4噂の一年
ー/ー 本格的に部活が始まってくると、文化部と運動部はサイクルがだいぶ変わってしまう。少し寂しさは感じるが、一緒に下校はしなくなったので、翌日教室で怜に部活の様子を聞いてみた。
椅子を後ろに向けて身を乗り出す。
「美術部にしたんだろ?そっちはどうよ」
「別に普通かな」
こちらには目もくれず、授業の準備をしながら答える。
「普通って……面白いとか、つまんないとかあるだろ」
怜は軽くこちらを見ると、手に持っていたペンをくるりと回した。
「楽だよ。厳しくないし、みんな自分のペースで好きに制作してる」
「お前やる気ないな……」
「そうかもね。自分の写真模写してるだけだから」
「ふーん……」
これはこれで問題ありそうな感じだな。
先生が来ると、ホームルームで委員会の発表がされた。偏りがあったようで何人かは希望とは違う配置をされてたが、人気がないのか、俺と怜は美化委員に決まった。
「良かったじゃん」
後ろの怜にこっそり話しかける。
「うん」
返ってきた返事は声が明るかった。
放課後は早速、委員会の集まりがあった。「部活の前に委員だなんて忙しいんだな」なんて、怜と喋りながら教室に向かう。中に入ると、席には既に何人か来ており、見知った顔が目に止まった。サッカー部の部長だ。
「こんにちは」
「お、加藤じゃん」
「中村部長も美化委員なんですね」
「サッカー部の子?」
隣に居た三年生らしき人が質問した。
「そうそう、だから遠慮なく使って」
部長は口角を上げると、恐ろしい笑顔を俺に向けた。
「俺は三年の津田。よろしく〜」
もう一人の先輩も挨拶してくれる。ゴリラのような部長と違い、細くてキツネみたいな感じの人だ。
「あ、加藤です」
「北河原です」
俺と怜は挨拶すると、空いている席に座った。
しばらくすると先生と委員長たちが前に出て、委員会の説明をされる。怜の言っていたように、清掃や花壇の手入れがメインの仕事だった。活動は基本、一年生と三年生がペアになってやるそうだ。
事前に組み合わせは決まっていて、俺は津田先輩、怜は中村部長だった。正直部長は怖いので、怜には悪いが、俺じゃなくて心底ほっとした。
今日は初日ということで、説明を兼ねみんなで軽く校内外のゴミ拾い。校内を見終えると、今度は外の校舎周りをぐるりと見て回る。
「基本どこもそんなにゴミはないから、外だけの朝清掃は結構早く終わるよ」
落ちていたティッシュを拾いながら、津田先輩が教えてくれる。
「本番は植物の世話だな!土運んだりするしいい筋トレになるぞ」
中村部長が俺をバシバシ叩いてきて体がよろめいた。そういう目的で入る人もいるのか、と納得する。
「でも怜にはキツそうだな」
困り顔をしている怜は「まぁ頑張るよ」と、自信なさげに言った。
「普通にキツかったら先輩頼りな」
中村部長は、俺の時とは違って優しく肩を叩くと怜に声をかけた。部員に対してと、それ以外での差が激しくないだろうか。そんなことを考えながら、集めたゴミの片付けを進めた。
ひとしきりゴミをまとめ終えた時、遠くから黄色い声がしてきた。こちらに向かっているようだ。小走りに集まってきた女子達は、躊躇いもなく怜に声をかけてきた。
「北河原くんだよね?」
「ねえねえ!君ってモデルとかSNSとかなにかやってるの?」
「え?いえなにも……」
女子複数に囲まれた怜は、突然のことに目を白黒させて硬直している。
「今度動画撮ってもいい?」
「インストにあげようよ〜!」
女子達は矢継ぎ早に喋ってくる。一体なんなんだ?
「えぇ!?あの、僕そういうのはちょっと……」
怜は後ろに後ずさると、手に持っていたゴミ袋を握りしめた。
「お前ら作業中にうるせーぞ」
そんな怜を見かねたのか、中村部長が大声を出す。この女子達に怯まないとは、すごいなと関心してしまった。
「中村こそうるさいんだけど」
一人が腕を組みながら、じろりと中村部長を睨んだ。この女子達も三年生だったのか。なんで三年の女子が怜にこんなに絡んで来るんだ?
「はあ?いなりきてお前らなんなの?」
部長は苛立ちも隠さず言い返し、怜を庇うように間に割って入った。一触即発の雰囲気に俺も冷や汗が出る。俺はこのまま見てて大丈夫なのか?思わず津田先輩に視線を向けた。すると、津田先輩もまずいと察したのか、険悪な二人の仲裁に入る。
「原田さん、北河原くん困ってるからやめてあげてね」
「えー!ちょっとぐらいいいじゃん」
「津田くんも中村の味方するなんてひどーい」
津田先輩の言葉にも女子達は全然気にしていない。
「ほら、北河原くんだって先輩に囲まれると怖いからさぁ」
津田先輩は苦笑いしながらめげずに、群がってきた女子達を強引に遠くに追いやった。
それでも女子達は、遠巻きにこちらを見ながら黄色い声を上げてお喋りをしている。
みんなため息が思わず出た。
「北河原くん大変だね〜」
「なんなんすか?あれ」
嵐が去ったかのようだ。俺は状況がわからず津田先輩に聞き返した。
「三年の中で可愛い一年がいるって噂になってて、実は北河原くんちょっと有名なんだよね」
「馬鹿らしい」
中村先輩は怒っているのか、乱暴にゴミ袋を持ち上げた。
「北河原は、もしまたなんか言われたら俺らに言いな」
怜の頭をぽんぽんと軽く叩くと、安心させるように怜に声がけする。
「ありがとうございます……」
怜は俯いたままか細い声で答えた。部長は怜の肩に手を置いて、そのまま連れていくように歩き出した。
「加藤くんもちょと気をつけてね」
津田先輩は俺を気にかけてくれたが、今日の感じだと今後も何かありそうで不安になった。少なくとも今までは、こんなことなかったんだけどな。
俺は走って怜に声をかける。
「俺もいるから大丈夫だって」
気休めなのは分かっているが、なにか言わずにはいられなかった。
「陽介もありがとう」
怜は力なく呟いた。
椅子を後ろに向けて身を乗り出す。
「美術部にしたんだろ?そっちはどうよ」
「別に普通かな」
こちらには目もくれず、授業の準備をしながら答える。
「普通って……面白いとか、つまんないとかあるだろ」
怜は軽くこちらを見ると、手に持っていたペンをくるりと回した。
「楽だよ。厳しくないし、みんな自分のペースで好きに制作してる」
「お前やる気ないな……」
「そうかもね。自分の写真模写してるだけだから」
「ふーん……」
これはこれで問題ありそうな感じだな。
先生が来ると、ホームルームで委員会の発表がされた。偏りがあったようで何人かは希望とは違う配置をされてたが、人気がないのか、俺と怜は美化委員に決まった。
「良かったじゃん」
後ろの怜にこっそり話しかける。
「うん」
返ってきた返事は声が明るかった。
放課後は早速、委員会の集まりがあった。「部活の前に委員だなんて忙しいんだな」なんて、怜と喋りながら教室に向かう。中に入ると、席には既に何人か来ており、見知った顔が目に止まった。サッカー部の部長だ。
「こんにちは」
「お、加藤じゃん」
「中村部長も美化委員なんですね」
「サッカー部の子?」
隣に居た三年生らしき人が質問した。
「そうそう、だから遠慮なく使って」
部長は口角を上げると、恐ろしい笑顔を俺に向けた。
「俺は三年の津田。よろしく〜」
もう一人の先輩も挨拶してくれる。ゴリラのような部長と違い、細くてキツネみたいな感じの人だ。
「あ、加藤です」
「北河原です」
俺と怜は挨拶すると、空いている席に座った。
しばらくすると先生と委員長たちが前に出て、委員会の説明をされる。怜の言っていたように、清掃や花壇の手入れがメインの仕事だった。活動は基本、一年生と三年生がペアになってやるそうだ。
事前に組み合わせは決まっていて、俺は津田先輩、怜は中村部長だった。正直部長は怖いので、怜には悪いが、俺じゃなくて心底ほっとした。
今日は初日ということで、説明を兼ねみんなで軽く校内外のゴミ拾い。校内を見終えると、今度は外の校舎周りをぐるりと見て回る。
「基本どこもそんなにゴミはないから、外だけの朝清掃は結構早く終わるよ」
落ちていたティッシュを拾いながら、津田先輩が教えてくれる。
「本番は植物の世話だな!土運んだりするしいい筋トレになるぞ」
中村部長が俺をバシバシ叩いてきて体がよろめいた。そういう目的で入る人もいるのか、と納得する。
「でも怜にはキツそうだな」
困り顔をしている怜は「まぁ頑張るよ」と、自信なさげに言った。
「普通にキツかったら先輩頼りな」
中村部長は、俺の時とは違って優しく肩を叩くと怜に声をかけた。部員に対してと、それ以外での差が激しくないだろうか。そんなことを考えながら、集めたゴミの片付けを進めた。
ひとしきりゴミをまとめ終えた時、遠くから黄色い声がしてきた。こちらに向かっているようだ。小走りに集まってきた女子達は、躊躇いもなく怜に声をかけてきた。
「北河原くんだよね?」
「ねえねえ!君ってモデルとかSNSとかなにかやってるの?」
「え?いえなにも……」
女子複数に囲まれた怜は、突然のことに目を白黒させて硬直している。
「今度動画撮ってもいい?」
「インストにあげようよ〜!」
女子達は矢継ぎ早に喋ってくる。一体なんなんだ?
「えぇ!?あの、僕そういうのはちょっと……」
怜は後ろに後ずさると、手に持っていたゴミ袋を握りしめた。
「お前ら作業中にうるせーぞ」
そんな怜を見かねたのか、中村部長が大声を出す。この女子達に怯まないとは、すごいなと関心してしまった。
「中村こそうるさいんだけど」
一人が腕を組みながら、じろりと中村部長を睨んだ。この女子達も三年生だったのか。なんで三年の女子が怜にこんなに絡んで来るんだ?
「はあ?いなりきてお前らなんなの?」
部長は苛立ちも隠さず言い返し、怜を庇うように間に割って入った。一触即発の雰囲気に俺も冷や汗が出る。俺はこのまま見てて大丈夫なのか?思わず津田先輩に視線を向けた。すると、津田先輩もまずいと察したのか、険悪な二人の仲裁に入る。
「原田さん、北河原くん困ってるからやめてあげてね」
「えー!ちょっとぐらいいいじゃん」
「津田くんも中村の味方するなんてひどーい」
津田先輩の言葉にも女子達は全然気にしていない。
「ほら、北河原くんだって先輩に囲まれると怖いからさぁ」
津田先輩は苦笑いしながらめげずに、群がってきた女子達を強引に遠くに追いやった。
それでも女子達は、遠巻きにこちらを見ながら黄色い声を上げてお喋りをしている。
みんなため息が思わず出た。
「北河原くん大変だね〜」
「なんなんすか?あれ」
嵐が去ったかのようだ。俺は状況がわからず津田先輩に聞き返した。
「三年の中で可愛い一年がいるって噂になってて、実は北河原くんちょっと有名なんだよね」
「馬鹿らしい」
中村先輩は怒っているのか、乱暴にゴミ袋を持ち上げた。
「北河原は、もしまたなんか言われたら俺らに言いな」
怜の頭をぽんぽんと軽く叩くと、安心させるように怜に声がけする。
「ありがとうございます……」
怜は俯いたままか細い声で答えた。部長は怜の肩に手を置いて、そのまま連れていくように歩き出した。
「加藤くんもちょと気をつけてね」
津田先輩は俺を気にかけてくれたが、今日の感じだと今後も何かありそうで不安になった。少なくとも今までは、こんなことなかったんだけどな。
俺は走って怜に声をかける。
「俺もいるから大丈夫だって」
気休めなのは分かっているが、なにか言わずにはいられなかった。
「陽介もありがとう」
怜は力なく呟いた。
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