第3話 新しいおうち!
ー/ー のりこ達はバスに揺られていた。他の乗客が乗ってくる様子もなく、車内は静寂が漂っている。
「おとうさん、新しいおうちはまだー?」
のりこはつまらなそうな表情。一方、りょうたはスマートフォンのゲームに夢中だ。
「よし、木の神殿のボスまで来たぞ!」
彼がプレイしているのは、エレメンタル・ビーストという子供達の間で流行しているスマートフォン向けの育成型バトルRPGの事である。詳細は別の機会で触れるが、やりこみ要素があるなど大人からも一定の支持があるほどだ。
「そんなもの、よく夢中になれるわね?」
実はのりこがゲームの相手をしていた際、完膚なきまでに敗北した。彼女の言葉には、りょうたへの恨み節が滲み出ていた。
「あー、つまんなーい!」
のりこは、時間を持て余して感嘆を上げる。そんな矢先、車窓から何かが見えた。
「おとうさん、あれ何!?」
のりこは思わずそれを指差す。一体、彼女が食い入る理由は何だろうか。
「あれは神社……かな? けど、あそこまでどうやって行くんだろうか」
車窓から見る限り、神社は海上の遥か向こうにぽつんと佇んでいる。周囲は岩場であるため、船で上陸することは困難だろう。
「ふーん、へんなのー?」
のりこは何かに魅入られたかのように、車窓越しの神社を見つめていた。
「羽成神社、変わった名前だな……?」
電光掲示板に示された駅名、それが良行の車内で最後の記憶。そこから先は、睡魔に襲れて覚えがない。
ーー
「良行さん、起きて!」
良行は、京子の声に気付いて目が覚めた。バスの揺れが、眠りにはさぞかし心地良かったことだろう。
『乾に到着です。ご乗車、ありがとうございました。お忘れ物等にご注意ください』
良行は支払いを済ませ、バスを降車する。降りた先は雑木林、人気など到底感じられない。
「新しいおうちはどこ?」
のりこは周囲を見回し、新居であろう建物を探している。だが、この辺りにそれらしきものは無さそうだ。
「ここから東へ10分くらい歩くぞ」
良行は淡々とのりこへ告げる。どうやら、新居は駅近というわけではなさそうだ。
「まだ歩くのぉ?」
のりこはけだるそうな表情を浮かべた。ここまでの道中も、子供にとっては思いの外に長い。
「のりこ、嫌ならここで待っててもいいのよ?」
港での謀反もあり、京子は厳しい口調。のりこは、不服そうな表情を浮かべつつ歩く。
道中は緩やかな坂道、雑木林はどこまでも続いている。
長い坂道の先に、ようやく集落が見えてきた。その頃ののりこは、疲れからか表情が歪んでいた。
「よし、ここが俺達の新しい家だ!」
集落の中で、唯一のログハウスが異彩を放つ。中古物件なのだろうか、どことなく時代錯誤な見栄えをしている。
「ここが新しいおうち!? すごぉい!!」
新居を目の当たりにしたのりこは、これまでの疲れが一瞬にして吹き飛んだ。手狭な賃貸マンションで暮らしていたのりこからすれば、一軒家は憧れの住まいだったに違いない。
「おとうさん、中も見たいっ!!」
良行が家の鍵を開けるなり、のりこは我先にと家の中へ突入してしまった。新しい住まいに、彼女は興奮を抑えられないようだ。
「とっても広ーいっ!!」
喜びのあまり、のりこはリビングを走り回っている。さながら欣喜雀躍といったところか。
「まさか、俺もここまでの物件を見つけられるとは思わなかったなぁ」
良行が新居を探していた矢先、懇意にしていた取引先から紹介を受けた。何と、偶然にも羽馴島の物件を取り扱っていたのだ。
「テレビも冷蔵庫もおっきぃ!!」
おまけに、家具家電付きという優良物件。のりこにとって、ここは理想郷に他ならない。
その声を聞きつけたのか、どこからか老婆がやってきた。ご近所さんなのだろうか?
「あら、よしゆ......ごめんなさい、こちらへ越してきた人だね?」
どういう訳か、彼女は懐かしむような眼差しで良行を見つめている。老婆が何かを言いかけたことも気にかかる。
「はじめまして、本日よりこちらへ越してきた島長です。よろしくお願いします。これ、つまらないものですが......」
良行は、挨拶として老婆へ手土産を渡した。彼女の眼差しに、良行は内心で妙な感覚を覚えていたことだろう。
「まぁ、ご丁寧にどうも。私は近所に住む源と申します。どうぞよろしく」
老婆からはどことなく品の良さを感じる。おそらく、とても温厚な人柄なのだろう。
「誰々―っ!?」
リビングで走り回っていたのりこがやって来た。勢い余って、彼女は危うく玄関で躓きかけた。
「はじめまして、島長のりこです! よろしくお願いします!!」
のりこの挨拶に続き、京子とりょうたも老婆へお辞儀をする。これが、島長一家と老婆の初対面だった。
のりこの活気ある挨拶に、源はにこやかな笑顔で返した。
羽馴島生活、まずは新居に到着。
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