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第24話 バイタルチェック

ー/ー



「ニコチンの呼び掛けに応えて頂き感謝する、水銀さん」
「やだ紳士。他のクスシも彼ぐらい素直なら可愛げあるのに、残念だわ」

 じろりとユストゥス達の方へ視線だけ向けて溜め息を吐く銀髪の(水銀(Hg))
 その態度にユストゥスが再び苛立っているがフリッツがどうにか宥めている。

「水銀さん。会いに来て頂いた事は本当に嬉しいのだが、私はまだ研修の身でね。依頼は改めてで構わないだろうか?」
「なぁに? その依頼って」
「それは、その」
「内容ぐらい聞かせなさいな。それともこの場で話すのは憚れる、やましいことなのかしら?」

 挑発するような物言い。ここで言い淀んでしまえばクスシの方に不信感を抱かれてしまう。
 どうせいずれ話す事だと、モーズは素直に依頼内容を水銀に告げた。

「珊瑚症患者、それもステージ5の感染者を、生きたまま保護したい」
「……ふぅん。それは、何の為に?」
「患者の意識レベル調査、人の自我が残っているか見極める為に」

 嘘偽りなく告げたその内容に、水銀はきょとんと銀の瞳を開いて小首を傾げる。呆れてしまっただろうか。
 モーズが不安に駆られていると、ユストゥスの方から怒声が飛んできた。

「モーズ貴様! フリッツから共同研究の申し出があったからと調子に乗っているのか!? 研修の身だというのにウミヘビを使おうなど……っ!」
「気持ちが急いでしまったのかな? でも確かにユストゥスの言う通り、研修中にウミヘビの使役は難しいだろう。という訳で水銀くん、今日は顔合わせということで居住区に戻って頂けないかな?」
「え、嫌よ」

 フリッツの命をさらっと断る水銀。
 今まで出会ったウミヘビ達は、ひねくれた所があるニコチンでさえ下手に出ていた節があるのに、彼は全く引かない。それほど立場のあるウミヘビなのだろう。

「ただ名乗ってはいサヨナラなんて、折角このボクが来たのに無駄足踏ませる気? せめて所長と会わせなさいな、所長と。帰っているんでしょう?」
「えっ、帰っていないよ? 所長の居場所は僕らもすごーく知りたい所だけど、ここに居ない人と会わせるのは無理だね」
「はぁ〜っ!? ニコチンの奴、後で覚えておきなさい!」

 ダンッ! 水銀が苛立ちのままハイヒールで床を踏み付けた。その衝撃で床材がちょっと欠けた気がする。

「僕らも水銀くんを構っていられない。僕はこれからモーズくんのバイタルチェックをしなくてはいけないんだ。その後も研修の指導を……」
「バイタルチェック?」

 むすりと不機嫌を絵に描いたような顔をした水銀は、フリッツの『バイタルチェック』という単語に反応する。
 次いで目の前のモーズに躊躇なく手を伸ばしてきた。

「触るわよ?」
「あ、あぁ」

 戸惑いながら握られた手首を水銀にされるがまま任せるモーズ。
 すると水銀はきっかり一分手首を握った後、口を開いた。

「体温、36.8度。血圧、上76下122。まぁ平均ね。あら? 脈拍130? 発熱もなし発汗もなし、アイギスの適合も問題なさそうだし、緊張からかしら。他は至って健康ね。以上」

 そこでパッとモーズの手首を離す水銀。
 どうやら彼にバイタルを測られたらしい。

「すげ〜。水銀が測定するの初めて見た」
「そ、そうなのか?」
「めちゃくちゃ正確って話だぞ。よかったな、問題なくって」

 席から立ったフリーデンが困惑しどうしのモーズの肩をぽんぽんと叩き、落ち着かせてくれる。
 水銀は体温計や血圧計、温度計などに使われる液体金属。人の姿をした彼もまた測るのは得意、と考えていいようだ。実際信憑性は高いようで、フリッツが水銀の告げたバイタル数値を携帯端末に打ち込んで記録している。

「水銀! 勝手な事をするな!」
「ユストゥス、落ち着いて。でも、う〜ん、あぁ〜……、そこまで気に入ったのなら仕方ない。わかった。椅子に座るでも床に寝転がるでも何でもしていていいから、邪魔はしないように」

 ウ〜ッ! ウゥ〜ッ!
 その時、突如としてけたたましいサイレンが飼育室に鳴り響く。次いで電子音がスピーカーから流れ警報内容を告げた。

『スペイン北部で『珊瑚』感染者による菌床が発見されました。手の空いているクスシヘビは資料を拝読後、速やかに現場へ向かってください。繰り返します。スペイン北部で……』

 ピピピ。
 今度はフリッツが操作をしていた携帯端末に通知音が鳴る。

「……うん。予想していたけど他のクスシ全員キャンセルだって」
「あの自由人どもめ!!」

 その通知音は他のクスシによるキャンセル通告だったようだ。
 恐らく研究を切り上げて災害現場に行きたくないのだろう。

「ユストゥスさんそうカッカしないっ。フリッツさんとモーズは研修があるし、ユストゥスさんは研究の途中でしょう? 心配しなくとも俺が行きますよ」
「アンタは引っ込んでなさい」
「はい?」
「ボクが行く」

 面倒事に立候補してくれたフリーデンを押し退けて、水銀は言った。

「菌床が作れるのはステージ5感染者、つまり狙い目でしょう? 善は急げ、行きましょうモーズ」
「は?」

 モーズの腕をガシリと掴んだ上で。


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「やだ紳士。他のクスシも彼ぐらい素直なら可愛げあるのに、残念だわ」
 じろりとユストゥス達の方へ視線だけ向けて溜め息を吐く銀髪の男《水銀(Hg)》。
 その態度にユストゥスが再び苛立っているがフリッツがどうにか宥めている。
「水銀さん。会いに来て頂いた事は本当に嬉しいのだが、私はまだ研修の身でね。依頼は改めてで構わないだろうか?」
「なぁに? その依頼って」
「それは、その」
「内容ぐらい聞かせなさいな。それともこの場で話すのは憚れる、やましいことなのかしら?」
 挑発するような物言い。ここで言い淀んでしまえばクスシの方に不信感を抱かれてしまう。
 どうせいずれ話す事だと、モーズは素直に依頼内容を水銀に告げた。
「珊瑚症患者、それもステージ5の感染者を、生きたまま保護したい」
「……ふぅん。それは、何の為に?」
「患者の意識レベル調査、人の自我が残っているか見極める為に」
 嘘偽りなく告げたその内容に、水銀はきょとんと銀の瞳を開いて小首を傾げる。呆れてしまっただろうか。
 モーズが不安に駆られていると、ユストゥスの方から怒声が飛んできた。
「モーズ貴様! フリッツから共同研究の申し出があったからと調子に乗っているのか!? 研修の身だというのにウミヘビを使おうなど……っ!」
「気持ちが急いでしまったのかな? でも確かにユストゥスの言う通り、研修中にウミヘビの使役は難しいだろう。という訳で水銀くん、今日は顔合わせということで居住区に戻って頂けないかな?」
「え、嫌よ」
 フリッツの命をさらっと断る水銀。
 今まで出会ったウミヘビ達は、ひねくれた所があるニコチンでさえ下手に出ていた節があるのに、彼は全く引かない。それほど立場のあるウミヘビなのだろう。
「ただ名乗ってはいサヨナラなんて、折角このボクが来たのに無駄足踏ませる気? せめて所長と会わせなさいな、所長と。帰っているんでしょう?」
「えっ、帰っていないよ? 所長の居場所は僕らもすごーく知りたい所だけど、ここに居ない人と会わせるのは無理だね」
「はぁ〜っ!? ニコチンの奴、後で覚えておきなさい!」
 ダンッ! 水銀が苛立ちのままハイヒールで床を踏み付けた。その衝撃で床材がちょっと欠けた気がする。
「僕らも水銀くんを構っていられない。僕はこれからモーズくんのバイタルチェックをしなくてはいけないんだ。その後も研修の指導を……」
「バイタルチェック?」
 むすりと不機嫌を絵に描いたような顔をした水銀は、フリッツの『バイタルチェック』という単語に反応する。
 次いで目の前のモーズに躊躇なく手を伸ばしてきた。
「触るわよ?」
「あ、あぁ」
 戸惑いながら握られた手首を水銀にされるがまま任せるモーズ。
 すると水銀はきっかり一分手首を握った後、口を開いた。
「体温、36.8度。血圧、上76下122。まぁ平均ね。あら? 脈拍130? 発熱もなし発汗もなし、アイギスの適合も問題なさそうだし、緊張からかしら。他は至って健康ね。以上」
 そこでパッとモーズの手首を離す水銀。
 どうやら彼にバイタルを測られたらしい。
「すげ〜。水銀が測定するの初めて見た」
「そ、そうなのか?」
「めちゃくちゃ正確って話だぞ。よかったな、問題なくって」
 席から立ったフリーデンが困惑しどうしのモーズの肩をぽんぽんと叩き、落ち着かせてくれる。
 水銀は体温計や血圧計、温度計などに使われる液体金属。人の姿をした彼もまた測るのは得意、と考えていいようだ。実際信憑性は高いようで、フリッツが水銀の告げたバイタル数値を携帯端末に打ち込んで記録している。
「水銀! 勝手な事をするな!」
「ユストゥス、落ち着いて。でも、う〜ん、あぁ〜……、そこまで気に入ったのなら仕方ない。わかった。椅子に座るでも床に寝転がるでも何でもしていていいから、邪魔はしないように」
 ウ〜ッ! ウゥ〜ッ!
 その時、突如としてけたたましいサイレンが飼育室に鳴り響く。次いで電子音がスピーカーから流れ警報内容を告げた。
『スペイン北部で『珊瑚』感染者による菌床が発見されました。手の空いているクスシヘビは資料を拝読後、速やかに現場へ向かってください。繰り返します。スペイン北部で……』
 ピピピ。
 今度はフリッツが操作をしていた携帯端末に通知音が鳴る。
「……うん。予想していたけど他のクスシ全員キャンセルだって」
「あの自由人どもめ!!」
 その通知音は他のクスシによるキャンセル通告だったようだ。
 恐らく研究を切り上げて災害現場に行きたくないのだろう。
「ユストゥスさんそうカッカしないっ。フリッツさんとモーズは研修があるし、ユストゥスさんは研究の途中でしょう? 心配しなくとも俺が行きますよ」
「アンタは引っ込んでなさい」
「はい?」
「ボクが行く」
 面倒事に立候補してくれたフリーデンを押し退けて、水銀は言った。
「菌床が作れるのはステージ5感染者、つまり狙い目でしょう? 善は急げ、行きましょうモーズ」
「は?」
 モーズの腕をガシリと掴んだ上で。