龍樹の想い
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トウカが欲しかった。僕だって男だ。トウカが自分を差し出してくれると言うなら受け取りたかった。抱きしめたかった。トウカに僕という存在を刻みつけ、トウカと一つになりたい。 そう思う気持ちに嘘はなかった。 でも怖かった。キスを拒まれたあの時の事が頭から離れなかった。 トウカは違うと、過去の出来事のせいで怖くなっただけだと言ってくれたけど……キスの時でさえ、あれ程の反応をされたのだ。 もしあの日、トウカの言葉を受け入れトウカを抱きしめ、肌を重ねた瞬間にまた、あの様な拒絶をされたら……そう思うと僕は耐えられなかった。 トウカに憧れていた。誰からも好かれ、常に人を優しく包み込むその空気が好きだった。 容姿が美しい、それは事実。 僕は彼女と自分が同じ「人間」であると信じることは出来ない。 だから僕は彼女に、好きであると同時に憧れていた。 いやそれはむしろ崇拝に近いかもしれない。 中学生の多感な頃、クラスメイトが「女子はオレたちと違って、排泄なんてしないんだ」といっていた幼稚な理論。 それに近い位の、気持ちは持っていたのかもしれない。 もちろんいい年をした僕が、本気でそう思うわけはない。 でもそう思えるくらいに彼女を好きで、愛して、憧れて、そして崇拝していた。 だから彼女の、些細な、本当に小さなキズが気になった。 好きな彼女と、人生で最高に幸せになる瞬間に拒絶されることが怖かった。 彼女は嫌な思い出を、僕との想い出で上書きしたいと言ってくれたけども僕は……。 そこで僕はようやく気がついた。 そうか、そうだったのか……。 僕は汚れなき純白のトウカを、僕という名のインクで汚すことを恐れていた 天上で光り輝く女神を、地上に引きずり下ろしただの女にしてしまうことが怖かった。 僕は僕の理想のトウカが、ただのエンドウトウカになることが、いやただのエンドウトウカに、他ならぬ僕自身の手で変えてしまうことが怖かったのだ。 なんて幼稚で、自分勝手で、狭量なんだろうか。 こんな僕が、トウカを好きだと、愛していると、言って良いのだろうか、思って良いのだろうか自分の心の真実に、ようやく手をかけることが出来たはずなのに、答えはさらに遠いところに離れていってしまったような、そんな気持ちになった。
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