1出会い
ー/ー 春。
いわゆる期待と不安の入り交じる季節ってやつ。
俺は制服に袖を通すと、鏡で確認してから意気揚々と家を出た。制服を着て学校に行く、それだけで急に大人になったみたいだ。
強風で桜の花びらが一斉に舞い上がる。まるで俺を祝ってくれてるようで気分が弾む。
桜吹雪の中、勢いよく坂を駆け降りる。そのまま角を曲がれば学校。登校時間は10分もかからない。近くてラッキーだけど、この長い坂だけが難点だ。
学校に着くと二階まで急いで上がる。俺のクラスは一年二組。入学して思ったのは「俺のクラスに友達いなくね?」だった。
同じ学校だったやつはいるけど、顔見知り程度ばかり。むしろ俺以外の友達は、何故か固まって同じクラスになってやがる。
寂しさを感じたがまあいい、一から友達を作ればいいのだ。今日は二日目だからだいぶ余裕がある。
俺はとりあえず自分の席に着き、椅子に逆向きにまたがると、背もたれに腕をのせて後ろの席のやつに話しかけた。
少し長めのショートカットヘアで、まつ毛が長く、やけに整った顔立ちをしていた。
「お前、名前なんて言うんだっけ?俺、加藤陽介」
俺の目の前のやつは、目を丸くし固まっていた。
「北河原怜……《きたがわられい》」
ためらいがちに答える。
「きたがわら…なげー!怜でいい?俺のことも陽介でいいからさ」
怜は上目遣いで俺をちらちら見ると肩をすぼめた。
「えぇ?いいけど」
「よろしくなー!」
よし、もう新しく友達が出来た。あれこれ考えてないで、さっさと話しかけてしまえばいいのだ。
せっかくなので、気になってたことを質問してみる。
「なぁなぁ、怜は部活決めた?俺サッカー部にするんだけど」
「まだかな」
「じゃあさ、一緒にやろう!」
俺は机に乗り出した。それに合わせて怜が身を引く。
「やだよ、僕運動得意じゃないし…文化部がいい」
「文化部ってなにすんの?」
「え…?美術部とか」
「ふーん。そんなのより一緒にサッカーやろうぜ〜」
「苦手って言ってるのに、そんなノリで決めないでしょ」
怜が睨んできた。
「決めるよ!お前ノリ悪いな」
「いいよ悪くて」
そっけなく怜は答えると机の中から教科書を出す。それに合わせるかのように先生が教室に入ってきた。
学校はあと一週間は昼食前に終わる。部活見学も中旬からだ。
チャイムと同時に、おもむろに席から立ち上がった怜に声をかける。
「一緒に帰ろ」
俺の呼びかけに、怜は鞄を持つ手を緩めた。
「陽介の家はどこなの?僕、坂の方なんだけど」
「俺ん家もそっち」
怜は小さくうなずいて、その場に立ったまま俺を見る。慌てて立ち上がり、並んで教室を出た。
坂方面の帰宅者は少ないようで、静かな道中二人で学校のことを振り返りながら登る。
俺ばかり喋っていたが、怜は興味深そうに相槌をうってくれていた。
怜は坂の終盤、十字路で止まると「僕そこ」と、軽く近くの家を指さす。
「え、近所じゃん」
「そうなの?」
俺の家は、道路を渡って500mほど歩いた所にあるマンションだ。
「なぁ遊びに行ってもいい?」
「今日?……いいけど、家にお母さんとか動物も居るよ」
ためらいがちに怜は言った。
「動物いいな、触らせてよ。あ、怜ってゲームやるの?俺持ってく?」
「うちにもあるから大丈夫だよ」
「そしたら昼食べて14時ごろ行くな」
せっかく遊びに行くのだから、俺もやっぱりソフトの何本かは持っていこう。
怜の家は庭が広くて、花壇に囲まれた洋風の家だった。インターフォンを鳴らすと怜が出てくる。
「どうぞ」
中に導かれると、怜にそっくりなお姉さんがいた。胸に白く小さい犬を抱えている。
「こんにちは。いらっしゃい」
優しく微笑まれて耳が熱くなった。
「お邪魔します!同じクラスの加藤陽介です!」
「怜ちゃんのことよろしくね」
……怜ちゃん。呼び方に笑いが出そうになったがこらえた。
「お母さん、リビングでゲームしていい?」
「いいわよ。陽介くん、ゆっくりしていってね」
お姉さんだと思った相手はお母さんだった。
いつの間にか長居してしまったようで、外は暗くなっていた。慌てて家に戻ると、仕事から帰ってきたばかりの母親と鉢合わせる。
「随分遅くまで出かけてたのね。どこ行ってたの?」
台所で買ってきた惣菜をしまいながら、俺に問いかけてきた。
「新しくできた友達ん家」
「あら良かったわね。あんなに友達と別れたとかグチグチ言ってのに」
片付ける手を止めると、母さんは俺を見た。
「言ってねーよ。それよりその子うちの近所だった」
「そうなの?なら今度連れてきたら」
「兄ちゃんに怒られるだろ」
「そうねぇ…。もしまたお邪魔するなら、ちゃんと手土産持って行ってよ。買っておくから」
「へいへい」
俺は片手を上げて返事をすると、自分の部屋に行こうとした。しかし母親にまだ話しかけられる。
「そうだ。今週末だけど義男叔父さんの一周忌あるから」
「え?俺行かなくていい?」
「ダメに決まってんでしょ。佳奈は無理だけど、あんたと圭介は行くの」
「えー……」
無意識にため息が漏れてしまう。
面倒くさい親戚たちなので、一人暮らしで免除された姉が羨ましい。俺も大学生になったら一人暮らしをする、そう心に決めた。
いわゆる期待と不安の入り交じる季節ってやつ。
俺は制服に袖を通すと、鏡で確認してから意気揚々と家を出た。制服を着て学校に行く、それだけで急に大人になったみたいだ。
強風で桜の花びらが一斉に舞い上がる。まるで俺を祝ってくれてるようで気分が弾む。
桜吹雪の中、勢いよく坂を駆け降りる。そのまま角を曲がれば学校。登校時間は10分もかからない。近くてラッキーだけど、この長い坂だけが難点だ。
学校に着くと二階まで急いで上がる。俺のクラスは一年二組。入学して思ったのは「俺のクラスに友達いなくね?」だった。
同じ学校だったやつはいるけど、顔見知り程度ばかり。むしろ俺以外の友達は、何故か固まって同じクラスになってやがる。
寂しさを感じたがまあいい、一から友達を作ればいいのだ。今日は二日目だからだいぶ余裕がある。
俺はとりあえず自分の席に着き、椅子に逆向きにまたがると、背もたれに腕をのせて後ろの席のやつに話しかけた。
少し長めのショートカットヘアで、まつ毛が長く、やけに整った顔立ちをしていた。
「お前、名前なんて言うんだっけ?俺、加藤陽介」
俺の目の前のやつは、目を丸くし固まっていた。
「北河原怜……《きたがわられい》」
ためらいがちに答える。
「きたがわら…なげー!怜でいい?俺のことも陽介でいいからさ」
怜は上目遣いで俺をちらちら見ると肩をすぼめた。
「えぇ?いいけど」
「よろしくなー!」
よし、もう新しく友達が出来た。あれこれ考えてないで、さっさと話しかけてしまえばいいのだ。
せっかくなので、気になってたことを質問してみる。
「なぁなぁ、怜は部活決めた?俺サッカー部にするんだけど」
「まだかな」
「じゃあさ、一緒にやろう!」
俺は机に乗り出した。それに合わせて怜が身を引く。
「やだよ、僕運動得意じゃないし…文化部がいい」
「文化部ってなにすんの?」
「え…?美術部とか」
「ふーん。そんなのより一緒にサッカーやろうぜ〜」
「苦手って言ってるのに、そんなノリで決めないでしょ」
怜が睨んできた。
「決めるよ!お前ノリ悪いな」
「いいよ悪くて」
そっけなく怜は答えると机の中から教科書を出す。それに合わせるかのように先生が教室に入ってきた。
学校はあと一週間は昼食前に終わる。部活見学も中旬からだ。
チャイムと同時に、おもむろに席から立ち上がった怜に声をかける。
「一緒に帰ろ」
俺の呼びかけに、怜は鞄を持つ手を緩めた。
「陽介の家はどこなの?僕、坂の方なんだけど」
「俺ん家もそっち」
怜は小さくうなずいて、その場に立ったまま俺を見る。慌てて立ち上がり、並んで教室を出た。
坂方面の帰宅者は少ないようで、静かな道中二人で学校のことを振り返りながら登る。
俺ばかり喋っていたが、怜は興味深そうに相槌をうってくれていた。
怜は坂の終盤、十字路で止まると「僕そこ」と、軽く近くの家を指さす。
「え、近所じゃん」
「そうなの?」
俺の家は、道路を渡って500mほど歩いた所にあるマンションだ。
「なぁ遊びに行ってもいい?」
「今日?……いいけど、家にお母さんとか動物も居るよ」
ためらいがちに怜は言った。
「動物いいな、触らせてよ。あ、怜ってゲームやるの?俺持ってく?」
「うちにもあるから大丈夫だよ」
「そしたら昼食べて14時ごろ行くな」
せっかく遊びに行くのだから、俺もやっぱりソフトの何本かは持っていこう。
怜の家は庭が広くて、花壇に囲まれた洋風の家だった。インターフォンを鳴らすと怜が出てくる。
「どうぞ」
中に導かれると、怜にそっくりなお姉さんがいた。胸に白く小さい犬を抱えている。
「こんにちは。いらっしゃい」
優しく微笑まれて耳が熱くなった。
「お邪魔します!同じクラスの加藤陽介です!」
「怜ちゃんのことよろしくね」
……怜ちゃん。呼び方に笑いが出そうになったがこらえた。
「お母さん、リビングでゲームしていい?」
「いいわよ。陽介くん、ゆっくりしていってね」
お姉さんだと思った相手はお母さんだった。
いつの間にか長居してしまったようで、外は暗くなっていた。慌てて家に戻ると、仕事から帰ってきたばかりの母親と鉢合わせる。
「随分遅くまで出かけてたのね。どこ行ってたの?」
台所で買ってきた惣菜をしまいながら、俺に問いかけてきた。
「新しくできた友達ん家」
「あら良かったわね。あんなに友達と別れたとかグチグチ言ってのに」
片付ける手を止めると、母さんは俺を見た。
「言ってねーよ。それよりその子うちの近所だった」
「そうなの?なら今度連れてきたら」
「兄ちゃんに怒られるだろ」
「そうねぇ…。もしまたお邪魔するなら、ちゃんと手土産持って行ってよ。買っておくから」
「へいへい」
俺は片手を上げて返事をすると、自分の部屋に行こうとした。しかし母親にまだ話しかけられる。
「そうだ。今週末だけど義男叔父さんの一周忌あるから」
「え?俺行かなくていい?」
「ダメに決まってんでしょ。佳奈は無理だけど、あんたと圭介は行くの」
「えー……」
無意識にため息が漏れてしまう。
面倒くさい親戚たちなので、一人暮らしで免除された姉が羨ましい。俺も大学生になったら一人暮らしをする、そう心に決めた。
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