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2話 私が騎士団長だからさ

ー/ー







 肩を掴まれたレイヴンは不機嫌そうに剣鬼を見上げた。

「なに、指図する気? 剣鬼さま」
「違う。建設的じゃないと言ってるだけだ」

 ファナリスは肩を竦めて呆れた表情をしている。
 貴族階級担当の団長相手とはいえ、物言いに遠慮はない。
 レイヴンもふてぶてしい態度で反抗した。

「職務質問してんだから有意義でしょ」
「場合によってはな。ただ彼女の言うとおり、まだ命の危機に晒されている人が大勢いる。無駄話をしている暇はないはすだ」
「それ平民以下の連中の話? うちとはカンケーないね」

 手をひらひらさせながら意地悪そうな笑みを浮かべる黒髪の少年に、ファナリスは目を細めてため息をついた。

「才能に溺れ、状況に適応できないのはお前の悪い癖だな」

 非難された少年団長は舌打ちをする。

「説教かよ」
「ああ説教だ」
「あんたこそ才能ないから平民のお守りしてるクセに、上からモノ言うなよ!」

 剣鬼に才能の話を持ち出すとは余程の自信家に見えるが、ファナリスはその程度の挑発で取り乱すことはなかった。
 しかし多少思うところがあったのか、顔をずい、と近づけて言う。

「また実力で比べたいのか? ならレイヴンの人命を救った数は何人だ?」
「つまんないこと持ち出すな! 比べるなら機人討伐数だし、大体、平民なんざいくらくたばろうがお宅の責任だろ?」
「ああすまない。私は管轄外の人命も考えていたが、まだ子供のお前には難しかったか」
「なんだと!?」

 騎士団の中でも紳士的な態度を――ミゲルのように噛み付く相手以外には――見せるファナリスだが、眉目秀麗な金髪男性が煽る姿は以外と絵になっている。
 感情の起伏がない男だと思っていたリーレニカは、剣鬼もあんな顔をするのかともの珍しく目を惹かれた。
 いよいよレイヴンがヒートアップしそうになったところで、ファナリスはリーレニカへ視線を移した。

「無駄話が過ぎたな。私が言いたいことは、こいつは大丈夫だと言うことだけだ」
「……なんで言い切れる」
「私が騎士団長だからさ」

 レイヴンの目の色が変わる。
 何か言おうとするが閉口し、苛立ちを誤魔化すように乱暴に後ろ髪をかき混ぜた。

「……あー。わかってる。ノーネームの位置情報では、ウチの騎士候補生も助けてたよね」

 唯一部隊登録をしていない「ゲストユーザー」のリーレニカは、仮面を起動している間、騎士団へ位置情報を晒し続けていた。
 スクァードを含め、騎士学園の人間も道中助け回っていたリーレニカの行動は把握されていたらしい。

「とはいえ無責任に放っておくと不安だろう。私が責任を持って監視するさ。レイヤー()が出たようだしな」
「あのっ」

 レイヤー()と聞いてソフィアが前に出る。スタクを案じているのだろうが、リーレニカは彼女の肩を掴み首を横に振った。

「場所は検討がついています。すみませんが、同行願えますか」
「ああ、行こう」
「私も」
「あなたは部隊の支援をお願いします。……先程のようには庇いきれない」

 ソフィアは視線を泳がせる。
 当然だ。恋人が人を殺し、殺されるかもわからない状況でその場に居られないのだから。不安で胸が張り裂ける思いだろう。
 それでも、リーレニカはソフィアの手を取った。

「信じてください」

 狐面で顔を隠してはいるが、水着パーカーの女と戦い、ベータと通じ合った感情は本物だ。
 ソフィアは数秒口をもごつかせたが、飲み込むように頷いた。

「なあ」

 レイヴンがリーレニカへ指を差す。

「実績残したからつっても怠慢は怠慢。その分は減給だから覚悟して――」

 言い切る前に、レイヴンが家の屋根上を見上げた。
 彼も知覚したらしい。
 機人のマシーナ反応を。
 次いで、快活な女の声が新たに割って入った。

「やーっと見つけた。剣鬼」

 陽光を背に影を落とした女は、勢いそのままレイヴンとファナリスの背後へ降り立った。
 全身を牛の骨で武装したような、奇怪な格好をした水着パーカーの女。
 頭部を牛の頭蓋骨が覆い、白骨の鋭い爪を提げ、その甲には白と黒の対となる宝玉が癒着している。
 一見、「悪魔の体を着る女」に見えた。

「あいつ……!」
「機人か」

 ファナリスが冷たく視界の状況を口にする。
 水着パーカーの女――ベレッタ・レバレッティは先手必勝と言わんばかりにファナリスの懐へ一瞬にして潜り込んだ。
 鋭利な爪がファナリスの顎下を削り取るべく風切り音を奏でる。

「殺すな!」

 レイヴンの鬼気迫る声。
 ベレッタにかけた声ではない。
 ファナリスは一切構えていなかったが――。
 瞬く直後。一刀の風切り音。
 それは双爪、頭蓋骨、角、胸部外殻、腕外殻、脚外殻、尾骶骨全て――。
 全身の〈魔装〉が切り砕かれていた。

「――なっ」
「なるほど。人間か」

 あまりに綺麗な切断面のせいで、振り抜いた爪も風圧で分解される。ファナリスの顔に至る頃には、マシーナ粒子へ還されていた。
 ベレッタの呆気に取られた声が漏れる頃には、男勝りな口調に似合わぬ少女の顔が晒される。
 神速の二撃目を恐れ、器用に宙返りし後退した。

「嘘だろ……人間かよ今の」

 ベレッタが自身の両腕を見て、肉どころか表皮すら刃を通されていないことに驚愕する。
 正確無比な剣の軌跡は、ベレッタの魔装のみを寸分違わず(おろ)していた。
 リーレニカも目の前の現象に。密かに立ち上げた白銀の世界の光景に、目を疑う。
 ――今何刀した?
 そもそも、初撃の腕の振りや、肩の稼働含め、一切筋肉の動きを視認できなかった。
 ファナリスが表情を変えず、流れるような金髪が微風に揺れたかと思えば、ベレッタが纏う白骨の鎧が角砂糖のように崩れ去ったのだ。

「キャハハ! いいね!」

 己の顔を片手で覆うと、どす黒いマシーナの本流が顕現し、再び悪魔の外装を復活させた。
 レイヴンの言葉に従い、胸部のマシーナ・コアだけは斬らなかったのだろう。
 それでも明らかに、以前戦った時からマシーナ総量が桁違いに増えている。

「あれがレイヤー()か?」
「スカルデュラ家の仲間です。兵器型デバイスにより機人の力を使います」

 リーレニカが簡単に説明する。
 ファナリスが歩みで距離を詰めようとすると、その前に黒鳥の紋章が立った。

「おいレイヴン」
「人命救助の数で競うんだろ?」

 ベレッタを顎で指し少年団長が問う。

「こいつ捕まえれば数百人は安全になるよな」

 まだそんな話をするのかと言おうとしたファナリスだが、その背中が意図することを汲み取るとこれ以上の問答はやめた。
 代わりに指笛を吹くと、どこにいたのか、美しい毛並みの白馬が駆け寄ってきた。

 騎乗し、「任せていいんだな?」と問う。

「出来損ないの兄貴と違って俺は天才なんだよ。さっさと行け」

 少年らしく楽しそうに笑う姿を見ると、ファナリスはリーレニカに手を差し出した。
 ソフィアとその手に視線を往復させたが、やはりスタクは放って置けない。ファナリスの後ろへ飛び乗った。
 代わりに、レイヴンの方へマシーナを介し情報を〈伝達〉する。

「――! 余計なことしやがって。んなハンデいらねえよ」
「レイヴン」

 ファナリスが手綱を握る。

「さっきの話、数で勝った方が部隊に奢りだ」
「はっ。言質とったぞクソ兄貴」

 ニヤリと笑う少年を後に、白馬を走らせたファナリス。
 レイヴンの横を一瞬で抜けようとしたベレッタだが、虚空から石壁を生み出し、進路を塞いだ。
 壁の後ろに居たソフィアへ視線を投げる。空色の瞳には、何も言わずとも明確な意思があった。
 ――()()()と。

「チッ。やっと剣鬼さまとヤレると思ったのに」
「どいつもこいつも、剣鬼剣鬼ってうるせえな」
「ガキがアタシとヤレんの? これはごっこ遊びじゃねえぞ」
「ふん。どーせ人類最強と手合わせしたいってクチだろ?」

 不服そうな少年がパーカーのポケットへ手を入れる。

「俺はレイヴン・フリートベルク。ファナリス・フリートベルクの実弟(じってい)だ」

 空色の瞳が自信に溢れ輝いている。

「無能な兄貴より俺の方が楽しめるぜ。まあ、楽しむ余裕はないだろうけど」

 ベレッタがその言葉を聞いて目の色を変えた。

「剣鬼の弟ぉー?」

 首の骨を鳴らして品定めするように白銀のパーカーを見る。

「まあ、さっきは半端に不意打ち喰らったしな。信じらんねえけど……肩慣らしにはちょうどいいか」

 悪魔が快活に笑った。


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 肩を掴まれたレイヴンは不機嫌そうに剣鬼を見上げた。
「なに、指図する気? 剣鬼さま」
「違う。建設的じゃないと言ってるだけだ」
 ファナリスは肩を竦めて呆れた表情をしている。
 貴族階級担当の団長相手とはいえ、物言いに遠慮はない。
 レイヴンもふてぶてしい態度で反抗した。
「職務質問してんだから有意義でしょ」
「場合によってはな。ただ彼女の言うとおり、まだ命の危機に晒されている人が大勢いる。無駄話をしている暇はないはすだ」
「それ平民以下の連中の話? うちとはカンケーないね」
 手をひらひらさせながら意地悪そうな笑みを浮かべる黒髪の少年に、ファナリスは目を細めてため息をついた。
「才能に溺れ、状況に適応できないのはお前の悪い癖だな」
 非難された少年団長は舌打ちをする。
「説教かよ」
「ああ説教だ」
「あんたこそ才能ないから平民のお守りしてるクセに、上からモノ言うなよ!」
 剣鬼に才能の話を持ち出すとは余程の自信家に見えるが、ファナリスはその程度の挑発で取り乱すことはなかった。
 しかし多少思うところがあったのか、顔をずい、と近づけて言う。
「また実力で比べたいのか? ならレイヴンの人命を救った数は何人だ?」
「つまんないこと持ち出すな! 比べるなら機人討伐数だし、大体、平民なんざいくらくたばろうがお宅の責任だろ?」
「ああすまない。私は管轄外の人命も考えていたが、まだ子供のお前には難しかったか」
「なんだと!?」
 騎士団の中でも紳士的な態度を――ミゲルのように噛み付く相手以外には――見せるファナリスだが、眉目秀麗な金髪男性が煽る姿は以外と絵になっている。
 感情の起伏がない男だと思っていたリーレニカは、剣鬼もあんな顔をするのかともの珍しく目を惹かれた。
 いよいよレイヴンがヒートアップしそうになったところで、ファナリスはリーレニカへ視線を移した。
「無駄話が過ぎたな。私が言いたいことは、こいつは大丈夫だと言うことだけだ」
「……なんで言い切れる」
「私が騎士団長だからさ」
 レイヴンの目の色が変わる。
 何か言おうとするが閉口し、苛立ちを誤魔化すように乱暴に後ろ髪をかき混ぜた。
「……あー。わかってる。ノーネームの位置情報では、ウチの騎士候補生も助けてたよね」
 唯一部隊登録をしていない「ゲストユーザー」のリーレニカは、仮面を起動している間、騎士団へ位置情報を晒し続けていた。
 スクァードを含め、騎士学園の人間も道中助け回っていたリーレニカの行動は把握されていたらしい。
「とはいえ無責任に放っておくと不安だろう。私が責任を持って監視するさ。レイヤー|伍《ご》が出たようだしな」
「あのっ」
 レイヤー|伍《ご》と聞いてソフィアが前に出る。スタクを案じているのだろうが、リーレニカは彼女の肩を掴み首を横に振った。
「場所は検討がついています。すみませんが、同行願えますか」
「ああ、行こう」
「私も」
「あなたは部隊の支援をお願いします。……先程のようには庇いきれない」
 ソフィアは視線を泳がせる。
 当然だ。恋人が人を殺し、殺されるかもわからない状況でその場に居られないのだから。不安で胸が張り裂ける思いだろう。
 それでも、リーレニカはソフィアの手を取った。
「信じてください」
 狐面で顔を隠してはいるが、水着パーカーの女と戦い、ベータと通じ合った感情は本物だ。
 ソフィアは数秒口をもごつかせたが、飲み込むように頷いた。
「なあ」
 レイヴンがリーレニカへ指を差す。
「実績残したからつっても怠慢は怠慢。その分は減給だから覚悟して――」
 言い切る前に、レイヴンが家の屋根上を見上げた。
 彼も知覚したらしい。
 機人のマシーナ反応を。
 次いで、快活な女の声が新たに割って入った。
「やーっと見つけた。剣鬼」
 陽光を背に影を落とした女は、勢いそのままレイヴンとファナリスの背後へ降り立った。
 全身を牛の骨で武装したような、奇怪な格好をした水着パーカーの女。
 頭部を牛の頭蓋骨が覆い、白骨の鋭い爪を提げ、その甲には白と黒の対となる宝玉が癒着している。
 一見、「悪魔の体を着る女」に見えた。
「あいつ……!」
「機人か」
 ファナリスが冷たく視界の状況を口にする。
 水着パーカーの女――ベレッタ・レバレッティは先手必勝と言わんばかりにファナリスの懐へ一瞬にして潜り込んだ。
 鋭利な爪がファナリスの顎下を削り取るべく風切り音を奏でる。
「殺すな!」
 レイヴンの鬼気迫る声。
 ベレッタにかけた声ではない。
 ファナリスは一切構えていなかったが――。
 瞬く直後。一刀の風切り音。
 それは双爪、頭蓋骨、角、胸部外殻、腕外殻、脚外殻、尾骶骨全て――。
 全身の〈魔装〉が切り砕かれていた。
「――なっ」
「なるほど。人間か」
 あまりに綺麗な切断面のせいで、振り抜いた爪も風圧で分解される。ファナリスの顔に至る頃には、マシーナ粒子へ還されていた。
 ベレッタの呆気に取られた声が漏れる頃には、男勝りな口調に似合わぬ少女の顔が晒される。
 神速の二撃目を恐れ、器用に宙返りし後退した。
「嘘だろ……人間かよ今の」
 ベレッタが自身の両腕を見て、肉どころか表皮すら刃を通されていないことに驚愕する。
 正確無比な剣の軌跡は、ベレッタの魔装のみを寸分違わず|卸《おろ》していた。
 リーレニカも目の前の現象に。密かに立ち上げた白銀の世界の光景に、目を疑う。
 ――今何刀した?
 そもそも、初撃の腕の振りや、肩の稼働含め、一切筋肉の動きを視認できなかった。
 ファナリスが表情を変えず、流れるような金髪が微風に揺れたかと思えば、ベレッタが纏う白骨の鎧が角砂糖のように崩れ去ったのだ。
「キャハハ! いいね!」
 己の顔を片手で覆うと、どす黒いマシーナの本流が顕現し、再び悪魔の外装を復活させた。
 レイヴンの言葉に従い、胸部のマシーナ・コアだけは斬らなかったのだろう。
 それでも明らかに、以前戦った時からマシーナ総量が桁違いに増えている。
「あれがレイヤー|伍《ご》か?」
「スカルデュラ家の仲間です。兵器型デバイスにより機人の力を使います」
 リーレニカが簡単に説明する。
 ファナリスが歩みで距離を詰めようとすると、その前に黒鳥の紋章が立った。
「おいレイヴン」
「人命救助の数で競うんだろ?」
 ベレッタを顎で指し少年団長が問う。
「こいつ捕まえれば数百人は安全になるよな」
 まだそんな話をするのかと言おうとしたファナリスだが、その背中が意図することを汲み取るとこれ以上の問答はやめた。
 代わりに指笛を吹くと、どこにいたのか、美しい毛並みの白馬が駆け寄ってきた。
 騎乗し、「任せていいんだな?」と問う。
「出来損ないの兄貴と違って俺は天才なんだよ。さっさと行け」
 少年らしく楽しそうに笑う姿を見ると、ファナリスはリーレニカに手を差し出した。
 ソフィアとその手に視線を往復させたが、やはりスタクは放って置けない。ファナリスの後ろへ飛び乗った。
 代わりに、レイヴンの方へマシーナを介し情報を〈伝達〉する。
「――! 余計なことしやがって。んなハンデいらねえよ」
「レイヴン」
 ファナリスが手綱を握る。
「さっきの話、数で勝った方が部隊に奢りだ」
「はっ。言質とったぞクソ兄貴」
 ニヤリと笑う少年を後に、白馬を走らせたファナリス。
 レイヴンの横を一瞬で抜けようとしたベレッタだが、虚空から石壁を生み出し、進路を塞いだ。
 壁の後ろに居たソフィアへ視線を投げる。空色の瞳には、何も言わずとも明確な意思があった。
 ――|失《・》|せ《・》|ろ《・》と。
「チッ。やっと剣鬼さまとヤレると思ったのに」
「どいつもこいつも、剣鬼剣鬼ってうるせえな」
「ガキがアタシとヤレんの? これはごっこ遊びじゃねえぞ」
「ふん。どーせ人類最強と手合わせしたいってクチだろ?」
 不服そうな少年がパーカーのポケットへ手を入れる。
「俺はレイヴン・フリートベルク。ファナリス・フリートベルクの|実弟《じってい》だ」
 空色の瞳が自信に溢れ輝いている。
「無能な兄貴より俺の方が楽しめるぜ。まあ、楽しむ余裕はないだろうけど」
 ベレッタがその言葉を聞いて目の色を変えた。
「剣鬼の弟ぉー?」
 首の骨を鳴らして品定めするように白銀のパーカーを見る。
「まあ、さっきは半端に不意打ち喰らったしな。信じらんねえけど……肩慣らしにはちょうどいいか」
 悪魔が快活に笑った。