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第10話 ようやく動き出す演劇部

ー/ー



 と、徹夜明けテンションで語ってみたものの。
 そんなエンディングロールが流れるような独白をしたところで、現実が変わるわけもなく。

「だから、結局のところ楽しそうって思ってもらわないと演劇部に人なんて来ないと思うの」

「でも過剰なことしても、後々辞めてくだけよ。それだったら初めから私たちらしい劇をした方がいいと思うわ」

「それがこの台本なの? これは香菜の趣味でしょ」

「違うわ、少なくとも栞が持ってきた台本よりは日頃の私たちらしいわ」

「なにそれ嫌味? 私が持ってきた台本のどこが変だっていうの」

「別に、変とは言ってないでしょ」

 扉を開けると、案の定、椎名と増倉が黒板前で言い争っていた。

 昨日に引き続き、二日続けてである。

 俺は昨日の出来事を反省し、余計なことは言わないよう気を付けながら、教室の後ろ側にまとめられた机の一つに鞄を置いた。
 すると、ジャージ姿の男が二人近づいてきた。

 中肉中背の体系に、短めの髪、特徴らしい特徴のない普通の男子高校生、大槻達樹。

 対して、やや痩せ型で校則ギリギリの前髪、飄々とした態度が特徴的な男子高校生、山路徹郎。

 どちらも俺と同じ演劇部員で、そして昨日までサボり魔だった二人である。
 そして二人とも目の下に少しクマができていた。
 椎名に言われて知っていたとはいえ、約二週間ぶりの再会に喜びの気持ちが生まれた。

「おい杉野」

「おはよ~」

「おう、おはよ、どうした大槻?」

「どうしたじゃない」

 山路はいつも通り笑顔を浮かべていたが、大槻は怒った様子だった。

「お前が部活動紹介でやる劇が簡単に決まるっていうから来たのに…………何あれ、なんで椎名と増倉はずっと言い争ってんだよ!」

 はて? 簡単に決まるとまでは言ってないような気もするが。

 しかし、ああいう椎名と増倉の言い争いが嫌でサボっていた大槻にとっては見ているだけで嫌なのかもしれない。

 まぁ、だが問題ないだろう。

「大丈夫大丈夫、それも今日で終わるから」

「本当か?」

「本当本当、二人とも台本持ってきたみたいだし」

「あ、そうそう、これがその台本だよ~。右が増倉さんので左のが椎名さんが持ってきたやつだから、目通しといてだって」

 そう言って山路は十数枚の紙の束を二つ、俺に渡してきた。

「おう、サンキュー」

 そう言って受け取る。
 しかし、そうか、昨日の今日で台本を持ってくるとは。
 流石、椎名と増倉だ。演劇に対する熱意は半端ない。
 これなら、本当に今日中に部活動紹介でやる劇が決まるだろう。
 やることが明確になるとなんだか気合が入る。

「二人はもう台本読んだのか?」

「いいや、これからだよ~。楽しみだね~」

「って言っても、十分ぐらいの劇だからそんな期待していないけど」

「いつもの一時間劇に比べると六分の一だもんね」

「すんなり読めんだろ」

 そういって手に持っていた台本をぱらぱらとめくる大槻。
 どうやら部活が始まるまでには読み終わってそうだ。

 俺も早いとこ読みたいものだ。

 それにしても、大槻はやる台本なんて何でもいいという態度だった。

「でもやる台本で来る新入部員の傾向が決まると言っても過言じゃないんだろ。ちゃんと読まなきゃ」

 だからこそ、椎名と増倉はあんなに揉めているわけで。

「何言ってんだよ。昨日も言ったけど、来る奴は何やっても来るし、来ない奴は何やってもないんだよ」

「元も子もない話だねー」

「そういうもんだよ。演劇部なんて別に人気のある部活じゃないんだから。うちの高校じゃ人気があるのはテニス部かバドミントン部だろ」

「あそこは人数多いもんねー」

 大槻の意見は変わらないらしい。
 しかし、その意見も分からなくはなかった。演劇部は決して有名な部活ではないし、誰しもが興味あるわけではない。むしろ興味ない人の方が多い部活だろう。その点では初めから演劇部に興味ある人のみを対象とすべきで、誰しもに楽しんでもらおうとするのは傲慢なのかもしれない。
 だが一方で、そういった考えも含めて議論している椎名と増倉も決して間違っているわけではない。
 これ以上は個々人の意見と考え、話を変えることにした。

「そういえば夏村と樫田は?」

「夏村さんならさっき出ていったよ~。樫田はまだ来てない~。」

「今度は樫田が来なかったりしてな」

 大槻はそういうが、おそらくそれはないだろう。
 樫田はなんだかんだ部活での出席率は一番いいのだ。
 いらぬ心配だろう。

「けど珍しいな、樫田が遅いなんて」

「そうかぁ。あいつ裏方の仕事あるからとか言ってよく単独行動するだろ。今もきっと倉庫に行ってんだよ」

「あ、それありそう!」

 大槻の言う通り、樫田は一人行動の多いやつではある。けどそれは裏方の仕事があるからであって、望んで一人でいるわけではないだろう。
 少し気になったが、部活が始まるまでに着替えないといけなかったので、気にしないことにした。

「じゃあ、俺、ジャージに着替えて来るわ」

「おう」

「りょうかい~」

 そう言って教室を出てトイレに向かった。
 その途中、夏村とすれ違う。

「ん」

「おう」

 軽く挨拶をする。夏村の手には十数枚の紙束があった。きっと台本だろう。

「台本読んできたのか?」

「ん、教室、うるさかったから」

「あはは……」

 きっと椎名と増倉の言い争いのことだろう。
 確かに、あそこで台本を読む気にはなれないだろう。

「台本どうだった?」

「どっちも本人らしい台本だった」

「そっか、俺はこれから読むところ」

 本人らしい台本とは、また何ともいえない評価だった。
 ただそういって感性で語るところは夏村らしい。

「それと、大槻と山路が来てた」

「そうだな」

「二人とも目にクマがあった。それに杉野にもある」

「あはは、なんでだろうな」

 じーっと、夏村は何かを訴える眼差しを向ける。
 言えない。今日の朝七時までゲームしていましたなんて、絶対に言えない。

 仕方なかったんだ。二人を部活に来させるために仕方なかったんだ!

「杉野」

「ん、なんだ?」

「お疲れさま」

 夏村は笑顔でそう言った。
 俺はすぐに、大槻と山路の件だと分かった。
 そして日頃、クールでめったに笑わない夏村の笑顔に驚いたが、それ以上に心の底から嬉しさの感情が溢れ出た。
 そういえば、この件で誰かに労われたのはこれが初めてだった。

「お、おう。なんか照れるな」

「まさか、一日で連れてくるとは思ってなかった」

「あはは、それ椎名にも言われたよ」

「まさか、男子全員徹夜してくるとは思ってなかった」

 ばれてらっしゃる!?

 あれ? 全員?

「樫田と会ったのか?」

「ん、香菜と栞が台本持ってきたって伝えたら倉庫行った。多分整理してから来る」

 どうやら大槻の予想は当たっていたらしい。
 部活開始までには帰ってくるといいが。

「まぁ、裏方はあいつに任せっきりだからなぁ。劇が決まったら大変だろうな」

「でも、劇を決めるのも大変」

「え?」

 ぼそっと言った夏村の一言が上手く聞こえなかった。

「なんでもない、早く着替えてきて」

「おう、そうだな」

 俺は特に気にすることなく、着替えに向かった。


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次のエピソードへ進む 第11話  二つの台本


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 と、徹夜明けテンションで語ってみたものの。
 そんなエンディングロールが流れるような独白をしたところで、現実が変わるわけもなく。
「だから、結局のところ楽しそうって思ってもらわないと演劇部に人なんて来ないと思うの」
「でも過剰なことしても、後々辞めてくだけよ。それだったら初めから私たちらしい劇をした方がいいと思うわ」
「それがこの台本なの? これは香菜の趣味でしょ」
「違うわ、少なくとも栞が持ってきた台本よりは日頃の私たちらしいわ」
「なにそれ嫌味? 私が持ってきた台本のどこが変だっていうの」
「別に、変とは言ってないでしょ」
 扉を開けると、案の定、椎名と増倉が黒板前で言い争っていた。
 昨日に引き続き、二日続けてである。
 俺は昨日の出来事を反省し、余計なことは言わないよう気を付けながら、教室の後ろ側にまとめられた机の一つに鞄を置いた。
 すると、ジャージ姿の男が二人近づいてきた。
 中肉中背の体系に、短めの髪、特徴らしい特徴のない普通の男子高校生、大槻達樹。
 対して、やや痩せ型で校則ギリギリの前髪、飄々とした態度が特徴的な男子高校生、山路徹郎。
 どちらも俺と同じ演劇部員で、そして昨日までサボり魔だった二人である。
 そして二人とも目の下に少しクマができていた。
 椎名に言われて知っていたとはいえ、約二週間ぶりの再会に喜びの気持ちが生まれた。
「おい杉野」
「おはよ~」
「おう、おはよ、どうした大槻?」
「どうしたじゃない」
 山路はいつも通り笑顔を浮かべていたが、大槻は怒った様子だった。
「お前が部活動紹介でやる劇が簡単に決まるっていうから来たのに…………何あれ、なんで椎名と増倉はずっと言い争ってんだよ!」
 はて? 簡単に決まるとまでは言ってないような気もするが。
 しかし、ああいう椎名と増倉の言い争いが嫌でサボっていた大槻にとっては見ているだけで嫌なのかもしれない。
 まぁ、だが問題ないだろう。
「大丈夫大丈夫、それも今日で終わるから」
「本当か?」
「本当本当、二人とも台本持ってきたみたいだし」
「あ、そうそう、これがその台本だよ~。右が増倉さんので左のが椎名さんが持ってきたやつだから、目通しといてだって」
 そう言って山路は十数枚の紙の束を二つ、俺に渡してきた。
「おう、サンキュー」
 そう言って受け取る。
 しかし、そうか、昨日の今日で台本を持ってくるとは。
 流石、椎名と増倉だ。演劇に対する熱意は半端ない。
 これなら、本当に今日中に部活動紹介でやる劇が決まるだろう。
 やることが明確になるとなんだか気合が入る。
「二人はもう台本読んだのか?」
「いいや、これからだよ~。楽しみだね~」
「って言っても、十分ぐらいの劇だからそんな期待していないけど」
「いつもの一時間劇に比べると六分の一だもんね」
「すんなり読めんだろ」
 そういって手に持っていた台本をぱらぱらとめくる大槻。
 どうやら部活が始まるまでには読み終わってそうだ。
 俺も早いとこ読みたいものだ。
 それにしても、大槻はやる台本なんて何でもいいという態度だった。
「でもやる台本で来る新入部員の傾向が決まると言っても過言じゃないんだろ。ちゃんと読まなきゃ」
 だからこそ、椎名と増倉はあんなに揉めているわけで。
「何言ってんだよ。昨日も言ったけど、来る奴は何やっても来るし、来ない奴は何やってもないんだよ」
「元も子もない話だねー」
「そういうもんだよ。演劇部なんて別に人気のある部活じゃないんだから。うちの高校じゃ人気があるのはテニス部かバドミントン部だろ」
「あそこは人数多いもんねー」
 大槻の意見は変わらないらしい。
 しかし、その意見も分からなくはなかった。演劇部は決して有名な部活ではないし、誰しもが興味あるわけではない。むしろ興味ない人の方が多い部活だろう。その点では初めから演劇部に興味ある人のみを対象とすべきで、誰しもに楽しんでもらおうとするのは傲慢なのかもしれない。
 だが一方で、そういった考えも含めて議論している椎名と増倉も決して間違っているわけではない。
 これ以上は個々人の意見と考え、話を変えることにした。
「そういえば夏村と樫田は?」
「夏村さんならさっき出ていったよ~。樫田はまだ来てない~。」
「今度は樫田が来なかったりしてな」
 大槻はそういうが、おそらくそれはないだろう。
 樫田はなんだかんだ部活での出席率は一番いいのだ。
 いらぬ心配だろう。
「けど珍しいな、樫田が遅いなんて」
「そうかぁ。あいつ裏方の仕事あるからとか言ってよく単独行動するだろ。今もきっと倉庫に行ってんだよ」
「あ、それありそう!」
 大槻の言う通り、樫田は一人行動の多いやつではある。けどそれは裏方の仕事があるからであって、望んで一人でいるわけではないだろう。
 少し気になったが、部活が始まるまでに着替えないといけなかったので、気にしないことにした。
「じゃあ、俺、ジャージに着替えて来るわ」
「おう」
「りょうかい~」
 そう言って教室を出てトイレに向かった。
 その途中、夏村とすれ違う。
「ん」
「おう」
 軽く挨拶をする。夏村の手には十数枚の紙束があった。きっと台本だろう。
「台本読んできたのか?」
「ん、教室、うるさかったから」
「あはは……」
 きっと椎名と増倉の言い争いのことだろう。
 確かに、あそこで台本を読む気にはなれないだろう。
「台本どうだった?」
「どっちも本人らしい台本だった」
「そっか、俺はこれから読むところ」
 本人らしい台本とは、また何ともいえない評価だった。
 ただそういって感性で語るところは夏村らしい。
「それと、大槻と山路が来てた」
「そうだな」
「二人とも目にクマがあった。それに杉野にもある」
「あはは、なんでだろうな」
 じーっと、夏村は何かを訴える眼差しを向ける。
 言えない。今日の朝七時までゲームしていましたなんて、絶対に言えない。
 仕方なかったんだ。二人を部活に来させるために仕方なかったんだ!
「杉野」
「ん、なんだ?」
「お疲れさま」
 夏村は笑顔でそう言った。
 俺はすぐに、大槻と山路の件だと分かった。
 そして日頃、クールでめったに笑わない夏村の笑顔に驚いたが、それ以上に心の底から嬉しさの感情が溢れ出た。
 そういえば、この件で誰かに労われたのはこれが初めてだった。
「お、おう。なんか照れるな」
「まさか、一日で連れてくるとは思ってなかった」
「あはは、それ椎名にも言われたよ」
「まさか、男子全員徹夜してくるとは思ってなかった」
 ばれてらっしゃる!?
 あれ? 全員?
「樫田と会ったのか?」
「ん、香菜と栞が台本持ってきたって伝えたら倉庫行った。多分整理してから来る」
 どうやら大槻の予想は当たっていたらしい。
 部活開始までには帰ってくるといいが。
「まぁ、裏方はあいつに任せっきりだからなぁ。劇が決まったら大変だろうな」
「でも、劇を決めるのも大変」
「え?」
 ぼそっと言った夏村の一言が上手く聞こえなかった。
「なんでもない、早く着替えてきて」
「おう、そうだな」
 俺は特に気にすることなく、着替えに向かった。