第4章〜⑱〜
ー/ー
8月29日(日)天候・晴れ
花火観賞会の翌日、オレは放心状態になったまま、自室で過ごしていた。
春から猛威をふるった感染症の第三波は、夏休みの後半には収束の兆しを見せ始めており、このまま推移すれば、二日後の八月三十一日をもって、感染対策の『まんえん防止措置』が全国的に解除され、都道府県をまたいだ、不要不急の移動も解禁されるーーーーーー。
朝食の時にリビングで観たテレビ番組では、そんなニュースが流れていた。
つまり、その翌日には、小嶋夏海はーーーーーー。
時間停止が解除されたあと、花火の打ち上げ終了を確認し、カワタさん達一家にお礼を言って会場を後にしてから一時間半弱で自宅に戻って来たが、その間の記憶は、ほとんど無かったと言って良い。
二学期が始まれば、小嶋夏海は転校してしまうーーーーーー。
これまでの彼女自身の言動から、なんとなく予感めいたものを感じてはいたが、あらためて、その事実を突きつけられると、他のことは、なにも考えられなくなってしまう。
今の自分に救いがあるとすれば、夏季休暇前半に集中的に取り組んだ貯金が功を奏して、『夏休みの友』を終了させることができていたことくらいだ。
花火観賞が終わってから、唯一、覚えていることは、自分たち二人の交わした会話の内容が気になったのだろうか、駅でのクラスメートたちとの解散後に、中嶋由香から、
==============
今日は、ありがとう
花火、本当に楽しかった
ナツミから話しが聞けたなら
落ち着いてからで良いから
話しを聞かせて
==============
と、メッセージが入っていたことだった。
自分たち二人のことを心配してくれている中嶋には、非常に申し訳ないのだが……。
小嶋夏海が、花火を眺めながら話してくれたことは、彼女の家族関係に関わることなので、オレから他人に伝えることはできない。
ただ、いつまでも、メッセージを既読スルーにしておくわけにもいかないので、
==============
メッセージありがとう
小嶋から話しは聞けたけど…
自分の方から伝えられる内容
ではないので、中嶋が小嶋に
直接聞いてほしい
色々と気を使って貰ったのに
申し訳ない
==============
と、書く内容に注意しながら、返信をしておいた。
メッセージのあとには、クマがお辞儀をしているスタンプを送り、精一杯の謝罪の意志を伝える。
返信を終えて、自室のベッドに横になりながら、スマホを枕元に置くと、すぐに、
『りょ』
と、イケメン俳優がイラスト化されたスタンプが返信されてきた。
(中嶋への義務は果たした……。今日は、もう何も考えたくない……)
そう思って、目を閉じ、夏休み最後の日曜の午後の時間帯に相応しい微睡みを感じる。
夢うつつの意識の中、意識は昨夜の花火会場に飛んでいた。
わずか数十センチの距離で、夜空に浮かぶ大輪の花火を見上げ、笑顔を見せていた小嶋夏海の姿が、急激に小さくなっていく。彼女に向かって手を伸ばし、何か、声を発したいと思うのだが、言葉は発せられずに、ただ遠くなっていく彼女の姿を見つめるしかなかった。
気付くと、目尻には熱いものが一筋流れている。
(なんだ……夢か……)
そう思って、まどろんだ意識を戻そうと、指で目元を拭った瞬間、枕元に置いたままのスマホのランプが光り、メッセージの着信を伝える。
スマホの画面ロックを外すと、返信したメッセージとスタンプの下に、あらたなメッセージが表示されていた。
==============
ナツミから話しを聞いた!
ちょっと、話せる?
==============
先ほど、メッセージを返した中嶋由香からのものだ。
まだ半分寝ぼけている頭を振って、意識の覚醒をうながしつつ、
『OK!』
と、文字の書かれた青いコアラのスタンプを送った。
すると、すぐに、スマホの画面に無料通話の着信が表示されたので、通話ボタンをタップする。
「はい……」
と、応答すると、スピーカーからは、
「あっ、坂井? あの……ナツミから話しを聞いたんだけど……」
切羽詰まったようなメッセージの文面とは逆に、中嶋由香の声には、トーンの低い落ち着いたものだった。
逆に言うと、それだけ、中嶋自身も小嶋夏海の話しに、動揺しているのかも知れない。
「そうか……」
こちらの短い返答に、
「最近のナツミのようすから、なんとなく、そんな予感はしてたけど……実際に本人から聞かされると、ショックだね」
「あぁ……」
「もっと早く言ってくれれば良かったのに。ーーーーーーって、やっぱり話しにくかったんだよね、ナツミも……」
「そう、だろうな……」
今になって、もっと彼女、小嶋夏海の話しに耳を傾けておけば良かった、と感じる。
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花火観賞会の翌日、オレは放心状態になったまま、自室で過ごしていた。
春から猛威をふるった感染症の第三波は、夏休みの後半には収束の兆しを見せ始めており、このまま推移すれば、二日後の八月三十一日をもって、感染対策の『まんえん防止措置』が全国的に解除され、都道府県をまたいだ、不要不急の移動も解禁されるーーーーーー。
朝食の時にリビングで観たテレビ番組では、そんなニュースが流れていた。
つまり、その翌日には、小嶋夏海はーーーーーー。
時間停止が解除されたあと、花火の打ち上げ終了を確認し、カワタさん達一家にお礼を言って会場を後にしてから一時間半弱で自宅に戻って来たが、その間の記憶は、ほとんど無かったと言って良い。
二学期が始まれば、小嶋夏海は転校してしまうーーーーーー。
これまでの彼女自身の言動から、なんとなく予感めいたものを感じてはいたが、あらためて、その事実を突きつけられると、他のことは、なにも考えられなくなってしまう。
今の自分に救いがあるとすれば、夏季休暇前半に集中的に取り組んだ貯金が功を奏して、『夏休みの友』を終了させることができていたことくらいだ。
花火観賞が終わってから、唯一、覚えていることは、自分たち二人の交わした会話の内容が気になったのだろうか、駅でのクラスメートたちとの解散後に、中嶋由香から、
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今日は、ありがとう
花火、本当に楽しかった
ナツミから話しが聞けたなら
落ち着いてからで良いから
話しを聞かせて
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と、メッセージが入っていたことだった。
自分たち二人のことを心配してくれている中嶋には、非常に申し訳ないのだが……。
小嶋夏海が、花火を眺めながら話してくれたことは、彼女の家族関係に関わることなので、オレから他人に伝えることはできない。
ただ、いつまでも、メッセージを既読スルーにしておくわけにもいかないので、
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メッセージありがとう
小嶋から話しは聞けたけど…
自分の方から伝えられる内容
ではないので、中嶋が小嶋に
直接聞いてほしい
色々と気を使って貰ったのに
申し訳ない
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と、書く内容に注意しながら、返信をしておいた。
メッセージのあとには、クマがお辞儀をしているスタンプを送り、精一杯の謝罪の意志を伝える。
返信を終えて、自室のベッドに横になりながら、スマホを枕元に置くと、すぐに、
『りょ』
と、イケメン俳優がイラスト化されたスタンプが返信されてきた。
(中嶋への義務は果たした……。今日は、もう何も考えたくない……)
そう思って、目を閉じ、夏休み最後の日曜の午後の時間帯に相応しい微睡みを感じる。
夢うつつの意識の中、意識は昨夜の花火会場に飛んでいた。
わずか数十センチの距離で、夜空に浮かぶ大輪の花火を見上げ、笑顔を見せていた小嶋夏海の姿が、急激に小さくなっていく。彼女に向かって手を伸ばし、何か、声を発したいと思うのだが、言葉は発せられずに、ただ遠くなっていく彼女の姿を見つめるしかなかった。
気付くと、目尻には熱いものが一筋流れている。
(なんだ……夢か……)
そう思って、まどろんだ意識を戻そうと、指で目元を拭った瞬間、枕元に置いたままのスマホのランプが光り、メッセージの着信を伝える。
スマホの画面ロックを外すと、返信したメッセージとスタンプの下に、あらたなメッセージが表示されていた。
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ナツミから話しを聞いた!
ちょっと、話せる?
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先ほど、メッセージを返した中嶋由香からのものだ。
まだ半分寝ぼけている頭を振って、意識の覚醒をうながしつつ、
『OK!』
と、文字の書かれた青いコアラのスタンプを送った。
すると、すぐに、スマホの画面に無料通話の着信が表示されたので、通話ボタンをタップする。
「はい……」
と、応答すると、スピーカーからは、
「あっ、坂井? あの……ナツミから話しを聞いたんだけど……」
切羽詰まったようなメッセージの文面とは逆に、中嶋由香の声には、トーンの低い落ち着いたものだった。
逆に言うと、それだけ、中嶋自身も小嶋夏海の話しに、動揺しているのかも知れない。
「そうか……」
こちらの短い返答に、
「最近のナツミのようすから、なんとなく、そんな予感はしてたけど……実際に本人から聞かされると、ショックだね」
「あぁ……」
「もっと早く言ってくれれば良かったのに。ーーーーーーって、やっぱり話しにくかったんだよね、ナツミも……」
「そう、だろうな……」
今になって、もっと彼女、小嶋夏海の話しに耳を傾けておけば良かった、と感じる。