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第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜⑮

ー/ー



 普段は、多くても数人の生徒と養護教諭の幽子しかいない保健室は、十人近い人数が集まって、一気に人口密度が高くなる。

 その影響なのか、あるいは、右肩にかかる女子生徒からの重圧のためなのか、針太朗(しんたろう)が息苦しさを覚えるなか、中等部の生徒が口を開いた。

「保健室に居るかも、って聞いたので心配してたんですけど……お兄ちゃんが元気そうで良かった! さぁ、()()()()()()()()のことは放っておいて、ひかりと週末のことを相談しましょう」

 その西田ひかりの言動の一部に、高等部の上級生たちは、過敏に反応する。

「ねぇ、いま、()()()()()()()()って聞こえた気がしたんだけど、それ、どういう意味?」

「うむ、確かに聞き捨てならないフレーズだな。ここは、真意を確かめておきたいところだ。返答の内容によっては、中等部と言えど、生徒指導の対象にしてもらわねば……」

 針太朗(しんたろう)のクラスメートである希衣子(けいこ)と生徒会長の奈緒(なお)が、ひかりに問い詰める。

「え〜? ()()()()()()()()っていうのは、お兄ちゃんとのデートが終わったヒトたちっていう意味で、他に深い意味はありませんよ〜。それとも、自分たちは、()()()()()()()っていう自覚があるんですか〜?」

 高等部の上級生たちにもまったく臆するところがない西田ひかりの言動にこめかみを引きつらせながらも、二人は努めて冷静に、中等部の女子生徒……のみならず周囲にアピールするように返答する。

「僭越ながら、私は、彼が苦手だった異性との会話を最初に克服した相手だ。なにしろ、針太朗(しんたろう)くんの()()()()の経験の相手だからな。彼との逢瀬(おうせ)は、終わったどころか、これからも、()()()()の異性として、責任を取ってお相手を務めねば、と考えているところなのだが?」

「アタシだって、またシンタローとウニバに行くことになってるし! なんなら、『ケイコと一緒なら、ボクは苦手なことでも克服できるよ』って、苦手な辛い食べ物を克服するために、一緒にヤンニョムチキンを食べに行こうって話もしてるし、土曜日だって、夜にLANEでお詫びとして、『次のウニバも楽しみにしてる』ってメッセージを送ってくれてるから。ねぇ、シンタロー、次は一緒に『ダイビング・ダイナソー』のアトラクションに挑戦するんだよね?」

 それらは、挑発的な言動を取る下級生に対する反論であったが、当の西田ひかり以上に、奈緒(なお)希衣子(けいこ)の言葉に対して、過剰に反応する女子生徒がいた。

「へぇ〜、私が帰ったあと、会長さんとはそんなことが……それに、北川さんとは、そんなお話しをしてたんだ……」

 真中仁美(まなかひとみ)は、針太朗(しんたろう)の肩を掴んだ手に力を込めながら言ったあと、ポツリとつぶやいた。

()()()()()()()()()()姿()()()()()()()……」

 本人としては、極めて小さな声でつぶやいたつもりだったのかも知れないが――――――。
 その声は、会話が途切れていた保健室の室内において、全員が聞き取るには、十分なボリュームだった。

「ちょっと! 今のどういうこと!? シンタロー、週末にマナカとナニがあったの?」

「そうだな……まさか、キミが、あのあと、真中(まなか)さんとそんな関係になっているなんて……彼女を自宅に送るように言ったことが、こんな結果になるとは、自分にもキミにも失望を禁じ得ない」

「お兄ちゃん、普通に幻滅です」

 四人の女子生徒は、口々に針太朗(しんたろう)に苦言を呈する。
 ただ、ここまで、ほとんど口を開かずに成り行きを見守っていた楊子(ようこ)だけが、
 
針本(はりもと)さん、思春期の男子なら、仕方のないことですよね……真中(まなか)さんには謝罪して、今後は迷惑を掛けないよう、関係を断つとして……もしも、欲求を抑えられないなら犯罪になる前に、いつでも私に相談してくださいね」

と、冷静でありながらも、フォローになっているのかいないのか良くわからない内容で、彼との心理的距離を縮めようとする。

 そんな彼女たちの反応に困惑した針太朗(しんたろう)は、女子生徒たちをなだめるように語りかける。

「みんな、ちょっと、冷静さを欠いているみたいだから、()()()()()()落ち着いて話そう」

 しかし、その一言は、少女たちの気持ちを逆撫でしたようで、

「「「「誰も興奮してない!」」」」

と、仁美(ひとみ)奈緒(なお)希衣子(けいこ)・ひかりの四人の声が重なるのだった。

 そして、相変わらず、半歩下がって喧騒を見守っている楊子(ようこ)とともに、この騒動をニヤニヤとしながら観察していた男子二名、辰巳良介(たつみりょうすけ)乾貴志(いぬいたかし)は、

「「おいおい、江川の入団会見かよ……」」

と、令和の高校生とは思えない知識で、昭和のプロ野球の一大事件を引用しながらツッコミを入れたあと、絶妙のコンビネーションで、

「(針本は)やってしまいましたなあ」

「しかし……きょうは、 イランことを言うてしもたなあ。これは大変なことやと思うよ」

「これは教育やろなあ」

「みんな、針本に好意フラグが立ってんのになあ。なんで余計なこと言うんやろなあ。この先も毎日のように顔を合わせるのになあ。これは大変よ」

と、38年ぶりにチームを日本一に導いた名将をリスペクトするコメントを残すのだった。

 保健室で盛り上がる中高生の姿を見守る、養護教諭の安心院幽子(あじむゆうこ)は、

(若いってイイわね〜)

という感慨に浸りつつ、満月の夜にチカラを増すオノケリスの再来への備えと、彼女自身も把握できていない、西高裕貴(にしたかゆうき)恋心(こいごころ)を奪ったリリムの存在を警戒しておかねば、とかんがえるのであった。


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次のエピソードへ進む エピローグ〜悪魔を憐れむ歌〜


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 普段は、多くても数人の生徒と養護教諭の幽子しかいない保健室は、十人近い人数が集まって、一気に人口密度が高くなる。
 その影響なのか、あるいは、右肩にかかる女子生徒からの重圧のためなのか、|針太朗《しんたろう》が息苦しさを覚えるなか、中等部の生徒が口を開いた。
「保健室に居るかも、って聞いたので心配してたんですけど……お兄ちゃんが元気そうで良かった! さぁ、|終《・》|わ《・》|っ《・》|た《・》|ヒ《・》|ト《・》|た《・》|ち《・》のことは放っておいて、ひかりと週末のことを相談しましょう」
 その西田ひかりの言動の一部に、高等部の上級生たちは、過敏に反応する。
「ねぇ、いま、|終《・》|わ《・》|っ《・》|た《・》|ヒ《・》|ト《・》|た《・》|ち《・》って聞こえた気がしたんだけど、それ、どういう意味?」
「うむ、確かに聞き捨てならないフレーズだな。ここは、真意を確かめておきたいところだ。返答の内容によっては、中等部と言えど、生徒指導の対象にしてもらわねば……」
 |針太朗《しんたろう》のクラスメートである|希衣子《けいこ》と生徒会長の|奈緒《なお》が、ひかりに問い詰める。
「え〜? |終《・》|わ《・》|っ《・》|た《・》|ヒ《・》|ト《・》|た《・》|ち《・》っていうのは、お兄ちゃんとのデートが終わったヒトたちっていう意味で、他に深い意味はありませんよ〜。それとも、自分たちは、|も《・》|う《・》|終《・》|わ《・》|っ《・》|て《・》|る《・》っていう自覚があるんですか〜?」
 高等部の上級生たちにもまったく臆するところがない西田ひかりの言動にこめかみを引きつらせながらも、二人は努めて冷静に、中等部の女子生徒……のみならず周囲にアピールするように返答する。
「僭越ながら、私は、彼が苦手だった異性との会話を最初に克服した相手だ。なにしろ、|針太朗《しんたろう》くんの|は《・》|じ《・》|め《・》|て《・》の経験の相手だからな。彼との|逢瀬《おうせ》は、終わったどころか、これからも、|は《・》|じ《・》|め《・》|て《・》の異性として、責任を取ってお相手を務めねば、と考えているところなのだが?」
「アタシだって、またシンタローとウニバに行くことになってるし! なんなら、『ケイコと一緒なら、ボクは苦手なことでも克服できるよ』って、苦手な辛い食べ物を克服するために、一緒にヤンニョムチキンを食べに行こうって話もしてるし、土曜日だって、夜にLANEでお詫びとして、『次のウニバも楽しみにしてる』ってメッセージを送ってくれてるから。ねぇ、シンタロー、次は一緒に『ダイビング・ダイナソー』のアトラクションに挑戦するんだよね?」
 それらは、挑発的な言動を取る下級生に対する反論であったが、当の西田ひかり以上に、|奈緒《なお》と|希衣子《けいこ》の言葉に対して、過剰に反応する女子生徒がいた。
「へぇ〜、私が帰ったあと、会長さんとはそんなことが……それに、北川さんとは、そんなお話しをしてたんだ……」
 |真中仁美《まなかひとみ》は、|針太朗《しんたろう》の肩を掴んだ手に力を込めながら言ったあと、ポツリとつぶやいた。
「|あ《・》|ん《・》|な《・》|恥《・》|ず《・》|か《・》|し《・》|い《・》|私《・》|の《・》|姿《・》|を《・》|見《・》|た《・》|く《・》|せ《・》|に《・》……」
 本人としては、極めて小さな声でつぶやいたつもりだったのかも知れないが――――――。
 その声は、会話が途切れていた保健室の室内において、全員が聞き取るには、十分なボリュームだった。
「ちょっと! 今のどういうこと!? シンタロー、週末にマナカとナニがあったの?」
「そうだな……まさか、キミが、あのあと、|真中《まなか》さんとそんな関係になっているなんて……彼女を自宅に送るように言ったことが、こんな結果になるとは、自分にもキミにも失望を禁じ得ない」
「お兄ちゃん、普通に幻滅です」
 四人の女子生徒は、口々に|針太朗《しんたろう》に苦言を呈する。
 ただ、ここまで、ほとんど口を開かずに成り行きを見守っていた|楊子《ようこ》だけが、
「|針本《はりもと》さん、思春期の男子なら、仕方のないことですよね……|真中《まなか》さんには謝罪して、今後は迷惑を掛けないよう、関係を断つとして……もしも、欲求を抑えられないなら犯罪になる前に、いつでも私に相談してくださいね」
と、冷静でありながらも、フォローになっているのかいないのか良くわからない内容で、彼との心理的距離を縮めようとする。
 そんな彼女たちの反応に困惑した|針太朗《しんたろう》は、女子生徒たちをなだめるように語りかける。
「みんな、ちょっと、冷静さを欠いているみたいだから、|興《・》|奮《・》|し《・》|な《・》|い《・》|で《・》落ち着いて話そう」
 しかし、その一言は、少女たちの気持ちを逆撫でしたようで、
「「「「誰も興奮してない!」」」」
と、|仁美《ひとみ》・|奈緒《なお》・|希衣子《けいこ》・ひかりの四人の声が重なるのだった。
 そして、相変わらず、半歩下がって喧騒を見守っている|楊子《ようこ》とともに、この騒動をニヤニヤとしながら観察していた男子二名、|辰巳良介《たつみりょうすけ》と|乾貴志《いぬいたかし》は、
「「おいおい、江川の入団会見かよ……」」
と、令和の高校生とは思えない知識で、昭和のプロ野球の一大事件を引用しながらツッコミを入れたあと、絶妙のコンビネーションで、
「(針本は)やってしまいましたなあ」
「しかし……きょうは、 イランことを言うてしもたなあ。これは大変なことやと思うよ」
「これは教育やろなあ」
「みんな、針本に好意フラグが立ってんのになあ。なんで余計なこと言うんやろなあ。この先も毎日のように顔を合わせるのになあ。これは大変よ」
と、38年ぶりにチームを日本一に導いた名将をリスペクトするコメントを残すのだった。
 保健室で盛り上がる中高生の姿を見守る、養護教諭の|安心院幽子《あじむゆうこ》は、
(若いってイイわね〜)
という感慨に浸りつつ、満月の夜にチカラを増すオノケリスの再来への備えと、彼女自身も把握できていない、|西高裕貴《にしたかゆうき》の|恋心《こいごころ》を奪ったリリムの存在を警戒しておかねば、とかんがえるのであった。