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第3章〜㉖〜

ー/ー



8月2日(月) 天候・くもり

 公園の猫に観察実験に付き合ってもらって以来、コカリナの調査や検証には特段の進展が見られなかったが、八月に入って最初の週明けの夜、小嶋夏海から、メッセージが届いた。

==============

明日は、久々の雨予報なので
ちょっと実験をしてみたい

==============

 相変わらず、シンプルなメッセージである。
 こちらも、すぐにメッセージに返信する。

==============

わかった!
集合時間と場所はどうする?

==============

 すると、即座に既読マークが付き、

==============

場所と時間はいつも通りで!

あと、レインコートもしくは
カッパの用意を忘れずに!!

==============

 こんなメッセージが返ってきた。

8月3日(火) 天候・雨のちくもり

 夏休み開始から、約二週間が経過したが、初めて朝から雨の降る一日となった。
 小嶋夏海からのメッセージの通り、普段はあまり使用することのないレインコートを羽織り、自転車で図書館に向かう。
 図書館前に到着し、いつものように、駐輪場に自転車を停める。さすがに、この天気では自転車での来館者も少ないのか、屋根付きの場所を確保することができた。
 指定された、「いつも通り」の集合時間には少し早かったのだが、いつもは、図書館の入口前にいるはずの小嶋夏海の姿が、なかった。

(こんな天気だし、準備に時間が掛かっているのだろうか?)

と考えながら、到着を待つものの、開館時間になっても、彼女は現れなかった。
 図書館の入口付近の上部は、建物の二階部分がせり出していて、雨風をしのげる構造にはなっているが、レインコートを着たまま突っ立っていると、入館してくる人々の妨げになるだろうと考え、スマホを取り出して、

==============

雨だけど、大丈夫か?

先に着いたので、
図書館に入っておく

==============

と、彼女にメッセージを送る。
 さらに、濡れたレインコートを脱いで畳み、持参したビニールバッグにしまってから、館内の交流ルームのベンチで待たせてもらうことにした。そうして、メッセージの返信、もしくは彼女の到着を待ちながら、スマホを操作し、お天気アプリの雨雲レーダーで、今後の天候を確認する。
 GPS機能で現在位置が記された画面には、

「11時頃に雨がやみます」

と、表示されている。
 交流ルームのベンチから、ガラス張りの館外を眺めると、間断なく雨は降り続いているが、それも、あと二時間ほどのことのようだ。

(雨が止んだら、今日の実験は延期になるんだろうか?)

などと考えながら、スマホを触り続けていると、

「ゴメン……待たせちゃったね」

と、話し掛けてくる声がした。
 声の主に目を向けると、大きな二重ツバのフードが付いた黒いレインコートを羽織り、スポーツサンダルを履いた小嶋夏海の姿があった。
 待ち合わせに遅れたことを心苦しく思っているのか、覇気のない彼女の声に、

「こんな天気だしな……心配してたけど、無事に来てくれて良かった」

と、努めて明るく返事をする。

「うん……ありがとう」

 申し訳なさそうにつぶやきながら、少し笑顔が戻った彼女に、声を掛ける。

「で、今日の実験はどうする? 雨雲レーダーによると、十一時頃には雨が止むみたいだゾ?」

「そっか……それなら、なるべく早く実験を始める方がイイかもね。遅れて来たのに申し訳ないけど、すぐにショッピング・モール前のペデストリアンデッキに移動できる?」

と、返答があった。

「ペデスト……なんだって? モールと駅が繋がってる通路のことか?」

聞き慣れない単語を問い返すと、

「そう! 駅前デッキのこと。ペデストリアンは、英語で『歩行者』って意味。覚えておくように!」

と、得意げな顔で解説をし始めた。

「それが、大学入試に必要な知識なら、頭の片隅に置いておくことにする」

そう返答して、図書館に入館する際に片付けたレインコートを取り出して、ペデストリ()ン・デッキとやらに向かうことにした。


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8月2日(月) 天候・くもり
 公園の猫に観察実験に付き合ってもらって以来、コカリナの調査や検証には特段の進展が見られなかったが、八月に入って最初の週明けの夜、小嶋夏海から、メッセージが届いた。
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明日は、久々の雨予報なので
ちょっと実験をしてみたい
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 相変わらず、シンプルなメッセージである。
 こちらも、すぐにメッセージに返信する。
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わかった!
集合時間と場所はどうする?
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 すると、即座に既読マークが付き、
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場所と時間はいつも通りで!
あと、レインコートもしくは
カッパの用意を忘れずに!!
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 こんなメッセージが返ってきた。
8月3日(火) 天候・雨のちくもり
 夏休み開始から、約二週間が経過したが、初めて朝から雨の降る一日となった。
 小嶋夏海からのメッセージの通り、普段はあまり使用することのないレインコートを羽織り、自転車で図書館に向かう。
 図書館前に到着し、いつものように、駐輪場に自転車を停める。さすがに、この天気では自転車での来館者も少ないのか、屋根付きの場所を確保することができた。
 指定された、「いつも通り」の集合時間には少し早かったのだが、いつもは、図書館の入口前にいるはずの小嶋夏海の姿が、なかった。
(こんな天気だし、準備に時間が掛かっているのだろうか?)
と考えながら、到着を待つものの、開館時間になっても、彼女は現れなかった。
 図書館の入口付近の上部は、建物の二階部分がせり出していて、雨風をしのげる構造にはなっているが、レインコートを着たまま突っ立っていると、入館してくる人々の妨げになるだろうと考え、スマホを取り出して、
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雨だけど、大丈夫か?
先に着いたので、
図書館に入っておく
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と、彼女にメッセージを送る。
 さらに、濡れたレインコートを脱いで畳み、持参したビニールバッグにしまってから、館内の交流ルームのベンチで待たせてもらうことにした。そうして、メッセージの返信、もしくは彼女の到着を待ちながら、スマホを操作し、お天気アプリの雨雲レーダーで、今後の天候を確認する。
 GPS機能で現在位置が記された画面には、
「11時頃に雨がやみます」
と、表示されている。
 交流ルームのベンチから、ガラス張りの館外を眺めると、間断なく雨は降り続いているが、それも、あと二時間ほどのことのようだ。
(雨が止んだら、今日の実験は延期になるんだろうか?)
などと考えながら、スマホを触り続けていると、
「ゴメン……待たせちゃったね」
と、話し掛けてくる声がした。
 声の主に目を向けると、大きな二重ツバのフードが付いた黒いレインコートを羽織り、スポーツサンダルを履いた小嶋夏海の姿があった。
 待ち合わせに遅れたことを心苦しく思っているのか、覇気のない彼女の声に、
「こんな天気だしな……心配してたけど、無事に来てくれて良かった」
と、努めて明るく返事をする。
「うん……ありがとう」
 申し訳なさそうにつぶやきながら、少し笑顔が戻った彼女に、声を掛ける。
「で、今日の実験はどうする? 雨雲レーダーによると、十一時頃には雨が止むみたいだゾ?」
「そっか……それなら、なるべく早く実験を始める方がイイかもね。遅れて来たのに申し訳ないけど、すぐにショッピング・モール前のペデストリアンデッキに移動できる?」
と、返答があった。
「ペデスト……なんだって? モールと駅が繋がってる通路のことか?」
聞き慣れない単語を問い返すと、
「そう! 駅前デッキのこと。ペデストリアンは、英語で『歩行者』って意味。覚えておくように!」
と、得意げな顔で解説をし始めた。
「それが、大学入試に必要な知識なら、頭の片隅に置いておくことにする」
そう返答して、図書館に入館する際に片付けたレインコートを取り出して、ペデストリ|オ《・》ン・デッキとやらに向かうことにした。