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2.目覚めのない朝の操り人形-1

ー/ー



 時は遡り、二ヶ月前。
 桜が散り去ったばかりのころ――。


「私が……あなたに教えた『最期』は、……嘘よ」

 高熱に潤んだ赤い瞳で、熱暴走が止まらなくなった〈(サーペンス)〉――〈天使〉のホンシュアは妖艶に嗤った。
 陽炎の揺らめく、薄暗い地下の一室。薄いキャミソールワンピースからむき出しになった白い肩に、長い黒髪が汗で張り付く。
「どういうことだ!? 何が嘘だというのだ!?」
(ムスカ)〉は余裕をかなぐり捨て、彼らしくもなく必死の形相で迫った。
「あなた、が……目覚めたとき……教えた、あなたの――『鷹刀ヘイシャオ』の死因は、嘘……。だから、あなたの復讐……は、お門違い……なのよ」
 そう言って〈(サーペンス)〉は、苦しげに微笑む。
 熱気が、〈(ムスカ)〉の肌を()いた。ひりひりとした感覚に、彼は顔をしかめる。
 この女は間もなく死ぬ。その前に、洗いざらい聞き出さねばならない。
『彼』が作り出された、その意味を――。


(ムスカ)〉の脳裏に、彼が『彼』として、目覚めた日のことが駆け巡る……。


 気づいたら、そこは彼のよく知る研究室だった。
 彼は手術台の上にいて、体の上には白い布が掛けられていた。けれど、服は身に着けておらず、裸体である。
 不可解な状況に、彼は眉をひそめた。半身を起こすと、くらりと目眩(めまい)がした。自分の体が、自分のものではないような気がする。
「!?」
 肩に、それから腕に背に――。
 素肌の上を、さらさらとした柔らかな感触が流れ、彼はぎょっとした。そして、その正体を解したとき、彼は更に驚愕した。
 自分の髪の毛――だった。
 長く長く、腰に届くほどまでに髪が伸びていた。この国では、男の長髪は珍しくはないが、彼自身は今までに一度も、首筋よりも下に伸ばしたことはなかった。
 しかも。
 その髪には、ちらほらと白髪が混じっている……。
 信じられない思いで目を見開けば、胸元に掛かる伸び放題の髭に気づく。――そして、髭にもまた、白いものが混じっていた。
 ――知らぬうちに、歳を取っていた。
 髪だけではなく、皮膚の老化や筋肉の衰えから断言できる。
 医者である彼の見解からすれば、この体は四十代半ばから五十路手前のものだ。だが彼は、三十代であるはずだ。
 ……なんらかの実験で、自分自身を眠りにつかせたのだろうか?
 状況を確認しようと、あたりを見渡せば、少し離れたところに硝子ケースがあった。
 培養液で満たされたそれは、彼にとって馴染みのもので、生物を成長させ、あるいは生命を維持するための揺り籠だ。
 中身が気になった彼は、体に掛けられていた白い布をまとい、近づいていく。長いこと掃除がなされていなかったのか、歩くたびに足元からふわりと埃が舞った。
 おぼつかない足取りは、リノリウムの床の冷たさが裸足の足を刺すからか、それとも……。膝を震わせながらたどり着くと、彼はケースの中を覗き込んだ。
「!?」
 息を呑んだ。
 心臓が、早鐘のように打ちつける。
 女がいた。
 人ひとりを収めるにしては充分すぎるほどの大型のケースの中で、長い髪が大きく広がり、培養液の中で揺らめいている。漂う髪は、まるで裸体を隠す(ころも)のよう。
 垣間見える皮膚や爪から推測するに、決して若くはない。四十代といったところだろうか。
 そして、その顔は……。
「ミンウェイ……」
 愛しい妻の名を、彼は呟く。
 彼の妻は、若く美しいままで時を止めた。――止めてしまった。
 だから彼は、二十歳を超えた彼女を知らない。
 なのに、すぐに分かった。
 これは、彼女が時を重ねた姿である、と。
 本来は存在しないはずの年月(としつき)を積み上げてなお、彼女は清らかで麗しかった。
「…………あぁ」
 気づいたら、涙がこぼれていた。
 大の男が――。無様にも(ほど)がある。
 そう思いながらも、涙はとめどなく流れ続ける。
 速やかに状況を把握すべき事態なのに、彼女に逢えたと思った瞬間に、彼女以外のすべてを忘れた。
 そうして、どのくらいの間、彼女を見つめていただろうか。
 ふと、研究室の扉の外に、人の気配を感じた。彼は、反射的に硝子ケースを背に守る。
「落ち着いたようね」
 中に入ってきたのは、若い女だった。きっちりと結い上げられた髪に、濃いめの化粧ばかりが目につく、派手な女だ。
 女の口ぶりから、彼は気づいた。
「私を……監視していたのですか?」
「ええ」
 女の肯定を耳にして、初めに訪れたのは屈辱。それが徐々に、混乱に取って代わる。
 まったく知らない女だった。
 この研究室は、ごくわずかな者しか知らない場所にある。
 (ちまた)では〈七つの大罪〉は、何処かに大規模な秘密の研究施設を持っており、〈悪魔〉たちは皆そこにいると思われているようだが、それは違う。〈悪魔〉は個人的に〈神〉――すなわち王と契約を結び、資金を得て、思い思いの場所に散っていく。
 だから、彼の研究室の場所を知っているのは、〈七つの大罪〉の中枢にいる人間のみ――。
「無事に目覚めてよかったわ。私は、『記憶』の扱いには慣れているけれど、『肉体』のほうは自信がなかったから」
「!? どういう……ことだ……?」
「〈(ムスカ)〉の記憶を持つ『あなた』なら、そろそろ気づいているんじゃないかしら?」
 女は、冷たい声でそう言った。わずかに上がった紅い唇からは、悪意すら感じられる。
 彼は、無意識に自分の体を抱きしめた。
 急に老いた体。健康状態に問題はなさそうであるが、若干、筋肉がぎこちない。
 そして、瑞々しさは失われてきたものの、綺麗な肌。傷も、しみも、何ひとつない、綺麗すぎる皮膚。
 そう。今まで彼が、実験で作り続けてきた『肉体』と同じ――。
「『私』は……!」
 言いかけて、彼は言葉に迷った。――自分が『作り物』であると、認めることをためらった。
 けれど女は、「その顔は、ご明察よね?」と嗤い、残酷に告げる。
「そう。その肉体は、自然に生まれた人間のものではないわ。天才医師〈(ムスカ)〉が、自分の細胞から作ったクローンを、培養液の中でその年齢にまで育てた『もの』」
「……っ!」
「そして、『あなた』が持っている記憶は、〈冥王(プルート)〉に保存されていた〈(ムスカ)〉の記憶」
 ねとつく女の目線が、彼の頭から足の先までを舐める。
「つまり『あなた』は、〈(ムスカ)〉本人のクローン体を使った〈影〉――ということね」
「!」
 膝が、崩れた。
 背後の硝子ケースに、寄り掛かるようにして、なんとか体を支える。
 まさか――であった。
 今まで数々の人体実験を繰り返してきた彼が、よもや自分自身が……と考え――、それは、彼の持つ『記憶』が感じたことであり、彼自身は『生まれたばかり』であることに気づく。
 彼は、拳を握りしめた。
 女の言っていることは正しいだろう。認めたくはないが、認めざるを得ない。
 けれど、何かが引っかかった。
 動悸を打つ胸を押さえ、彼は呼吸を整える。
「〈(ムスカ)〉が、この年齢の肉体を作った……?」
 だが彼には、こんなものを作った記憶はない。
「……いや、順番が逆なのか。オリジナルの私は、この私が持つ『記憶』を保存したあと、この『肉体』を作ったわけか」
 そう呟いて、彼は、はっと気づいた。
「おい、女! 何故、保存してある記憶を使った? どうして、直接、本人から記憶を移さない? オリジナルの私は、何処にいる!?」
 ぞんざいな口調で問いかけながらも、答えは出ていた。だから、それは女への確認でしかなかった。
「〈(ムスカ)〉は死んだわ。もう十数年も前のことよ」
「……っ!」 
「『あなた』は、〈(ムスカ)〉が報告書にまとめていた、『死者の蘇生』を実践した『もの』。――私は、死んだ天才医師〈(ムスカ)〉を蘇らせたの」
「……お前は、何者だ?」
「〈(サーペンス)〉。――でも、正確には、『私』は〈(サーペンス)〉の〈影〉。この肉体の名前なら、ホンシュアよ」
「〈(サーペンス)〉?」
 聞き覚えのない名前だった。
〈悪魔〉であることは間違いないだろう。〈七つの大罪〉では、〈神〉との契約時にラテン語読みの動物名が与えられる。『大罪』を司る悪魔と、象徴する動物がいることに由来するらしい。
 本来の宗教になぞらえるなら、〈悪魔〉は七人だ。だが、あいにく、この国の〈七つの大罪〉は、フェイレン神の代理人と呼ばれる王が、神格化されている自身に皮肉と否定を込めて、異教の言葉を借りただけだ。
 だから、〈悪魔〉の数は、必要とあらば幾らも増やす。この〈(サーペンス)〉は、彼が『死んでいる間』に、新しく〈悪魔〉になった者なのだろう。
 彼がそう考えたとき、女――〈(サーペンス)〉が、彼の思考と同じことを口にした。
「〈(サーペンス)〉が〈七つの大罪〉に加わったのは、〈(ムスカ)〉が死んだあとだから、知らなくて当然よ」
(サーペンス)〉は、高飛車にくすりと嗤う。その仕草が妙に小賢しくて、彼は忌々(いまいま)しげに鼻を鳴らした。
 この女に主導権を握られるのは矜持が許さない。速やかに情報を得て、優位に立たねばなるまい。
「理解しました。では、あなたにふたつ質問があります」
「どうぞ」
 余裕の笑みを見せる〈(サーペンス)〉に、彼は淡々と問いかける。
「ひとつ目は、オリジナルの私の死について。私は何故、死んだのか。そのことによって、娘のミンウェイはどうなったのか」
 彼の質問に、〈(サーペンス)〉は黙って頷き、続きを促す。 
「ふたつ目は、あなたが私を生き返らせた理由。しかも、記憶年齢とは合わない老いた肉体を使うという、不完全な状態であることも含めて説明を願いたい。私の研究報告書には、年齢を合わせるようにと記してあったはずです」
(ムスカ)〉は、肩に垂れてきた長い白髪混じりの髪を乱暴に払う。この肉体は、どうにも不快だ。
「もっと取り乱すかと思ったら、意外と冷静なのね」
「私は、無駄なことに時間を使うのが嫌いです」
 オジリナルが死んでいるのなら、好都合だ。彼が〈(ムスカ)〉に――鷹刀ヘイシャオに成り代わればよい。
 睨みつけるような彼の目線に、〈(サーペンス)〉は「どちらも、もっともな疑問ね」と相槌を打つ。そして、すっと口角を上げた。
「まずは、ひとつ目の質問の答え。――あなたは義理の父親、鷹刀イーレオに殺されたの」
「なっ!?」
 思いもよらぬ名前だった。
 彼の記憶では、イーレオとは、妻が亡くなる直前に電話をしたのが最後だ。彼女が記憶の保存を拒否するので、実の父のイーレオに説得してもらおうと連絡を取ったのだ。
 だが、イーレオは応じず、彼は永遠に妻を失った。
 今思い出しても、胸が張り裂けそうだ。心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
 イーレオが、彼から妻を奪ったも同然だった。
 もし、あのとき、イーレオが……。
 彼の心に、(くら)い闇が宿る。
「私は何故、鷹刀イーレオに殺されたのですか?」
 低い――怒気をはらんだ声で、彼は問うた。すると、〈(サーペンス)〉は緩やかに腕を組み、ねっとりとした視線を彼に向けた。
「あなた……、自分の娘に随分なことをしていたそうじゃない?」
「なっ!?」
「鷹刀イーレオは、どういう経緯でかは分からないけれど、あなたの所業を知ったのよ。激怒して、そして孫娘を救うためと称して、あなたを殺したの」
「ふざけるな!」
 彼は唇をわななかせた。
「勝手な言い草を! 私は、彼女を愛して……!」
 あまりの怒りに、言葉が満足に出てこない。そんな彼に、〈(サーペンス)〉が、にやりと紅い唇を歪ませる。
「現在、娘はイーレオの屋敷で暮らしているわ」
 そう言って、〈(サーペンス)〉は一枚の写真を彼に手渡した。
 それには、鮮やかな緋色の衣服に身を包んだ、絶世の美女が写っていた。年の頃は、二十代半ばから後半といったところだろうか。
 絶妙なプロポーションを引き立てるような、すらりとした立ち姿には堂々とした気品があり、緩やかに波打つ髪が華やぎを添えていた。知性あふれる切れ長の瞳と、美しく紅の引かれた唇からは強い印象を受けるにも関わらず、決して威圧的でなく、むしろ優しげに見える。
「これは……?」
「あなたの娘の今の姿よ」
「まさか!? そんな……!」
 彼の手から、するりと写真が滑り落ちた。床で埃にまみれるが、それを拾うなどという行為は、彼の頭の片隅にもなかった。
「違う……! これは、何かの間違いだ……」
 彼の娘は、清楚で可憐な、慎ましやかな少女だったはずだ。儚げな瞳に彼だけを映し出す、純粋無垢な乙女。
 歳だってまだ十代で、彼の妻の姿をなぞるように成長していた。
 それが……。
 彼の瞳が、かっと見開かれた。
「こんなのはミンウェイではない! ミンウェイへの冒涜だ!」
 理性をかなぐり捨て、彼は吠えた。
 長く伸びた髪を振り乱し、獣のように牙をむく。
「俺のミンウェイを返せ! 許さん! 許さんぞ! 鷹刀イーレオ!」
 憎い。
 一度ならずも二度までも、イーレオは彼からミンウェイを奪った。
 ぞわりと。
 どす黒い闇が、彼の胸の中をどこまでも広がっていく……。
 そんな彼の激昂を、〈(サーペンス)〉は冷ややかな眼差しで見つめていた。
 そして、彼の感情がイーレオへの憎悪で充分に膨れ上がったのを確認すると、おもむろに口を開く。
「あなたの怒りは、もっともだわ。だから、私はあなたの復讐に協力しましょう。――その代わり、私に天才医師〈(ムスカ)〉の力を貸してほしいの。そのために、私はあなたを蘇らせた。これがふたつ目の質問の答えになるわ」


(サーペンス)〉はそう言って、彼を復讐へと(いざな)った……。


「私の復讐が、お門違い!?」
 辛そうに息を吐く〈(サーペンス)〉に、〈(ムスカ)〉は叫んだ。
「そう……。鷹刀イーレオは……あなたを殺していない。あなたは――オリジナルの鷹刀ヘイシャオは、娘を連れて……、自ら、鷹刀エルファンのもとへ……行った」
「!? エルファン……?」
 エルファンは、〈(ムスカ)〉の――鷹刀ヘイシャオの従兄だ。
 ふたりとも母親を早くに亡くしていたため、ヘイシャオの姉ユイランによって兄弟も同然に育てられ、のちには婚姻によって、名実ともに義兄弟(きょうだい)となった。非常に近しい人間だ。
 ――そうではない。
 親友だ。
 鷹刀ヘイシャオが、最も信頼していた男だ。
「私が、エルファンに会いに行った!? なんのために?」
 一族を離れる日、互いに無言で、永遠の別れを告げたはずだ……。

「殺してもらうため」

 その瞬間、むせぶような熱気が消えた。――そう錯覚するほどに、凍てつく響きだった。
 それまで、苦しげに言葉を切って話していた〈(サーペンス)〉が、そのひとことだけは、ひと息に言ってのけた。
「な……ん、だって!?」
「鷹刀ヘイシャオ、は……生きることを……放棄した。私は……そう、聞いているわ」
「嘘を言うな!」
(ムスカ)〉は、殴りかからんばかりに拳を震わせた。
「ミンウェイは、俺に『生きろ』と言った。俺が、独りで生き続けるのは辛いだろうから、あの子を育てるようにと言った」
「……」
「その約束を……、この俺が、違えるはずがない!」
 迫りくるような熱を振り払い、〈(ムスカ)〉は叫んだ。
 妻のミンウェイは、誰よりも強く、生きたいと願っていた。
 自分がいなくなったら彼があとを追うことを、彼女は知っていた。だから、生きたいと。――記憶を遺すことを拒否したくせに。
 我儘だ。自分勝手だ。
 ……それでも彼は、彼女を愛していた。彼女のためなら、なんだってできた。
 だから、彼女の最後の願いが『彼の生』であるのなら、彼は従わなければならなかった。
 ――そのはずだ……。
「鷹刀ヘイシャオの、死について……私が知っているのは、そのくらい……」
「……っ」
「何故、ヘイシャオが死のうとしたのか……それは、分からない。でも、ヘイシャオの最期は、……確かな伝手(つて)から、聞いた、わ……」
「……」
 沈黙する〈(ムスカ)〉に、〈(サーペンス)〉は淋しげに笑いかけた。
「あなたは、信頼できる人間に……自分の娘を託しただけ。その気持ち……分かるわ」
「〈(サーペンス)〉……?」
 彼が眉を寄せるのも構わず、〈(サーペンス)〉は一方的に喋り続ける。辛そうに顔を歪めながら、けれど言い残すことを恐れるかのように、懸命に。
「私は……、あなたが大嫌い。けど……それは同族嫌悪。あなたと、私は……とても、似ているの」
 そして〈(サーペンス)〉は、今までの彼女とはまったく違う、(いと)おしげにさえ見える眼差しを彼に向けた。
「あなたも……私も……、他人の犠牲を(いと)わない……罪人(つみびと)……」
 不意に〈(サーペンス)〉の体が、びくりと痙攣した。同時に、苦しげなうめきを上げる。
 この女は長くない。『そのとき』が、今日なのか、明日なのか――それとも、今すぐ、この瞬間か。それすらも分からない。
 冷静になる必要があった。
 残されたわずかな時間で、できるだけの情報を聞き出すのだ。そして、この『デヴァイン・シンフォニア計画(プログラム)』に関わる者たちの中で、優位に立つ。
 そうしなければ、彼はこのまま、作り物の『駒』だ。
 そんなのは認められない。他人に利用されるだけの存在など、まっぴらだ。
「話を戻しましょう。――つまり、あなたは私を騙していた、と。あなたは自分の利益のためだけに、私を蘇らせた。私の技術を利用したいがために……!」
「そうね。……そうなるわね」
「ならば贖罪の意味で、私に詳しく話すべきだと思いませんか? 『デヴァイン・シンフォニア計画(プログラム)』のことを。――私が作らされている『もの』のことを……!」


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 時は遡り、二ヶ月前。
 桜が散り去ったばかりのころ――。
「私が……あなたに教えた『最期』は、……嘘よ」
 高熱に潤んだ赤い瞳で、熱暴走が止まらなくなった〈|蛇《サーペンス》〉――〈天使〉のホンシュアは妖艶に嗤った。
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「どういうことだ!? 何が嘘だというのだ!?」
〈|蝿《ムスカ》〉は余裕をかなぐり捨て、彼らしくもなく必死の形相で迫った。
「あなた、が……目覚めたとき……教えた、あなたの――『鷹刀ヘイシャオ』の死因は、嘘……。だから、あなたの復讐……は、お門違い……なのよ」
 そう言って〈|蛇《サーペンス》〉は、苦しげに微笑む。
 熱気が、〈|蝿《ムスカ》〉の肌を|灼《や》いた。ひりひりとした感覚に、彼は顔をしかめる。
 この女は間もなく死ぬ。その前に、洗いざらい聞き出さねばならない。
『彼』が作り出された、その意味を――。
〈|蝿《ムスカ》〉の脳裏に、彼が『彼』として、目覚めた日のことが駆け巡る……。
 気づいたら、そこは彼のよく知る研究室だった。
 彼は手術台の上にいて、体の上には白い布が掛けられていた。けれど、服は身に着けておらず、裸体である。
 不可解な状況に、彼は眉をひそめた。半身を起こすと、くらりと|目眩《めまい》がした。自分の体が、自分のものではないような気がする。
「!?」
 肩に、それから腕に背に――。
 素肌の上を、さらさらとした柔らかな感触が流れ、彼はぎょっとした。そして、その正体を解したとき、彼は更に驚愕した。
 自分の髪の毛――だった。
 長く長く、腰に届くほどまでに髪が伸びていた。この国では、男の長髪は珍しくはないが、彼自身は今までに一度も、首筋よりも下に伸ばしたことはなかった。
 しかも。
 その髪には、ちらほらと白髪が混じっている……。
 信じられない思いで目を見開けば、胸元に掛かる伸び放題の髭に気づく。――そして、髭にもまた、白いものが混じっていた。
 ――知らぬうちに、歳を取っていた。
 髪だけではなく、皮膚の老化や筋肉の衰えから断言できる。
 医者である彼の見解からすれば、この体は四十代半ばから五十路手前のものだ。だが彼は、三十代であるはずだ。
 ……なんらかの実験で、自分自身を眠りにつかせたのだろうか?
 状況を確認しようと、あたりを見渡せば、少し離れたところに硝子ケースがあった。
 培養液で満たされたそれは、彼にとって馴染みのもので、生物を成長させ、あるいは生命を維持するための揺り籠だ。
 中身が気になった彼は、体に掛けられていた白い布をまとい、近づいていく。長いこと掃除がなされていなかったのか、歩くたびに足元からふわりと埃が舞った。
 おぼつかない足取りは、リノリウムの床の冷たさが裸足の足を刺すからか、それとも……。膝を震わせながらたどり着くと、彼はケースの中を覗き込んだ。
「!?」
 息を呑んだ。
 心臓が、早鐘のように打ちつける。
 女がいた。
 人ひとりを収めるにしては充分すぎるほどの大型のケースの中で、長い髪が大きく広がり、培養液の中で揺らめいている。漂う髪は、まるで裸体を隠す|衣《ころも》のよう。
 垣間見える皮膚や爪から推測するに、決して若くはない。四十代といったところだろうか。
 そして、その顔は……。
「ミンウェイ……」
 愛しい妻の名を、彼は呟く。
 彼の妻は、若く美しいままで時を止めた。――止めてしまった。
 だから彼は、二十歳を超えた彼女を知らない。
 なのに、すぐに分かった。
 これは、彼女が時を重ねた姿である、と。
 本来は存在しないはずの|年月《としつき》を積み上げてなお、彼女は清らかで麗しかった。
「…………あぁ」
 気づいたら、涙がこぼれていた。
 大の男が――。無様にも|程《ほど》がある。
 そう思いながらも、涙はとめどなく流れ続ける。
 速やかに状況を把握すべき事態なのに、彼女に逢えたと思った瞬間に、彼女以外のすべてを忘れた。
 そうして、どのくらいの間、彼女を見つめていただろうか。
 ふと、研究室の扉の外に、人の気配を感じた。彼は、反射的に硝子ケースを背に守る。
「落ち着いたようね」
 中に入ってきたのは、若い女だった。きっちりと結い上げられた髪に、濃いめの化粧ばかりが目につく、派手な女だ。
 女の口ぶりから、彼は気づいた。
「私を……監視していたのですか?」
「ええ」
 女の肯定を耳にして、初めに訪れたのは屈辱。それが徐々に、混乱に取って代わる。
 まったく知らない女だった。
 この研究室は、ごくわずかな者しか知らない場所にある。
 |巷《ちまた》では〈七つの大罪〉は、何処かに大規模な秘密の研究施設を持っており、〈悪魔〉たちは皆そこにいると思われているようだが、それは違う。〈悪魔〉は個人的に〈神〉――すなわち王と契約を結び、資金を得て、思い思いの場所に散っていく。
 だから、彼の研究室の場所を知っているのは、〈七つの大罪〉の中枢にいる人間のみ――。
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 急に老いた体。健康状態に問題はなさそうであるが、若干、筋肉がぎこちない。
 そして、瑞々しさは失われてきたものの、綺麗な肌。傷も、しみも、何ひとつない、綺麗すぎる皮膚。
 そう。今まで彼が、実験で作り続けてきた『肉体』と同じ――。
「『私』は……!」
 言いかけて、彼は言葉に迷った。――自分が『作り物』であると、認めることをためらった。
 けれど女は、「その顔は、ご明察よね?」と嗤い、残酷に告げる。
「そう。その肉体は、自然に生まれた人間のものではないわ。天才医師〈|蝿《ムスカ》〉が、自分の細胞から作ったクローンを、培養液の中でその年齢にまで育てた『もの』」
「……っ!」
「そして、『あなた』が持っている記憶は、〈|冥王《プルート》〉に保存されていた〈|蝿《ムスカ》〉の記憶」
 ねとつく女の目線が、彼の頭から足の先までを舐める。
「つまり『あなた』は、〈|蝿《ムスカ》〉本人のクローン体を使った〈影〉――ということね」
「!」
 膝が、崩れた。
 背後の硝子ケースに、寄り掛かるようにして、なんとか体を支える。
 まさか――であった。
 今まで数々の人体実験を繰り返してきた彼が、よもや自分自身が……と考え――、それは、彼の持つ『記憶』が感じたことであり、彼自身は『生まれたばかり』であることに気づく。
 彼は、拳を握りしめた。
 女の言っていることは正しいだろう。認めたくはないが、認めざるを得ない。
 けれど、何かが引っかかった。
 動悸を打つ胸を押さえ、彼は呼吸を整える。
「〈|蝿《ムスカ》〉が、この年齢の肉体を作った……?」
 だが彼には、こんなものを作った記憶はない。
「……いや、順番が逆なのか。オリジナルの私は、この私が持つ『記憶』を保存したあと、この『肉体』を作ったわけか」
 そう呟いて、彼は、はっと気づいた。
「おい、女! 何故、保存してある記憶を使った? どうして、直接、本人から記憶を移さない? オリジナルの私は、何処にいる!?」
 ぞんざいな口調で問いかけながらも、答えは出ていた。だから、それは女への確認でしかなかった。
「〈|蝿《ムスカ》〉は死んだわ。もう十数年も前のことよ」
「……っ!」 
「『あなた』は、〈|蝿《ムスカ》〉が報告書にまとめていた、『死者の蘇生』を実践した『もの』。――私は、死んだ天才医師〈|蝿《ムスカ》〉を蘇らせたの」
「……お前は、何者だ?」
「〈|蛇《サーペンス》〉。――でも、正確には、『私』は〈|蛇《サーペンス》〉の〈影〉。この肉体の名前なら、ホンシュアよ」
「〈|蛇《サーペンス》〉?」
 聞き覚えのない名前だった。
〈悪魔〉であることは間違いないだろう。〈七つの大罪〉では、〈神〉との契約時にラテン語読みの動物名が与えられる。『大罪』を司る悪魔と、象徴する動物がいることに由来するらしい。
 本来の宗教になぞらえるなら、〈悪魔〉は七人だ。だが、あいにく、この国の〈七つの大罪〉は、フェイレン神の代理人と呼ばれる王が、神格化されている自身に皮肉と否定を込めて、異教の言葉を借りただけだ。
 だから、〈悪魔〉の数は、必要とあらば幾らも増やす。この〈|蛇《サーペンス》〉は、彼が『死んでいる間』に、新しく〈悪魔〉になった者なのだろう。
 彼がそう考えたとき、女――〈|蛇《サーペンス》〉が、彼の思考と同じことを口にした。
「〈|蛇《サーペンス》〉が〈七つの大罪〉に加わったのは、〈|蝿《ムスカ》〉が死んだあとだから、知らなくて当然よ」
〈|蛇《サーペンス》〉は、高飛車にくすりと嗤う。その仕草が妙に小賢しくて、彼は|忌々《いまいま》しげに鼻を鳴らした。
 この女に主導権を握られるのは矜持が許さない。速やかに情報を得て、優位に立たねばなるまい。
「理解しました。では、あなたにふたつ質問があります」
「どうぞ」
 余裕の笑みを見せる〈|蛇《サーペンス》〉に、彼は淡々と問いかける。
「ひとつ目は、オリジナルの私の死について。私は何故、死んだのか。そのことによって、娘のミンウェイはどうなったのか」
 彼の質問に、〈|蛇《サーペンス》〉は黙って頷き、続きを促す。 
「ふたつ目は、あなたが私を生き返らせた理由。しかも、記憶年齢とは合わない老いた肉体を使うという、不完全な状態であることも含めて説明を願いたい。私の研究報告書には、年齢を合わせるようにと記してあったはずです」
〈|蝿《ムスカ》〉は、肩に垂れてきた長い白髪混じりの髪を乱暴に払う。この肉体は、どうにも不快だ。
「もっと取り乱すかと思ったら、意外と冷静なのね」
「私は、無駄なことに時間を使うのが嫌いです」
 オジリナルが死んでいるのなら、好都合だ。彼が〈|蝿《ムスカ》〉に――鷹刀ヘイシャオに成り代わればよい。
 睨みつけるような彼の目線に、〈|蛇《サーペンス》〉は「どちらも、もっともな疑問ね」と相槌を打つ。そして、すっと口角を上げた。
「まずは、ひとつ目の質問の答え。――あなたは義理の父親、鷹刀イーレオに殺されたの」
「なっ!?」
 思いもよらぬ名前だった。
 彼の記憶では、イーレオとは、妻が亡くなる直前に電話をしたのが最後だ。彼女が記憶の保存を拒否するので、実の父のイーレオに説得してもらおうと連絡を取ったのだ。
 だが、イーレオは応じず、彼は永遠に妻を失った。
 今思い出しても、胸が張り裂けそうだ。心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
 イーレオが、彼から妻を奪ったも同然だった。
 もし、あのとき、イーレオが……。
 彼の心に、|昏《くら》い闇が宿る。
「私は何故、鷹刀イーレオに殺されたのですか?」
 低い――怒気をはらんだ声で、彼は問うた。すると、〈|蛇《サーペンス》〉は緩やかに腕を組み、ねっとりとした視線を彼に向けた。
「あなた……、自分の娘に随分なことをしていたそうじゃない?」
「なっ!?」
「鷹刀イーレオは、どういう経緯でかは分からないけれど、あなたの所業を知ったのよ。激怒して、そして孫娘を救うためと称して、あなたを殺したの」
「ふざけるな!」
 彼は唇をわななかせた。
「勝手な言い草を! 私は、彼女を愛して……!」
 あまりの怒りに、言葉が満足に出てこない。そんな彼に、〈|蛇《サーペンス》〉が、にやりと紅い唇を歪ませる。
「現在、娘はイーレオの屋敷で暮らしているわ」
 そう言って、〈|蛇《サーペンス》〉は一枚の写真を彼に手渡した。
 それには、鮮やかな緋色の衣服に身を包んだ、絶世の美女が写っていた。年の頃は、二十代半ばから後半といったところだろうか。
 絶妙なプロポーションを引き立てるような、すらりとした立ち姿には堂々とした気品があり、緩やかに波打つ髪が華やぎを添えていた。知性あふれる切れ長の瞳と、美しく紅の引かれた唇からは強い印象を受けるにも関わらず、決して威圧的でなく、むしろ優しげに見える。
「これは……?」
「あなたの娘の今の姿よ」
「まさか!? そんな……!」
 彼の手から、するりと写真が滑り落ちた。床で埃にまみれるが、それを拾うなどという行為は、彼の頭の片隅にもなかった。
「違う……! これは、何かの間違いだ……」
 彼の娘は、清楚で可憐な、慎ましやかな少女だったはずだ。儚げな瞳に彼だけを映し出す、純粋無垢な乙女。
 歳だってまだ十代で、彼の妻の姿をなぞるように成長していた。
 それが……。
 彼の瞳が、かっと見開かれた。
「こんなのはミンウェイではない! ミンウェイへの冒涜だ!」
 理性をかなぐり捨て、彼は吠えた。
 長く伸びた髪を振り乱し、獣のように牙をむく。
「俺のミンウェイを返せ! 許さん! 許さんぞ! 鷹刀イーレオ!」
 憎い。
 一度ならずも二度までも、イーレオは彼からミンウェイを奪った。
 ぞわりと。
 どす黒い闇が、彼の胸の中をどこまでも広がっていく……。
 そんな彼の激昂を、〈|蛇《サーペンス》〉は冷ややかな眼差しで見つめていた。
 そして、彼の感情がイーレオへの憎悪で充分に膨れ上がったのを確認すると、おもむろに口を開く。
「あなたの怒りは、もっともだわ。だから、私はあなたの復讐に協力しましょう。――その代わり、私に天才医師〈|蝿《ムスカ》〉の力を貸してほしいの。そのために、私はあなたを蘇らせた。これがふたつ目の質問の答えになるわ」
〈|蛇《サーペンス》〉はそう言って、彼を復讐へと|誘《いざな》った……。
「私の復讐が、お門違い!?」
 辛そうに息を吐く〈|蛇《サーペンス》〉に、〈|蝿《ムスカ》〉は叫んだ。
「そう……。鷹刀イーレオは……あなたを殺していない。あなたは――オリジナルの鷹刀ヘイシャオは、娘を連れて……、自ら、鷹刀エルファンのもとへ……行った」
「!? エルファン……?」
 エルファンは、〈|蝿《ムスカ》〉の――鷹刀ヘイシャオの従兄だ。
 ふたりとも母親を早くに亡くしていたため、ヘイシャオの姉ユイランによって兄弟も同然に育てられ、のちには婚姻によって、名実ともに|義兄弟《きょうだい》となった。非常に近しい人間だ。
 ――そうではない。
 親友だ。
 鷹刀ヘイシャオが、最も信頼していた男だ。
「私が、エルファンに会いに行った!? なんのために?」
 一族を離れる日、互いに無言で、永遠の別れを告げたはずだ……。
「殺してもらうため」
 その瞬間、むせぶような熱気が消えた。――そう錯覚するほどに、凍てつく響きだった。
 それまで、苦しげに言葉を切って話していた〈|蛇《サーペンス》〉が、そのひとことだけは、ひと息に言ってのけた。
「な……ん、だって!?」
「鷹刀ヘイシャオ、は……生きることを……放棄した。私は……そう、聞いているわ」
「嘘を言うな!」
〈|蝿《ムスカ》〉は、殴りかからんばかりに拳を震わせた。
「ミンウェイは、俺に『生きろ』と言った。俺が、独りで生き続けるのは辛いだろうから、あの子を育てるようにと言った」
「……」
「その約束を……、この俺が、違えるはずがない!」
 迫りくるような熱を振り払い、〈|蝿《ムスカ》〉は叫んだ。
 妻のミンウェイは、誰よりも強く、生きたいと願っていた。
 自分がいなくなったら彼があとを追うことを、彼女は知っていた。だから、生きたいと。――記憶を遺すことを拒否したくせに。
 我儘だ。自分勝手だ。
 ……それでも彼は、彼女を愛していた。彼女のためなら、なんだってできた。
 だから、彼女の最後の願いが『彼の生』であるのなら、彼は従わなければならなかった。
 ――そのはずだ……。
「鷹刀ヘイシャオの、死について……私が知っているのは、そのくらい……」
「……っ」
「何故、ヘイシャオが死のうとしたのか……それは、分からない。でも、ヘイシャオの最期は、……確かな|伝手《つて》から、聞いた、わ……」
「……」
 沈黙する〈|蝿《ムスカ》〉に、〈|蛇《サーペンス》〉は淋しげに笑いかけた。
「あなたは、信頼できる人間に……自分の娘を託しただけ。その気持ち……分かるわ」
「〈|蛇《サーペンス》〉……?」
 彼が眉を寄せるのも構わず、〈|蛇《サーペンス》〉は一方的に喋り続ける。辛そうに顔を歪めながら、けれど言い残すことを恐れるかのように、懸命に。
「私は……、あなたが大嫌い。けど……それは同族嫌悪。あなたと、私は……とても、似ているの」
 そして〈|蛇《サーペンス》〉は、今までの彼女とはまったく違う、|愛《いと》おしげにさえ見える眼差しを彼に向けた。
「あなたも……私も……、他人の犠牲を|厭《いと》わない……|罪人《つみびと》……」
 不意に〈|蛇《サーペンス》〉の体が、びくりと痙攣した。同時に、苦しげなうめきを上げる。
 この女は長くない。『そのとき』が、今日なのか、明日なのか――それとも、今すぐ、この瞬間か。それすらも分からない。
 冷静になる必要があった。
 残されたわずかな時間で、できるだけの情報を聞き出すのだ。そして、この『デヴァイン・シンフォニア|計画《プログラム》』に関わる者たちの中で、優位に立つ。
 そうしなければ、彼はこのまま、作り物の『駒』だ。
 そんなのは認められない。他人に利用されるだけの存在など、まっぴらだ。
「話を戻しましょう。――つまり、あなたは私を騙していた、と。あなたは自分の利益のためだけに、私を蘇らせた。私の技術を利用したいがために……!」
「そうね。……そうなるわね」
「ならば贖罪の意味で、私に詳しく話すべきだと思いませんか? 『デヴァイン・シンフォニア|計画《プログラム》』のことを。――私が作らされている『もの』のことを……!」