第3章⑪〜
ー/ー
開館時間になって、空調の効いた涼しい館内に入ると、オレたちは、それぞれ目的のフロアに別れて、自分たちの課題に取り組む。
思えば、夏季休暇開始一週間たらずの時期に、午前中から夏休みの課題に取り組んだことなど、小学校の低学年以来、なかった気がする。
感染症禍で、外出を控える傾向にあるとはいえ、去年までと比べて、自分の夏休み生活のあり方の変わりぶりに驚きながらも、可笑しくなった。
(これも、小嶋夏海の影響と言えるのか?)
そんなことを考えながら、『夏休みの友』に向き合う。
入館者数を制限している図書館の学習室は静かで、自宅の学習机に向かっている時より、はるかに課題を解いていく進み具合が捗っているように感じたのだが――――――。
九時の入館直後に課題に取り組み始めてから、一時間半が経過した頃、ここまでの成果について、自分なりに手応えを感じつつ、小休憩を取ろうと、階下にあるトイレに行くついでに、文献調査を任せぱなしにしてしまっているパートナーの様子を伺おうと、蔵書の閲覧コーナーを通り過ぎようとすると、小嶋夏海の隣に見知らぬ男が座っていた。
最初は遠目なので、髪型しか確認できなかったが、前髪は、記号の「コンマ」のようにスタイリングされていて、そこからサイド、襟足までがある程度のレングスで揃えられ、丸みを帯びたシルエットが印象的だ。その名の通り、コンマヘアとマッシュルームヘアを合わせたのコンママッシュと呼ばれるヘアスタイルだろうか?
二人が親しげに話している様子を見て、なぜだかわからないが、気まずい想いを感じたため、踵を返そうとしたが、その動作より早く、小嶋夏海に、こちらの存在を気づかれてしまった。
声を出さないように、手を振ってきた彼女に対して、こちらも、ぎこちなく手を上げて応答し、
(ここで引き返すのは不自然だし、仕方ない……)
と、覚悟を決めて、二人のもとに歩み寄る。
ハッキリと顔立ちが確認できる距離まで来たので、彼女の隣に居座る男に目をやると、自分たちより、やや年上に見えた。その輪郭は丸みを帯び、くっきりした目鼻立ちで、髪型だけの雰囲気イケメンでないことが、さらに、心をザワつかせる。
初対面であるオレに対しても、余裕のある面持ちで、
「あぁ、君が坂井クン?」
と、問い掛けてきた。
その人懐っこさを感じさせる表情は、どこかで目にした気がするのだが、流行りのお隣の国の男性アイドルか、それとも、人気ユーチューバーの誰かに似ているのだろうか?
「ハァ、どうも……」
我ながら、無愛想を絵に描いたような返答をしながら、小嶋夏海に、
(誰?)
と、視線を送ると、
「こちら、ツカサさん。図書館の活動でお世話になってて、調べている本のこととか、わからないことを相談してたんだ」
そんな説明が返ってきた。
さらに、ツカサと呼ばれた男が、人懐っこく、さわやかな笑顔で続ける。
「ナツミちゃんとは、この図書館でYAスタッフという活動を一緒にしていたんだ。ボクにできることなら、協力させてもうらうから、遠慮なく聞いてね」
「はぁ、それは、どうも……でも、本の調査で、オレにできることは、ほとんどないんで……すいません、夏休みの課題を進めてるので、もう行かせてもらっていいッスか?」
自分でも、聞いていてイヤになるくらい、素っ気なく返事をしてしまう。
「あ、それは、邪魔をしてゴメン。夏休みの宿題、がんばってね」
こちらの愛想の無い態度にも、顔色一つ変えることなく言葉を返す相手に、さらに、劣等感を刺激されながら、
「あ、あざす……!」
無愛想な上に、歳上に対して、やや礼を欠いた言葉で謝辞を述べ、
「じゃ、学習室に戻るわ」
と、小嶋夏海に告げ、当初の目的であるトイレに行くことも忘れたまま、オレは四階の学習室へと帰還した。
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思えば、夏季休暇開始一週間たらずの時期に、午前中から夏休みの課題に取り組んだことなど、小学校の低学年以来、なかった気がする。
感染症禍で、外出を控える傾向にあるとはいえ、去年までと比べて、自分の夏休み生活のあり方の変わりぶりに驚きながらも、可笑しくなった。
(これも、小嶋夏海の影響と言えるのか?)
そんなことを考えながら、『夏休みの友』に向き合う。
入館者数を制限している図書館の学習室は静かで、自宅の学習机に向かっている時より、はるかに課題を解いていく進み具合が捗っているように感じたのだが――――――。
九時の入館直後に課題に取り組み始めてから、一時間半が経過した頃、ここまでの成果について、自分なりに手応えを感じつつ、小休憩を取ろうと、階下にあるトイレに行くついでに、文献調査を任せぱなしにしてしまっているパートナーの様子を伺おうと、蔵書の閲覧コーナーを通り過ぎようとすると、小嶋夏海の隣に見知らぬ男が座っていた。
最初は遠目なので、髪型しか確認できなかったが、前髪は、記号の「コンマ」のようにスタイリングされていて、そこからサイド、襟足までがある程度のレングスで揃えられ、丸みを帯びたシルエットが印象的だ。その名の通り、コンマヘアとマッシュルームヘアを合わせたのコンママッシュと呼ばれるヘアスタイルだろうか?
二人が親しげに話している様子を見て、なぜだかわからないが、気まずい想いを感じたため、踵を返そうとしたが、その動作より早く、小嶋夏海に、こちらの存在を気づかれてしまった。
声を出さないように、手を振ってきた彼女に対して、こちらも、ぎこちなく手を上げて応答し、
(ここで引き返すのは不自然だし、仕方ない……)
と、覚悟を決めて、二人のもとに歩み寄る。
ハッキリと顔立ちが確認できる距離まで来たので、彼女の隣に居座る男に目をやると、自分たちより、やや年上に見えた。その輪郭は丸みを帯び、くっきりした目鼻立ちで、髪型だけの雰囲気イケメンでないことが、さらに、心をザワつかせる。
初対面であるオレに対しても、余裕のある面持ちで、
「あぁ、君が坂井クン?」
と、問い掛けてきた。
その人懐っこさを感じさせる表情は、どこかで目にした気がするのだが、流行りのお隣の国の男性アイドルか、それとも、人気ユーチューバーの誰かに似ているのだろうか?
「ハァ、どうも……」
我ながら、無愛想を絵に描いたような返答をしながら、小嶋夏海に、
(誰?)
と、視線を送ると、
「こちら、ツカサさん。図書館の活動でお世話になってて、調べている本のこととか、わからないことを相談してたんだ」
そんな説明が返ってきた。
さらに、ツカサと呼ばれた男が、人懐っこく、さわやかな笑顔で続ける。
「ナツミちゃんとは、この図書館でYAスタッフという活動を一緒にしていたんだ。ボクにできることなら、協力させてもうらうから、遠慮なく聞いてね」
「はぁ、それは、どうも……でも、本の調査で、オレにできることは、ほとんどないんで……すいません、夏休みの課題を進めてるので、もう行かせてもらっていいッスか?」
自分でも、聞いていてイヤになるくらい、素っ気なく返事をしてしまう。
「あ、それは、邪魔をしてゴメン。夏休みの宿題、がんばってね」
こちらの愛想の無い態度にも、顔色一つ変えることなく言葉を返す相手に、さらに、劣等感を刺激されながら、
「あ、あざす……!」
無愛想な上に、歳上に対して、やや礼を欠いた言葉で謝辞を述べ、
「じゃ、学習室に戻るわ」
と、小嶋夏海に告げ、当初の目的であるトイレに行くことも忘れたまま、オレは四階の学習室へと帰還した。