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第13話 万事屋みなもと

ー/ー



 京子は今、自宅裏の倉庫にいる。彼女が掃除した甲斐もあって、埃だらけだった室内は見違えるように綺麗だ。
 京子が掃除した際、埃を被った設計図や契約書などの書類が次々と発見された。これらも羽成健造に関係するものと思われる。
 その中で、工房には似つかわしくないものが一つだけあった。それは、羽馴島の地図だ。
「子供の落書きかしら......?」
 健造の子供か、それとも......? 京子は不思議に思いながらも、その地図をデスクへしまう。
「工具も使えるものが多く残っているし、せっかくだから何かやりたいわね......」
 ものづくりに関して、これだけの環境が整っている。意欲的になるのは人間の性だろう。
「ワンッ!」
 庭からケンの声。この頃は、島長家と源家を往来するのが彼の習慣となっている。
「せっかくなら、ケンちゃんのおうちでも作ってみようかしら!」 
 どうやら、彼女の工作する作品が決まったようだ。室内犬が増えた昨今、犬小屋というのは物珍しく思える。
ーー
 京子は近隣の雑貨店へ訪れた。どうやら屋号は『万事屋みなもと』らしい。
 店内は昔懐かしの古風な雰囲気。それでいて、通信販売の取り次ぎサービスも対応しているらしい。
「あら、おばあちゃん。どうしてここに?」
 京子は、ある人物が店内にいることに気付く。そこには文恵の姿が。
「ここはね、元々私がいたお店なの。今は娘夫婦に任せているけど」
 文恵がここにいたのはそういうことか。京子は合点がいった。
「いらっしゃいませ。母がいつもお世話になっています」
 こちらの快活な店主は、おそらく文恵の娘なのだろう。大人しめな母とは真逆の人物に思える。
「京子さんですか。さて、今日は何をお探しですか?」
 見た目に反し、店主の話しぶりは非常に丁寧である。そこはやはり、母譲りの品の良さ。
「そうね。ベニヤ板に釘、ペンキ、それから……」
 京子は立て続けに注文を入れる。店主は彼女の言葉を一言一句漏らさぬよう、速記でメモを取る。
「では、少々お待ちください!」
 メモに従って、店主は淀みなく商品を手配している。そんな中、京子は店内のあるものに気付いた。
√豆(ルートナッツ)......誰かのサインかしら?」
 よく見ると、豊臣秀吉や織田信長などの戦国武将をイラストを描いたイラストが壁掛けされている。√豆、この店にどういう縁があるのだろうか?
「ああ、実は2番目の娘が漫画を描いましてねぇ」
 文恵は誇らしげに語る。よくみると、彼女のTシャツにはKOKI! と大文字で書かれている。
「それで、これは次女から古希のお祝いでもらったTシャツなの!」
 文恵が振り返ると、背面には男性格闘家を思わせる全身シルエットが描かれている。おそらく、その男性格闘家には何か意図があるのかもしれないが、京子には理解が至らない。
「それ、私も柄違いもらったんです。何故か知らないけど......」
 店主のTシャツの背面には、女性モデルを思わせる全身シルエットが描かれている。こちらも、前面にはKOKI! の文字が書かれているが、こちらも京子には意図が分からなかった。
「さて、これで全部ですね!」
 雑談をしている傍らで、店主は手早く商品をまとめていた。あとは会計を済ますのみ。
「なら、B-PAY(ビーペイ)で!」
 B-PAYとは、ビッグバンが提供する電子決済システムである。普及率はあまり高くないものの、今後の需要拡大が見込まれる。
「ありがとうございました! あと、これもどうぞ!」
 店主は、カードが封入されているパックを手渡してきた。それには、『ロード・オブ・プレジデント』と書かれている。
「これは、ビッグバンと姉の漫画がコラボした特典です!」
 京子は、特典にあまり気を留めていなかった。だが、実はのりこが『ロード・オブ・プレジデント』の大ファンなのである。


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 京子は今、自宅裏の倉庫にいる。彼女が掃除した甲斐もあって、埃だらけだった室内は見違えるように綺麗だ。
 京子が掃除した際、埃を被った設計図や契約書などの書類が次々と発見された。これらも羽成健造に関係するものと思われる。
 その中で、工房には似つかわしくないものが一つだけあった。それは、羽馴島の地図だ。
「子供の落書きかしら......?」
 健造の子供か、それとも......? 京子は不思議に思いながらも、その地図をデスクへしまう。
「工具も使えるものが多く残っているし、せっかくだから何かやりたいわね......」
 ものづくりに関して、これだけの環境が整っている。意欲的になるのは人間の性だろう。
「ワンッ!」
 庭からケンの声。この頃は、島長家と源家を往来するのが彼の習慣となっている。
「せっかくなら、ケンちゃんのおうちでも作ってみようかしら!」 
 どうやら、彼女の工作する作品が決まったようだ。室内犬が増えた昨今、犬小屋というのは物珍しく思える。
ーー
 京子は近隣の雑貨店へ訪れた。どうやら屋号は『万事屋みなもと』らしい。
 店内は昔懐かしの古風な雰囲気。それでいて、通信販売の取り次ぎサービスも対応しているらしい。
「あら、おばあちゃん。どうしてここに?」
 京子は、ある人物が店内にいることに気付く。そこには文恵の姿が。
「ここはね、元々私がいたお店なの。今は娘夫婦に任せているけど」
 文恵がここにいたのはそういうことか。京子は合点がいった。
「いらっしゃいませ。母がいつもお世話になっています」
 こちらの快活な店主は、おそらく文恵の娘なのだろう。大人しめな母とは真逆の人物に思える。
「京子さんですか。さて、今日は何をお探しですか?」
 見た目に反し、店主の話しぶりは非常に丁寧である。そこはやはり、母譲りの品の良さ。
「そうね。ベニヤ板に釘、ペンキ、それから……」
 京子は立て続けに注文を入れる。店主は彼女の言葉を一言一句漏らさぬよう、速記でメモを取る。
「では、少々お待ちください!」
 メモに従って、店主は淀みなく商品を手配している。そんな中、京子は店内のあるものに気付いた。
「|√豆《ルートナッツ》......誰かのサインかしら?」
 よく見ると、豊臣秀吉や織田信長などの戦国武将をイラストを描いたイラストが壁掛けされている。√豆、この店にどういう縁があるのだろうか?
「ああ、実は2番目の娘が漫画を描いましてねぇ」
 文恵は誇らしげに語る。よくみると、彼女のTシャツにはKOKI! と大文字で書かれている。
「それで、これは次女から古希のお祝いでもらったTシャツなの!」
 文恵が振り返ると、背面には男性格闘家を思わせる全身シルエットが描かれている。おそらく、その男性格闘家には何か意図があるのかもしれないが、京子には理解が至らない。
「それ、私も柄違いもらったんです。何故か知らないけど......」
 店主のTシャツの背面には、女性モデルを思わせる全身シルエットが描かれている。こちらも、前面にはKOKI! の文字が書かれているが、こちらも京子には意図が分からなかった。
「さて、これで全部ですね!」
 雑談をしている傍らで、店主は手早く商品をまとめていた。あとは会計を済ますのみ。
「なら、|B-PAY《ビーペイ》で!」
 B-PAYとは、ビッグバンが提供する電子決済システムである。普及率はあまり高くないものの、今後の需要拡大が見込まれる。
「ありがとうございました! あと、これもどうぞ!」
 店主は、カードが封入されているパックを手渡してきた。それには、『ロード・オブ・プレジデント』と書かれている。
「これは、ビッグバンと姉の漫画がコラボした特典です!」
 京子は、特典にあまり気を留めていなかった。だが、実はのりこが『ロード・オブ・プレジデント』の大ファンなのである。