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第六十五話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 フィランダリア王国の北東に、世界最大級の湖がある。どうもその場所に神殿への入口があるらしいのだが。
 魔法の国で伝わる神話では大戦後に海に沈んだと伝わっているという。もっとも、同一の建物なのかどうかは不明である。
 「アタシもアルタリアも初耳だからねえ。この子を疑う訳じゃないんだけど」
 と風の魔女。日課である散歩中に子供の相棒を見つけたそうで、一行と合流したのだ。
 「にしても姉ちゃん。散歩って距離じゃねえだろ。どうやって来たんだ」
 「空飛んでさ。気分で方角を決めて世界一周するのが楽しくてね」
 「スケールが違いすぎて、何ていうかね」
 「んなコトできんの、この人ぐらいだから。フツーは半分でもダウンするし」
 「毎日旅行気分になりそうでいいなー」
 「そうなんだよ。気になった店があったらすぐに行けて便利なんだ」
 けらけらと笑うフィリア。エスコに渡したいものがあるらしく、扉の前に行ったら連絡して欲しいと残し、散歩を再開した。
 「嵐のような人だよね。パワフルというか」
 「昔から行動力があるからな。さすがに驚かなくなった」
 「兄貴、それはそれでヤバい気がすんだが」
 「まあー、昔はそうだったのかもよー。目の前で突然フワリと浮いたりー」
 「魔法は手品じゃねーっつの」
 「種も仕かけもありません、って?」
 「そりゃあんたの腕だろ」
 「残念ながら、俺のはどっちもあるんでね。よくない技術だけど」
 雑談をしながら、観光用に整備されている道を行く一行。それはそれは平和な時間であった。
 視界の開けた道の先には、うっそうと茂る木々が見え始める。情報屋が懸念していたのは、この辺りの地形であった。淡水の周りには自然が多く存在するのは自明の理だからだ。
 「んー。これは横からの狙撃に弱くなるねー」
 「そうだな。イスモ、準備を頼む」
 「了解」
 アードルフが中心となり、陣形を決めて行く。最前に彼とヤロ、最後尾にギルバートを置き、魔法師は荷台や馬車の中で待機することになった。万が一、飛び道具が飛んできた場合は、魔道具を使った障壁を張ることになっている。
 なお、イスモは出現した暗殺者の対処に入り、見張りは情報屋の相棒に任せて既に飛行。同時に、魔女たちが作成した罠も発動させた。
 無言で張り詰めた空気の中、集団はゆっくりと進んで行く。本来ならば急ぎ足になるところだが、あえて観光を装うことで、とある貴族の旅行と見せかけている。貴族ならば護衛がいても不思議ではないためだ。エスコが乗る馬車も公爵家が用いるタイプではなく、子爵家が乗る様な小さめにしていて、小回りが利くようになっている。
 重苦しい雰囲気の中、上空にいる鳥は、二羽とも気持ちよさそうに羽を広げているが。
 「十時のほうこうに不審者あり」
 「了解」
 淡々と返事をした暗殺者は指定された場所に移動し、いかにもな格好の数人の男たちを発見。相手が気づくとほぼ同時に意識を失わせる。
 「完了。得物を全部没収したら合流する」
 「りょーかい」
 傍で聞いていたヘイノは少々驚いた表情で、
 「いつの間に覚えたのかね」
 「屋敷にいたときだ。よーへいはこうやってやりとりするって聞いたから」
 「ほお。若いから吸収が早いのだろうね」
 「年寄りかよ」
 「失敬な、私もまだ若いぞ。それにしても、思ったより多いな」
 「このペースは多いのか」
 「この距離で五件はな。まだ二時間も経過していない」
 「ワナには魔法師しかいかなかったのかも」
 「十分だろう。魔法師まで加わっていては厄介過ぎる」
 「よけるしかねーもんな」
 体への影響を考えると、魔法師でない者に強い効果のある魔道具を渡すことは出来ない。持たせてあるとはいえ、もし純粋な魔法師が相手だと分が悪すぎるのだ。
 とはいえ、魔法対策の為に呼んだサークからも何もないところから、周辺に魔法師はいないのだろうと判断する将軍。ちなみに彼は、エスコの馬車に同乗しており、レインバーグ家長子の様子も良好だという。
 湖に近づくにつれ、不審者は少なくなっていった。連絡を取り合って警戒を強めている様子はあるものの、生きた人間の姿がない。上空にいる情報屋の相棒が反応しないのも当然といえよう。
 フィランダリア王国は、大まかに東西に分かれている。王国と名乗っている部分は主に西側であり、人々が暮らしているのも西部である。
 一方、東側は先住民の一族たちが住まう。彼ら彼女らは、厳しい自然の掟に従う生活からか、西側の人間より強靭な肉体を持っている。
 今でこそ双方同士の戦いはないが、数百年前は西と東で争いが頻発していたという。原因は豊かな水源であり、西側が独占しようとし戦いを仕掛け、東側は抵抗したためだ。
 四大魔法師がフィランダリア王国に来てからは、仲介役として買って出て、不可侵条約を結んだ。資源と文化を、それぞれがプラスになるよう交流していこう、となったのである。
 その過程で、目的地である湖も観光地として名を馳せる様になった。道の整備は王国が、安全面を先住民が行っているのは、昔から変わっていない。
 つまり、無断で森の中に入っていた連中の末路など、初めから決まっていたのだ。幼い頃から慣れ親しんでいる土地での動きは、いかに傭兵といえどもすぐに対応出来るものではない。
 ピー、ピピー、ピー。
 と、聞き慣れない音が聞こえて来る。ヤロが慌てて懐から木で作られたコカリナと呼ばれる小さな笛を出し、音程を気にせず吹き返す。
 今度は相手側も適当に演奏したのか、単音ながら陽気な感じのするリズムに乗せて戻って来た。
 一行はその場に止まると、ヘイノと情報屋が荷台から出て、後者は相棒を口笛で呼び寄せた。二羽とも下降して来ると、一匹は情報屋の左腕に、もう一匹は近くに木に降り立つ。
 「クエ、クエッ」
 「ヤロ。もう一回ふいてくんない」
 「おう」
 トーンは異なるが先程と同じやり取りが行われる。
 数分後、木々の間からアンブロー王国やフィランダリア王国では殆ど見られない服に身を包んだ数人が姿を現す。全身がほとんど深緑に近い色をしており、顔も隠されている。
 先頭にいた男性がコカリナで笛を一吹きすると、ヤロも同じ一音で返す。
 男性の目が笑うと、顔を覆っていた布を外した。
 「ようこそ。俺はダウェルと申します。ここからは我々がご案内しましょう」
 「ダウェル殿、宜しく頼みます。私はヘイノと申します。お怪我はありませんか」
 「ええ。事前にご忠告頂いてましたからね」
 「それは良かった。厄介な事に巻き込んでしまって」
 「ご心配なく、この程度なら日常茶飯事ですから。もう少し行ったところに休憩所がありますので、頑張ってください」
 フィランダリア王国内でも、不正に森の資源を奪おうとする不届者が後を絶たないという。今は法整備をされているので、コカリナを持たない侵入者は、先住民の掟に従って裁かれるのだ。郷に入っては郷に従え、ということわざ通りである。
 ダウェルは先頭に立つと、たまにコカリナを吹きながら歩いて行く。時折ペースを気にしながら、雑談しながらと、観光者に慣れている様子だ。
 なお、彼と一緒にいた二人の男性は、顔の布を外して後方にいるギルバートと会話していた。
 二時間程経過すると、ダウェルが話した休憩所の屋根が視界に映り始める。大きく右に回ると、地元の木で建築された建物たちが一行を出迎えた。
 入口で荷物チェックをすませると、案内人は一行を、一番奥にある大きな家に連れて来る。
 「狭いと感じたら、近くの者にお申し出ください。押さえてありますので」
 「お心遣い、痛み入ります」
 「いえ、ごゆっくり。休憩所は俺たち治安部隊が常に外を見張ってますから、安心して過ごしてください」
 一礼をしたダウェルたちは、その場を後にした。
 案内が付いているとはいえ、ここから先は道が長い。自然保護の観点から、なるべく木が無い所を道にしたのが要因である。本来はゆったりと旅を楽しむ目的で新設されたので、致し方ない。
 一行はエスコの体を考慮し、宿泊することになった。
 太陽が顔を出してから数時間。ヘイノたちは、昨晩から熱が下がらないエスコからの要望もあり、次の休憩地に向けて出発した。世界の命運が掛かっているのに寝ていられない、との事だ。
 虫が入って来れない様に風の魔法で馬車を覆い、それ以外は先日と同じ様に進んで行く。治安部隊いわく、この辺りは特に密猟者が多いそうだ。
 第二、第三、第四休憩所を通過し、別館を出発してから二週間が過ぎた頃。ようやく目的地である湖へとたどり着いた。地元の先住民が先に周囲を調べたところ、さすがに湖周辺までは手が伸びていないという。
 「初めてきたけど、壮大な風景だね」
 「絶景だねー。ピクニックしたいなあ」
 「ゆっくり出来ねえのが残念だ。よっと」
 必要な手荷物を下ろし、最後にアマンダとエスコが寝床と車椅子のまま地に着く。半分眠っていた様子の彼は、執事の声で目を覚ましたようだ。
 情報屋はフィリアに頼まれた到着連絡を済ませ、ヘイノはダウェルに対し、
 「アルタリア様から伺っていると思いますが。これから儀式を行います。危険ですので距離を置いて下さい」
 「心得ました。湖を囲むように配置して、こちらを見ないようにしましょう」
 「痛み入ります」
 「いえ。我々の一族にも似たような儀式が存在しますし、マホウシの文化についても多少は存じていますから」
 「そうですか」
 「ええ。それにアルタリアさんはいい人です。王国からすれば特異な我々にも普通に接してくれる」
 「あの方の魅力のひとつですよね。良ければアンブロー王国とも交流して頂けると嬉しいですね」
 「ありがたい話です。長に伝えておきましょう」
 「こちらこそ。また後程お会いしましょう」
 と、右手を差し出す。手を見て一瞬止まったダウェルだが、握手だよ、という女性の声でハッとする。
 「ああ、友好の証でしたね」
 と話しながら、同じ手を差し出す彼。し終わると、声がした方向に向き直る。そこには、アルタリアも一緒だった。
 「えーっと。こちらの方は」
 「フィリア。私の、友人だ。こちらは、ダウェル」
 「ダウェルって、あの時の坊やか。へ~、大きくなったもんだ」
 父親は元気かい、と風の魔女。戦争が始まってからは殆ど来れなくなった彼女だが、以前はこの湖に遊びに来ていたらしい。
 ちょっとした世間話が終わると、今度こそダウェルたち治安部隊は入口付近へと戻って行った。
 「はやくないっ」
 「たまたまフィランダリアに来てたのさ。グランがやらかしてないかと思ってね」
 「心配しすぎ、だと思う」
 「良く言われるけど、あのやんちゃ坊主だからねえ」
 「坊主っていうトシじゃなくない」
 「アタシから見たらそうさ。んま、しでかしてたら文化に習って蹴り飛ばしてやるって」
 危うく出かかった言葉を慌てて飲み込む情報屋。心なしかこめかみが痛く感じたが、それどころでも無い。
 アルタリアは荷台に近づいて中を確認する。すると、魔女たちがゆっくりと魔導士の手を借りながら降りて来る。その間、フィリアはエスコの右手首に腕輪を付けた。
 彼女たちと情報屋、フィリアがアマンダの周りに集まり、地面に線を書いていく。そして、ヘイノとエスコ、傭兵たちは、アルタリアと共に少し離れた位置に馬車を移動させる。
 アマンダの頭の位置からハンナ、サイヤ、フィリア、リューデリア、情報屋の順に立つ魔法師たち。サイヤ以下はそれぞれ、アマンダの右肩、右足、左足、左肩のの場所にいる。
 準備が整ったことを確認したハンナは、アルタリアに視線を送った。頷いた水の魔法師は、近くにいる人間より一歩前に出て両腕を広げる。すると一瞬にして水色の薄膜がハンナたちを覆ったではないか。
 自分より前に出ないようにと忠告した彼は、ハンナに視線を返す。
 少女は目と閉じ、何かをつぶやき始めた。足元に引かれた線が徐々に光を帯びていき、ペンタグラムを浮かび上がらせる。
 周囲にいた魔法師も、自身の足元が光出したら、視界をまぶたで塞ぎ集中する。
 突然、突風が発生した。大の男でも吹き飛ばされそうな風は、周囲にある木を大きく揺さぶる。
 風が収まると、半透明に透き通った、光の粒に包まれたアマンダが存在していた。


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 フィランダリア王国の北東に、世界最大級の湖がある。どうもその場所に神殿への入口があるらしいのだが。
 魔法の国で伝わる神話では大戦後に海に沈んだと伝わっているという。もっとも、同一の建物なのかどうかは不明である。
 「アタシもアルタリアも初耳だからねえ。この子を疑う訳じゃないんだけど」
 と風の魔女。日課である散歩中に子供の相棒を見つけたそうで、一行と合流したのだ。
 「にしても姉ちゃん。散歩って距離じゃねえだろ。どうやって来たんだ」
 「空飛んでさ。気分で方角を決めて世界一周するのが楽しくてね」
 「スケールが違いすぎて、何ていうかね」
 「んなコトできんの、この人ぐらいだから。フツーは半分でもダウンするし」
 「毎日旅行気分になりそうでいいなー」
 「そうなんだよ。気になった店があったらすぐに行けて便利なんだ」
 けらけらと笑うフィリア。エスコに渡したいものがあるらしく、扉の前に行ったら連絡して欲しいと残し、散歩を再開した。
 「嵐のような人だよね。パワフルというか」
 「昔から行動力があるからな。さすがに驚かなくなった」
 「兄貴、それはそれでヤバい気がすんだが」
 「まあー、昔はそうだったのかもよー。目の前で突然フワリと浮いたりー」
 「魔法は手品じゃねーっつの」
 「種も仕かけもありません、って?」
 「そりゃあんたの腕だろ」
 「残念ながら、俺のはどっちもあるんでね。よくない技術だけど」
 雑談をしながら、観光用に整備されている道を行く一行。それはそれは平和な時間であった。
 視界の開けた道の先には、うっそうと茂る木々が見え始める。情報屋が懸念していたのは、この辺りの地形であった。淡水の周りには自然が多く存在するのは自明の理だからだ。
 「んー。これは横からの狙撃に弱くなるねー」
 「そうだな。イスモ、準備を頼む」
 「了解」
 アードルフが中心となり、陣形を決めて行く。最前に彼とヤロ、最後尾にギルバートを置き、魔法師は荷台や馬車の中で待機することになった。万が一、飛び道具が飛んできた場合は、魔道具を使った障壁を張ることになっている。
 なお、イスモは出現した暗殺者の対処に入り、見張りは情報屋の相棒に任せて既に飛行。同時に、魔女たちが作成した罠も発動させた。
 無言で張り詰めた空気の中、集団はゆっくりと進んで行く。本来ならば急ぎ足になるところだが、あえて観光を装うことで、とある貴族の旅行と見せかけている。貴族ならば護衛がいても不思議ではないためだ。エスコが乗る馬車も公爵家が用いるタイプではなく、子爵家が乗る様な小さめにしていて、小回りが利くようになっている。
 重苦しい雰囲気の中、上空にいる鳥は、二羽とも気持ちよさそうに羽を広げているが。
 「十時のほうこうに不審者あり」
 「了解」
 淡々と返事をした暗殺者は指定された場所に移動し、いかにもな格好の数人の男たちを発見。相手が気づくとほぼ同時に意識を失わせる。
 「完了。得物を全部没収したら合流する」
 「りょーかい」
 傍で聞いていたヘイノは少々驚いた表情で、
 「いつの間に覚えたのかね」
 「屋敷にいたときだ。よーへいはこうやってやりとりするって聞いたから」
 「ほお。若いから吸収が早いのだろうね」
 「年寄りかよ」
 「失敬な、私もまだ若いぞ。それにしても、思ったより多いな」
 「このペースは多いのか」
 「この距離で五件はな。まだ二時間も経過していない」
 「ワナには魔法師しかいかなかったのかも」
 「十分だろう。魔法師まで加わっていては厄介過ぎる」
 「よけるしかねーもんな」
 体への影響を考えると、魔法師でない者に強い効果のある魔道具を渡すことは出来ない。持たせてあるとはいえ、もし純粋な魔法師が相手だと分が悪すぎるのだ。
 とはいえ、魔法対策の為に呼んだサークからも何もないところから、周辺に魔法師はいないのだろうと判断する将軍。ちなみに彼は、エスコの馬車に同乗しており、レインバーグ家長子の様子も良好だという。
 湖に近づくにつれ、不審者は少なくなっていった。連絡を取り合って警戒を強めている様子はあるものの、生きた人間の姿がない。上空にいる情報屋の相棒が反応しないのも当然といえよう。
 フィランダリア王国は、大まかに東西に分かれている。王国と名乗っている部分は主に西側であり、人々が暮らしているのも西部である。
 一方、東側は先住民の一族たちが住まう。彼ら彼女らは、厳しい自然の掟に従う生活からか、西側の人間より強靭な肉体を持っている。
 今でこそ双方同士の戦いはないが、数百年前は西と東で争いが頻発していたという。原因は豊かな水源であり、西側が独占しようとし戦いを仕掛け、東側は抵抗したためだ。
 四大魔法師がフィランダリア王国に来てからは、仲介役として買って出て、不可侵条約を結んだ。資源と文化を、それぞれがプラスになるよう交流していこう、となったのである。
 その過程で、目的地である湖も観光地として名を馳せる様になった。道の整備は王国が、安全面を先住民が行っているのは、昔から変わっていない。
 つまり、無断で森の中に入っていた連中の末路など、初めから決まっていたのだ。幼い頃から慣れ親しんでいる土地での動きは、いかに傭兵といえどもすぐに対応出来るものではない。
 ピー、ピピー、ピー。
 と、聞き慣れない音が聞こえて来る。ヤロが慌てて懐から木で作られたコカリナと呼ばれる小さな笛を出し、音程を気にせず吹き返す。
 今度は相手側も適当に演奏したのか、単音ながら陽気な感じのするリズムに乗せて戻って来た。
 一行はその場に止まると、ヘイノと情報屋が荷台から出て、後者は相棒を口笛で呼び寄せた。二羽とも下降して来ると、一匹は情報屋の左腕に、もう一匹は近くに木に降り立つ。
 「クエ、クエッ」
 「ヤロ。もう一回ふいてくんない」
 「おう」
 トーンは異なるが先程と同じやり取りが行われる。
 数分後、木々の間からアンブロー王国やフィランダリア王国では殆ど見られない服に身を包んだ数人が姿を現す。全身がほとんど深緑に近い色をしており、顔も隠されている。
 先頭にいた男性がコカリナで笛を一吹きすると、ヤロも同じ一音で返す。
 男性の目が笑うと、顔を覆っていた布を外した。
 「ようこそ。俺はダウェルと申します。ここからは我々がご案内しましょう」
 「ダウェル殿、宜しく頼みます。私はヘイノと申します。お怪我はありませんか」
 「ええ。事前にご忠告頂いてましたからね」
 「それは良かった。厄介な事に巻き込んでしまって」
 「ご心配なく、この程度なら日常茶飯事ですから。もう少し行ったところに休憩所がありますので、頑張ってください」
 フィランダリア王国内でも、不正に森の資源を奪おうとする不届者が後を絶たないという。今は法整備をされているので、コカリナを持たない侵入者は、先住民の掟に従って裁かれるのだ。郷に入っては郷に従え、ということわざ通りである。
 ダウェルは先頭に立つと、たまにコカリナを吹きながら歩いて行く。時折ペースを気にしながら、雑談しながらと、観光者に慣れている様子だ。
 なお、彼と一緒にいた二人の男性は、顔の布を外して後方にいるギルバートと会話していた。
 二時間程経過すると、ダウェルが話した休憩所の屋根が視界に映り始める。大きく右に回ると、地元の木で建築された建物たちが一行を出迎えた。
 入口で荷物チェックをすませると、案内人は一行を、一番奥にある大きな家に連れて来る。
 「狭いと感じたら、近くの者にお申し出ください。押さえてありますので」
 「お心遣い、痛み入ります」
 「いえ、ごゆっくり。休憩所は俺たち治安部隊が常に外を見張ってますから、安心して過ごしてください」
 一礼をしたダウェルたちは、その場を後にした。
 案内が付いているとはいえ、ここから先は道が長い。自然保護の観点から、なるべく木が無い所を道にしたのが要因である。本来はゆったりと旅を楽しむ目的で新設されたので、致し方ない。
 一行はエスコの体を考慮し、宿泊することになった。
 太陽が顔を出してから数時間。ヘイノたちは、昨晩から熱が下がらないエスコからの要望もあり、次の休憩地に向けて出発した。世界の命運が掛かっているのに寝ていられない、との事だ。
 虫が入って来れない様に風の魔法で馬車を覆い、それ以外は先日と同じ様に進んで行く。治安部隊いわく、この辺りは特に密猟者が多いそうだ。
 第二、第三、第四休憩所を通過し、別館を出発してから二週間が過ぎた頃。ようやく目的地である湖へとたどり着いた。地元の先住民が先に周囲を調べたところ、さすがに湖周辺までは手が伸びていないという。
 「初めてきたけど、壮大な風景だね」
 「絶景だねー。ピクニックしたいなあ」
 「ゆっくり出来ねえのが残念だ。よっと」
 必要な手荷物を下ろし、最後にアマンダとエスコが寝床と車椅子のまま地に着く。半分眠っていた様子の彼は、執事の声で目を覚ましたようだ。
 情報屋はフィリアに頼まれた到着連絡を済ませ、ヘイノはダウェルに対し、
 「アルタリア様から伺っていると思いますが。これから儀式を行います。危険ですので距離を置いて下さい」
 「心得ました。湖を囲むように配置して、こちらを見ないようにしましょう」
 「痛み入ります」
 「いえ。我々の一族にも似たような儀式が存在しますし、マホウシの文化についても多少は存じていますから」
 「そうですか」
 「ええ。それにアルタリアさんはいい人です。王国からすれば特異な我々にも普通に接してくれる」
 「あの方の魅力のひとつですよね。良ければアンブロー王国とも交流して頂けると嬉しいですね」
 「ありがたい話です。長に伝えておきましょう」
 「こちらこそ。また後程お会いしましょう」
 と、右手を差し出す。手を見て一瞬止まったダウェルだが、握手だよ、という女性の声でハッとする。
 「ああ、友好の証でしたね」
 と話しながら、同じ手を差し出す彼。し終わると、声がした方向に向き直る。そこには、アルタリアも一緒だった。
 「えーっと。こちらの方は」
 「フィリア。私の、友人だ。こちらは、ダウェル」
 「ダウェルって、あの時の坊やか。へ~、大きくなったもんだ」
 父親は元気かい、と風の魔女。戦争が始まってからは殆ど来れなくなった彼女だが、以前はこの湖に遊びに来ていたらしい。
 ちょっとした世間話が終わると、今度こそダウェルたち治安部隊は入口付近へと戻って行った。
 「はやくないっ」
 「たまたまフィランダリアに来てたのさ。グランがやらかしてないかと思ってね」
 「心配しすぎ、だと思う」
 「良く言われるけど、あのやんちゃ坊主だからねえ」
 「坊主っていうトシじゃなくない」
 「アタシから見たらそうさ。んま、しでかしてたら文化に習って蹴り飛ばしてやるって」
 危うく出かかった言葉を慌てて飲み込む情報屋。心なしかこめかみが痛く感じたが、それどころでも無い。
 アルタリアは荷台に近づいて中を確認する。すると、魔女たちがゆっくりと魔導士の手を借りながら降りて来る。その間、フィリアはエスコの右手首に腕輪を付けた。
 彼女たちと情報屋、フィリアがアマンダの周りに集まり、地面に線を書いていく。そして、ヘイノとエスコ、傭兵たちは、アルタリアと共に少し離れた位置に馬車を移動させる。
 アマンダの頭の位置からハンナ、サイヤ、フィリア、リューデリア、情報屋の順に立つ魔法師たち。サイヤ以下はそれぞれ、アマンダの右肩、右足、左足、左肩のの場所にいる。
 準備が整ったことを確認したハンナは、アルタリアに視線を送った。頷いた水の魔法師は、近くにいる人間より一歩前に出て両腕を広げる。すると一瞬にして水色の薄膜がハンナたちを覆ったではないか。
 自分より前に出ないようにと忠告した彼は、ハンナに視線を返す。
 少女は目と閉じ、何かをつぶやき始めた。足元に引かれた線が徐々に光を帯びていき、ペンタグラムを浮かび上がらせる。
 周囲にいた魔法師も、自身の足元が光出したら、視界をまぶたで塞ぎ集中する。
 突然、突風が発生した。大の男でも吹き飛ばされそうな風は、周囲にある木を大きく揺さぶる。
 風が収まると、半透明に透き通った、光の粒に包まれたアマンダが存在していた。