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#9 Present

ー/ー



 太陽がルーンプレナを暖かく照らす。下弦の月がひっそりと青空に佇む。今日はレイネをフィリオ達家族に迎え入れる儀式、もとい歓迎会が行われる日だ。
 フィリオ達は歓迎会の準備をしていた。

「レイネ、支度は出来たか?」

「うん……できた……」

 レイネはあの時から変わらない、フィリオのお古の服を着て言った。

「いつもそんな服で悪いね……本当はワンピースとか着せてあげたいんだけど……」

「わんぴーすって、なに……?」

「君に似合いそうな可愛い服」

「かわいい……?」

 彼女は彼の言葉を聞いて、少し照れた様子だった。
 ペントは二人の会話の声で目を覚まし、シャーと鳴いた。

「おう、ペント。勿論お前も連れて行くぞ? 久しぶりに母さんに会えるよ」

 それを聞いてペントは再び鳴き声をあげる。

「お前は僕以上に母さんに懐いちゃってるもんな。さてと、出発するか」

 フィリオはペントのそんな態度に何処か寂しさを覚えつつ、ペントの住処、金属製の籠を持ってドアを開けた。レイネは彼の持つそれを一緒に持とうとして、両手を籠の底に伸ばした。出会った時はお互いに警戒していたペントとレイネだったが、どうやらこの一ヶ月で随分と打ち解けた様であった。
 かくして二人と一匹は、いつものルーンプレナの街を歩きながらレオナの酒場を目指すのだった。
 しばらく歩いて、酒場のドアの前まで来たフィリオが言う。

「さて、着いたな。今日は君が主役なんだから、遠慮しなくて良いんだぞ」

 フィリオがレイネの方を見て微笑んだ。レイネは少しおどおどしている様子だった。

「大丈夫。緊張しなくていいよ。母さんは俺を産んだわけでもないのに親の代わりをしてくれた、そんな優しい人だから。じゃ、開けようか」

 彼が酒場のドアを開けると、酒場の中にはテーブルに赤い花が挿してある花瓶があり、ささやかながら装飾が施されていた。そして、沢山の美味しそうな料理の数々がテーブルを彩っていた。

「いらっしゃーい! 今日はパーっとやるわよ! あ、ペンちゃん久しぶりー! 元気してた? 病気とかしてない?」

 レオナは元気よく二人と一匹を迎えた。
 
「レイネちゃん、今日はあなたの為に色々用意したのよ。料理も沢山作ったから、遠慮なく食べてね」

 そう言った彼女はレイネの頭をそっと撫でる。

「それでは改めて……レイネちゃん! ようこそ私達家族へ!」

 レオナはそう言って拍手をした。

「じゃ、僕も改めて……ようこそ、我が家へ」

 彼女の拍手に続けてフィリオが手を叩いた。
 レイネは彼女らの祝福を受けて表情が少し明るくなった。

「……ありがとう」

「さぁ、どれも腕によりをかけて作ったからどんどん食べてちょうだい!」

 レオナは腰に手を当てて自信満々に言った。
 テーブルには焼き魚やステーキ、トマトスープなどの多種多様な品々が所狭しと並んでいた。
 レイネはそれらをじっくりと見つめた。これ程までの豪勢な料理は見た事が無かったのかもしれない。

「さ、食べましょ食べましょ! こっち座って!」

 レオナに言われるがまま二人は椅子に座った。

「さ、食べようかレイネ。それじゃ早速……いただきまーす!」

「いただき……ます」

 レイネはフィリオの真似をするように言った。
 彼女は木製のスプーンを不器用に持ち、一番食べたそうにしていたトマトスープを飲もうとした。彼女の上手とは言えないスプーン捌きで掬ったそのスープは少しそこから溢れた。

「ん……」

 スープから湯気が立つ。彼女はフーと息を吹きかけることもせずにそれをそのまま口に運んだ。そんな彼女の様子を眺めていたレオナとフィリオの二人は、さながら親の様であった。

「っ……あつい……」

「大丈夫?フーってやって冷ましてから食べていいのよ?」

「あつい……けど、おいしい」

「おっ! 美味しい……だってさ、母さん」

 フィリオがそう言って、彼とレオナの二人は顔を見合わせて笑った。

「良かった……レイネちゃんがそう言ってくれて私とっても嬉しいわ」 

 食べ物に息を吹きかけて冷ます、という事を覚えたレイネは、余程そのスープが気に入ったのか、スプーンで掬ったそれに、ほのかに息を何回か吹きかけてひたすら飲んでいた。

「レイネ、スープもいいけど、魚とかもあるよ」

「そうよー。この魚は私の親友が釣ってきたやつで……このステーキも私の知り合いが狩ってきたお肉を使ってるのよ」

 彼女のそんな姿を見た二人は言った。
 彼女は小さく舌舐めずりをして目線を魚に移し、フォークをぎこちない手つきで使い、なんとか一口分の魚をそれに刺した。

「ねぇフィリオ、この子フォーク使った事ないの?」

「それが……レイネはやっぱり色々忘れてるみたいで……」

「それにしても、フォークの使い方まで忘れるものなのかしら……」

 そんな一方で、ペントが籠から出てきて一目散に肉の海へ飛び込んだ。

「あー! ペント! そっちのは僕の肉だってば……」

 フィリオは慌てて言った。

「ペンちゃんはいいのよ! どんどん食べて! 私の可愛いペンちゃんなんだから!」

「レオナさん……そりゃないよ……はぁ……」

 パーティーが続くにつれて、だんだんと酒場の中は盛り上がり、温かい雰囲気になっていった。
 パーティーは青空がオレンジ色になるまで続き、彼らは一通りの料理を完食した。

「さ、みんなたらふく食べられたことだし、今日は私からレイネちゃんにプレゼントがありまーす!」

「え?なんだろう、楽しみだな」

「プレゼント……?」

「そ。お祝いとしてね。今持ってくるから待っててね」

 そう言って奥の物置部屋に入っていった彼女の発言に、フィリオは思わず心が踊った。レイネも目を輝かせていた。
 暫くして彼女が戻ってくると、彼女の手には白いワンピースがあった。

「どう? 私がちっちゃい頃着てたやつなんだけど、レイネちゃんに合うかな?」

「あ、そうそう、僕ら丁度レイネの服が欲しかったんだ!ありがとう母さん!」

 フィリオはまるでレオナが自分の心を読んでいるかの様な気がしたので、その感謝の言葉には驚きが混じっていた。
 レオナは試しに、レイネにそのワンピースを着せてみることにした。
 レイネの白く繊細な肌を、同じ様に澄んだ白いワンピースが包み込む。

「どうかな……よかった! ピッタリじゃない……! うん、とっても似合ってるわ」

「良かったな、レイネ」

「実は昨日初めて会った時に思ったのよ。なんで男の子が着るような、しかもボロボロの服着てるんだろうって。それで、急遽物置からそれを引っ張り出してきたってわけ。所々ほつれてたりしたから、昨夜は直すので大変だったのよ?」

「そこまで見てたのか……本当ありがとう、母さん」

 フィリオは改めてレオナに感謝した。

「いーのいーの! 私は自他共に認める街一番の世話焼きなんだから」

「流石母さん……って感じだな」

「私も感謝しなくちゃ。フィリオに」

「え? 僕に……感謝?」

「えぇ……あなたが初めてここに来た時、あなたはまだとても幼くて、私も丁度今のあなたと同じくらいの歳で、ジタンとも結婚したばかりで……あの時私は人としてまだ未熟者だったけど、それでも私は身寄りのないあなたを助けたかった。そして今何より思うこと。それは、フィリオを家族にして良かったってこと。だから、私の家族でいてくれて、ありがとう」

 彼女の言葉に、フィリオはハッとなった。僕達は血の繋がりは無い、でも確かに僕達は、家族なのだと。

「そしてレイネちゃん。あなたも、私達を受け入れてくれて、本当にありがとう。そして、改めて……私達家族へようこそ」

 彼女はそう言ってレイネを優しく抱きしめた。

「……て、あったかい……」

 レオナの目には涙が浮かんでいた。

「レイネ……ようこそ。我が家へ」

 そう言ったフィリオも、レイネをその手で、その温もりで、そっと包み込んだ。
 今日、レイネはフィリオ達の家族になった。


次のエピソードへ進む #10 Verbena


みんなのリアクション

 太陽がルーンプレナを暖かく照らす。下弦の月がひっそりと青空に佇む。今日はレイネをフィリオ達家族に迎え入れる儀式、もとい歓迎会が行われる日だ。
 フィリオ達は歓迎会の準備をしていた。
「レイネ、支度は出来たか?」
「うん……できた……」
 レイネはあの時から変わらない、フィリオのお古の服を着て言った。
「いつもそんな服で悪いね……本当はワンピースとか着せてあげたいんだけど……」
「わんぴーすって、なに……?」
「君に似合いそうな可愛い服」
「かわいい……?」
 彼女は彼の言葉を聞いて、少し照れた様子だった。
 ペントは二人の会話の声で目を覚まし、シャーと鳴いた。
「おう、ペント。勿論お前も連れて行くぞ? 久しぶりに母さんに会えるよ」
 それを聞いてペントは再び鳴き声をあげる。
「お前は僕以上に母さんに懐いちゃってるもんな。さてと、出発するか」
 フィリオはペントのそんな態度に何処か寂しさを覚えつつ、ペントの住処、金属製の籠を持ってドアを開けた。レイネは彼の持つそれを一緒に持とうとして、両手を籠の底に伸ばした。出会った時はお互いに警戒していたペントとレイネだったが、どうやらこの一ヶ月で随分と打ち解けた様であった。
 かくして二人と一匹は、いつものルーンプレナの街を歩きながらレオナの酒場を目指すのだった。
 しばらく歩いて、酒場のドアの前まで来たフィリオが言う。
「さて、着いたな。今日は君が主役なんだから、遠慮しなくて良いんだぞ」
 フィリオがレイネの方を見て微笑んだ。レイネは少しおどおどしている様子だった。
「大丈夫。緊張しなくていいよ。母さんは俺を産んだわけでもないのに親の代わりをしてくれた、そんな優しい人だから。じゃ、開けようか」
 彼が酒場のドアを開けると、酒場の中にはテーブルに赤い花が挿してある花瓶があり、ささやかながら装飾が施されていた。そして、沢山の美味しそうな料理の数々がテーブルを彩っていた。
「いらっしゃーい! 今日はパーっとやるわよ! あ、ペンちゃん久しぶりー! 元気してた? 病気とかしてない?」
 レオナは元気よく二人と一匹を迎えた。
「レイネちゃん、今日はあなたの為に色々用意したのよ。料理も沢山作ったから、遠慮なく食べてね」
 そう言った彼女はレイネの頭をそっと撫でる。
「それでは改めて……レイネちゃん! ようこそ私達家族へ!」
 レオナはそう言って拍手をした。
「じゃ、僕も改めて……ようこそ、我が家へ」
 彼女の拍手に続けてフィリオが手を叩いた。
 レイネは彼女らの祝福を受けて表情が少し明るくなった。
「……ありがとう」
「さぁ、どれも腕によりをかけて作ったからどんどん食べてちょうだい!」
 レオナは腰に手を当てて自信満々に言った。
 テーブルには焼き魚やステーキ、トマトスープなどの多種多様な品々が所狭しと並んでいた。
 レイネはそれらをじっくりと見つめた。これ程までの豪勢な料理は見た事が無かったのかもしれない。
「さ、食べましょ食べましょ! こっち座って!」
 レオナに言われるがまま二人は椅子に座った。
「さ、食べようかレイネ。それじゃ早速……いただきまーす!」
「いただき……ます」
 レイネはフィリオの真似をするように言った。
 彼女は木製のスプーンを不器用に持ち、一番食べたそうにしていたトマトスープを飲もうとした。彼女の上手とは言えないスプーン捌きで掬ったそのスープは少しそこから溢れた。
「ん……」
 スープから湯気が立つ。彼女はフーと息を吹きかけることもせずにそれをそのまま口に運んだ。そんな彼女の様子を眺めていたレオナとフィリオの二人は、さながら親の様であった。
「っ……あつい……」
「大丈夫?フーってやって冷ましてから食べていいのよ?」
「あつい……けど、おいしい」
「おっ! 美味しい……だってさ、母さん」
 フィリオがそう言って、彼とレオナの二人は顔を見合わせて笑った。
「良かった……レイネちゃんがそう言ってくれて私とっても嬉しいわ」 
 食べ物に息を吹きかけて冷ます、という事を覚えたレイネは、余程そのスープが気に入ったのか、スプーンで掬ったそれに、ほのかに息を何回か吹きかけてひたすら飲んでいた。
「レイネ、スープもいいけど、魚とかもあるよ」
「そうよー。この魚は私の親友が釣ってきたやつで……このステーキも私の知り合いが狩ってきたお肉を使ってるのよ」
 彼女のそんな姿を見た二人は言った。
 彼女は小さく舌舐めずりをして目線を魚に移し、フォークをぎこちない手つきで使い、なんとか一口分の魚をそれに刺した。
「ねぇフィリオ、この子フォーク使った事ないの?」
「それが……レイネはやっぱり色々忘れてるみたいで……」
「それにしても、フォークの使い方まで忘れるものなのかしら……」
 そんな一方で、ペントが籠から出てきて一目散に肉の海へ飛び込んだ。
「あー! ペント! そっちのは僕の肉だってば……」
 フィリオは慌てて言った。
「ペンちゃんはいいのよ! どんどん食べて! 私の可愛いペンちゃんなんだから!」
「レオナさん……そりゃないよ……はぁ……」
 パーティーが続くにつれて、だんだんと酒場の中は盛り上がり、温かい雰囲気になっていった。
 パーティーは青空がオレンジ色になるまで続き、彼らは一通りの料理を完食した。
「さ、みんなたらふく食べられたことだし、今日は私からレイネちゃんにプレゼントがありまーす!」
「え?なんだろう、楽しみだな」
「プレゼント……?」
「そ。お祝いとしてね。今持ってくるから待っててね」
 そう言って奥の物置部屋に入っていった彼女の発言に、フィリオは思わず心が踊った。レイネも目を輝かせていた。
 暫くして彼女が戻ってくると、彼女の手には白いワンピースがあった。
「どう? 私がちっちゃい頃着てたやつなんだけど、レイネちゃんに合うかな?」
「あ、そうそう、僕ら丁度レイネの服が欲しかったんだ!ありがとう母さん!」
 フィリオはまるでレオナが自分の心を読んでいるかの様な気がしたので、その感謝の言葉には驚きが混じっていた。
 レオナは試しに、レイネにそのワンピースを着せてみることにした。
 レイネの白く繊細な肌を、同じ様に澄んだ白いワンピースが包み込む。
「どうかな……よかった! ピッタリじゃない……! うん、とっても似合ってるわ」
「良かったな、レイネ」
「実は昨日初めて会った時に思ったのよ。なんで男の子が着るような、しかもボロボロの服着てるんだろうって。それで、急遽物置からそれを引っ張り出してきたってわけ。所々ほつれてたりしたから、昨夜は直すので大変だったのよ?」
「そこまで見てたのか……本当ありがとう、母さん」
 フィリオは改めてレオナに感謝した。
「いーのいーの! 私は自他共に認める街一番の世話焼きなんだから」
「流石母さん……って感じだな」
「私も感謝しなくちゃ。フィリオに」
「え? 僕に……感謝?」
「えぇ……あなたが初めてここに来た時、あなたはまだとても幼くて、私も丁度今のあなたと同じくらいの歳で、ジタンとも結婚したばかりで……あの時私は人としてまだ未熟者だったけど、それでも私は身寄りのないあなたを助けたかった。そして今何より思うこと。それは、フィリオを家族にして良かったってこと。だから、私の家族でいてくれて、ありがとう」
 彼女の言葉に、フィリオはハッとなった。僕達は血の繋がりは無い、でも確かに僕達は、家族なのだと。
「そしてレイネちゃん。あなたも、私達を受け入れてくれて、本当にありがとう。そして、改めて……私達家族へようこそ」
 彼女はそう言ってレイネを優しく抱きしめた。
「……て、あったかい……」
 レオナの目には涙が浮かんでいた。
「レイネ……ようこそ。我が家へ」
 そう言ったフィリオも、レイネをその手で、その温もりで、そっと包み込んだ。
 今日、レイネはフィリオ達の家族になった。