第3章〜㉗〜
ー/ーJRの駅とショッピング・モールが直結しているペデストリアンデッキ(図書館からの徒歩での移動中の会話で、小嶋夏海に修正するよう注意された)は、東側の方角に位置するモールの建物以外、周囲に建造物が少ないこともあって、西側にはマンション群が、南側には塔から斜めに張ったケーブルで橋桁に繋がっている斜張橋が、北側には山並みと北東の位置にある飛行場から飛び立つ飛行機が眺められる、見晴らしの良いスポットだ。
また、駅のすぐ近くには、『フランドルの鐘』と名付けられたカリヨンが設置され、年に数回ではあるが、演奏されることもある。
降りしきる雨の中、改札につながる駅への入口を通り抜けて、ショッピング・モールの建物へと向かう。
天候のためか、モールの開店まで、まだ時間があるためか、幸いなことに人影はまばらだ。
モールの入口に到着し、雨よけに屋根のある場所まで来たところで、
「天気としては最悪だが、人通りも少ないし、実験をするには最高の環境だな」
と、「そうね」と、短い返事が返ってきた。
前方に目を向けると、雨に煙って小高い丘の上にあるマンション群は霞んで見えづらくなっている。
「準備はできているから、いつでも始められるぜ」
かたわらで、降り続く雨を黙って見つめている彼女に告げると、実験のパートナーは、コクリとうなずいて、
「じゃ、お願い」
と答え、オレの首に掛かるコカリナに触れた。
最初の観察は、時間が短くても構わないと考え、『時のコカリナ』の切り替えスイッチに指を掛ける。
カチカチカチーーーーーー。
==========Time Out==========
三度スイッチを切り替えると、目の前に見たこともない光景が拡がった。
直前まで聞こえていた雨音が止んだ。
そして、視界に映るすべての雨粒が空中で静止している!
屋根のない場所まで足を踏み出し、手を伸ばして水滴に触れてみると、確かに水に触れている感触がある。
もしも、このまま、静止した雨粒の中に歩みを進めたとしたら、例え傘を持っていたとしても、顔や胸や腹回りの上半身、そして、膝やスネや足のつま先などの下半身は、ズブ濡れになってしまうだろう。
「小嶋が、レインコートを用意しておくように言っていた理由がわかったよ」
そう話し掛けるも、彼女は、こちらの言葉が耳に入っていないかのように、黙って前方へと歩き始めた。
そうして、四歩か五歩ほど進んだあと、レインコート姿で両手を広げて、突然
I'm singing in the rain 私は歌う 雨の中で
Just singing in the rain ただ歌う 雨の中で
What a glorious feelin' なんて幸せな気分
I'm happy again 幸せがこみ上げてくる
と、歌い始め、弾むように小さく跳びはねた後、クルリと身体を回転させた。さらに、
I'm laughing at clouds 雲をみてわらっている
So dark up above 頭上の黒い雲を
The sun's in my heart 太陽は私の心のなかにある
And I'm ready for love 愛する準備はできている
と、歌詞を続けたところでーーーーーー。
=========Time Out End=========
短時間停止は終了し、空中で静止していた水滴は、再び雨粒のカーテンとなった。
「残念……いいところだったのに……」
苦笑いしながら、こちらを振り向いて、彼女はつぶやく。
自分も苦笑をこらえながら、
「急に歌い出して踊り始めるから、驚いたゾ! まぁ、歌いたくなる気持ちも、わからなくはないが……」
と、声を掛けると、
「でしょう? さっきの不思議な光景を見たら、歌って踊り出したくなる気分にならない?」
今度は、満面の笑みで質問が返ってきた。
さっきまでは、元気の無さそうだったのに、一転して、無邪気な子供のようにはしゃぐ小嶋夏海のようすに、少し違和感を覚えながらも、彼女に笑顔が戻ったことに、ホッと安堵している自分の感情に気づく。
彼女からの問い掛けに、
「あぁ、そうかも知れないな……」
と、返答すると、「だよね!」と、満足そうな顔でうなずいたあと、
「そうだ! 一つお願いがあるんだけど……もう一回、今度は、で時間を止められないかな?」
両手を顔の前で合わせ、左の瞳だけ瞬きをさせて、こんなことを言ってきた。
その表情に、一瞬、ドキリとさせられる。
ただ、そのことを悟られないよう、平静を装って、首に下げたコカリナに目を向けた。
クラスメートとアミューズメント・プールに行った際に、ミスト・シャワーのある場所で使用して以降、先週、事故に遭いかけた少年を目撃した時と公園の猫を撫でる際にこの機能を使ったので、小窓のカウンターの数字は、『38』になっている。
「いま歌ってたのは、『雨に唄えば』だっけ? 小嶋の歌をフル・コーラス聞かせてもらえるなら、構わないゾ」
冗談めかした口調で言うと、
「それは気分次第かな?」
彼女は笑いながら答えた。
個人的には、つい先ほど、普段は見せることのない、あどけない表情で歌う彼女の姿を見られただけで、満足したという思いもある。
「わかったよ」
と、返答すると、彼女は微笑みを絶やさないまま、こちらに歩み寄り、再び『時のコカリナ』に触れ、無言でうなずく。
彼女の指先がコカリナと接触したことを確認して、表裏両面にある六つの穴をすべてふさぎ、吹口から息を吹き込んだ。
また、駅のすぐ近くには、『フランドルの鐘』と名付けられたカリヨンが設置され、年に数回ではあるが、演奏されることもある。
降りしきる雨の中、改札につながる駅への入口を通り抜けて、ショッピング・モールの建物へと向かう。
天候のためか、モールの開店まで、まだ時間があるためか、幸いなことに人影はまばらだ。
モールの入口に到着し、雨よけに屋根のある場所まで来たところで、
「天気としては最悪だが、人通りも少ないし、実験をするには最高の環境だな」
と、「そうね」と、短い返事が返ってきた。
前方に目を向けると、雨に煙って小高い丘の上にあるマンション群は霞んで見えづらくなっている。
「準備はできているから、いつでも始められるぜ」
かたわらで、降り続く雨を黙って見つめている彼女に告げると、実験のパートナーは、コクリとうなずいて、
「じゃ、お願い」
と答え、オレの首に掛かるコカリナに触れた。
最初の観察は、時間が短くても構わないと考え、『時のコカリナ』の切り替えスイッチに指を掛ける。
カチカチカチーーーーーー。
==========Time Out==========
三度スイッチを切り替えると、目の前に見たこともない光景が拡がった。
直前まで聞こえていた雨音が止んだ。
そして、視界に映るすべての雨粒が空中で静止している!
屋根のない場所まで足を踏み出し、手を伸ばして水滴に触れてみると、確かに水に触れている感触がある。
もしも、このまま、静止した雨粒の中に歩みを進めたとしたら、例え傘を持っていたとしても、顔や胸や腹回りの上半身、そして、膝やスネや足のつま先などの下半身は、ズブ濡れになってしまうだろう。
「小嶋が、レインコートを用意しておくように言っていた理由がわかったよ」
そう話し掛けるも、彼女は、こちらの言葉が耳に入っていないかのように、黙って前方へと歩き始めた。
そうして、四歩か五歩ほど進んだあと、レインコート姿で両手を広げて、突然
I'm singing in the rain 私は歌う 雨の中で
Just singing in the rain ただ歌う 雨の中で
What a glorious feelin' なんて幸せな気分
I'm happy again 幸せがこみ上げてくる
と、歌い始め、弾むように小さく跳びはねた後、クルリと身体を回転させた。さらに、
I'm laughing at clouds 雲をみてわらっている
So dark up above 頭上の黒い雲を
The sun's in my heart 太陽は私の心のなかにある
And I'm ready for love 愛する準備はできている
と、歌詞を続けたところでーーーーーー。
=========Time Out End=========
短時間停止は終了し、空中で静止していた水滴は、再び雨粒のカーテンとなった。
「残念……いいところだったのに……」
苦笑いしながら、こちらを振り向いて、彼女はつぶやく。
自分も苦笑をこらえながら、
「急に歌い出して踊り始めるから、驚いたゾ! まぁ、歌いたくなる気持ちも、わからなくはないが……」
と、声を掛けると、
「でしょう? さっきの不思議な光景を見たら、歌って踊り出したくなる気分にならない?」
今度は、満面の笑みで質問が返ってきた。
さっきまでは、元気の無さそうだったのに、一転して、無邪気な子供のようにはしゃぐ小嶋夏海のようすに、少し違和感を覚えながらも、彼女に笑顔が戻ったことに、ホッと安堵している自分の感情に気づく。
彼女からの問い掛けに、
「あぁ、そうかも知れないな……」
と、返答すると、「だよね!」と、満足そうな顔でうなずいたあと、
「そうだ! 一つお願いがあるんだけど……もう一回、今度は、で時間を止められないかな?」
両手を顔の前で合わせ、左の瞳だけ瞬きをさせて、こんなことを言ってきた。
その表情に、一瞬、ドキリとさせられる。
ただ、そのことを悟られないよう、平静を装って、首に下げたコカリナに目を向けた。
クラスメートとアミューズメント・プールに行った際に、ミスト・シャワーのある場所で使用して以降、先週、事故に遭いかけた少年を目撃した時と公園の猫を撫でる際にこの機能を使ったので、小窓のカウンターの数字は、『38』になっている。
「いま歌ってたのは、『雨に唄えば』だっけ? 小嶋の歌をフル・コーラス聞かせてもらえるなら、構わないゾ」
冗談めかした口調で言うと、
「それは気分次第かな?」
彼女は笑いながら答えた。
個人的には、つい先ほど、普段は見せることのない、あどけない表情で歌う彼女の姿を見られただけで、満足したという思いもある。
「わかったよ」
と、返答すると、彼女は微笑みを絶やさないまま、こちらに歩み寄り、再び『時のコカリナ』に触れ、無言でうなずく。
彼女の指先がコカリナと接触したことを確認して、表裏両面にある六つの穴をすべてふさぎ、吹口から息を吹き込んだ。
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