外野席正面
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いつも通りの時間に仕事が終わった。走りつつ、避けつつ、先を急ぐ。 試合開始まではわずかしかなく、平日の試合とはいえドキドキとしていた。チケットは昼の休憩中に確認した。今日の日付であることも、ばっちりだ。 電車の中では、上がりきった息は治らないことだろう。明らかに行き先の同じ人たちが周囲にもちらほらいる。自分のように、スーツ姿であっても端々にカラフルな色合いが見える。少し安心する。私もかばんの中には存在させている。 昔、自分の地元に来てくれた選手のマフラータオルと、細いメガホン。カチャカチャ鳴らすのは風情がないときちんタオルでくるんでいる。 準備をして、仕事を定時に終え、駆ける。なんのために、と言われたら、わずかばかりの一瞬のため、と言えるだろう。 最寄り駅のアナウンス。まもなく降り立つ戦場。 自由席だから、というのもあるだろう。自分だけの特等席などない。 このエリア一帯がすべてをまとめる、という形だけだろう。 歓声も、罵声もないまぜになる瞬間。アナウンサーの響く声。飛ばすヤジ。音を感じる。世界には自分しかいないような感覚になって。観客も私もすべてが背景になる。 画面の内側だけで世界は回る。目の前の景色も、自分の目というレンズを通した情報でしかない。 大切なことなんて。どこにもなかったのに、ここにきてしまえば、すぐに世界を変わってしまうだろう。 自分もいないのに自分だけがいる世界。 壁に乗ってしまったように、天井に乗ってしまったように。その床の一枚だけを成立させるように。 彼らの全てを受け止める大木の。存在。 世界は、美しいと、思った。 代わりなどいる世界のなか。 自分は、目の前の光景と一体となり。 世界は自分の中に生まれたように思った。
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