」
 涙が浮かぶ。
 姿見を見ると、そいつは私の足を掴みながら、私を見下ろしていた。
「どどだぢ、なろー、ごばな、どどだぢぃぃ」
 そいつは楽しげに言う。
 何て言ってるのかがわからなかったけど、私は。
「何でもする! だから助けて!」
 と、叫んだ。
 するとそいつはにんまり笑い、地面に溶けていくように消えてしまった。
「……た、助かったの?」
 私が呟くと、部屋のドアが開いて、青い顔をしたお母さんが入って来た。
「お、お母さ──!」
「いい、コハナ、落ち着いて聞いて」
 私の言葉を遮り、お母さんは私に駆け寄ると、私の肩を掴む。
 少し痛いくらい、強く。
「さっき、リンゴさんが、事故で亡くなったわ」
 それを聞いた瞬間、一気に体が冷えるような感覚に支配された。
 もしも、赤黒いアイツが、リンゴちゃんの言っていた『のんこ』なのだったら。
 私は『何でもする』と言ってしまった。
 私は……どうなるの?
 この先、一体自分がどうなってしまうのかが恐ろしい一方で、もしも今後アイツがカメラにでも写り込んだなら……チャネル登録者が増えるかもしれないと。
 そう思った私は、込み上げる気持ちを抑えきれず、笑顔になっていた。