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第六十六話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 魔法師の連携によって唱えられた魔法は、アマンダの精神体を魔力を持たない者たちの目にも、はっきりと映し出すことが出来た。
 アルタリアは思わず一歩踏み出したヘイノを制しながら、終わっていない、と告げる。
 ハンナが手に集中させた光を開放しようとしたとき、突然彼女の体が押され、尻餅をついてしまった。
 直後、光り輝いていたペンタグラムも消えてしまう。
 「だ、大丈夫か」
 「あたたた。う、うん」
 情報屋が差し出した手を握り立ち上がるハンナ。他の魔女たちは、驚いて動けないようだ。
 「何があった」
 「わ、わかんない。魔法を発動しようとしたら、はじかれた、感じ」
 「はじかれたって。アマンダがか?」
 「ううん、違う。内側からじゃなくて、外側から圧力がかかった感じ」
 元の位置に戻りながら二人は話す。会話を聞いていたフィリアは空に向かって、
 「あんたが無効化したのかい」
 『すまなかったな。気がついたら始まっていたので、強制的に無効化させてもらった』
 と、女性の声。情報屋と風の魔女以外は、聞き覚えの無い音のようだ。
 『体から出たり入ったりすると生命力が消耗すると聞いてな』
 「出たりはいったりって。どういう意味」
 『その娘にはある魔法を授けたいのだ。それには、精神体のままでいる必要があってな』
 「そんなこと聞いてないんだけど」
 『不手際、すまぬな。事情が変わったのだ』
 「事情?」
 『ちゃんと説明する。時間が欲しい故、先にこちらに来てもらえぬか。その方がその娘の負担も軽減しよう』
 情報屋は声の主とやり取りし、フィリアに気持ちを向ける。感じ取った彼女は、頭を上下に軽く動かし、
 「ちゃあんと説明してもらうからね」
 『勿論だ、友よ。そうだ、魔法を唱えた娘も来ると良い』
 「わ、私、ですか」
 『うむ。但し、戦う覚悟があるのならばの話だが』
 俯くハンナ。情報屋は声に対し、
 「こいつは関係ねーだろ。元々サポートで頼んだだけなんだ」
 『お前には聞いておらぬ』
 「っ」
 「い、行きます。ううん、連れてってくださいっ」
 「ハンナッ」
 少々涙目になりながら、女の子は情報屋を睨む。
 「貴方だって戦ってるじゃない。魔法師として、一族の代表して戦うわ」
 「バカいってんじゃねぇって。お前の能力だとキツすぎる」
 「単独だとね。でも、アマンダ様のサポートとしてなら別じゃない」
 『むしろ、そなたがいなければ厳しくなろうな』
 あおるな、と思った情報屋だが、声の威圧と少女の圧で口が動かないでいる。
 「一族の力が役にたつのは、今しかないの。この技術も、戦争のために使うものじゃないって、証明したい。心配してくれてありがとう」
 「べ、別に、心配なんかしてねーし」
 「素直じゃないねえ」
 「だから、違うっつーのっ」
 「ツンデレっていうのよね~、うふふ」
 年上の女性にからかわれてしまい、キッと、視線を送る情報屋。口にしていないリューデリアの顔は、微笑ましい表情である。
 勝手にしろっ、と、フードをくしゃくしゃにしながら、情報屋はヘイノたちのほうへ歩いて行く。
 「からかいすぎたかしらね~。私たちはどうしましょ~」
 『ちょうど属性が揃っている様だから、発動はそちらに任せよう』
 ひらひら、と一枚の紙が落ちて来る。サイヤの手元には、ペンタグラムの右上と左上が、通常より下がっている、いびつな形をしたモノが描かれていた。
 「見たことないな法陣だな」
 「そうねぇ~」
 「どんなんだい」
 と、フィリア。眉を吊り上げると、結構魔力使うね、と話す。風の魔女は顔を上げ、
 「生身の人間に使っても問題ないのかい」
 『ちゃんと調整する』
 「そうかい。これは天移魔法っていう特殊なヤツでね。死んだ魂をまとめてヴァルハラに送るために創られたモンなのさ」
 数千年前、戦争が頻繁に起こった時代に使用されたという。本来ならばヴァルキリーが迎えに行くのだが、スカウトしたい人間が多かったため、マーキングした後にまとめて呼んだそうだ。
 「まさかこの目で神の魔法を拝めるなんてねえ」
 リューデリアとサイヤは、瞬きすることしか出来ないでいた。
 情報屋がヘイノたちを連れて来ると、フィリアは声の主から預かった魔法の説明をする。目が点になる一行だが、提案した声の主はいたって真面目に話をしていると伝えた。
 「アタシらとスケールが違うからね。理解出来ると思わないほうが良いよ。向こうに行ってもね」
 「という事は、我々は天上に行くのですね」
 「その様だね」
 他にも思うことがあったフィリアだが、口に出さずにおいた。
 どちらにしても、アマンダを救うには、行くしかない。
 一同はリューデリアとサイヤを中心にして掘られた魔法陣の上に乗った。湖に伸びた星の先を見据えながら、関係者以外と魔力を供給する者たちは中央から外に出る。
 時計回りにサイヤ、フィリア、リューデリア、情報屋とハンナが立つと湖面が波打ち始めた。
 徐々に激しくなっていく水面は、鳥が一斉に飛び立ったかのようになり、次第に地響きが鳴り響く。
 周囲にいた野鳥が驚き逃げて行く間、湖の中心が割れ、ゆっくりとヒビを大きくしていく。
 震動が止まると、目の前には、縦長にぱっかりと口を開いた湖があった。
 『湖の底は歩きにくかろうが、一番安全でもある。さあ、来るが良い』
 「な、なあ。この水ってよ、いきなり閉じたりしねえよな」
 『鍵を開けぬ限りは問題ないぞ。さあ、邪魔が入らぬうちに急ぐが良い』
 「何だって?」
 一行は見渡した。誰もいなかったはずの周囲に、闇色の装束を来た一団が出現していたのである。
 「あれは、コラレダの暗殺部隊だね」
 「んまあ、あれだけ派手な反応が出りゃあ、気づかれちまうか。さて」
 スラ、と剣を抜く風の魔女。アルタリアは、非戦闘員と魔法陣の保護の為に風の結界を張る。
 「一般人相手じゃあアタシらは分が悪い。早く行きな」
 「分が悪いって。どうすんだよじゃあっ」
 「時間稼ぎの小細工はするさ。でもこの人数じゃあ確実に突破されるから対応しとくれ」
 「魔法師じゃねーから戦いづれーぞ。どうすっか」
 「私が殿を務めましょう」
 「ちょっとちょっと。エスコ様を置いてく気ー」
 「エスコは後で合流できっから、先にオレたちがいかねーと」
 「分かった。全員、湖の中へっ」
 アードルフを最後尾に、一行は走り出した。
 「水にさわんなよ、飲みこまれちまうっ」
 魔法師たちは飛行魔法で先行し、走る者たちはアマンダを抱えたヘイノを先頭に、ヤロ、ギルバート、イスモ、アードルフで駆け抜ける。
 一行が湖の底に下りたと同時に鳴り響く金属音は、三分の一まで移動しても届いていた。
 先を急ぐヘイノたちの前に、側面から飛び出して来た暗殺者らが出現。ヤロが腰に下げていたショートソードを引き、最前線に出る。
 そこに、連中の後ろから情報屋が飛び蹴りを放った。傭兵から見て右側の敵の頭に入り、よろけたところに今度は風を圧縮した弾を放つ。
 さすがに耐え切れず数歩動いた暗殺者は水の壁に触れた。すると、体が勢い良く地面に叩きつけられ、終いには湖の中へと消えて行く。
 ヤロは反射的に残った一人の顔面にストレートをぶち込み、同じ末路を辿らせた。
 「成程、それで先程触れるなと」
 「そーゆーコト。本来はアマンダだけ先に送る予定だったんだけど」
 「そうか。援護を頼む」
 「ああ」
 短く返事をした情報屋は、ふありと浮き、足元をすり抜けさせる。少し離れていたアードルフが対応している暗殺者に先程の弾を炸裂させた。
 水の壁の特性を伝えると、傭兵は走り出し、魔法師は後ろを伺いながら飛んで行く。
 威力の弱い滝の先にある扉の近くにも現れていた暗殺者らは、魔法師たちが上手く対応したらしく、血痕だけが残っていた。
 「無事だったか」
 「そちらも。怪我は無いかい」
 「ああ。先程の声が湖に放り込めと教えてくれてな。武器だけで何とかなった」
 「良かった」
 「狭いから動きにくかったぜ」
 「逆側からはでれるのに、こっちからはダメだなんて不思議だね。助かったけど」
 一息ついた走行組はアードルフと情報屋の到着を待つ。しかし、十分以上経過しても姿を見せない。
 さらに五分がたちそわそわし始めた頃、ようやく合流した。しかし、情報屋はびしょびしょになってぐったりしており、アードルフに左腕で抱えられている。
 奥に移動してゆっくりと下ろしながら、
 「申し訳ありません、鉤爪で湖の中に引きずり込まれました」
 「意識は」
 「ございます。ですが相当のダメージを受けました」
 サイヤから回復呪文を受ける情報屋だが、確かに指を動かすのもままならない様子。これでは扉を開けられない。
 「くるよっ」
 イスモの声で構えた傭兵組。ヘイノはアマンダをハンナに預けると剣を抜く。
 「リューデリア、結界を張って凌げるか」
 「うむ」
 「できれば大きめに張ってくれる。背後から攻撃されても面倒だから」
 「分かった」
 扉面に位置する壁を含め、全員が入れる程の大きさの結界を張った魔女。赤い色をした薄壁は、相手の飛び道具を無き者にする。
 一瞬たじろいだ隙を元暗殺者は見逃さず、一気に距離を詰め短剣で首元を引き裂いた。倒れた音と共に引き返し、再び結界の中に入る。
 残りの四人も一斉に飛び出すと力づくで水の壁まで押しのけていき、それぞれのタイミングで所定位置まで戻った。
 しかし、次々に現れる刺客は減る気配が無い。
 「キリがないねー」
 「旦那、何か良い考えはねえのか」
 「考え中だ」
 「イスモはともかく、オレたちにゃちょっとキツくなってきたぜ」
 岩でもありゃいいんだがよ、とヤロ。削ればあるが、当然それどころではない。
 「岩があればいいんですか」
 「だな。ぶん投げられれば結界から出ずに済む」
 「なら私が作ります。アマンダ様をお願いできますか」
 「お、おう」
 ヤロが一旦後ろに引き、令嬢を預かる。手の空いたハンナは、両手を地面につけて集中し始めた。
 小さな揺れが起こると、小さな光の円の上に大小様々な石が固まって、突起状に出現する。
 少女は立ち上がると先端から魔法を掛け、石を一気に崩した。
 「これで投げられると思います」
 「ありがてえ。助かったぜ、嬢ちゃん」
 早速手に持ち、適当に石を投げる。簡単によけられてしまったが、また別の角度から投げられた塊が直撃し、水の壁の彼方へと去って行く。
 「俺にあてないでよ」
 「んー。日頃の行い次第かなー」
 ガコ、と笑いながら持ち上げるギルバート。イスモも意地の悪い笑みで、
 「あんたがいうと冗談に聞こえないよ」
 と口にする。彼は端のほうに移動しながら、ヒットアンドウェイを繰り返す。
 「う、ってぇ」
 「大丈夫~」
 「だいぶ。いしき、はっきりしてきた」
 ゆっくりと上体を起こす情報屋。まだ全身がきしむが、耳に入って来る音が、状況を知らせていた。
 サイヤは子供の耳元で、
 「鍵あけるのに、魔力使うの~」
 「証明ぐらいだって。むしろ詠唱のほうが大事」
 「そう。しゃべれる?」
 「やってみる。このままじゃマズいし」
 「わかったわ~。はい、これ」
 キュポ、と蓋を開けながら差し出されたビン。飲み干すと、咳き込みながら返した。
 扉の前まで這って行こうとするが、そこまで体はいうことを利かない。察した魔法医は、肩を貸して近づいて行く。
 様子を見ていたリューデリアは、ハンナの代わりにアマンダを抱えながら、
 「イスモ、結果内に」
 と注意して魔法を唱える。指に集まった魔力をパチンとはじくと、結界の周りに三つの火の玉が発生した。
 驚いた暗殺者たちは一行と距離を取る。火の玉は意識を持ったが如くに八の字を描きながら飛んでいた。
 その間、情報屋は扉に両手をつけ、魔法師ですら聞き取れない何かをつぶやく。詠唱が終わると同時に扉の中央下から上に光が程走り、やがて全体へと伝わる。
 目も開けられない強烈な光が発生すると、一行の感覚がなくなっていった。
 視界を奪うものがなくなると、全員の感覚も戻り、我が目を疑った。御伽噺に出て来るような、立派な神殿が目の前にあったのである。
 「ようこそヴァルハラへ。案内しよう」
 柱の陰から出て来たのは、あの声をした女性だった。


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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 魔法師の連携によって唱えられた魔法は、アマンダの精神体を魔力を持たない者たちの目にも、はっきりと映し出すことが出来た。
 アルタリアは思わず一歩踏み出したヘイノを制しながら、終わっていない、と告げる。
 ハンナが手に集中させた光を開放しようとしたとき、突然彼女の体が押され、尻餅をついてしまった。
 直後、光り輝いていたペンタグラムも消えてしまう。
 「だ、大丈夫か」
 「あたたた。う、うん」
 情報屋が差し出した手を握り立ち上がるハンナ。他の魔女たちは、驚いて動けないようだ。
 「何があった」
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 「はじかれたって。アマンダがか?」
 「ううん、違う。内側からじゃなくて、外側から圧力がかかった感じ」
 元の位置に戻りながら二人は話す。会話を聞いていたフィリアは空に向かって、
 「あんたが無効化したのかい」
 『すまなかったな。気がついたら始まっていたので、強制的に無効化させてもらった』
 と、女性の声。情報屋と風の魔女以外は、聞き覚えの無い音のようだ。
 『体から出たり入ったりすると生命力が消耗すると聞いてな』
 「出たりはいったりって。どういう意味」
 『その娘にはある魔法を授けたいのだ。それには、精神体のままでいる必要があってな』
 「そんなこと聞いてないんだけど」
 『不手際、すまぬな。事情が変わったのだ』
 「事情?」
 『ちゃんと説明する。時間が欲しい故、先にこちらに来てもらえぬか。その方がその娘の負担も軽減しよう』
 情報屋は声の主とやり取りし、フィリアに気持ちを向ける。感じ取った彼女は、頭を上下に軽く動かし、
 「ちゃあんと説明してもらうからね」
 『勿論だ、友よ。そうだ、魔法を唱えた娘も来ると良い』
 「わ、私、ですか」
 『うむ。但し、戦う覚悟があるのならばの話だが』
 俯くハンナ。情報屋は声に対し、
 「こいつは関係ねーだろ。元々サポートで頼んだだけなんだ」
 『お前には聞いておらぬ』
 「っ」
 「い、行きます。ううん、連れてってくださいっ」
 「ハンナッ」
 少々涙目になりながら、女の子は情報屋を睨む。
 「貴方だって戦ってるじゃない。魔法師として、一族の代表して戦うわ」
 「バカいってんじゃねぇって。お前の能力だとキツすぎる」
 「単独だとね。でも、アマンダ様のサポートとしてなら別じゃない」
 『むしろ、そなたがいなければ厳しくなろうな』
 あおるな、と思った情報屋だが、声の威圧と少女の圧で口が動かないでいる。
 「一族の力が役にたつのは、今しかないの。この技術も、戦争のために使うものじゃないって、証明したい。心配してくれてありがとう」
 「べ、別に、心配なんかしてねーし」
 「素直じゃないねえ」
 「だから、違うっつーのっ」
 「ツンデレっていうのよね~、うふふ」
 年上の女性にからかわれてしまい、キッと、視線を送る情報屋。口にしていないリューデリアの顔は、微笑ましい表情である。
 勝手にしろっ、と、フードをくしゃくしゃにしながら、情報屋はヘイノたちのほうへ歩いて行く。
 「からかいすぎたかしらね~。私たちはどうしましょ~」
 『ちょうど属性が揃っている様だから、発動はそちらに任せよう』
 ひらひら、と一枚の紙が落ちて来る。サイヤの手元には、ペンタグラムの右上と左上が、通常より下がっている、いびつな形をしたモノが描かれていた。
 「見たことないな法陣だな」
 「そうねぇ~」
 「どんなんだい」
 と、フィリア。眉を吊り上げると、結構魔力使うね、と話す。風の魔女は顔を上げ、
 「生身の人間に使っても問題ないのかい」
 『ちゃんと調整する』
 「そうかい。これは天移魔法っていう特殊なヤツでね。死んだ魂をまとめてヴァルハラに送るために創られたモンなのさ」
 数千年前、戦争が頻繁に起こった時代に使用されたという。本来ならばヴァルキリーが迎えに行くのだが、スカウトしたい人間が多かったため、マーキングした後にまとめて呼んだそうだ。
 「まさかこの目で神の魔法を拝めるなんてねえ」
 リューデリアとサイヤは、瞬きすることしか出来ないでいた。
 情報屋がヘイノたちを連れて来ると、フィリアは声の主から預かった魔法の説明をする。目が点になる一行だが、提案した声の主はいたって真面目に話をしていると伝えた。
 「アタシらとスケールが違うからね。理解出来ると思わないほうが良いよ。向こうに行ってもね」
 「という事は、我々は天上に行くのですね」
 「その様だね」
 他にも思うことがあったフィリアだが、口に出さずにおいた。
 どちらにしても、アマンダを救うには、行くしかない。
 一同はリューデリアとサイヤを中心にして掘られた魔法陣の上に乗った。湖に伸びた星の先を見据えながら、関係者以外と魔力を供給する者たちは中央から外に出る。
 時計回りにサイヤ、フィリア、リューデリア、情報屋とハンナが立つと湖面が波打ち始めた。
 徐々に激しくなっていく水面は、鳥が一斉に飛び立ったかのようになり、次第に地響きが鳴り響く。
 周囲にいた野鳥が驚き逃げて行く間、湖の中心が割れ、ゆっくりとヒビを大きくしていく。
 震動が止まると、目の前には、縦長にぱっかりと口を開いた湖があった。
 『湖の底は歩きにくかろうが、一番安全でもある。さあ、来るが良い』
 「な、なあ。この水ってよ、いきなり閉じたりしねえよな」
 『鍵を開けぬ限りは問題ないぞ。さあ、邪魔が入らぬうちに急ぐが良い』
 「何だって?」
 一行は見渡した。誰もいなかったはずの周囲に、闇色の装束を来た一団が出現していたのである。
 「あれは、コラレダの暗殺部隊だね」
 「んまあ、あれだけ派手な反応が出りゃあ、気づかれちまうか。さて」
 スラ、と剣を抜く風の魔女。アルタリアは、非戦闘員と魔法陣の保護の為に風の結界を張る。
 「一般人相手じゃあアタシらは分が悪い。早く行きな」
 「分が悪いって。どうすんだよじゃあっ」
 「時間稼ぎの小細工はするさ。でもこの人数じゃあ確実に突破されるから対応しとくれ」
 「魔法師じゃねーから戦いづれーぞ。どうすっか」
 「私が殿を務めましょう」
 「ちょっとちょっと。エスコ様を置いてく気ー」
 「エスコは後で合流できっから、先にオレたちがいかねーと」
 「分かった。全員、湖の中へっ」
 アードルフを最後尾に、一行は走り出した。
 「水にさわんなよ、飲みこまれちまうっ」
 魔法師たちは飛行魔法で先行し、走る者たちはアマンダを抱えたヘイノを先頭に、ヤロ、ギルバート、イスモ、アードルフで駆け抜ける。
 一行が湖の底に下りたと同時に鳴り響く金属音は、三分の一まで移動しても届いていた。
 先を急ぐヘイノたちの前に、側面から飛び出して来た暗殺者らが出現。ヤロが腰に下げていたショートソードを引き、最前線に出る。
 そこに、連中の後ろから情報屋が飛び蹴りを放った。傭兵から見て右側の敵の頭に入り、よろけたところに今度は風を圧縮した弾を放つ。
 さすがに耐え切れず数歩動いた暗殺者は水の壁に触れた。すると、体が勢い良く地面に叩きつけられ、終いには湖の中へと消えて行く。
 ヤロは反射的に残った一人の顔面にストレートをぶち込み、同じ末路を辿らせた。
 「成程、それで先程触れるなと」
 「そーゆーコト。本来はアマンダだけ先に送る予定だったんだけど」
 「そうか。援護を頼む」
 「ああ」
 短く返事をした情報屋は、ふありと浮き、足元をすり抜けさせる。少し離れていたアードルフが対応している暗殺者に先程の弾を炸裂させた。
 水の壁の特性を伝えると、傭兵は走り出し、魔法師は後ろを伺いながら飛んで行く。
 威力の弱い滝の先にある扉の近くにも現れていた暗殺者らは、魔法師たちが上手く対応したらしく、血痕だけが残っていた。
 「無事だったか」
 「そちらも。怪我は無いかい」
 「ああ。先程の声が湖に放り込めと教えてくれてな。武器だけで何とかなった」
 「良かった」
 「狭いから動きにくかったぜ」
 「逆側からはでれるのに、こっちからはダメだなんて不思議だね。助かったけど」
 一息ついた走行組はアードルフと情報屋の到着を待つ。しかし、十分以上経過しても姿を見せない。
 さらに五分がたちそわそわし始めた頃、ようやく合流した。しかし、情報屋はびしょびしょになってぐったりしており、アードルフに左腕で抱えられている。
 奥に移動してゆっくりと下ろしながら、
 「申し訳ありません、鉤爪で湖の中に引きずり込まれました」
 「意識は」
 「ございます。ですが相当のダメージを受けました」
 サイヤから回復呪文を受ける情報屋だが、確かに指を動かすのもままならない様子。これでは扉を開けられない。
 「くるよっ」
 イスモの声で構えた傭兵組。ヘイノはアマンダをハンナに預けると剣を抜く。
 「リューデリア、結界を張って凌げるか」
 「うむ」
 「できれば大きめに張ってくれる。背後から攻撃されても面倒だから」
 「分かった」
 扉面に位置する壁を含め、全員が入れる程の大きさの結界を張った魔女。赤い色をした薄壁は、相手の飛び道具を無き者にする。
 一瞬たじろいだ隙を元暗殺者は見逃さず、一気に距離を詰め短剣で首元を引き裂いた。倒れた音と共に引き返し、再び結界の中に入る。
 残りの四人も一斉に飛び出すと力づくで水の壁まで押しのけていき、それぞれのタイミングで所定位置まで戻った。
 しかし、次々に現れる刺客は減る気配が無い。
 「キリがないねー」
 「旦那、何か良い考えはねえのか」
 「考え中だ」
 「イスモはともかく、オレたちにゃちょっとキツくなってきたぜ」
 岩でもありゃいいんだがよ、とヤロ。削ればあるが、当然それどころではない。
 「岩があればいいんですか」
 「だな。ぶん投げられれば結界から出ずに済む」
 「なら私が作ります。アマンダ様をお願いできますか」
 「お、おう」
 ヤロが一旦後ろに引き、令嬢を預かる。手の空いたハンナは、両手を地面につけて集中し始めた。
 小さな揺れが起こると、小さな光の円の上に大小様々な石が固まって、突起状に出現する。
 少女は立ち上がると先端から魔法を掛け、石を一気に崩した。
 「これで投げられると思います」
 「ありがてえ。助かったぜ、嬢ちゃん」
 早速手に持ち、適当に石を投げる。簡単によけられてしまったが、また別の角度から投げられた塊が直撃し、水の壁の彼方へと去って行く。
 「俺にあてないでよ」
 「んー。日頃の行い次第かなー」
 ガコ、と笑いながら持ち上げるギルバート。イスモも意地の悪い笑みで、
 「あんたがいうと冗談に聞こえないよ」
 と口にする。彼は端のほうに移動しながら、ヒットアンドウェイを繰り返す。
 「う、ってぇ」
 「大丈夫~」
 「だいぶ。いしき、はっきりしてきた」
 ゆっくりと上体を起こす情報屋。まだ全身がきしむが、耳に入って来る音が、状況を知らせていた。
 サイヤは子供の耳元で、
 「鍵あけるのに、魔力使うの~」
 「証明ぐらいだって。むしろ詠唱のほうが大事」
 「そう。しゃべれる?」
 「やってみる。このままじゃマズいし」
 「わかったわ~。はい、これ」
 キュポ、と蓋を開けながら差し出されたビン。飲み干すと、咳き込みながら返した。
 扉の前まで這って行こうとするが、そこまで体はいうことを利かない。察した魔法医は、肩を貸して近づいて行く。
 様子を見ていたリューデリアは、ハンナの代わりにアマンダを抱えながら、
 「イスモ、結果内に」
 と注意して魔法を唱える。指に集まった魔力をパチンとはじくと、結界の周りに三つの火の玉が発生した。
 驚いた暗殺者たちは一行と距離を取る。火の玉は意識を持ったが如くに八の字を描きながら飛んでいた。
 その間、情報屋は扉に両手をつけ、魔法師ですら聞き取れない何かをつぶやく。詠唱が終わると同時に扉の中央下から上に光が程走り、やがて全体へと伝わる。
 目も開けられない強烈な光が発生すると、一行の感覚がなくなっていった。
 視界を奪うものがなくなると、全員の感覚も戻り、我が目を疑った。御伽噺に出て来るような、立派な神殿が目の前にあったのである。
 「ようこそヴァルハラへ。案内しよう」
 柱の陰から出て来たのは、あの声をした女性だった。