表示設定
表示設定
目次 目次




(二)

ー/ー




数十分前のことだ。

 細い路地裏を静かに、足早にアリアは駆け抜ける。
「っは、はぁはぁ」
 全速力など、いつ以来だろうか。普段、おしとやかに、慎ましくと制限されていたアリアにとっては久しぶり過ぎる運動量だ。
 見つかっても諦めなかった。ただ、懸命に走り抜いた。
「っ」
 足をもつれさせ、思わず転び追い付かれ危機一髪のところだった。
 彼は現れた。
 彼女の前にクリーム色のロングコートを翻しふわりと降り立った姿は、天の助けかとアリアは一瞬、本気で思ったくらいだ。だが、当然それは、たんなる偶然の単なる通りすがりの人であった。見た目は貧弱、特別強そうでも、助けに入ったという風でもなかった。
「あれ? こっちの道だったはずなんだけどなぁ、あの喫茶店」
「っ、だ、だ!」
「君、ここの近くに住んでる人? ちょっと道を尋ねたいんだけど」
「な、なっに、い」
「」
 一人の少女と複数名の男たちが暗い路地で対峙してるという緊迫した状況の中、暢気な声で聞いてくる彼に、アリアは口をぱくぱくとさせる。彼はそれににっこりほほ笑むと悠長にも名乗ったのだ。
「僕はサガミ・エデル・ラスティ、この星に観光で訪れたんだけど案内お願いできないかな?」
「……はぁぁ?!」
「そのかわり、何か一つ、お礼をするよ」


         *


 それが彼とアリアとの出会いの冒頭である。アリアは困惑しながらも、すぐにこれは使えるかもしれないと考えた。そして
「突然、貴方が空から降ってくるからいけないんじゃない。巻き込まれたんじゃなくて、巻き込まれに来たの間違いでしょう!」
「そうかもしれないけどね」
「観光案内はあとでいくらでもしてあげる、というかこの状況なのよ、ヒーローとか善人じゃなくても、一般でもなんでもかまわないから助けてほしいの!」
「……うん、なんていうか、むちゃくちゃ変な言い方のお願いだよね。気持はわかるけど、だからって盾にする?」
 眉を寄せるサガミに、アリアはぐっと顔を近づける。
「緊急事態なの、だからそれを脱するためなら遠慮なく盾にするわ」
「そう」
「だから」
 呆れた表情を見ても、助けてくれる、そう感じた。どんな言葉でもきっと、彼なら手を差し伸べてくれただろう。
 それはアリアの直感。当てになるかどうかは分からない。ただ、彼がソラから降ってきて、目があった時に感じたもの、この一つの希望を掴みたいと願った。

(私に、ソラの自由をください、神様)

 アリアは心の中でそう願うと、一つの希望の名を呼ぶ。
「サガミ」
 どうか助けてと、続く言葉は口の中に消えたが、サガミには届いたようだった。
「……わかった、置いてかないよ」
 そう言うと、ふっと息をついて次に人差し指をくるりと円を描くように回す。
 途端、そこに大きな黒い円が浮かび上がり
「じゃあ、行こうか」

 アリアたちを瞬く間に吸い込んだ。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む (三)


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…




数十分前のことだ。
 細い路地裏を静かに、足早にアリアは駆け抜ける。
「っは、はぁはぁ」
 全速力など、いつ以来だろうか。普段、おしとやかに、慎ましくと制限されていたアリアにとっては久しぶり過ぎる運動量だ。
 見つかっても諦めなかった。ただ、懸命に走り抜いた。
「っ」
 足をもつれさせ、思わず転び追い付かれ危機一髪のところだった。
 彼は現れた。
 彼女の前にクリーム色のロングコートを翻しふわりと降り立った姿は、天の助けかとアリアは一瞬、本気で思ったくらいだ。だが、当然それは、たんなる偶然の単なる通りすがりの人であった。見た目は貧弱、特別強そうでも、助けに入ったという風でもなかった。
「あれ? こっちの道だったはずなんだけどなぁ、あの喫茶店」
「っ、だ、だ!」
「君、ここの近くに住んでる人? ちょっと道を尋ねたいんだけど」
「な、なっに、い」
「」
 一人の少女と複数名の男たちが暗い路地で対峙してるという緊迫した状況の中、暢気な声で聞いてくる彼に、アリアは口をぱくぱくとさせる。彼はそれににっこりほほ笑むと悠長にも名乗ったのだ。
「僕はサガミ・エデル・ラスティ、この星に観光で訪れたんだけど案内お願いできないかな?」
「……はぁぁ?!」
「そのかわり、何か一つ、お礼をするよ」
         *
 それが彼とアリアとの出会いの冒頭である。アリアは困惑しながらも、すぐにこれは使えるかもしれないと考えた。そして
「突然、貴方が空から降ってくるからいけないんじゃない。巻き込まれたんじゃなくて、巻き込まれに来たの間違いでしょう!」
「そうかもしれないけどね」
「観光案内はあとでいくらでもしてあげる、というかこの状況なのよ、ヒーローとか善人じゃなくても、一般でもなんでもかまわないから助けてほしいの!」
「……うん、なんていうか、むちゃくちゃ変な言い方のお願いだよね。気持はわかるけど、だからって盾にする?」
 眉を寄せるサガミに、アリアはぐっと顔を近づける。
「緊急事態なの、だからそれを脱するためなら遠慮なく盾にするわ」
「そう」
「だから」
 呆れた表情を見ても、助けてくれる、そう感じた。どんな言葉でもきっと、彼なら手を差し伸べてくれただろう。
 それはアリアの直感。当てになるかどうかは分からない。ただ、彼がソラから降ってきて、目があった時に感じたもの、この一つの希望を掴みたいと願った。
(私に、ソラの自由をください、神様)
 アリアは心の中でそう願うと、一つの希望の名を呼ぶ。
「サガミ」
 どうか助けてと、続く言葉は口の中に消えたが、サガミには届いたようだった。
「……わかった、置いてかないよ」
 そう言うと、ふっと息をついて次に人差し指をくるりと円を描くように回す。
 途端、そこに大きな黒い円が浮かび上がり
「じゃあ、行こうか」
 アリアたちを瞬く間に吸い込んだ。