第4章〜⑦〜
ー/ー
その雰囲気に、思いがけず目を奪われ、彼女に声を掛けそびれていると、視界の外から、
「ナツキ!」
という、声とともに、康之が腕をオレの首に絡ませてきた。
思わぬ不意打ちに、思わず仰け反って、咳き込むと、
「もう〜! 今日の主役に対して、なにやってんの〜!?」
大嶋が、康之を注意する。
「あっ、スマン! ナツキ……久々のイベントにテンションが上がり過ぎちまった」
「いや、気にするな! ちょっと、不意をつかれて驚いただけだ」
康之をフォローした訳ではないが、小嶋夏海に見惚れてしまっていたという事実にバツの悪さを感じ、そう返答する。
同じく、自分のハシャギぶりを反省したらしい康之が、
「そっか……それより、今日はサンキューな!」
と、気持ちを切り替えて、感謝の言葉を口にする。
それを皮切りに、今日の花火観賞に招待したことについて、他のメンバーも口々に謝辞を述べるが、今回のイベントは、自分が企画したことでなく、あくまで父親の知人の好意に甘えさせてもらったという面が大きいので、面映い気持ちがする。
「まぁ、感謝の言葉は、オレよりも花火観賞を企画した社長さんに伝えてくれ」
と、メンバーに伝えつつ、小嶋夏海に目を向けると、
「まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったね……坂井、ありがとう」
彼女は、微笑をたたえて、こちらを見据えるようにして、そう言った。
その言葉を発するようすは、なぜだか淋しげに微笑んでいるように見える。
ただ、最初に彼女に言葉を掛けそびれたオレは、「あぁ……」と、うなずくだけで、電車とバスで乗り継いで待ち合わせ場所まで移動する間、その理由を確認することはできなかった。
※
電車とバスを乗り継ぎ、人工島内に作られた宿泊用ロッジ前のバス停に到着すると、時刻は午後六時を十五分ほど過ぎていた。夏の名残を感じさせる夕日の太陽も、水平線に近づいている。バス停から宿泊施設の入口から受付に向かうと、ちょうど、マイカーでロッジに到着した両親が駐車場から施設内に入ってくるところだった。
「夏生たちも、いま着いたところか?」
クラスメート六名と連れだっているところに、父親から声が掛かる。
「あ、ナツキのお父さん! 今日は、花火観賞に呼んでいただいて、ありがとうございます!」
真っ先に反応した哲夫が、体育会系らしい爽やかさで、父に向かって挨拶する。
他のメンバーも続いて、
「ありがとうございます!」
と、声を揃える。
「いやいや、夏生にも言っているけど、お礼は花火観賞を主催してくれるカワタさんに伝えてほしい」
父親は、苦笑しながら同級生に答え、「特に夏生は、しっかり挨拶するんだぞ」と付け加えた。
「わかってるよ!」
家を出る時に、玄関先で返したものと同じ言葉で応じると、
「それじゃ、受付に行くか」
と、本来の集合場所に先導した。
ロッジの建物に入り、受付に移動すると、同じ花火観賞のギャラリーなのだろうか、十数人の人たちが、受付前のロビーに集まっていた。
その中の一人、ウチの父親と同年代に見える、四十代くらいの男性が、
「いらっしゃい、坂井さん」
と、声を掛けてくる。
「カワタさん、お招きいただきありがとうございます。しかも、二家族分ということにしてもらって……」
そう応じた父親に、カワタさんと呼ばれた少し痩せ気味の男性は、
「いやいや、出来る範囲で親しい人に、なるべく多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたので、たくさんの方に来てもらえて嬉しいですよ。ウチにも、高校と小学校に子どもがいるので、同じ世代の人たちに来てもらって大歓迎です」
柔和な顔で答え、父親の隣に立っているこちらに視線を向け、「坂井さんの息子さんですか?」と、たずねてきた。
父が答える前に、
「はい! 今日は、お招きいただいて、本当にありがとうございます。友達も、みんな楽しみにしていて……」
そこまで語ると、カワタさんは、
「そうですか……こちらこそ、たくさんお友達を呼んでくれて、ありがとう」
と、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくれた。
そして、その言葉に、最初に反応したのは、意外な人物だった。
「あの……今年は、もう打ち上げ花火を観ることはできないと思っていたので、本当に感謝しています。ありがとうございます」
初対面の、しかも、かなり年齢の離れた人に自分から積極的に話し掛ける積極的なコミュニケーションを取るタイプだとは思っていなかったので、思わず、その言葉を発した小嶋夏海に視線を向ける。
彼女の表情は、それだけで、今日のイベントが、彼女自身にとって、とても重要な出来事であることが伝わってくる真剣なモノだった。
その雰囲気を察したのか、カワタさんも、感慨深げに、
「それだけ楽しみにしていてくれると、この催しを企画した甲斐があったな。今日は、みんなも楽しんで行ってね」
と、こちらに語りかける。カワタさんの言葉に、今度は、自分を含めた同級生全員で、
「はい、ありがとうございます!」
声を揃えた。
そして、あらためて、礼儀正しい級友たちに目を向けると、中嶋由香だけが、自分と同じく小嶋夏海のようすを気に掛けているようだった。
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その雰囲気に、思いがけず目を奪われ、彼女に声を掛けそびれていると、視界の外から、
「ナツキ!」
という、声とともに、康之が腕をオレの首に絡ませてきた。
思わぬ不意打ちに、思わず仰け反って、咳き込むと、
「もう〜! 今日の主役に対して、なにやってんの〜!?」
大嶋が、康之を注意する。
「あっ、スマン! ナツキ……久々のイベントにテンションが上がり過ぎちまった」
「いや、気にするな! ちょっと、不意をつかれて驚いただけだ」
康之をフォローした訳ではないが、小嶋夏海に見惚れてしまっていたという事実にバツの悪さを感じ、そう返答する。
同じく、自分のハシャギぶりを反省したらしい康之が、
「そっか……それより、今日はサンキューな!」
と、気持ちを切り替えて、感謝の言葉を口にする。
それを皮切りに、今日の花火観賞に招待したことについて、他のメンバーも口々に謝辞を述べるが、今回のイベントは、自分が企画したことでなく、あくまで父親の知人の好意に甘えさせてもらったという面が大きいので、面映い気持ちがする。
「まぁ、感謝の言葉は、オレよりも花火観賞を企画した社長さんに伝えてくれ」
と、メンバーに伝えつつ、小嶋夏海に目を向けると、
「まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったね……坂井、ありがとう」
彼女は、微笑をたたえて、こちらを見据えるようにして、そう言った。
その言葉を発するようすは、なぜだか淋しげに微笑んでいるように見える。
ただ、最初に彼女に言葉を掛けそびれたオレは、「あぁ……」と、うなずくだけで、電車とバスで乗り継いで待ち合わせ場所まで移動する間、その理由を確認することはできなかった。
※
電車とバスを乗り継ぎ、人工島内に作られた宿泊用ロッジ前のバス停に到着すると、時刻は午後六時を十五分ほど過ぎていた。夏の名残を感じさせる夕日の太陽も、水平線に近づいている。バス停から宿泊施設の入口から受付に向かうと、ちょうど、マイカーでロッジに到着した両親が駐車場から施設内に入ってくるところだった。
「夏生たちも、いま着いたところか?」
クラスメート六名と連れだっているところに、父親から声が掛かる。
「あ、ナツキのお父さん! 今日は、花火観賞に呼んでいただいて、ありがとうございます!」
真っ先に反応した哲夫が、体育会系らしい爽やかさで、父に向かって挨拶する。
他のメンバーも続いて、
「ありがとうございます!」
と、声を揃える。
「いやいや、夏生にも言っているけど、お礼は花火観賞を主催してくれるカワタさんに伝えてほしい」
父親は、苦笑しながら同級生に答え、「特に夏生は、しっかり挨拶するんだぞ」と付け加えた。
「わかってるよ!」
家を出る時に、玄関先で返したものと同じ言葉で応じると、
「それじゃ、受付に行くか」
と、本来の集合場所に先導した。
ロッジの建物に入り、受付に移動すると、同じ花火観賞のギャラリーなのだろうか、十数人の人たちが、受付前のロビーに集まっていた。
その中の一人、ウチの父親と同年代に見える、四十代くらいの男性が、
「いらっしゃい、坂井さん」
と、声を掛けてくる。
「カワタさん、お招きいただきありがとうございます。しかも、二家族分ということにしてもらって……」
そう応じた父親に、カワタさんと呼ばれた少し痩せ気味の男性は、
「いやいや、出来る範囲で親しい人に、なるべく多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたので、たくさんの方に来てもらえて嬉しいですよ。ウチにも、高校と小学校に子どもがいるので、同じ世代の人たちに来てもらって大歓迎です」
柔和な顔で答え、父親の隣に立っているこちらに視線を向け、「坂井さんの息子さんですか?」と、たずねてきた。
父が答える前に、
「はい! 今日は、お招きいただいて、本当にありがとうございます。友達も、みんな楽しみにしていて……」
そこまで語ると、カワタさんは、
「そうですか……こちらこそ、たくさんお友達を呼んでくれて、ありがとう」
と、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくれた。
そして、その言葉に、最初に反応したのは、意外な人物だった。
「あの……今年は、もう打ち上げ花火を観ることはできないと思っていたので、本当に感謝しています。ありがとうございます」
初対面の、しかも、かなり年齢の離れた人に自分から積極的に話し掛ける積極的なコミュニケーションを取るタイプだとは思っていなかったので、思わず、その言葉を発した小嶋夏海に視線を向ける。
彼女の表情は、それだけで、今日のイベントが、彼女自身にとって、とても重要な出来事であることが伝わってくる真剣なモノだった。
その雰囲気を察したのか、カワタさんも、感慨深げに、
「それだけ楽しみにしていてくれると、この催しを企画した甲斐があったな。今日は、みんなも楽しんで行ってね」
と、こちらに語りかける。カワタさんの言葉に、今度は、自分を含めた同級生全員で、
「はい、ありがとうございます!」
声を揃えた。
そして、あらためて、礼儀正しい級友たちに目を向けると、中嶋由香だけが、自分と同じく小嶋夏海のようすを気に掛けているようだった。