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婚約破棄イベントが壊れた! 後編

ー/ー



『カリスタ。きみのことはとても良い婚約者だと信じていたのに、わたしを裏切ったんだね。マリーに危害を加えようとし、周囲の学生と一緒になっていじめるとは……きみを信じていたわたしが(おろ)かだった』
『そんな……! 殿下、違います! わたくしはただ……!』
『黙れ! なにも聞きたくない。カリスタ、きみとの婚約を破棄する! ……怖かったろう、マリー。もうきみは、なにも恐れることはないんだ』
『エリオット殿下……ありがとうございます……!』

 こんな感じのイベントなんだよ、本来は!

 おかしい、絶対おかしい。そりゃあ原作のカリスタはマリーに危害を加えようとしたわよ?

 階段から突き落とそうとしたり、ぶん殴ろうとしたり、まぁほぼ未遂(みすい)で終わっているんだけどね!

 原作の『カリスタ』の良いところは、周りの人たちが『手を貸します!』と言っても、断って全部自分の力でやろうとするところ。

 でもね、でもね。全部自分でやろうとするから、バレバレになってね、卒業パーティーで婚約破棄を宣言されるんだけどね?

 ……そうなるように、わたくしもがんばってきたつもりなんだけど――!?

 さすがに原作の階段から落そうとしたり、ぶん殴ろうとしたりはしなかったよ?

 命の危険があるのはアウトだと思うし。なので、チクチクと嫌味……というか、正論を口にする機会はなぜか多かったから……まぁ、マリーさまの目には、わたくしが彼女を嫌っているように見えたでしょう。

「それにきみは、あろうことかわたしを誘惑しようとした」

 ……え?

「だって、あんなに見つめられたら、どんな女性だってころっといきますわ!」
「ころっといかない女性が、ここにいるのだが?」

 じーっと見つめられて、わたくしは首を傾げる。

「それに、見つめていたわけではない。睨んでいたんだ」

 待って、なぜエリオット殿下がマリーさまを睨むのよ?

 もうわけがわからないよ……!

「……あの、申し訳ありません。まずはひとつ、確認したいことがあるのですが……?」
「なんだい、カリスタ?」

 うわぁ、すっごいイケボ。なんだその砂糖にはちみつをかけたようなあまぁいボイスは!

 ゲームでもそんな声してなかったよ!?

 そんな声を直接聞いてみなさい、破壊力バツグンだから!

 っと、そうじゃない。そうじゃなかった。

「おふたりは、恋仲だったのでは……?」
「冗談でもやめてくれて」
「秒でそんな返事、ひどすぎませんか? エリオット殿下!」

 食い気味で否定された。

 ええ、じゃああの噂はなんだったの?

 エリオット殿下とマリーさまが逢瀬(おうせ)を繰り返していっていう噂はなんだったの?

 わたくし、あの噂を聞いて『お、マリーちゃん王太子ルートか。よっしゃ、がんばって婚約破棄まで持っていくぜ!』ってがんばったのよ?

「なぜそんなことを?」
「エリオット殿下とマリーさまが、逢瀬(おうせ)を繰り返しているという噂が……」

 火のないところに煙は立たないっていうし、わたくしはマリーさまが王太子ルートに入ったと思ったから、できる限り悪役令嬢やっていたのに!

 王太子ルートじゃないとしたら、誰ルートだったんだろう?

「直接聞いてくれたらよかったのに。そうしたら、光の速さで否定できたのに……。すまない、きみの耳にまで届いているとは思わなかったんだ」
「え? は、はぁ……」

 まぁ、噂に関してわたくしは、エリオット殿下を問い詰めることもしなかったしね。ルート確認のようなものだし。

 えーっと、じゃあこの状況、どうすればいいのかな?

 みんなこっちを凝視しているし、聞き耳立てているし。パーティー会場だよ、もう少し(にぎ)わってよ!

「マリー嬢から相談されていてね。カリスタに意地悪をされている、と。だが……わたしの知っているカリスタは、理由なくそんなことをする人ではない。だからこそ、マリー嬢がどんなことをしてカリスタに意地悪をされていると感じるのかを、調べる必要があった」

 そんな理由で調べていたんだ……。エリオット殿下のわたくしに対する評価がえらく高いことに驚きつつも、言葉の続きを促すように彼を見つめた。

 エリオット殿下は顔を赤らめて視線をそらしてしまった。どうしてそこで赤くなるの?

「すると、面白いことに学生たちからいろいろな証言が出てきてね」
「証言、ですか?」
「ああ。マリー嬢のテーブルマナーを(いさ)めたことや、ダンスの指導をしたこと。婚約者のいる相手に近付かないように忠告したこと……他にもあるけど、聞く?」

 思わず首を横に振る。

 だってこの学園、淑女を育てる場所でもあるのだから……。あれ、待って? もしかして、周りから見るわたくしは悪役令嬢ではなく、ただのマナーに厳しい人……!?

 い、いやいや、そんなはずない。

 だってわたくしが注意したとき、マリーさま涙目だったもの!

 そうよ、わたくしはきちんと悪役令嬢をやっていたはず!

「そ、そうですわ! カリスタさまはいつも、マリーさまに淑女としての振る舞いを教えていました!」

 おおっと、誰かが参戦してきたぞ!

「そうです! それに、カリスタさまはわたくしがペンケースを落としてしまったとき、一緒に拾ってくださいましたわ! マリーさまは無視していきましたのに! というか、マリーさまがぶつかってきたのに!」

 それはマリーさまが悪いわぁ。

「ああ、確かに婚約者がいるのにやたらとべたべたしてきて、ちょっと……いや、かなり鬱陶しかったのを、カリスタ嬢が助けてくれた!」

 ……そんなことあった……?

 ねぇ、ちょっと待って。なんでそんなにわたくしが持ち上げられているの!?

「ほら、きみがしてきたことを、ここの学生たちはちゃんと理解しているんだよ」
「え、と……は、はぁ……。こ、こほんっ。マリーさま、これでご理解いただけましたか? あなたの(おこな)いは、この学園の学生として、相応しくありませんでした。己の行動をもう一度よく考え、反省し、淑女として恥じることのない行いをなさいませ」

 これ、公開処刑されているのマリーさまじゃない? おかしい、わたくしは華麗に婚約破棄される予定だったのに。

 はっ! もしかしてこのままいけば、わたくしが王妃エンドになってしまう! 待って、夢の平民生活は――!?

「ああ、やはりカリスタは美しいな。容姿だけではなく、その心すらも。ともにこの国を盛り上げていこう、カリスタ。わたしたちなら、それが可能だろう」

 ちゅっ、と唇に柔らかいものが触れた。

 一気に顔を真っ赤にさせると、エリオット殿下が「やっとわたしのすることで赤くなってくれた」と嬉しそうに破顔する。

 そして盛り上がる会場。待って、ねぇ、待って! これいったい、なにエンドなの――!?

「ひ、ひと、人前で口付けなんて……!」
「もう一度してほしい?」

 光の速さで首を振った。

 というか、わたくしのファーストキスー!

 パーティー会場はもう、わたくしとエリオット殿下を祝福する場になっていた……

 マリーさまに視線を向けると、すっごく白けた顔をされた……見たくなかった、見たくなかったよ、マリーちゃんのその顔は……!

「あーもう、ほんっとうにばっからしい。やんなるわー……」

 そう言い残して彼女はパーティー会場から姿を消した……

 結局、わたくしは婚約破棄されることもなく、卒業パーティーは予定通りに行われ、エリオット殿下と一緒にダンスを踊った。

 それから、わたくしは自分でもおかしいと思うくらい、エリオット殿下を意識するようになってしまった。卒業してから接点が減るだろうと思っていたら、毎回パーティーに呼び出され、一緒に食事をしようと誘われ、むしろ接点が増えてしまった気がする。

 ……このままだとわたくし、本当に王妃になってしまうんだけど……!?

 それも満更ではないと思い始めている、自分が怖い……!


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『そんな……! 殿下、違います! わたくしはただ……!』
『黙れ! なにも聞きたくない。カリスタ、きみとの婚約を破棄する! ……怖かったろう、マリー。もうきみは、なにも恐れることはないんだ』
『エリオット殿下……ありがとうございます……!』
 こんな感じのイベントなんだよ、本来は!
 おかしい、絶対おかしい。そりゃあ原作のカリスタはマリーに危害を加えようとしたわよ?
 階段から突き落とそうとしたり、ぶん殴ろうとしたり、まぁほぼ|未遂《みすい》で終わっているんだけどね!
 原作の『カリスタ』の良いところは、周りの人たちが『手を貸します!』と言っても、断って全部自分の力でやろうとするところ。
 でもね、でもね。全部自分でやろうとするから、バレバレになってね、卒業パーティーで婚約破棄を宣言されるんだけどね?
 ……そうなるように、わたくしもがんばってきたつもりなんだけど――!?
 さすがに原作の階段から落そうとしたり、ぶん殴ろうとしたりはしなかったよ?
 命の危険があるのはアウトだと思うし。なので、チクチクと嫌味……というか、正論を口にする機会はなぜか多かったから……まぁ、マリーさまの目には、わたくしが彼女を嫌っているように見えたでしょう。
「それにきみは、あろうことかわたしを誘惑しようとした」
 ……え?
「だって、あんなに見つめられたら、どんな女性だってころっといきますわ!」
「ころっといかない女性が、ここにいるのだが?」
 じーっと見つめられて、わたくしは首を傾げる。
「それに、見つめていたわけではない。睨んでいたんだ」
 待って、なぜエリオット殿下がマリーさまを睨むのよ?
 もうわけがわからないよ……!
「……あの、申し訳ありません。まずはひとつ、確認したいことがあるのですが……?」
「なんだい、カリスタ?」
 うわぁ、すっごいイケボ。なんだその砂糖にはちみつをかけたようなあまぁいボイスは!
 ゲームでもそんな声してなかったよ!?
 そんな声を直接聞いてみなさい、破壊力バツグンだから!
 っと、そうじゃない。そうじゃなかった。
「おふたりは、恋仲だったのでは……?」
「冗談でもやめてくれて」
「秒でそんな返事、ひどすぎませんか? エリオット殿下!」
 食い気味で否定された。
 ええ、じゃああの噂はなんだったの?
 エリオット殿下とマリーさまが|逢瀬《おうせ》を繰り返していっていう噂はなんだったの?
 わたくし、あの噂を聞いて『お、マリーちゃん王太子ルートか。よっしゃ、がんばって婚約破棄まで持っていくぜ!』ってがんばったのよ?
「なぜそんなことを?」
「エリオット殿下とマリーさまが、|逢瀬《おうせ》を繰り返しているという噂が……」
 火のないところに煙は立たないっていうし、わたくしはマリーさまが王太子ルートに入ったと思ったから、できる限り悪役令嬢やっていたのに!
 王太子ルートじゃないとしたら、誰ルートだったんだろう?
「直接聞いてくれたらよかったのに。そうしたら、光の速さで否定できたのに……。すまない、きみの耳にまで届いているとは思わなかったんだ」
「え? は、はぁ……」
 まぁ、噂に関してわたくしは、エリオット殿下を問い詰めることもしなかったしね。ルート確認のようなものだし。
 えーっと、じゃあこの状況、どうすればいいのかな?
 みんなこっちを凝視しているし、聞き耳立てているし。パーティー会場だよ、もう少し|賑《にぎ》わってよ!
「マリー嬢から相談されていてね。カリスタに意地悪をされている、と。だが……わたしの知っているカリスタは、理由なくそんなことをする人ではない。だからこそ、マリー嬢がどんなことをしてカリスタに意地悪をされていると感じるのかを、調べる必要があった」
 そんな理由で調べていたんだ……。エリオット殿下のわたくしに対する評価がえらく高いことに驚きつつも、言葉の続きを促すように彼を見つめた。
 エリオット殿下は顔を赤らめて視線をそらしてしまった。どうしてそこで赤くなるの?
「すると、面白いことに学生たちからいろいろな証言が出てきてね」
「証言、ですか?」
「ああ。マリー嬢のテーブルマナーを|諫《いさ》めたことや、ダンスの指導をしたこと。婚約者のいる相手に近付かないように忠告したこと……他にもあるけど、聞く?」
 思わず首を横に振る。
 だってこの学園、淑女を育てる場所でもあるのだから……。あれ、待って? もしかして、周りから見るわたくしは悪役令嬢ではなく、ただのマナーに厳しい人……!?
 い、いやいや、そんなはずない。
 だってわたくしが注意したとき、マリーさま涙目だったもの!
 そうよ、わたくしはきちんと悪役令嬢をやっていたはず!
「そ、そうですわ! カリスタさまはいつも、マリーさまに淑女としての振る舞いを教えていました!」
 おおっと、誰かが参戦してきたぞ!
「そうです! それに、カリスタさまはわたくしがペンケースを落としてしまったとき、一緒に拾ってくださいましたわ! マリーさまは無視していきましたのに! というか、マリーさまがぶつかってきたのに!」
 それはマリーさまが悪いわぁ。
「ああ、確かに婚約者がいるのにやたらとべたべたしてきて、ちょっと……いや、かなり鬱陶しかったのを、カリスタ嬢が助けてくれた!」
 ……そんなことあった……?
 ねぇ、ちょっと待って。なんでそんなにわたくしが持ち上げられているの!?
「ほら、きみがしてきたことを、ここの学生たちはちゃんと理解しているんだよ」
「え、と……は、はぁ……。こ、こほんっ。マリーさま、これでご理解いただけましたか? あなたの|行《おこな》いは、この学園の学生として、相応しくありませんでした。己の行動をもう一度よく考え、反省し、淑女として恥じることのない行いをなさいませ」
 これ、公開処刑されているのマリーさまじゃない? おかしい、わたくしは華麗に婚約破棄される予定だったのに。
 はっ! もしかしてこのままいけば、わたくしが王妃エンドになってしまう! 待って、夢の平民生活は――!?
「ああ、やはりカリスタは美しいな。容姿だけではなく、その心すらも。ともにこの国を盛り上げていこう、カリスタ。わたしたちなら、それが可能だろう」
 ちゅっ、と唇に柔らかいものが触れた。
 一気に顔を真っ赤にさせると、エリオット殿下が「やっとわたしのすることで赤くなってくれた」と嬉しそうに破顔する。
 そして盛り上がる会場。待って、ねぇ、待って! これいったい、なにエンドなの――!?
「ひ、ひと、人前で口付けなんて……!」
「もう一度してほしい?」
 光の速さで首を振った。
 というか、わたくしのファーストキスー!
 パーティー会場はもう、わたくしとエリオット殿下を祝福する場になっていた……
 マリーさまに視線を向けると、すっごく白けた顔をされた……見たくなかった、見たくなかったよ、マリーちゃんのその顔は……!
「あーもう、ほんっとうにばっからしい。やんなるわー……」
 そう言い残して彼女はパーティー会場から姿を消した……
 結局、わたくしは婚約破棄されることもなく、卒業パーティーは予定通りに行われ、エリオット殿下と一緒にダンスを踊った。
 それから、わたくしは自分でもおかしいと思うくらい、エリオット殿下を意識するようになってしまった。卒業してから接点が減るだろうと思っていたら、毎回パーティーに呼び出され、一緒に食事をしようと誘われ、むしろ接点が増えてしまった気がする。
 ……このままだとわたくし、本当に王妃になってしまうんだけど……!?
 それも満更ではないと思い始めている、自分が怖い……!