第4章〜⑨〜
ー/ー
最初に、おっとりとした口調で語り始めたのと同一人物とは思えないくらい、前のめりな質問を繰り返したことを気にしたのか、ふたたび、落ち着いた口調で、今度は、まったく、別のことを問い掛けてきた。
「少し前までは、私の方がナツミに話しを聞いてもらってばかりだったんだけど……最近、あのコのようすが、ちょっと、おかしかったから気になって……ねぇ、坂井は、なにか気付いたことはない?」
ナイーブな方面に関わる質問攻めに対して、停止状態に陥っていた思考回路にカツを入れたオレは、脳細胞を再起動させると、
「中嶋も気になっていたことがあるのか!?」
と、彼女に問い返す。
「うん、話しを聞いてもらってるときは、自分のことばかりで、気が回っていなかったんだけど……八月になった頃くらいから、ナツミと話していると、何か思い詰めたような表情が、前よりも増えた気がするんだよね……」
その言葉に、ハッとして、
「そうか……」
と反応する。
「坂井も、気にしてくれていたんだね……」
中嶋由香は、声を落として同意の意思を汲み取ってくれた。
そんな彼女の言葉にうなずくと、寂しそうに、つぶやく。
「まぁ、ナツミ自身が話してくれないと、どうにもならないんだけど……」
友人を想う、その表情に、何か伝えないと……。
そう考えて、
「そのことなんだが……少し前に、小嶋と話した時に、『何か悩んでいることがあるなら話しを聞かせてくれないか?』と言ったら、『話せるようになったら、聞いてもらおうかな?』って言われたんだ。自分でチカラになれるかはわからないが、小嶋が話してくれるなら、シッカリと話しを聞かせてもらおうと思う」
と、中嶋に自分の想いを伝えた。
すると、今度は彼女が大きくうなずき、
「うん、そうしてあげて……今のところ、私が出来る『お節介』は、ここまでだから……それに……もし、もう少し進展があったら、ナツミを落とす必殺のテクを教えてあげる」
と言って、最後の言葉に、不意打ちを食らったようなこちらの表情を確認して、クスクスと楽しそうに笑った。
※
中嶋との会話を終えたオレは、頭を冷やし、状況を整理するため、受付の入っている建物に戻り、トイレに向かった。
今日の花火観賞を迎えるにあたって、ある『決意』をしていたのだが……。
中嶋由香が話してくれたことを参考にするなら、自分の想いを語る前に、すべきことがあるような気がする。
(小嶋が話しをしたいと考えてくれているなら、イイが……)
そんなことを考えながら、用を足し終えて、受付前のロビーのソファーに腰掛ける。
花火の打ち上げが始まるまでは、あと三十分ほど時間がある。
先ほどまで話していたことと、このあとのことについての考えをまとめるため、まだ、しばらくは友人たちのいる場所に、戻りたくなかった。
ソファーに座り、頭の中身を整理しようと、背もたれに背中をあずけて天井を見上げていると、
「坂井さんの息子さんだね?ナツキくんだったかな?」
と、声を掛けられた。
周囲に気を配っていなかったため、
「は、はい!?」
と、少々あせりながら返事をする。
声を掛けてきたのは、今日のイベントの主催者であるカワタさんだった。
「ゴメンね。くつろいでいるところだったかな?」
穏やかな口調で語る父と同年代の男性に、
「いえ! こちらこそ、すいません」
そう返答し、姿勢を正して、ソファーに浅く腰掛けなおす。
こちらのようすを眺めながら、
「今日は、来てもらった人たちとなるべく、話しをさせてもらおうと思っているんだけど……少しだけ、おじさんの話し相手になってもらえるかな?」
カワタさんは、そんな申し出をしてきた。
父親と年齢の変わらない男性と話しを合わせる自信はなかったが、今日の催しの主催者であり、自分たちを招待してくれた人の申し出とあれば、断るわけにはいかない。
「は、はい。自分で良ければ……」
と、返事をして、カワタさんが目の前のソファーに腰掛けるのを待つ。
こちらと同じように、ソファーに浅く腰掛けたカワタさんは、受付で挨拶をした時と同じ言葉を繰り返した。
「あらためて、今日は、お友達をたくさん呼んでくれてありがとう」
「いえ、こちらの方こそ! さっきも言いましたけど、自分も友達もスゴく楽しみにしていたので!こんな人数で来させてもらって、ものスゴく感謝してます!ありがとうございます」
自分も、返答は同じような言葉の繰り返しになってしまった。年下の人間にも気を使って話してくれているのはわかるのだが、両親と教師以外に、年の離れた人と話す経験の少ない自分にとって、間をもたせることは難しい。気まずい空気にならないように、なんとか言葉を出そうと、質問を考える。
父親によると、カワタさんは、(規模の大きさは、わからないものの)会社を経営しているそうだが、花火を打ち上げるには、それなりの金額が必要になるだろう。
そこで、思い切って、気になっていたことを聞いてみた。
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「少し前までは、私の方がナツミに話しを聞いてもらってばかりだったんだけど……最近、あのコのようすが、ちょっと、おかしかったから気になって……ねぇ、坂井は、なにか気付いたことはない?」
ナイーブな方面に関わる質問攻めに対して、停止状態に陥っていた思考回路にカツを入れたオレは、脳細胞を再起動させると、
「中嶋も気になっていたことがあるのか!?」
と、彼女に問い返す。
「うん、話しを聞いてもらってるときは、自分のことばかりで、気が回っていなかったんだけど……八月になった頃くらいから、ナツミと話していると、何か思い詰めたような表情が、前よりも増えた気がするんだよね……」
その言葉に、ハッとして、
「そうか……」
と反応する。
「坂井も、気にしてくれていたんだね……」
中嶋由香は、声を落として同意の意思を汲み取ってくれた。
そんな彼女の言葉にうなずくと、寂しそうに、つぶやく。
「まぁ、ナツミ自身が話してくれないと、どうにもならないんだけど……」
友人を想う、その表情に、何か伝えないと……。
そう考えて、
「そのことなんだが……少し前に、小嶋と話した時に、『何か悩んでいることがあるなら話しを聞かせてくれないか?』と言ったら、『話せるようになったら、聞いてもらおうかな?』って言われたんだ。自分でチカラになれるかはわからないが、小嶋が話してくれるなら、シッカリと話しを聞かせてもらおうと思う」
と、中嶋に自分の想いを伝えた。
すると、今度は彼女が大きくうなずき、
「うん、そうしてあげて……今のところ、私が出来る『お節介』は、ここまでだから……それに……もし、もう少し進展があったら、ナツミを落とす必殺のテクを教えてあげる」
と言って、最後の言葉に、不意打ちを食らったようなこちらの表情を確認して、クスクスと楽しそうに笑った。
※
中嶋との会話を終えたオレは、頭を冷やし、状況を整理するため、受付の入っている建物に戻り、トイレに向かった。
今日の花火観賞を迎えるにあたって、ある『決意』をしていたのだが……。
中嶋由香が話してくれたことを参考にするなら、自分の想いを語る前に、すべきことがあるような気がする。
(小嶋が話しをしたいと考えてくれているなら、イイが……)
そんなことを考えながら、用を足し終えて、受付前のロビーのソファーに腰掛ける。
花火の打ち上げが始まるまでは、あと三十分ほど時間がある。
先ほどまで話していたことと、このあとのことについての考えをまとめるため、まだ、しばらくは友人たちのいる場所に、戻りたくなかった。
ソファーに座り、頭の中身を整理しようと、背もたれに背中をあずけて天井を見上げていると、
「坂井さんの息子さんだね?ナツキくんだったかな?」
と、声を掛けられた。
周囲に気を配っていなかったため、
「は、はい!?」
と、少々あせりながら返事をする。
声を掛けてきたのは、今日のイベントの主催者であるカワタさんだった。
「ゴメンね。くつろいでいるところだったかな?」
穏やかな口調で語る父と同年代の男性に、
「いえ! こちらこそ、すいません」
そう返答し、姿勢を正して、ソファーに浅く腰掛けなおす。
こちらのようすを眺めながら、
「今日は、来てもらった人たちとなるべく、話しをさせてもらおうと思っているんだけど……少しだけ、おじさんの話し相手になってもらえるかな?」
カワタさんは、そんな申し出をしてきた。
父親と年齢の変わらない男性と話しを合わせる自信はなかったが、今日の催しの主催者であり、自分たちを招待してくれた人の申し出とあれば、断るわけにはいかない。
「は、はい。自分で良ければ……」
と、返事をして、カワタさんが目の前のソファーに腰掛けるのを待つ。
こちらと同じように、ソファーに浅く腰掛けたカワタさんは、受付で挨拶をした時と同じ言葉を繰り返した。
「あらためて、今日は、お友達をたくさん呼んでくれてありがとう」
「いえ、こちらの方こそ! さっきも言いましたけど、自分も友達もスゴく楽しみにしていたので!こんな人数で来させてもらって、ものスゴく感謝してます!ありがとうございます」
自分も、返答は同じような言葉の繰り返しになってしまった。年下の人間にも気を使って話してくれているのはわかるのだが、両親と教師以外に、年の離れた人と話す経験の少ない自分にとって、間をもたせることは難しい。気まずい空気にならないように、なんとか言葉を出そうと、質問を考える。
父親によると、カワタさんは、(規模の大きさは、わからないものの)会社を経営しているそうだが、花火を打ち上げるには、それなりの金額が必要になるだろう。
そこで、思い切って、気になっていたことを聞いてみた。