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第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑩

ー/ー



「あの……安心院(あじむ)先生の話しだと、ボクが彼女たちのターゲットになってしまった可能性は高いと思うんですが……リリムに(たましい)を吸い取られないようにするためには、具体的には、どうすれば良いんでしょうか?」

 保健室に移動してきてから確認した映像と養護教諭の解説を聞いて、自身の置かれた状況を突きつけられた針太朗(しんたろう)には、現実に向き合わなければならない、という自覚が芽生えはじめ、ここまで、リリスたちの生体や特長について語ってくれた保健医に、あらためて、対応策について質問する。

 彼の真剣な表情を受け止めながら、幽子(ゆうこ)は、三本の指を立て、これまでと同じように、ゆったりとした口調で語りはじめた。

「リリムの誘惑から逃れるには、三つの方法がある。一つ目は特定の交際相手を見つけて、彼女たちに付け入るスキを与えないこと。二つ目は彼女たちをキミ自身に惚れさせて魂を奪う気を失わせること。そして、三つ目は……妖魔を狩る者(ディアボロス・ハンター)に討伐を依頼することだ」

 相変わらず淡々とした口調で語る養護教諭だが――――――。

 彼女が語った三つの方法というのは、針太朗(しんたろう)にとって、どれも絶望的な内容に思えた。

 特定の交際相手を見つける? そもそも、女子との会話が苦手な自分が、どうやって?
 彼女たちを自分自身に惚れさせて魂を奪う気を失わせる? 地球が滅んでもありえない……。
 妖魔を狩る者(ディアボロス・ハンター)に討伐を依頼する? どこに、そのハンターがいるんだ?
 
「ほ、本当に、その三つしか方法はないんですか?」

 切羽詰まった表情でたずねる男子生徒に対して、幽子(ゆうこ)は、ただ、だまってうなずくのみだ。

「そ、そんな……」

 保健医の無言の回答に、いよいよ絶望的な表情になった針太朗(しんたろう)は、なにかを思いつき、すがるように幽子(ゆうこ)懇願(こんがん)する。

「そ、そうだ、安心院(あじむ)先生! そのナントカ・ハンターに知り合いはいないんですか? お金が必要なら、なんとかして払いますから!」

 アルバイトもしていない高校生が、どうやって、ハンターへの代金を払うのか、という疑問はさておき、その他の選択肢は、彼にとって測定限界値以下の可能性しかないと考えているため、針太朗(しんたろう)は、ワラにもすがる思いで、幽子(ゆうこ)に泣きつく。

 それでも、ひばりヶ丘高校の養護教諭の反応は、この男子生徒の期待するものとは、程遠かった。

妖魔を狩る者(ディアボロス・ハンター)たちに、伝手(つて)が無いわけではないがな……あの連中は、少々、狂信的なところがあってな……リリムをはじめとした、彼らが『人外の妖魔』と呼んでいる存在をことごとく根絶やしにしようとしているんだ。人外の種族との共存共栄を願うのが我が一族の家訓でな。私としては、できれば、ハンターたちの手を借りるような手段は、取りたくはないんだ……」

「いや、でも……」

 ことは、自分自身に降り掛かっている問題なのだ。この際、保健医のポリシーなど、自分の(精神的な)危機には関係ない! そう主張しようとした針太朗(しんたろう)を制し、幽子(ゆうこ)は、おっとりとした口調で彼を諭す。

「落ち着け、針本(はりもと)。そのために、協力者として、キミと同じ学年の仁美(ひとみ)に来てもらったんだ」

 そんな保健医の返答に、彼は、名指しされた同級生に視線を向ける。

()()()()()から、彼女も、私たち一家と同じく、人類と人外の共存を願うという方針が一致していてな。リリムたちに危害を加えることなく、彼女たちが、多くの人類に(るい)を及ぼさないように活動しているんだ。そうだな、仁美(ひとみ)

 幽子(ゆうこ)の問いかけに、ゆっくりとうなずく彼女に目を向けながら、針太朗(しんたろう)は、なおも、質問を重ねる。

「それは、ありがたいお話しですけど……真中(まなか)さんに協力してもらうって……いったい、ナニをどうするんですか?」

 すると、養護教諭は、「やれやれ……ここまで言ってもわからないのか?」という、少々あきれた表情で、男子生徒の疑問に答えた。

「リリムたちに対抗する一つ目の方法は、『特定の交際相手を見つけて、彼女たちに付け入るスキを与えないこと』と説明したな。仁美(ひとみ)には、彼女たちが諦めて手を引くまで、キミに恋人の役を演じてもらおうと考えている」

「な、なんだってぇ~!」

 思わず声をあげる針太朗(しんたろう)に、幽子(ゆうこ)は、余裕のある表情を崩さず、

「おいおい……少年マンガ誌のミステリー調査班のように驚かなくてもいいだろう?」

と、注意をうながす。
 しかし、その当事者である彼が、

「あっ、すいません……ただ、ボクたち令和の時代の人間なので……中年の方々が好みそうな前世紀のマンガのネタ? とかは、よくわからないです」

と返答したところ、眉間にシワを寄せながら、針太朗(しんたろう)のこめかみをワシづかみにして、

「なるほど……キミが、女性との会話を苦手としている理由が良くわかった……今後は、発言に気をつけたまえ」

と語ってから、親指と小指に一気にチカラを込めた。

「ギャ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 アイアン・クローの洗礼を浴びて、今度は、昭和のホラー漫画の登場人物のような叫び声をあげた針太朗(しんたろう)に、仁美(ひとみ)が、

針本(はりもと)くんは、もう少し、不用意な発言に気をつけたほうが良いと思うよ」

と、冷静に注意をうながした。


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「あの……|安心院《あじむ》先生の話しだと、ボクが彼女たちのターゲットになってしまった可能性は高いと思うんですが……リリムに|魂《たましい》を吸い取られないようにするためには、具体的には、どうすれば良いんでしょうか?」
 保健室に移動してきてから確認した映像と養護教諭の解説を聞いて、自身の置かれた状況を突きつけられた|針太朗《しんたろう》には、現実に向き合わなければならない、という自覚が芽生えはじめ、ここまで、リリスたちの生体や特長について語ってくれた保健医に、あらためて、対応策について質問する。
 彼の真剣な表情を受け止めながら、|幽子《ゆうこ》は、三本の指を立て、これまでと同じように、ゆったりとした口調で語りはじめた。
「リリムの誘惑から逃れるには、三つの方法がある。一つ目は特定の交際相手を見つけて、彼女たちに付け入るスキを与えないこと。二つ目は彼女たちをキミ自身に惚れさせて魂を奪う気を失わせること。そして、三つ目は……|妖魔を狩る者《ディアボロス・ハンター》に討伐を依頼することだ」
 相変わらず淡々とした口調で語る養護教諭だが――――――。
 彼女が語った三つの方法というのは、|針太朗《しんたろう》にとって、どれも絶望的な内容に思えた。
 特定の交際相手を見つける? そもそも、女子との会話が苦手な自分が、どうやって?
 彼女たちを自分自身に惚れさせて魂を奪う気を失わせる? 地球が滅んでもありえない……。
 |妖魔を狩る者《ディアボロス・ハンター》に討伐を依頼する? どこに、そのハンターがいるんだ?
「ほ、本当に、その三つしか方法はないんですか?」
 切羽詰まった表情でたずねる男子生徒に対して、|幽子《ゆうこ》は、ただ、だまってうなずくのみだ。
「そ、そんな……」
 保健医の無言の回答に、いよいよ絶望的な表情になった|針太朗《しんたろう》は、なにかを思いつき、すがるように|幽子《ゆうこ》に|懇願《こんがん》する。
「そ、そうだ、|安心院《あじむ》先生! そのナントカ・ハンターに知り合いはいないんですか? お金が必要なら、なんとかして払いますから!」
 アルバイトもしていない高校生が、どうやって、ハンターへの代金を払うのか、という疑問はさておき、その他の選択肢は、彼にとって測定限界値以下の可能性しかないと考えているため、|針太朗《しんたろう》は、ワラにもすがる思いで、|幽子《ゆうこ》に泣きつく。
 それでも、ひばりヶ丘高校の養護教諭の反応は、この男子生徒の期待するものとは、程遠かった。
「|妖魔を狩る者《ディアボロス・ハンター》たちに、|伝手《つて》が無いわけではないがな……あの連中は、少々、狂信的なところがあってな……リリムをはじめとした、彼らが『人外の妖魔』と呼んでいる存在をことごとく根絶やしにしようとしているんだ。人外の種族との共存共栄を願うのが我が一族の家訓でな。私としては、できれば、ハンターたちの手を借りるような手段は、取りたくはないんだ……」
「いや、でも……」
 ことは、自分自身に降り掛かっている問題なのだ。この際、保健医のポリシーなど、自分の(精神的な)危機には関係ない! そう主張しようとした|針太朗《しんたろう》を制し、|幽子《ゆうこ》は、おっとりとした口調で彼を諭す。
「落ち着け、|針本《はりもと》。そのために、協力者として、キミと同じ学年の|仁美《ひとみ》に来てもらったんだ」
 そんな保健医の返答に、彼は、名指しされた同級生に視線を向ける。
「|と《・》|あ《・》|る《・》|事《・》|情《・》から、彼女も、私たち一家と同じく、人類と人外の共存を願うという方針が一致していてな。リリムたちに危害を加えることなく、彼女たちが、多くの人類に|累《るい》を及ぼさないように活動しているんだ。そうだな、|仁美《ひとみ》」
 |幽子《ゆうこ》の問いかけに、ゆっくりとうなずく彼女に目を向けながら、|針太朗《しんたろう》は、なおも、質問を重ねる。
「それは、ありがたいお話しですけど……|真中《まなか》さんに協力してもらうって……いったい、ナニをどうするんですか?」
 すると、養護教諭は、「やれやれ……ここまで言ってもわからないのか?」という、少々あきれた表情で、男子生徒の疑問に答えた。
「リリムたちに対抗する一つ目の方法は、『特定の交際相手を見つけて、彼女たちに付け入るスキを与えないこと』と説明したな。|仁美《ひとみ》には、彼女たちが諦めて手を引くまで、キミに恋人の役を演じてもらおうと考えている」
「な、なんだってぇ~!」
 思わず声をあげる|針太朗《しんたろう》に、|幽子《ゆうこ》は、余裕のある表情を崩さず、
「おいおい……少年マンガ誌のミステリー調査班のように驚かなくてもいいだろう?」
と、注意をうながす。
 しかし、その当事者である彼が、
「あっ、すいません……ただ、ボクたち令和の時代の人間なので……中年の方々が好みそうな前世紀のマンガのネタ? とかは、よくわからないです」
と返答したところ、眉間にシワを寄せながら、|針太朗《しんたろう》のこめかみをワシづかみにして、
「なるほど……キミが、女性との会話を苦手としている理由が良くわかった……今後は、発言に気をつけたまえ」
と語ってから、親指と小指に一気にチカラを込めた。
「ギャ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
 アイアン・クローの洗礼を浴びて、今度は、昭和のホラー漫画の登場人物のような叫び声をあげた|針太朗《しんたろう》に、|仁美《ひとみ》が、
「|針本《はりもと》くんは、もう少し、不用意な発言に気をつけたほうが良いと思うよ」
と、冷静に注意をうながした。