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ー/ー



●3

 ある日、由紀は道端で二人組に声をかけられた。

「ゲーム実況者のYUKIKIさんですね? ちょっとお話よろしいでしょうか」

 口調は丁寧だったが、遠慮しているようには見えなかった。
 マイクを持った女性と、その後ろで大きなカメラを構えた男性。マスコミだろう。

「いや、知りません」

 由紀は顔をそむけ、足早に立ち去ろうとしたが、ぴったりついてくる。
 今はチヤホヤされるより、気ままで自由な生活を満喫したかった。

「YUKIKIさん、ご自身の発言の真意についてお聞かせいただけますか」

「すみません、意味わかんないです」

「発言の背景はどのようなものがあったのでしょうか? 発言の訂正や謝罪は?」

「はあ? 謝罪?」

 由紀は女性に思わずしかめっ面を向けた。

「なんで私が。もうやめてください。ついてこないで」

「ひと言でいいので、お答えいただけませんか」

 由紀は女性を振り切って逃げた。

 アパートの自室に戻り、もしやと思って調べた。
 「人気ゲーム実況者YUKIKI、ゲーム開発会社批判で炎上」という見出しのネットニュースを見つけて、目を疑った。

「なんでこんなに炎上してるの!?」

 由紀が問い詰めると、由紀クローンは大したことではないというように飄々と答えた。

「私が配信中に批判的な発言をしたことは事実。だけどそのときは炎上しなかった」

「じゃあなんで今は炎上してるのさ」

「アンチが私の発言の一部を切り取って、悪意ある編集をして動画を拡散させた」

「あんたはAIなんだから、対策とかできたんじゃないの?」

「AIは万能じゃない」

 画面の中の由紀クローンは、事の重大さをわかっていないのか、涼しい顔。あたかも「自分は悪くない」と言っているようで、由紀は腹が立った。

「この炎上騒ぎ、どうしてくれんの?」

「『バーチャルAIクローン』の利用規約には、『バーチャルAIクローン』が引き起こしたいかなる問題や損害に対しても、責任を負うのはすべて利用者自身だと明記されている。さらに私の言動はすべて利用者であるあなたの指示と、与えられた権限の範囲内で行なっている」

「それって全部私が悪いってことっ!?」

 由紀は声を荒らげた。一方、クローンは表情ひとつ変えずに答える。

「そうよ」

 カチンときた。

「ふざけんなっ! お前のせいで、私は外も歩けない!」

「あなたこそ、利用規約を理解していなかったのなら、改めて読んでおくべき」

「うるさい! そういう問題じゃねーんだよ!」

 由紀はパソコンデスクに拳を振り下ろした。

「二度と配信なんてするな! 消えろ! このクソAIが!」

 由紀はクローン用のページを閉じ、炎上の状況を確認しようと自分の配信ページを開く。ダイレクトメッセージが一件。某テレビ局のスタッフを名乗る人物からの取材の依頼だった。

「誰が取材なんて! いや待てよ。炎上させたのはAIなんだから、その証拠を出して記事にしてもらえばよくない?」

『実はあの発言は私本人ではなく、バーチャルAIクローンのせいなんです。証拠を送るので記事にしてください』

 由紀はメッセージを返し、

「よし、後はあのクソAIの証拠を探して……」

 インターネットの履歴から由紀クローンを作成したサイトに移動したが、現れたのは「お探しのページは見つかりませんでした」という文章のみだった。

「はあ!? なんでページが消えてるの?」

 おかしいと思ってやり直しても、検索しても、そのサイトが出てこない。
 これではバーチャルAIクローンを使っていた事実を証明できない。

「由紀クローンっ! 応答して」

 呼びかけても反応がない。
 
「おい、何か言えよ! AI! おいっ!」

 何か他に由紀クローンの存在を証明するデータがパソコンに残っているはずだ、と思い、探してみる。しかし、由紀クローンとバーチャルAIクローンに関するデータや履歴は何ひとつ出てこない。すべてきれいに消されている。
 過去の配信のアーカイブなら膨大にあるが、それは由紀クローンが配信をしていたという証明にはならない。

「まさかあいつ、私が消えろって言ったから? ふざけんじゃねーぞ!」

 怒りが込み上げたが、しばらくして冷静さを取り戻すと、今度は不安になってきた。

 炎上を終わらせるにはどうすればいいのか。皆が飽きて忘れるまで放っておく? それとも謝罪文を掲載すべき?
 まさか由紀クローンは他にも問題を起こしてやいないか。
 今後の生活はどうなるのか。

「もう最悪……」

 わからないことだらけで、頭も胃も痛くなってくる。吐きそうだった。

 またダイレクトメッセージが届いていた。

 差出人は「TRUTH」と名乗る者。

『YUKIKI様、初めまして。私はネット上での炎上を鎮めるサービスをしております。失った信頼を回復させ、平穏な日々を取り戻すお手伝いを致します』


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 ある日、由紀は道端で二人組に声をかけられた。
「ゲーム実況者のYUKIKIさんですね? ちょっとお話よろしいでしょうか」
 口調は丁寧だったが、遠慮しているようには見えなかった。
 マイクを持った女性と、その後ろで大きなカメラを構えた男性。マスコミだろう。
「いや、知りません」
 由紀は顔をそむけ、足早に立ち去ろうとしたが、ぴったりついてくる。
 今はチヤホヤされるより、気ままで自由な生活を満喫したかった。
「YUKIKIさん、ご自身の発言の真意についてお聞かせいただけますか」
「すみません、意味わかんないです」
「発言の背景はどのようなものがあったのでしょうか? 発言の訂正や謝罪は?」
「はあ? 謝罪?」
 由紀は女性に思わずしかめっ面を向けた。
「なんで私が。もうやめてください。ついてこないで」
「ひと言でいいので、お答えいただけませんか」
 由紀は女性を振り切って逃げた。
 アパートの自室に戻り、もしやと思って調べた。
 「人気ゲーム実況者YUKIKI、ゲーム開発会社批判で炎上」という見出しのネットニュースを見つけて、目を疑った。
「なんでこんなに炎上してるの!?」
 由紀が問い詰めると、由紀クローンは大したことではないというように飄々と答えた。
「私が配信中に批判的な発言をしたことは事実。だけどそのときは炎上しなかった」
「じゃあなんで今は炎上してるのさ」
「アンチが私の発言の一部を切り取って、悪意ある編集をして動画を拡散させた」
「あんたはAIなんだから、対策とかできたんじゃないの?」
「AIは万能じゃない」
 画面の中の由紀クローンは、事の重大さをわかっていないのか、涼しい顔。あたかも「自分は悪くない」と言っているようで、由紀は腹が立った。
「この炎上騒ぎ、どうしてくれんの?」
「『バーチャルAIクローン』の利用規約には、『バーチャルAIクローン』が引き起こしたいかなる問題や損害に対しても、責任を負うのはすべて利用者自身だと明記されている。さらに私の言動はすべて利用者であるあなたの指示と、与えられた権限の範囲内で行なっている」
「それって全部私が悪いってことっ!?」
 由紀は声を荒らげた。一方、クローンは表情ひとつ変えずに答える。
「そうよ」
 カチンときた。
「ふざけんなっ! お前のせいで、私は外も歩けない!」
「あなたこそ、利用規約を理解していなかったのなら、改めて読んでおくべき」
「うるさい! そういう問題じゃねーんだよ!」
 由紀はパソコンデスクに拳を振り下ろした。
「二度と配信なんてするな! 消えろ! このクソAIが!」
 由紀はクローン用のページを閉じ、炎上の状況を確認しようと自分の配信ページを開く。ダイレクトメッセージが一件。某テレビ局のスタッフを名乗る人物からの取材の依頼だった。
「誰が取材なんて! いや待てよ。炎上させたのはAIなんだから、その証拠を出して記事にしてもらえばよくない?」
『実はあの発言は私本人ではなく、バーチャルAIクローンのせいなんです。証拠を送るので記事にしてください』
 由紀はメッセージを返し、
「よし、後はあのクソAIの証拠を探して……」
 インターネットの履歴から由紀クローンを作成したサイトに移動したが、現れたのは「お探しのページは見つかりませんでした」という文章のみだった。
「はあ!? なんでページが消えてるの?」
 おかしいと思ってやり直しても、検索しても、そのサイトが出てこない。
 これではバーチャルAIクローンを使っていた事実を証明できない。
「由紀クローンっ! 応答して」
 呼びかけても反応がない。
「おい、何か言えよ! AI! おいっ!」
 何か他に由紀クローンの存在を証明するデータがパソコンに残っているはずだ、と思い、探してみる。しかし、由紀クローンとバーチャルAIクローンに関するデータや履歴は何ひとつ出てこない。すべてきれいに消されている。
 過去の配信のアーカイブなら膨大にあるが、それは由紀クローンが配信をしていたという証明にはならない。
「まさかあいつ、私が消えろって言ったから? ふざけんじゃねーぞ!」
 怒りが込み上げたが、しばらくして冷静さを取り戻すと、今度は不安になってきた。
 炎上を終わらせるにはどうすればいいのか。皆が飽きて忘れるまで放っておく? それとも謝罪文を掲載すべき?
 まさか由紀クローンは他にも問題を起こしてやいないか。
 今後の生活はどうなるのか。
「もう最悪……」
 わからないことだらけで、頭も胃も痛くなってくる。吐きそうだった。
 またダイレクトメッセージが届いていた。
 差出人は「TRUTH」と名乗る者。
『YUKIKI様、初めまして。私はネット上での炎上を鎮めるサービスをしております。失った信頼を回復させ、平穏な日々を取り戻すお手伝いを致します』