幕間その3〜あかん! 優勝してまう!! 阪神優勝いただき隊〜2021年その③
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リノちゃんから話しを聞いた
ゼミが終わったあと、
貴子の家に寄っていい?
==============
五限目のゼミが始まる前に、虎太郎がLINEのメッセージを送ると、ゼミの時間中に返信があった。
黒田教授に、トイレで席を立つ許可をもらった彼は、ゼミ室を出て、スマホを確認する。
==============
ゼミの時間中にゴメン
リノには誰にも話さんといて
って言うたのに・・・
ウチに来てくれるなら
スポドリ買ってきてくれへん?
==============
メッセージを確認すると、虎太郎は、すぐに「OKAY!」という札を掲げるウサギのスタンプを返し、ゼミの終わり際に、理乃にこっそりと貴子の家に寄ることを告げる。
「ありがとう! 中野くん、よろしくね」
と、貴子の親友であり、自身の親友・大野豊の彼女でもある女子に訪問を託された虎太郎は、予定どおり最も仲の良いゼミ生のアパートを訪ねることにした。
※
江草貴子が、一人暮らしをするアパートは、JR高槻駅と阪急高槻市駅に挟まれた住宅地にある。
感染症がまん延する前には、理乃や豊、久たちサークルの仲間とともに宅飲みと称して、何度か訪れたことのある彼女のアパートのインターホンで本人を呼び出すと、くぐもった声で返事があった。
「はい……ちょっと待って〜」
という声とともに、エントランスのオートロックが解錠され、虎太郎はアパートの敷地内に入る。
目的の部屋の前まで移動し、ドアホンを鳴らすと、すぐに扉が開き、貴子が顔を出した。
眼の前にあらわれた、この部屋の住人のようすに、虎太郎は、ハッと息を呑む。
大きなマスクをした彼女の表情は、夏だというのに青ざめ、生気というものが感じられない。
快活で、いつも明るい表情を絶やすことのない江草貴子だけに、絵に描いたような病人のようなその姿に、彼は、一瞬、言葉を失ってしまう。
「わざわざ、ありがとう……けど、陰性になったとは言え、まだ症状が落ち着かないから、私と長時間いっしょに居ないほうがイイよ?」
青白い表情でそう語る貴子に気後れしそうになりながらも、虎太郎は口を開く。
「ここまで来ておいて、このまま帰れないよ。それに、僕はワクチン打ったばかりだから、こっちのことは心配してもらわなくて大丈夫。貴子が良いなら、上がらせてもらってイイ?」
普段は、あまり自己主張をしない彼の言葉を意外に思いながら、その勢いに押され、貴子は虎太郎を部屋に招き入れた。
購入してきたスポーツドリンクとゼリー飲料を手渡しながら、虎太郎は部屋の主にたずねる。
「具合はどうなん? 顔色もあまり良くないみたいだけど……」
「全身ダルくて、なにもする気が起きへん……まだ、味覚も戻ってないし……夏休み前なのが唯一の救い」
貴子は、自身の体調について、うんざりするように述べたあと、「それよりさ〜」と付け加える。
「私の心配より、自分の就活の方は大丈夫なん? 前に話してから一ヶ月くらい経つけど、その後、調子はどう?」
病で気が弱っていると思っていた彼女からの意外なカウンターパンチに、虎太郎は面食らい、違う意味で再び言葉を失う。
ただ、大学に入学して知り合った当初から気さくに話し合うことのできている相手に、今さら隠しごとをしても仕方ないか……と、なかば観念するような気持ちで、彼は就活の現状と自身の本音を伝えることにした。
「大手でもない、名前を聞いたこともない会社にエントリーシートを送っても、今のところ全滅。どうすれば、面接にたどり着いて内定をもらえるか教えてほしいよ」
母親や同性の友人たちにも語ることのなかった弱音を吐いたあと、自身の不甲斐なさにあらためて気づいた虎太郎が、赤面しながら
「いや、ゴメン! こんな情けないこと言って……活動で出遅れた上に、なんのスキルもない、全部、自分自身の責任やのに……」
と、弁解するように語ると、意外にも貴子は同意するようにうなずいて、彼の言葉に応じる。
「その気持ち、わかる……私も、なかなか内定もらえないとき、同じ気持ちやったから」
彼女はそう言ったあと、「でもな、コタローくん……」と言葉を続ける。
「コタローくんが、名前を聞いたこともない会社を思い入れもなく志望しても、ちゃんとした志望動機って書かれへんやろう?」
柔らかい口調で問いかける貴子に、虎太郎は無言でうなずく。
「やっぱり、志望するからには、その会社のことを良く知っておかないと……これは、就活を終えた私の持論やけど、就活ってさ、恋愛に似てると思うねん」
またも、意外なことを口にする彼女に、虎太郎は、
「なにそれ? どういうこと?」
と、たずね返す。
「闇雲に誰でも良いからって告白してくる人は、はっきり言って信用できへんと思う。会社も同じなんじゃないかな? やっぱり、自分たちの会社のことを良く知ってくれた上で、エントリーしてくれた人を選びたいんじゃない? 企業研究とかOB訪問が大事っていうのは、そういうことやと思うねん」
虎太郎からすれば、内定取得者の含蓄のある言葉に、感心しながらうなずかざるを得ない。
「その上で、エントリーする自分を受け入れてくれた会社には、すごく愛着が持てるかなって思うねん。私の場合は、面接だけじゃなくて、CG作品の提出も求められたから、内定をもらった時は、自分を受け入れてもらえたみたいで、すごく嬉しかったから……」
「そうなんや……」
説得力のある言葉に感銘をうけながらつぶやく彼に、貴子は、いたずらっぽく微笑みながら付け加える。
「うん……あんなに嬉しかったのは、映像研究会の活動で、初めてみんなに自分の作った作品を褒めてもらえたとき以来かも」
「そうなん……?」
今度は、意外そうに返答する虎太郎に呆れながら、彼女は、ため息とともに、
「もう、コタローくん、そういうところやわ……」
と、嘆きの言葉を吐き出す。
「あのとき、真っ先に褒めてくれたのは、アンタやろ……」
ただ、つぶやくように漏れ出たその言葉は、同じゼミ生にしてサークル仲間の彼の耳には届かなかったようだ。
貴子との会話から、何か得るものがあったのだろうか、虎太郎は、屈託のない笑顔で彼女に語る。
「ありがとう、貴子……話しを聞いてもらって、ちょっと元気が出たわ」
「お見舞いに来てる方が、なに言うてるの?」
クスクスと笑いながら言う貴子に、「ホンマやな……」と、虎太郎も苦笑する。
そして、彼は、同じゼミ生の彼女にたずねた。
「夏休みに入るけど、これからも、貴子のところに来させてもらっても大丈夫?」
すると、彼女は、しばらく、なにかを考えるような仕草をしたあと、「まあ、私も、話し相手が居てくれたほうがイイし……」と、小声でつぶいやいたあと、
「コタローくんが来たいって言うなら、別にエエよ……その代わり、就活の進み具合をちゃんと報告してな」
と、釘を刺すことも忘れなかった。
貴子の言葉に、虎太郎は微苦笑を崩さないまま、「うん、わかった」と、返事をする。
こうして、彼は、夏休みの間、内定取得者からのアドバイスをもらうために、彼女の部屋を訪ねることになった。
リノちゃんから話しを聞いた
ゼミが終わったあと、
貴子の家に寄っていい?
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五限目のゼミが始まる前に、虎太郎がLINEのメッセージを送ると、ゼミの時間中に返信があった。
黒田教授に、トイレで席を立つ許可をもらった彼は、ゼミ室を出て、スマホを確認する。
==============
ゼミの時間中にゴメン
リノには誰にも話さんといて
って言うたのに・・・
ウチに来てくれるなら
スポドリ買ってきてくれへん?
==============
メッセージを確認すると、虎太郎は、すぐに「OKAY!」という札を掲げるウサギのスタンプを返し、ゼミの終わり際に、理乃にこっそりと貴子の家に寄ることを告げる。
「ありがとう! 中野くん、よろしくね」
と、貴子の親友であり、自身の親友・大野豊の彼女でもある女子に訪問を託された虎太郎は、予定どおり最も仲の良いゼミ生のアパートを訪ねることにした。
※
江草貴子が、一人暮らしをするアパートは、JR高槻駅と阪急高槻市駅に挟まれた住宅地にある。
感染症がまん延する前には、理乃や豊、久たちサークルの仲間とともに宅飲みと称して、何度か訪れたことのある彼女のアパートのインターホンで本人を呼び出すと、くぐもった声で返事があった。
「はい……ちょっと待って〜」
という声とともに、エントランスのオートロックが解錠され、虎太郎はアパートの敷地内に入る。
目的の部屋の前まで移動し、ドアホンを鳴らすと、すぐに扉が開き、貴子が顔を出した。
眼の前にあらわれた、この部屋の住人のようすに、虎太郎は、ハッと息を呑む。
大きなマスクをした彼女の表情は、夏だというのに青ざめ、生気というものが感じられない。
快活で、いつも明るい表情を絶やすことのない江草貴子だけに、絵に描いたような病人のようなその姿に、彼は、一瞬、言葉を失ってしまう。
「わざわざ、ありがとう……けど、陰性になったとは言え、まだ症状が落ち着かないから、私と長時間いっしょに居ないほうがイイよ?」
青白い表情でそう語る貴子に気後れしそうになりながらも、虎太郎は口を開く。
「ここまで来ておいて、このまま帰れないよ。それに、僕はワクチン打ったばかりだから、こっちのことは心配してもらわなくて大丈夫。貴子が良いなら、上がらせてもらってイイ?」
普段は、あまり自己主張をしない彼の言葉を意外に思いながら、その勢いに押され、貴子は虎太郎を部屋に招き入れた。
購入してきたスポーツドリンクとゼリー飲料を手渡しながら、虎太郎は部屋の主にたずねる。
「具合はどうなん? 顔色もあまり良くないみたいだけど……」
「全身ダルくて、なにもする気が起きへん……まだ、味覚も戻ってないし……夏休み前なのが唯一の救い」
貴子は、自身の体調について、うんざりするように述べたあと、「それよりさ〜」と付け加える。
「私の心配より、自分の就活の方は大丈夫なん? 前に話してから一ヶ月くらい経つけど、その後、調子はどう?」
病で気が弱っていると思っていた彼女からの意外なカウンターパンチに、虎太郎は面食らい、違う意味で再び言葉を失う。
ただ、大学に入学して知り合った当初から気さくに話し合うことのできている相手に、今さら隠しごとをしても仕方ないか……と、なかば観念するような気持ちで、彼は就活の現状と自身の本音を伝えることにした。
「大手でもない、名前を聞いたこともない会社にエントリーシートを送っても、今のところ全滅。どうすれば、面接にたどり着いて内定をもらえるか教えてほしいよ」
母親や同性の友人たちにも語ることのなかった弱音を吐いたあと、自身の不甲斐なさにあらためて気づいた虎太郎が、赤面しながら
「いや、ゴメン! こんな情けないこと言って……活動で出遅れた上に、なんのスキルもない、全部、自分自身の責任やのに……」
と、弁解するように語ると、意外にも貴子は同意するようにうなずいて、彼の言葉に応じる。
「その気持ち、わかる……私も、なかなか内定もらえないとき、同じ気持ちやったから」
彼女はそう言ったあと、「でもな、コタローくん……」と言葉を続ける。
「コタローくんが、名前を聞いたこともない会社を思い入れもなく志望しても、ちゃんとした志望動機って書かれへんやろう?」
柔らかい口調で問いかける貴子に、虎太郎は無言でうなずく。
「やっぱり、志望するからには、その会社のことを良く知っておかないと……これは、就活を終えた私の持論やけど、就活ってさ、恋愛に似てると思うねん」
またも、意外なことを口にする彼女に、虎太郎は、
「なにそれ? どういうこと?」
と、たずね返す。
「闇雲に誰でも良いからって告白してくる人は、はっきり言って信用できへんと思う。会社も同じなんじゃないかな? やっぱり、自分たちの会社のことを良く知ってくれた上で、エントリーしてくれた人を選びたいんじゃない? 企業研究とかOB訪問が大事っていうのは、そういうことやと思うねん」
虎太郎からすれば、内定取得者の含蓄のある言葉に、感心しながらうなずかざるを得ない。
「その上で、エントリーする自分を受け入れてくれた会社には、すごく愛着が持てるかなって思うねん。私の場合は、面接だけじゃなくて、CG作品の提出も求められたから、内定をもらった時は、自分を受け入れてもらえたみたいで、すごく嬉しかったから……」
「そうなんや……」
説得力のある言葉に感銘をうけながらつぶやく彼に、貴子は、いたずらっぽく微笑みながら付け加える。
「うん……あんなに嬉しかったのは、映像研究会の活動で、初めてみんなに自分の作った作品を褒めてもらえたとき以来かも」
「そうなん……?」
今度は、意外そうに返答する虎太郎に呆れながら、彼女は、ため息とともに、
「もう、コタローくん、そういうところやわ……」
と、嘆きの言葉を吐き出す。
「あのとき、真っ先に褒めてくれたのは、アンタやろ……」
ただ、つぶやくように漏れ出たその言葉は、同じゼミ生にしてサークル仲間の彼の耳には届かなかったようだ。
貴子との会話から、何か得るものがあったのだろうか、虎太郎は、屈託のない笑顔で彼女に語る。
「ありがとう、貴子……話しを聞いてもらって、ちょっと元気が出たわ」
「お見舞いに来てる方が、なに言うてるの?」
クスクスと笑いながら言う貴子に、「ホンマやな……」と、虎太郎も苦笑する。
そして、彼は、同じゼミ生の彼女にたずねた。
「夏休みに入るけど、これからも、貴子のところに来させてもらっても大丈夫?」
すると、彼女は、しばらく、なにかを考えるような仕草をしたあと、「まあ、私も、話し相手が居てくれたほうがイイし……」と、小声でつぶいやいたあと、
「コタローくんが来たいって言うなら、別にエエよ……その代わり、就活の進み具合をちゃんと報告してな」
と、釘を刺すことも忘れなかった。
貴子の言葉に、虎太郎は微苦笑を崩さないまま、「うん、わかった」と、返事をする。
こうして、彼は、夏休みの間、内定取得者からのアドバイスをもらうために、彼女の部屋を訪ねることになった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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リノちゃんから話しを聞いた
ゼミが終わったあと、
貴子の家に寄っていい?
貴子の家に寄っていい?
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五限目のゼミが始まる前に、虎太郎がLINEのメッセージを送ると、ゼミの時間中に返信があった。
黒田教授に、トイレで席を立つ許可をもらった彼は、ゼミ室を出て、スマホを確認する。
黒田教授に、トイレで席を立つ許可をもらった彼は、ゼミ室を出て、スマホを確認する。
==============
ゼミの時間中にゴメン
リノには誰にも話さんといて
って言うたのに・・・
って言うたのに・・・
ウチに来てくれるなら
スポドリ買ってきてくれへん?
スポドリ買ってきてくれへん?
==============
メッセージを確認すると、虎太郎は、すぐに「OKAY!」という札を掲げるウサギのスタンプを返し、ゼミの終わり際に、理乃にこっそりと貴子の家に寄ることを告げる。
「ありがとう! 中野くん、よろしくね」
と、貴子の親友であり、自身の親友・大野豊の彼女でもある女子に訪問を託された虎太郎は、予定どおり最も仲の良いゼミ生のアパートを訪ねることにした。
※
|江草貴子《えぐさたかこ》が、一人暮らしをするアパートは、JR高槻駅と阪急高槻市駅に挟まれた住宅地にある。
感染症がまん延する前には、理乃や豊、久たちサークルの仲間とともに|宅《・》|飲《・》|み《・》と称して、何度か訪れたことのある彼女のアパートのインターホンで本人を呼び出すと、くぐもった声で返事があった。
感染症がまん延する前には、理乃や豊、久たちサークルの仲間とともに|宅《・》|飲《・》|み《・》と称して、何度か訪れたことのある彼女のアパートのインターホンで本人を呼び出すと、くぐもった声で返事があった。
「はい……ちょっと待って〜」
という声とともに、エントランスのオートロックが解錠され、虎太郎はアパートの敷地内に入る。
目的の部屋の前まで移動し、ドアホンを鳴らすと、すぐに扉が開き、貴子が顔を出した。
目的の部屋の前まで移動し、ドアホンを鳴らすと、すぐに扉が開き、貴子が顔を出した。
眼の前にあらわれた、この部屋の住人のようすに、虎太郎は、ハッと息を呑む。
大きなマスクをした彼女の表情は、夏だというのに青ざめ、生気というものが感じられない。
大きなマスクをした彼女の表情は、夏だというのに青ざめ、生気というものが感じられない。
快活で、いつも明るい表情を絶やすことのない|江草貴子《えぐさたかこ》だけに、絵に描いたような病人のようなその姿に、彼は、一瞬、言葉を失ってしまう。
「わざわざ、ありがとう……けど、陰性になったとは言え、まだ症状が落ち着かないから、私と長時間いっしょに居ないほうがイイよ?」
青白い表情でそう語る貴子に気後れしそうになりながらも、虎太郎は口を開く。
「ここまで来ておいて、このまま帰れないよ。それに、僕はワクチン打ったばかりだから、こっちのことは心配してもらわなくて大丈夫。貴子が良いなら、上がらせてもらってイイ?」
普段は、あまり自己主張をしない彼の言葉を意外に思いながら、その勢いに押され、貴子は虎太郎を部屋に招き入れた。
購入してきたスポーツドリンクとゼリー飲料を手渡しながら、虎太郎は部屋の主にたずねる。
購入してきたスポーツドリンクとゼリー飲料を手渡しながら、虎太郎は部屋の主にたずねる。
「具合はどうなん? 顔色もあまり良くないみたいだけど……」
「全身ダルくて、なにもする気が起きへん……まだ、味覚も戻ってないし……夏休み前なのが唯一の救い」
貴子は、自身の体調について、うんざりするように述べたあと、「それよりさ〜」と付け加える。
「私の心配より、自分の就活の方は大丈夫なん? 前に話してから一ヶ月くらい経つけど、その後、調子はどう?」
病で気が弱っていると思っていた彼女からの意外なカウンターパンチに、虎太郎は面食らい、違う意味で再び言葉を失う。
ただ、大学に入学して知り合った当初から気さくに話し合うことのできている相手に、今さら隠しごとをしても仕方ないか……と、なかば観念するような気持ちで、彼は就活の現状と自身の本音を伝えることにした。
ただ、大学に入学して知り合った当初から気さくに話し合うことのできている相手に、今さら隠しごとをしても仕方ないか……と、なかば観念するような気持ちで、彼は就活の現状と自身の本音を伝えることにした。
「大手でもない、名前を聞いたこともない会社にエントリーシートを送っても、今のところ全滅。どうすれば、面接にたどり着いて内定をもらえるか教えてほしいよ」
母親や同性の友人たちにも語ることのなかった弱音を吐いたあと、自身の不甲斐なさにあらためて気づいた虎太郎が、赤面しながら
「いや、ゴメン! こんな情けないこと言って……活動で出遅れた上に、なんのスキルもない、全部、自分自身の責任やのに……」
と、弁解するように語ると、意外にも貴子は同意するようにうなずいて、彼の言葉に応じる。
「その気持ち、わかる……私も、なかなか内定もらえないとき、同じ気持ちやったから」
彼女はそう言ったあと、「でもな、コタローくん……」と言葉を続ける。
「コタローくんが、名前を聞いたこともない会社を思い入れもなく志望しても、ちゃんとした志望動機って書かれへんやろう?」
柔らかい口調で問いかける貴子に、虎太郎は無言でうなずく。
「やっぱり、志望するからには、その会社のことを良く知っておかないと……これは、就活を終えた私の持論やけど、就活ってさ、恋愛に似てると思うねん」
またも、意外なことを口にする彼女に、虎太郎は、
「なにそれ? どういうこと?」
と、たずね返す。
「闇雲に誰でも良いからって告白してくる人は、はっきり言って信用できへんと思う。会社も同じなんじゃないかな? やっぱり、自分たちの会社のことを良く知ってくれた上で、エントリーしてくれた人を選びたいんじゃない? 企業研究とかOB訪問が大事っていうのは、そういうことやと思うねん」
虎太郎からすれば、内定取得者の|含蓄《がんちく》のある言葉に、感心しながらうなずかざるを得ない。
「その上で、エントリーする自分を受け入れてくれた会社には、すごく愛着が持てるかなって思うねん。私の場合は、面接だけじゃなくて、CG作品の提出も求められたから、内定をもらった時は、自分を受け入れてもらえたみたいで、すごく嬉しかったから……」
「そうなんや……」
説得力のある言葉に感銘をうけながらつぶやく彼に、貴子は、いたずらっぽく微笑みながら付け加える。
「うん……あんなに嬉しかったのは、映像研究会の活動で、初めてみんなに自分の作った作品を褒めてもらえたとき以来かも」
「そうなん……?」
今度は、意外そうに返答する虎太郎に呆れながら、彼女は、ため息とともに、
「もう、コタローくん、そういうところやわ……」
と、嘆きの言葉を吐き出す。
「あのとき、真っ先に褒めてくれたのは、アンタやろ……」
ただ、つぶやくように漏れ出たその言葉は、同じゼミ生にしてサークル仲間の彼の耳には届かなかったようだ。
貴子との会話から、何か得るものがあったのだろうか、虎太郎は、屈託のない笑顔で彼女に語る。
貴子との会話から、何か得るものがあったのだろうか、虎太郎は、屈託のない笑顔で彼女に語る。
「ありがとう、貴子……話しを聞いてもらって、ちょっと元気が出たわ」
「お見舞いに来てる方が、なに言うてるの?」
クスクスと笑いながら言う貴子に、「ホンマやな……」と、虎太郎も苦笑する。
そして、彼は、同じゼミ生の彼女にたずねた。
そして、彼は、同じゼミ生の彼女にたずねた。
「夏休みに入るけど、これからも、貴子のところに来させてもらっても大丈夫?」
すると、彼女は、しばらく、なにかを考えるような仕草をしたあと、「まあ、私も、話し相手が居てくれたほうがイイし……」と、小声でつぶいやいたあと、
「コタローくんが来たいって言うなら、別にエエよ……その代わり、就活の進み具合をちゃんと報告してな」
と、釘を刺すことも忘れなかった。
貴子の言葉に、虎太郎は微苦笑を崩さないまま、「うん、わかった」と、返事をする。
こうして、彼は、夏休みの間、内定取得者からのアドバイスをもらうために、彼女の部屋を訪ねることになった。
こうして、彼は、夏休みの間、内定取得者からのアドバイスをもらうために、彼女の部屋を訪ねることになった。