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第24話 エチュード1

ー/ー



「よーい、はい!」

 樫田がそういうと、いきなり始まった。
 俺は椎名、山路とアイコンタクトをし、お互いの確認をする。
 そして山路は()けて俺と椎名がに残る。
 さて、ここからどう切り出していくか。

「暑いわねー」

 俺が様子を見ていると椎名で手で顔をあおぎながらそう言った。

「そうだなー。暑いなー。雲一つない青空に、見渡す限りの……砂」

「砂砂砂。右も砂。左も砂。前も後ろも砂だらけ。どういうことだね君」

 椎名が少し怒った風に言ってきた。
 俺は当たり障りない感じで答える。

「どういうこともこういうこともないですよ。つまりそういうことです」

「そういうことって?」

「何言ってんですか。砂、砂、砂。つまりここは砂漠です」

「砂漠だって? 砂漠ってあれかい。あの砂しかないっていう」

「そう、その砂漠。漠とした砂と書いて、砂漠」

「なるほど、砂漠かぁ……ん?」

「どうしたんです?」

「漠とした砂だったらそれは『さばく』じゃなくて『ばくさ』じゃないか!」

「何しょうもないこと言ってんですか」

「君はノリが悪いなぁ」

 会話しながら、お互いのペース、言葉、世界観を共有していく。
 そして、ここでを作る。
 山路が入ってくるかどうかを伺いながら、2秒、3秒と沈黙する。
 破ったのは椎名だった。

「なぁ、君。水を持ってないか?」

「水? 水ってまさか、あの飲む水ですか」

「君もたいがいだなぁ。それ以外に何があるっていうんだ」

「いやいや、この状況でよくそんなこと言えますね!」

「そりゃまぁ、そうだけど……仕方ないだろ。のどが渇いたんだから」

「はー、よくそんな厚かましいこと言えますね。誰のせいでこうなったと思ってんですか!」

「私のせいだっていうのかね!」

「他に誰が……いえ、止めましょう。こんな不毛なこと」

「……そうだな」

 そうして再びの沈黙。
 俺も椎名も完全に話題を失っていた。
 何とか話題を引き出そうと頭をひねっていると、山路が舞台にやってきた。

「あー、水うめぇ」

 そう言って上手(かみて)から下手(しもて)に捌けようとする山路。

 コイツ! ぶっこんできやがった!

 エチュードの中で途中から登場するのは、少し難しいことだ。
 話の流れを理解した上で、そこに新たな展開を持ってこなくてはならない。
 だが、展開が急すぎると役者自身がそれについていけず、物語が破綻してしまう。
 山路の台詞は少し物語を進めすぎだ。
 俺がどうしようか考えていると、椎名が即座に対応した。

「あの! 水を少し分けてもらえませんか!?」

「え、なんで?」

 椎名のお願いに対して冷たくあしらう山路。

「えっと、その……のどが渇いて……」

「いや、そうじゃなくて……」

 俺はおそらく山路が言いたいであろうことを予測し、二人に割って入る。

「あんたねぇ、そんな態度はないんじゃないか!?」

「え?」

「こんな砂漠のど真ん中だったら誰だって水を欲しがるだろう?」

「砂漠のど真ん中って……」

「まぁまぁ、君も落ち着いて。すいません。その水はどこで手にいれたんですか?」

「どこも何も、あの砂山を越えて十分ぐらいしたら町がありますよ」

「「え」」

 俺と椎名が絶句する。
 そしてそこでエチュードは終わる。

「はい! 二分半は過ぎたし、もう限界だろ」

 樫田が手を叩き、終わりを知らせる。
 俺は、ふぅとため息をつく。
 いやー、キツイな。二分以上もエチュードやると疲れるな。
 そう思っていると、一年生たちが拍手をしていた。

「じゃあ、評論始める前に、一年生たちに感想を聞くか」

 笑顔で樫田がそんなことを言った。
 えー、いいよ感想なんて。小恥ずかしい。

「そうだな。池本どうだった?」

「え! 私ですか!?」

 いきなりの指名に驚きの声を上げる池本。
 そりゃそうだ。唐突に感想言えだなんて困るわな。

「あの、その、技術的なこととか、どこがどう良かったのかとかうまく言えないんですけど。すごかったです! 即興であそこまですらすら台詞が出てくるなんて……! 感動しました!」

 そう言われると嬉しいが、実のところ、そんなにすらすらと言っているわけではない。むしろ少し噛んでいるところとかある。
 次に、みんなは池本の横にいた金子に視線を送る。
 金子は自分の番という事を理解し、話し出す。

「自分も感動しました! 初めに何も言わずにその場に残る人と去る人を決めたり、あとちゃんと砂漠の情景があったりするところがすごかったです!」

 本当に率直な感想なのだろう。金子は目を輝かせていた。
 そして最後に経験者という田島の方を見る。

「えー、お疲れ様です。お題に対してすごくあった即興劇だったと思います。情景の説明は分かりやすかったし、それぞれちゃんと役割を持っていて良かったと思います」

 さすが経験者というべきか、しっかりと褒めてきた。ダメ出しがないのが気になるが、まぁ、先輩相手にいきなりダメ出しはできないか。

「んじゃ、評論に入るか。いいぞ、言いたい奴から言って」

 樫田がいつも通り、評論を始める。
 初めに意見を言ったのは増倉だった。

「うーん。始めの二人のところ、お互いに探り探りすぎない? もっと設定言っても良かったんじゃない?」

「あ、それオレも思った。相手の出方を伺いすぎて、会話にぎこちなさが生まれてる感じ?」

 増倉の意見に大槻が同意した。
 あー、確かに最初の方は手探り感が出ていたな。ありゃ良くなかった。
 それは椎名も認めるところなのか、黙って聞いていた。

「後、台詞が芝居がかりすぎていた。もっと自然体でいい」

 次に夏村がそんなことを言った。
 いやー、言いたいことは分かるんだけどね。

「でも仕方ないだろ。説明口調とかにならないと情景の説明って難しいだから」

 思わず、そんな反論を言ってしまう。

「それは分かる。でもだからこそ説明口調でない、何気ない会話で雰囲気を緩和しないと」

 夏村は俺の意見に対して同意しながらも、改善案を提示した。
 なるほど、そういうことか。
 序盤の会話は説明することに意識を向けすぎた。もっと自然な会話を織り込むべきだったのだろう。
 そして一通りみんなが意見を言い終わると、最後に樫田が総評を言う。

「まず、山路が最初捌けたのは、ありな選択肢だな。三人で始めるのもいいが、途中から誰かが入ってくることで物語の転換になる。ただ、山路は焦りすぎたな。残り時間を気にして無理やり入ろうとしただろ」

「あー、やっぱり分かるかー。そうなんだよねー。二人の間に割って入るのが思ったより難しくてさー。ちょっと強引に行っちゃった」

「まぁ、演劇的にデウスエクスマキナとか、物語が終盤で急展開するのはよくあることだが、今回は微妙だったな。試みは面白かったが」

「そうだねー。もうちょっと落ち着いてするべきだったね。ごめん。」

「いや総合的には良かったぞ。ちゃんと無理やりでも終わりに持ってこうとする思考が良かった。途中から入った自分の役割を理解しているという事だ。」

「ありがとう」

 山路に言いたいことを終えると、樫田は俺たちの方を向いた。

「杉野と椎名、お前らはさっきもみんなが言ってたが、探り探りだったり説明口調すぎたりで全体的に芝居が硬くなりすぎだ。まぁ演劇はコミュニケーションが大切だから短所ではないんだが。」

「そうね。少し良くなかったわ」

 樫田の感想に椎名は同意した。
 すかさず樫田がフォローをいれる。

「その分、会話の流れや内容にそこまで違和感はなかった。簡単に遭難したとか道に迷ったとか言わず、客に考えさせるのも良かった」

 確かにそこは意識した点だ。簡単に場面を絞らないように。

「後はかなぁ。怖がらずにもっと沈黙を楽しんでもいいんだぞ?」

「わかってはいるわ。ただ喋ろうって意識すると、沈黙が長く感じるのよ」

 分かる。椎名の意見はまさに俺の言いたいことだった。
 会話をしなきゃいけない。けど沈黙も作らなきゃならない。まるで二律背反だ。

「緩急の付け方だよなぁ」

「そう! 分かってんならできる」

 俺が呟くと、樫田が笑顔でそう言った。
 簡単に言うがな。分かっていてもできないことって結構あるぞ。

「まぁ課題は追々だな。さて、次行くか」

 樫田がそうまとめた。


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「よーい、はい!」
 樫田がそういうと、いきなり始まった。
 俺は椎名、山路とアイコンタクトをし、お互いの確認をする。
 そして山路は|捌《は》けて俺と椎名が《《舞台》》に残る。
 さて、ここからどう切り出していくか。
「暑いわねー」
 俺が様子を見ていると椎名で手で顔をあおぎながらそう言った。
「そうだなー。暑いなー。雲一つない青空に、見渡す限りの……砂」
「砂砂砂。右も砂。左も砂。前も後ろも砂だらけ。どういうことだね君」
 椎名が少し怒った風に言ってきた。
 俺は当たり障りない感じで答える。
「どういうこともこういうこともないですよ。つまりそういうことです」
「そういうことって?」
「何言ってんですか。砂、砂、砂。つまりここは砂漠です」
「砂漠だって? 砂漠ってあれかい。あの砂しかないっていう」
「そう、その砂漠。漠とした砂と書いて、砂漠」
「なるほど、砂漠かぁ……ん?」
「どうしたんです?」
「漠とした砂だったらそれは『さばく』じゃなくて『ばくさ』じゃないか!」
「何しょうもないこと言ってんですか」
「君はノリが悪いなぁ」
 会話しながら、お互いのペース、言葉、世界観を共有していく。
 そして、ここで《《間》》を作る。
 山路が入ってくるかどうかを伺いながら、2秒、3秒と沈黙する。
 破ったのは椎名だった。
「なぁ、君。水を持ってないか?」
「水? 水ってまさか、あの飲む水ですか」
「君もたいがいだなぁ。それ以外に何があるっていうんだ」
「いやいや、この状況でよくそんなこと言えますね!」
「そりゃまぁ、そうだけど……仕方ないだろ。のどが渇いたんだから」
「はー、よくそんな厚かましいこと言えますね。誰のせいでこうなったと思ってんですか!」
「私のせいだっていうのかね!」
「他に誰が……いえ、止めましょう。こんな不毛なこと」
「……そうだな」
 そうして再びの沈黙。
 俺も椎名も完全に話題を失っていた。
 何とか話題を引き出そうと頭をひねっていると、山路が舞台にやってきた。
「あー、水うめぇ」
 そう言って上手《かみて》から下手《しもて》に捌けようとする山路。
 コイツ! ぶっこんできやがった!
 エチュードの中で途中から登場するのは、少し難しいことだ。
 話の流れを理解した上で、そこに新たな展開を持ってこなくてはならない。
 だが、展開が急すぎると役者自身がそれについていけず、物語が破綻してしまう。
 山路の台詞は少し物語を進めすぎだ。
 俺がどうしようか考えていると、椎名が即座に対応した。
「あの! 水を少し分けてもらえませんか!?」
「え、なんで?」
 椎名のお願いに対して冷たくあしらう山路。
「えっと、その……のどが渇いて……」
「いや、そうじゃなくて……」
 俺はおそらく山路が言いたいであろうことを予測し、二人に割って入る。
「あんたねぇ、そんな態度はないんじゃないか!?」
「え?」
「こんな砂漠のど真ん中だったら誰だって水を欲しがるだろう?」
「砂漠のど真ん中って……」
「まぁまぁ、君も落ち着いて。すいません。その水はどこで手にいれたんですか?」
「どこも何も、あの砂山を越えて十分ぐらいしたら町がありますよ」
「「え」」
 俺と椎名が絶句する。
 そしてそこでエチュードは終わる。
「はい! 二分半は過ぎたし、もう限界だろ」
 樫田が手を叩き、終わりを知らせる。
 俺は、ふぅとため息をつく。
 いやー、キツイな。二分以上もエチュードやると疲れるな。
 そう思っていると、一年生たちが拍手をしていた。
「じゃあ、評論始める前に、一年生たちに感想を聞くか」
 笑顔で樫田がそんなことを言った。
 えー、いいよ感想なんて。小恥ずかしい。
「そうだな。池本どうだった?」
「え! 私ですか!?」
 いきなりの指名に驚きの声を上げる池本。
 そりゃそうだ。唐突に感想言えだなんて困るわな。
「あの、その、技術的なこととか、どこがどう良かったのかとかうまく言えないんですけど。すごかったです! 即興であそこまですらすら台詞が出てくるなんて……! 感動しました!」
 そう言われると嬉しいが、実のところ、そんなにすらすらと言っているわけではない。むしろ少し噛んでいるところとかある。
 次に、みんなは池本の横にいた金子に視線を送る。
 金子は自分の番という事を理解し、話し出す。
「自分も感動しました! 初めに何も言わずにその場に残る人と去る人を決めたり、あとちゃんと砂漠の情景があったりするところがすごかったです!」
 本当に率直な感想なのだろう。金子は目を輝かせていた。
 そして最後に経験者という田島の方を見る。
「えー、お疲れ様です。お題に対してすごくあった即興劇だったと思います。情景の説明は分かりやすかったし、それぞれちゃんと役割を持っていて良かったと思います」
 さすが経験者というべきか、しっかりと褒めてきた。ダメ出しがないのが気になるが、まぁ、先輩相手にいきなりダメ出しはできないか。
「んじゃ、評論に入るか。いいぞ、言いたい奴から言って」
 樫田がいつも通り、評論を始める。
 初めに意見を言ったのは増倉だった。
「うーん。始めの二人のところ、お互いに探り探りすぎない? もっと設定言っても良かったんじゃない?」
「あ、それオレも思った。相手の出方を伺いすぎて、会話にぎこちなさが生まれてる感じ?」
 増倉の意見に大槻が同意した。
 あー、確かに最初の方は手探り感が出ていたな。ありゃ良くなかった。
 それは椎名も認めるところなのか、黙って聞いていた。
「後、台詞が芝居がかりすぎていた。もっと自然体でいい」
 次に夏村がそんなことを言った。
 いやー、言いたいことは分かるんだけどね。
「でも仕方ないだろ。説明口調とかにならないと情景の説明って難しいだから」
 思わず、そんな反論を言ってしまう。
「それは分かる。でもだからこそ説明口調でない、何気ない会話で雰囲気を緩和しないと」
 夏村は俺の意見に対して同意しながらも、改善案を提示した。
 なるほど、そういうことか。
 序盤の会話は説明することに意識を向けすぎた。もっと自然な会話を織り込むべきだったのだろう。
 そして一通りみんなが意見を言い終わると、最後に樫田が総評を言う。
「まず、山路が最初捌けたのは、ありな選択肢だな。三人で始めるのもいいが、途中から誰かが入ってくることで物語の転換になる。ただ、山路は焦りすぎたな。残り時間を気にして無理やり入ろうとしただろ」
「あー、やっぱり分かるかー。そうなんだよねー。二人の間に割って入るのが思ったより難しくてさー。ちょっと強引に行っちゃった」
「まぁ、演劇的にデウスエクスマキナとか、物語が終盤で急展開するのはよくあることだが、今回は微妙だったな。試みは面白かったが」
「そうだねー。もうちょっと落ち着いてするべきだったね。ごめん。」
「いや総合的には良かったぞ。ちゃんと無理やりでも終わりに持ってこうとする思考が良かった。途中から入った自分の役割を理解しているという事だ。」
「ありがとう」
 山路に言いたいことを終えると、樫田は俺たちの方を向いた。
「杉野と椎名、お前らはさっきもみんなが言ってたが、探り探りだったり説明口調すぎたりで全体的に芝居が硬くなりすぎだ。まぁ演劇はコミュニケーションが大切だから短所ではないんだが。」
「そうね。少し良くなかったわ」
 樫田の感想に椎名は同意した。
 すかさず樫田がフォローをいれる。
「その分、会話の流れや内容にそこまで違和感はなかった。簡単に遭難したとか道に迷ったとか言わず、客に考えさせるのも良かった」
 確かにそこは意識した点だ。簡単に場面を絞らないように。
「後は《《間》》かなぁ。怖がらずにもっと沈黙を楽しんでもいいんだぞ?」
「わかってはいるわ。ただ喋ろうって意識すると、沈黙が長く感じるのよ」
 分かる。椎名の意見はまさに俺の言いたいことだった。
 会話をしなきゃいけない。けど沈黙も作らなきゃならない。まるで二律背反だ。
「緩急の付け方だよなぁ」
「そう! 分かってんならできる」
 俺が呟くと、樫田が笑顔でそう言った。
 簡単に言うがな。分かっていてもできないことって結構あるぞ。
「まぁ課題は追々だな。さて、次行くか」
 樫田がそうまとめた。