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コウタとのんこ

ー/ー



 ぼくは石を蹴飛ばした。
 石は少し跳ね上がってから、地面を転がっていく。

「なんだよ」

 呟いた言葉が、うるさい公園の音の中に消えていった。

 友達と遊ぶ他の子達を見て、ぼくはムッとする。
 自分には、一緒に遊んでくれる友達なんていない。
 友達どころか、学校じゃいじめにあってる。

 小学一年から三年になった今まで、ずっといじめられているんだ。

「つまらない」

 真っ直ぐ家に帰るのも嫌で、公園に寄り道したぼくだったけれど、公園にいる子達は楽しそうで、ぼくの心はモヤモヤとする。

 こんなにぼくは苦しんでいるのに、誰も気付いてくれない。
 学校の先生に相談しても「お前の気のせいじゃないのか?」と返されて終わった。

 片親でぼくを育ててくれているお母さんには、心配をかけたくないから、いじめのことは言いたくない。

 ぼくはベンチに座って、踏まれて汚れたランドセルを、濡れたハンカチで拭いていた。

「泥のついた靴で蹴りやがって」

 つい、言葉がキツくなるけれど、この言葉をいじめっこに言う勇気はない。

 ぼくは、弱虫だ。

 目の前が歪む。
 どうやら今ぼくは泣いているらしい。
 鼻水をすすりあげて、ぼくは服の袖で涙を拭く。

 その時だった。

 コロコロ、と、小石が転がって来て、ぼくの靴にコツンとぶつかる。
 誰かが蹴った石がぶつかったのだろうと思って顔を上げると……そこには大きな人らしきものが立っていた。

 暗い赤に黒い色が混じったその人らしき大きな存在は、真っ赤な口を開けてぼくを見下ろしている。
 目も、鼻も無いし、髪の毛もなさそうだ。

 明らかに人間じゃない。

 でも、驚きはしたけど、怖いとは感じなかった。

 そいつは体を揺らしながら、にんまり笑う。

「のんこ」

 がらがらの声で、そいつが言う。

「え?」

 思わずぼくの口から声がもれた。
 そいつはさらに「のんこ、のんこ」と繰り返す。
 最初は意味が分からなかったけれど、もしかしたら『のんこ』はこいつの名前なのかもしれない。

「のんこ? 君の名前はのんこなの?」

 ぼくが聞くと、そいつは嬉しそうにけらけら笑う。

「ぞぅ、のんこ、ぎみあ? ぎみのなみゃべば?」

 聞き取りにくい言葉だったが、そいつ……のんこが何を言いたいのか、ぼくはすぐに分かった。
 のんこはぼくの名前を知りたがっている。

「コウタ」

 ぼくが返すと、のんこは楽しげに肩を弾ませた。

「どどだぢ、コウタ、と、のんこ、どどだぢねぇー」

 のんこは言うと、ぼくに手を差しのべてくる。
 一瞬迷った。
 のんこの手を取っていいのかと。

 だけど、ぼくはのんこに興味があった。
 だから、のんこの手を掴む。

 すると、のんこはぼくを引っ張って立たせる。
 引かれるままに、ぼくはのんこについて行った。



 それからぼくとのんこは遊んだ。
 地面に木の棒で落書きをしたり、砂場で大きな山を作ったり。
 そんな事をしていると、五時を告げる音楽が流れて来て、ぼくはハッとした。

「やば、もう帰らなきゃ!」

 ぼくが言うと、のんこは頷いて笑顔を見せる。

「まだ、あぞべゆ? あじだ、まだ」

 のんこに聞かれ、ぼくは笑う。

「もちろん! また明日遊ぼうね!」

 ぼくはそう言って、走って公園から出る。
 手を振ろうと思って振り向くと、もうそこにのんこはいなかった。

 不思議に思いはしたけど、きっとまた明日も会えるだろうから、深くは考えないで家に帰ることにした。


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 ぼくは石を蹴飛ばした。
 石は少し跳ね上がってから、地面を転がっていく。
「なんだよ」
 呟いた言葉が、うるさい公園の音の中に消えていった。
 友達と遊ぶ他の子達を見て、ぼくはムッとする。
 自分には、一緒に遊んでくれる友達なんていない。
 友達どころか、学校じゃいじめにあってる。
 小学一年から三年になった今まで、ずっといじめられているんだ。
「つまらない」
 真っ直ぐ家に帰るのも嫌で、公園に寄り道したぼくだったけれど、公園にいる子達は楽しそうで、ぼくの心はモヤモヤとする。
 こんなにぼくは苦しんでいるのに、誰も気付いてくれない。
 学校の先生に相談しても「お前の気のせいじゃないのか?」と返されて終わった。
 片親でぼくを育ててくれているお母さんには、心配をかけたくないから、いじめのことは言いたくない。
 ぼくはベンチに座って、踏まれて汚れたランドセルを、濡れたハンカチで拭いていた。
「泥のついた靴で蹴りやがって」
 つい、言葉がキツくなるけれど、この言葉をいじめっこに言う勇気はない。
 ぼくは、弱虫だ。
 目の前が歪む。
 どうやら今ぼくは泣いているらしい。
 鼻水をすすりあげて、ぼくは服の袖で涙を拭く。
 その時だった。
 コロコロ、と、小石が転がって来て、ぼくの靴にコツンとぶつかる。
 誰かが蹴った石がぶつかったのだろうと思って顔を上げると……そこには大きな人らしきものが立っていた。
 暗い赤に黒い色が混じったその人らしき大きな存在は、真っ赤な口を開けてぼくを見下ろしている。
 目も、鼻も無いし、髪の毛もなさそうだ。
 明らかに人間じゃない。
 でも、驚きはしたけど、怖いとは感じなかった。
 そいつは体を揺らしながら、にんまり笑う。
「のんこ」
 がらがらの声で、そいつが言う。
「え?」
 思わずぼくの口から声がもれた。
 そいつはさらに「のんこ、のんこ」と繰り返す。
 最初は意味が分からなかったけれど、もしかしたら『のんこ』はこいつの名前なのかもしれない。
「のんこ? 君の名前はのんこなの?」
 ぼくが聞くと、そいつは嬉しそうにけらけら笑う。
「ぞぅ、のんこ、ぎみあ? ぎみのなみゃべば?」
 聞き取りにくい言葉だったが、そいつ……のんこが何を言いたいのか、ぼくはすぐに分かった。
 のんこはぼくの名前を知りたがっている。
「コウタ」
 ぼくが返すと、のんこは楽しげに肩を弾ませた。
「どどだぢ、コウタ、と、のんこ、どどだぢねぇー」
 のんこは言うと、ぼくに手を差しのべてくる。
 一瞬迷った。
 のんこの手を取っていいのかと。
 だけど、ぼくはのんこに興味があった。
 だから、のんこの手を掴む。
 すると、のんこはぼくを引っ張って立たせる。
 引かれるままに、ぼくはのんこについて行った。
 それからぼくとのんこは遊んだ。
 地面に木の棒で落書きをしたり、砂場で大きな山を作ったり。
 そんな事をしていると、五時を告げる音楽が流れて来て、ぼくはハッとした。
「やば、もう帰らなきゃ!」
 ぼくが言うと、のんこは頷いて笑顔を見せる。
「まだ、あぞべゆ? あじだ、まだ」
 のんこに聞かれ、ぼくは笑う。
「もちろん! また明日遊ぼうね!」
 ぼくはそう言って、走って公園から出る。
 手を振ろうと思って振り向くと、もうそこにのんこはいなかった。
 不思議に思いはしたけど、きっとまた明日も会えるだろうから、深くは考えないで家に帰ることにした。