第弐話
ー/ー
風呂に入って夕食も済ませて後は部屋に入るだけだが。かれこれ半刻ぐらい襖と睨めっこしていた大蔵がようやく勇気を振り絞って踏み入れる。
相変わらず面白くなさそうな顔で受信機を観ている駿之介に一瞥して自室の襖に手を掛けたが、気が変わって少し離れた位置で一緒に観ることにした。
報道だけを読み上げる番組なだけにつまらない。それにこれは皇国人向けの番組だ。
言論統制も進み、番組内で報じられた内容は全て共和国政府の許可を得てから放送されるものとなっている。だから内容が重大な報道を除き、事実から捻じ曲げた報道か或いは政治宣伝かのどちらかに限る。
つまり、これを観て情報を得ようにも無益だ。何せ、報道番組なのに誤情報が多い。これは皇国人なら誰もが知る常識であり、受信機を家に置かないという意見の方が多数なわけだが。
月華荘は『皇国人の家』である以前に『大石漣の家』であるため、受信機の一台二台あってもおかしくはない。
(しかし、よくもこんなしょうもないものを観る気になったわね)
丁度『ロング・リィヴ・ザ・グレート・バイスロイ』という標語が流れる時に「なあ大蔵」という駿之介の声に振り返った。
いつもこちらの気をお構いなしにキッパリと物事を言う彼が、珍しく首筋を触りながらこちらを見ないようにしている。
「今度ソファを買うから、お前も一緒にどう? あっ、ソファは分かるか? 背凭れのある腰掛けのことなんだけど。後ろにあの座布団のような? いや、長い座布団があってだな……」
「椅子とは何が違うの」
「いやまあ確かに椅子もそうだけど……。あー、なんて説明したらいいか」
「ふーん。つまり、その『そふぁ』とやらを、一緒に買いに行かないかってこと?」
「そうだ。前々から思ってたけどさ、この部屋って気持ちよく座れる椅子がないなーって。だからと言って、俺だけ選ぶのもあれだし……ここはほら、お前の部屋でもあるんだろ? だからお前にも選ぶ権利というのもあってだな……」
ふーん、と興味なさそうに鼻を鳴らし、視線を正面に戻す大蔵の頬はほんのりと赤みを帯びている。
「ま、まあ、別にいいんじゃない?」
「そ、そうか。ついでに座布団も買っておこう。買ったらほれ、ここで気持ち良く食事ができるだろう? あと、尻が痛くならないようにな」
「へえー、この歳でもうお尻が痛いの? ハッ、オジサンかよ」
「例えばの話だよ! 例えばの話! ったく、もう……」
そんな会話が繰り広げられている間に、和室とはそぐわぬカタカタ音が勇の部屋で響く。けれど、ぷつりと途絶えたのは、彼女がスマホを手にしてリアエスを起動したからだ。
「あら、珍しい」
『人探し』のサーバーに勇は珍しく興味を示す。
アプリに欠陥はないのかバグはないのかを確認するように彼女は毎日欠かさずログインしていた。だからどんなサーバーがあるのか把握していたが、この『人探し』というサーバーは間違いなくごく最近に作成したものである。
この世界で人探しと言ったら、真っ先に大蔵のことを思い浮かぶもの。が、それなら『攻略最前線』のサーバーで説明済みのはずだ。
まさかまた最速攻略プレイヤーが更新されて新たな人探しのイベントがあるのか。淡い期待と共にタップすると、え、と群青色の双眸が見開く。
『なあお前ら、最近0193を見掛けなかったか?』
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相変わらず面白くなさそうな顔で受信機を観ている駿之介に一瞥して自室の襖に手を掛けたが、気が変わって少し離れた位置で一緒に観ることにした。
報道だけを読み上げる番組なだけにつまらない。それにこれは皇国人向けの番組だ。
言論統制も進み、番組内で報じられた内容は全て共和国政府の許可を得てから放送されるものとなっている。だから内容が重大な報道を除き、事実から捻じ曲げた報道か或いは政治宣伝かのどちらかに限る。
つまり、これを観て情報を得ようにも無益だ。何せ、報道番組なのに誤情報が多い。これは皇国人なら誰もが知る常識であり、受信機を家に置かないという意見の方が多数なわけだが。
月華荘は『皇国人の家』である以前に『大石漣の家』であるため、受信機の一台二台あってもおかしくはない。
(しかし、よくもこんなしょうもないものを観る気になったわね)
丁度『ロング・リィヴ・ザ・グレート・バイスロイ』という標語が流れる時に「なあ大蔵」という駿之介の声に振り返った。
いつもこちらの気をお構いなしにキッパリと物事を言う彼が、珍しく首筋を触りながらこちらを見ないようにしている。
「今度ソファを買うから、お前も一緒にどう? あっ、ソファは分かるか? 背凭れのある腰掛けのことなんだけど。後ろにあの座布団のような? いや、長い座布団があってだな……」
「椅子とは何が違うの」
「いやまあ確かに椅子もそうだけど……。あー、なんて説明したらいいか」
「ふーん。つまり、その『そふぁ』とやらを、一緒に買いに行かないかってこと?」
「そうだ。前々から思ってたけどさ、この部屋って気持ちよく座れる椅子がないなーって。だからと言って、俺だけ選ぶのもあれだし……ここはほら、お前の部屋でもあるんだろ? だからお前にも選ぶ権利というのもあってだな……」
ふーん、と興味なさそうに鼻を鳴らし、視線を正面に戻す大蔵の頬はほんのりと赤みを帯びている。
「ま、まあ、別にいいんじゃない?」
「そ、そうか。ついでに座布団も買っておこう。買ったらほれ、ここで気持ち良く食事ができるだろう? あと、尻が痛くならないようにな」
「へえー、この歳でもうお尻が痛いの? ハッ、オジサンかよ」
「例えばの話だよ! 例えばの話! ったく、もう……」
そんな会話が繰り広げられている間に、和室とはそぐわぬカタカタ音が勇の部屋で響く。けれど、ぷつりと途絶えたのは、彼女がスマホを手にしてリアエスを起動したからだ。
「あら、珍しい」
『人探し』のサーバーに勇は珍しく興味を示す。
アプリに欠陥はないのかバグはないのかを確認するように彼女は毎日欠かさずログインしていた。だからどんなサーバーがあるのか把握していたが、この『人探し』というサーバーは間違いなくごく最近に作成したものである。
この|世界《ゲーム》で人探しと言ったら、真っ先に大蔵のことを思い浮かぶもの。が、それなら『攻略最前線』のサーバーで説明済みのはずだ。
まさかまた最速攻略プレイヤーが更新されて新たな人探しのイベントがあるのか。淡い期待と共にタップすると、え、と群青色の双眸が見開く。
『なあお前ら、最近0193を見掛けなかったか?』