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第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑪

ー/ー



 入学から、わずか二日目にして、高校生活三年分を合わせても収まらないであろう異性がらみのイベントを続けざまに経験したことで、心身ともに疲弊した彼は、十数年ぶりに戻ってきた父親の実家でもある祖父の家に帰り着くなり、自室に直行してベッドに倒れ込んだ。

 クラスの中心的な存在の女子や生徒会長に声を掛けられたことのみならず、彼女たちを含めて、ほとんど面識の女子生徒から好意を向けていることを告げられたこと。

 ただし、それは、リリムと呼ばれる、ヒトならざる者である彼女たちのターゲットになっているという事実。

 そんな自分を守るために、昨日、知り合ったばかりの真中仁美(まなかひとみ)という女子生徒が協力者になってくれたということ……。
 しかも、その協力の中身というのは、自分の恋人役を演じるというモノで……。

 頭の中を整理するために、この日、起こった出来事を思い返すだけでも、脳が沸騰しそうである。

(そりゃ、少しは華のある学生生活を夢見ていたけど……)

 そうした淡い期待と比べて、いくらなんでも、高校生活の冒頭から、立て続けに強烈なイベントが発生しすぎだ。

(それに、北川(きたがわ)さんや東山(ひがしやま)会長にも、ちゃんと、お断りの返事をしないと、なんだよな〜)

 自らの身に及ぶ危機を回避するためとはいえ、ふたたび四人の女子生徒と対峙しなければならない、という現実に、針太朗(しんたろう)の気持ちは沈みがちになる。

(ただ、お断りするにしても、彼女たちからもらった手紙の中身は確認しておくべきだよな〜)

 律儀な性格の彼は、リリムの女子生徒たちが手渡してきた封筒をカバンから取り出し、その内容を確認することにした。
 もちろん、彼が異性から、こうした手紙を受け取ることが初めてだったことや、リリムが、どんな風にターゲットにアプローチをするのかということに興味がなかった訳ではないが……。

 それ以上に、ヒトならざる者の食欲という下心が含まれているとは言え、自分に好意を向けてくれる存在に対して、中身も確認せずに返答を行うというのは、失礼ではないかと感じたからだ。
 そこに綴られた内容が、自分を捕食のターゲットとしか考えていないようなモノであれば、そのことを口実に、彼女たちのアプローチに、断固として「ノー!」と返答すれば良い。

 そう考えた、針太朗(しんたろう)は、まず最初に受け取った薄いイエローの封筒を手に取る。
 レモンのような柑橘系の香りを感じながら、裏側のハート型のシールを丁寧に剥がして、中に入っていた便箋を取り出して文面に目を向ける。

 なかには、女子らしい、やや丸みを帯びた文字が綴られていた。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ハリモト へ

 まずは、手紙をよんでくれて、ありがと!

 急に、『伝説の大樹』に呼び出したり、
 手紙を渡されたりして、驚いたよね?

 LANEのアドレスを交換することも
 考えたんだけど・・・
 この方が、自分の気持ちをまっすぐに
 伝えられそうだから書いてみました

 昨日、ハリモトを初めて見たときに、
 今までにないくらい胸が高鳴った

 こんな気持ちになったのは、
 アタシ自身、はじめてなんだ 

 よければ、LANEのアド交換をして
 友だちになってくれないかな?
 
 P.S:

 編入組のハリモトは、『伝説の大樹』の
 言い伝えは知ってる?

 もし知らなかったら、今度教えてあげる

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 保健室での会話で、養護教諭の幽子(ゆうこ)が語っていたが、自筆の手紙という手段もさることながら、そこに書かれた内容は、針太朗(しんたろう)の想像以上に古風なモノだった。

 北川希衣子(きたがわけいこ)という女子生徒とは、クラスメートになった昨日、知り合ったばかりであり、彼女のことを深く知っているわけではない針太朗(しんたろう)だが……。

 希衣子(けいこ)は、その第一印象とは違い、意外に古風なところがあるのかも知れない。

 あるいは、その()()()()()()を狙った、オトコ心をくすぐるリリムの罠である可能性も十分に考えられるが……。

(とりあえず、他の人のも読んでみるか……)

 まずは、全員のモノを確認してから考えよう、と針太朗(しんたろう)は、ラベンダーの香りが漂う薄いブルーの便箋の封を慎重に剥がす。

 生徒会長によって綴られた文字は、本人のイメージどおり達筆と言って良いモノだった。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 針本針太朗くん

 この文面を目にしてくれたことに感謝する
 
 自分の気持ちを伝えるには、やはり直筆が
 一番だろうと筆を取ってみた次第だ

 先ほど、生徒会室で君を見掛けたときから
 自分でも抑えがたい気持ちに苛まれている

 この胸の苦しみと喜びは、私が(たしな)む弓道の
 大会を迎えるとき以上のものだ

 もっと、君のことを知り、同時に私という
 存在について、君に知ってほしいと感じる

 良ければ、君の率直な意見を聞かせてくれ

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ボールペンで綴られた文字は、まるで、墨を()った細筆で書かれたように、キッチリと「とめ・はね・はらい」があらわれた美文字であった。

「急いでしたためたので、乱筆乱文になってしまっている点は、どうか見過ごしてほしい」
 
 などと、語っていたのが、生徒会長を務める東山奈緒(ひがしやまなお)の謙遜にすぎなかったことが、よく分かる。

 希衣子(けいこ)の文字の可愛らしさと対照的な、その質実剛毅さは、二枚の便箋を並べて、額にでも入れて飾っておきたいと感じるほどだった。


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 入学から、わずか二日目にして、高校生活三年分を合わせても収まらないであろう異性がらみのイベントを続けざまに経験したことで、心身ともに疲弊した彼は、十数年ぶりに戻ってきた父親の実家でもある祖父の家に帰り着くなり、自室に直行してベッドに倒れ込んだ。
 クラスの中心的な存在の女子や生徒会長に声を掛けられたことのみならず、彼女たちを含めて、ほとんど面識の女子生徒から好意を向けていることを告げられたこと。
 ただし、それは、リリムと呼ばれる、ヒトならざる者である彼女たちのターゲットになっているという事実。
 そんな自分を守るために、昨日、知り合ったばかりの|真中仁美《まなかひとみ》という女子生徒が協力者になってくれたということ……。
 しかも、その協力の中身というのは、自分の恋人役を演じるというモノで……。
 頭の中を整理するために、この日、起こった出来事を思い返すだけでも、脳が沸騰しそうである。
(そりゃ、少しは華のある学生生活を夢見ていたけど……)
 そうした淡い期待と比べて、いくらなんでも、高校生活の冒頭から、立て続けに強烈なイベントが発生しすぎだ。
(それに、|北川《きたがわ》さんや|東山《ひがしやま》会長にも、ちゃんと、お断りの返事をしないと、なんだよな〜)
 自らの身に及ぶ危機を回避するためとはいえ、ふたたび四人の女子生徒と対峙しなければならない、という現実に、|針太朗《しんたろう》の気持ちは沈みがちになる。
(ただ、お断りするにしても、彼女たちからもらった手紙の中身は確認しておくべきだよな〜)
 律儀な性格の彼は、リリムの女子生徒たちが手渡してきた封筒をカバンから取り出し、その内容を確認することにした。
 もちろん、彼が異性から、こうした手紙を受け取ることが初めてだったことや、リリムが、どんな風にターゲットにアプローチをするのかということに興味がなかった訳ではないが……。
 それ以上に、ヒトならざる者の食欲という下心が含まれているとは言え、自分に好意を向けてくれる存在に対して、中身も確認せずに返答を行うというのは、失礼ではないかと感じたからだ。
 そこに綴られた内容が、自分を捕食のターゲットとしか考えていないようなモノであれば、そのことを口実に、彼女たちのアプローチに、断固として「ノー!」と返答すれば良い。
 そう考えた、|針太朗《しんたろう》は、まず最初に受け取った薄いイエローの封筒を手に取る。
 レモンのような柑橘系の香りを感じながら、裏側のハート型のシールを丁寧に剥がして、中に入っていた便箋を取り出して文面に目を向ける。
 なかには、女子らしい、やや丸みを帯びた文字が綴られていた。
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ハリモト へ
 まずは、手紙をよんでくれて、ありがと!
 急に、『伝説の大樹』に呼び出したり、
 手紙を渡されたりして、驚いたよね?
 LANEのアドレスを交換することも
 考えたんだけど・・・
 この方が、自分の気持ちをまっすぐに
 伝えられそうだから書いてみました
 昨日、ハリモトを初めて見たときに、
 今までにないくらい胸が高鳴った
 こんな気持ちになったのは、
 アタシ自身、はじめてなんだ 
 よければ、LANEのアド交換をして
 友だちになってくれないかな?
 P.S:
 編入組のハリモトは、『伝説の大樹』の
 言い伝えは知ってる?
 もし知らなかったら、今度教えてあげる
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 保健室での会話で、養護教諭の|幽子《ゆうこ》が語っていたが、自筆の手紙という手段もさることながら、そこに書かれた内容は、|針太朗《しんたろう》の想像以上に古風なモノだった。
 |北川希衣子《きたがわけいこ》という女子生徒とは、クラスメートになった昨日、知り合ったばかりであり、彼女のことを深く知っているわけではない|針太朗《しんたろう》だが……。
 |希衣子《けいこ》は、その第一印象とは違い、意外に古風なところがあるのかも知れない。
 あるいは、その|ギ《・》|ャ《・》|ッ《・》|プ《・》|萌《・》|え《・》を狙った、オトコ心をくすぐるリリムの罠である可能性も十分に考えられるが……。
(とりあえず、他の人のも読んでみるか……)
 まずは、全員のモノを確認してから考えよう、と|針太朗《しんたろう》は、ラベンダーの香りが漂う薄いブルーの便箋の封を慎重に剥がす。
 生徒会長によって綴られた文字は、本人のイメージどおり達筆と言って良いモノだった。
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 針本針太朗くん
 この文面を目にしてくれたことに感謝する
 自分の気持ちを伝えるには、やはり直筆が
 一番だろうと筆を取ってみた次第だ
 先ほど、生徒会室で君を見掛けたときから
 自分でも抑えがたい気持ちに苛まれている
 この胸の苦しみと喜びは、私が|嗜《たしな》む弓道の
 大会を迎えるとき以上のものだ
 もっと、君のことを知り、同時に私という
 存在について、君に知ってほしいと感じる
 良ければ、君の率直な意見を聞かせてくれ
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ボールペンで綴られた文字は、まるで、墨を|摺《す》った細筆で書かれたように、キッチリと「とめ・はね・はらい」があらわれた美文字であった。
「急いでしたためたので、乱筆乱文になってしまっている点は、どうか見過ごしてほしい」
 などと、語っていたのが、生徒会長を務める|東山奈緒《ひがしやまなお》の謙遜にすぎなかったことが、よく分かる。
 |希衣子《けいこ》の文字の可愛らしさと対照的な、その質実剛毅さは、二枚の便箋を並べて、額にでも入れて飾っておきたいと感じるほどだった。