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第六十三話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 魔法師サンプサは、とある人の命に従い、コラレダの動向を探っていた人物。四大魔法師のひとり、ラガンダの執事をしている、ゼンベルト・グリッセンの長子である。
 「では、お力添え頂けるのですね」
 「はい。正確にはアマンダ様に、ですが。この際置いておきましょう。今回の場合、結果は同じになるでしょうから」
 「そうですね。しかし驚きました。既に行動に移っておられたとは」
 「主が単細胞なだけです。昔から一度決めたら聞かないのですよ」
 「はは。信頼されているのですね」
 「だと良いのですがね」
 と、ため息を付きながらのサンプサ。歳は離れているが、付き合いが長いという。
 なお、彼らは荷台の中にいる。
 「既に交渉も済んでおります。むしろ、こちらがお力添え頂きたく」
 「無論です。サークたちにも手伝ってもらうように要請しましょう」
 「では、彼らには空から援護して頂きましょう。その方が特技を生かせるかと」
 「聞いてみます。三兄弟をご存知なのですか」
 「魔法師は仲間意識が強いのです。殆どが知り合いですよ」
 彼自身も魔法の国には何度も足を運んだらしく、その際に沢山の出会いがあったとか。
 その表情は、穏やかで微笑んでいるようにも感じられる。
 「私たちはどうしようね~」
 「うむ」
 「アマンダ様のお傍に。目に見える魔法は必要以上に晒さないほうが宜しいかと」
 「それがいいわね~。広すぎて結界はれないし~」
 「そうだな」
 「では、相手の出方を伺いましょう。私が上空で見張っておきます」
 「了解。サークたちがきたら知らせる」
 「頼みました」
 サンプサは子供の両肩に手を乗せる。
 「無理はしないように。良いですね」
 「え。う、うん」
 きょとんとした声を聞いた付き人は、微笑むと立ち上がる。
 「身内も数人来ております。御身を第一になされますよう」
 「心得ました。お気をつけて」
 一礼をしたサンプサは、瞬時に姿を消した。
 半ば放心している情報屋の肩に、再び男性の手が置かれる。
 「君は、とても大事にされているんだな」
 と、将軍。サークに連絡を取った後、確認をしに外に出る姿を、子供は見つめていた。
 数時間が経過した現地だが、人波の風景は殆ど変わっていない。人数が多く手続きに手間取っているのだろうことは容易に想像出来た。
 民たちの中には、歩が進まない苛立ちや理不尽さも相まってか、言い争いが起こっている場所も見受けられる。
 様子を見ているサンプサからの連絡もなく、時間だけが過ぎて行く。
 さらに数時間が経過したとき、情報屋が荷台の中に入って来た。子供は水晶を出現させると、魔力を集め始める。
 暗がりの中に存在感を増していく青白い光は、ざっと千人はいそうなコラレダ軍を空から映すと、
 「どう見ても視察では無いな。戦闘を意識した先発隊だろう」
 「こんだけドードーとしてんもんな。どうすんの」
 「そう、だな。狙いはやはり我々か」
 水晶からは、コラレダ兵が難民に詰め寄り、尋問しているらしい様子が見受けられる。中には、暴力を振るっている様な仕草も見て取れた。
 騒ぎを聞きつけ、フィランダリア兵も関所から姿を現し、近くにいるコラレダ兵と接触をするが。
 「イチャモンつけられてるっぽいな、これ」
 「声を拾う事は出来るか」
 情報屋がしばらく動かなくなる。数分後、
 「無理。妨害されてる」
 「魔法師や魔道具の気配は無いが」
 「うーん。でもサンプサもできないんだって」
 「おや。君達はどうかな」
 「私は出来ぬ」
 「雨がふってればね~。あるいは霧とか~」
 「そうか」
 あごに手を置き考え込むヘイノ。そうこうしているうちに、コラレダ兵が列に合わせて隊形を変えて行く。ここにたどり着くのも時間の問題である。
 ギルバートの言う通り、戦闘になるのは避けたい。とはいえ、民を放って置くわけにも。
 魔法を駆使すれば足止めはおろか、殲滅すら可能であろうが、それは短絡的な発想に過ぎない。魔法師にとっての忌まわしい歴史が繰り返されるだけだ。
 「情報屋。グラン殿はどちらにいらっしゃるか分かるか」
 「グラン? なんで」
 「こちらに来ているはずだ。腹に背は変えられん」
 「あ~、なるほど。もう中にはいってるって聞いたけど」
 「旦那、今いいか」
 情報屋がサンプサに連絡しようとしたとき、ヤロが布を少し動かしながら話しかけて来た。
 「どうした」
 「実はよ、この馬車を貸して欲しいって奴が来ててよ」
 「馬車を? 話をしよう」
 将軍はいぶかしげに思いながらも対応しようとした。相手は意外な人物で、左手にスカートの裾を持ち、右手は胸の辺りに置きながら、一礼をする。
 「お久しぶりです」
 「カレン、か。どうしてここに」
 「まあ。覚えててくださったんですね。嬉しいわ」
 「あんな素敵な踊りを魅せられてはな。忘れる事なんて出来ないさ」
 「もしかして口説かれてるのかしら。うふふ」
 と、冗談めいた表情のカレン。町の娘がまとう格好だが、凛とした顔立ちは、薄化粧でも隠せていない。
 「実は仲間が病気にかかっちゃったみたいで、たくさんの人を乗せられるほどの馬車を探してたの。町のは出払ってて困ってて」
 「いいんじゃない。かしてやれば」
 と、中から子供の声。カレンの顔に、一瞬緊張が走る。
 「今からくるフィランダリア兵と一緒に中はいればいいみたいだぜ。許可もおりてるって」
 眉をひそめるヘイノだが、カレンを見ても笑顔のまま。彼女は、四大魔法師のひとりラガンダお気に入りの、実力派の踊り子でもある。
 口を緩めながらため息をついた彼は、
 「肝が据わっているな」
 「そうね。この業界で、踊り一本だけで生きてきたんだもの。ラガンダ様のお陰でね」
 「分かった。ライティア家には後で断りを入れておこう」
 話がまとまった瞬間、異様に歩の早いフィランダリア兵たちがやって来た。人の身長よりはるかに大きい大剣を担いだ兵が、
 「大きな馬車、これだな」
 「あっ。兵士さんじゃない」
 「おお、そなた自身が来るとはな」
 「本当は止められたんだけど。私のほうが早いと思って」
 「はっはっはっ。一理ある。話は済んだのか」
 妙な話しかたをする大柄な一般兵。しかし、かぶとの中から見える眼光は、異常な強さがある。
 兵士は、前の難民に対し、事情を説明。一行の後ろにいた難民たちを進ませ、集団は列を抜けて前へと進む。なお、ヘイノは荷台に戻り、カレンは御者台に座っていた。
 しばらく進むと、とある武装した集団と出くわした。彼らの格好は、フィランダリア兵と違い、各々バラバラである。
 「止まれ。中を調べさせろ」
 「何故だ」
 「探し人がいる可能性があるからだ」
 「ほお。誰を探しておられる」
 「貴様には関係のないことだ。早くどけ」
 妙な口調の兵士の周りにいる、同じ姿をした兵士がにじり寄る。
 「どくのは貴様らのほうだ。こちらは人の命が掛かっているのでな。急がねばならん」
 「すぐに終わる。中を見るだけだ」
 「話が通じんのか、それとも耳が悪いのかどちらだ。一刻を争うと言っておる」
 「知ったことか。とっととどっ」
 コラレダ兵が吹っ飛ぶ。
 「こちらとて貴様らの事情など知ったことではないわ。どけ、さもなけば切り捨てる」
 剣を、ゆっくり動かす兵士。地面に近づいた刃は、日の光でギラリと輝いた。
 尋常ではない雰囲気に、コラレダ兵は顔を真っ青にして一目散に逃げ去る。
 呆れた様子の兵士は、再び剣を担いだ。
 外に出ていた傭兵たちは、感じたことのある威圧に、冷や汗が止まらないでいる。
 コラレダ兵との衝突が何度かあったが、全員、大剣の兵士におののいて脱兎の如く散って行ったため、スムーズに関所の入口まで進んだ一行。兵士が剣をおろしながら、先頭にいる難民に、
 「怖がらんでも良い。済まぬが、国内に重篤人が中におってな。運び出すのにこの馬車が必要なのだ。譲ってはくれぬか」
 「は、はい。どど、どうぞ」
 「助かる。そなたに加護があらんことを」
 「は、はあ、どうも」
 きょとんとした難民は、再度大剣を肩に乗せた男を、ずっと見つめていた。
 大急ぎで手続きを終わらせたヘイノたちは、無事国内に入り、カレンたちが泊まっている宿へと足を運ぶ。
 「随分と端っこのほうに泊まってんだな」
 「身の安全のためよ。女が多いし、準備段階をお客さんに見られたくないし」
 「そう言えば会場が近かったな」
 「え、ええ」
 「ふん。まあ、致し方ないか」
 と、兵士はかぶとを外す。
 「ごめんなさいね。今までと違うのは、頭ではわかってるのよ」
 「それだけの事をして来たのだ。公なら不敬罪だが、わしは気にせん。だから貴様らも構えを解いてはどうだ」
 剣柄に手を掛けいつでも抜けるようにしていたアードルフとギルバート。ヤロは開いた口が塞がらず、イスモは暗器を構えている。
 「感謝致します、グラン殿」
 と、荷台から出て来たヘイノ。緊張感こそあれど、両手はがら空きである。
 「グランで良い。今のわしは一介の傭兵よ」
 「とはいえ、目上の方ですし」
 「はっはっ、堅いな。一般人にそう畏まっては、事情を知らぬ者らに不審がられよう。動きにくくなるわ」
 と、豪快に笑う、元コラレダ王国国王。グランとは、グラニータッヒ前王の愛称だ。
 「とまあ、雑談はここまでにしておこう。カレン、大儀であったな」
 「いいえ。お力になれてよかったですわ」
 「ゆるりと休むが良い。良き演出をな」
 「はい。では、失礼します」
 踊り子流の挨拶をした後、カレンは宿へと入って行った。
 「姫君はしばらく、着替えたこ奴らに見させる。場所は宿屋に了承を得ているゆえ、問題無い」
 「ズイブンとヨウイシュートーじゃん」
 と、情報屋。軽い音を立てて、普段通りの様子だ。
 「即興よ。コラレダが姫君を狙っていると、サンプサから受けたのでな」
 「まあ、その、助かったよ。どうしようかとおもってたし」
 「ほお? 貴様にしては素直ではないか」
 「う、うっさいっ。で、これからあんたらはどーすんの」
 「ふん、知れた事を。わしを陥れた借りを返すまで」
 「お待ち下さい。フィランダリア王国を戦場にするという意味ですか」
 「だから敬語は、いや良い。安心されよ。そんな愚行などせぬ」
 フィランダリア兵に借りたかぶとを部下に渡しながら、
 「わしは、な。だが相手はどう思っておるかは知らんぞ」
 「話が見えねえ。どういうこった」
 「お、おい」
 「はっはっはっ。威勢の良い怖いもの知らずの若造だ、面白い」
 慌てて止めたイスモは胸をなでおろす。
 「考えてもみよ。コラレダの狙いは姫君の身柄とヘイノ殿の命。だが、関所を越えてしまっては手出しが難しかろう」
 「宣戦布告するってのか」
 「余程の阿呆ならな。普通なら暗殺者を送り込んで来よう」
 「人数がふえるってコトか」
 「そうなろう。水面下で動かざるを得んからな」
 「かといって現状ではフィランダリア兵の助力を得ることは難しいでしょう。防衛な、ら」
 若い将軍は、思わず傭兵王を睨んでしまう。頭の回る若者を見たグランは、怪しく笑う。
 「わしに付いて来た酔狂な連中は戦好きでな。だが、戦えぬ者には手出しはせん」
 「何人いるんですー」
 「む。そうだな、何人だ」
 「五十人はいますね」
 シュンと、傭兵の傍に現れた男性。サークと二人の魔導士も一緒だ。
 サンプサは、
 「既にグループ分けして並ばせてありますよ。他は護衛をしております」
 「良くやった」
 「護衛?」
 「わしらは傭兵だ。仕事をしておるだけよ」
 「一般公募している仕事で、難民の誘導や警備をしているのですよ」
 「あー、そういう事かー」
 「察しが良いではないか。小事が大事になるのは致し方あるまい。そこで、だ」
 グランは、万が一のことがあったら、すぐに逃げるようにと警告して来た。どうやら、一行の目的を知っているらしい。
 「詳しくは聞いておらんが、姫君の身に起きていることは知っている。手立てがあるのだろう」
 「まあね。にしても、ずいぶん肩入れすんじゃん」
 「ふん。貸し借りはせぬ主義でな」
 「は?」
 「実は、ラガンダ様にきつくお灸を据えられましてね」
 「貴様、余計な事を言うでない」
 「本当の事でしょう。こんな見た目ですし、ひねくれてますので、お察し頂ければ」
 「サンプサ。今からあの世に送っても良いのだぞ」
 「やれるものなら。すぐに逃げれます」
 にっこり笑いながら、主をからかう部下。顔を真っ赤にしているグランを目に入れる一行は、笑いたくても笑えない状況であった。


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 「では、彼らには空から援護して頂きましょう。その方が特技を生かせるかと」
 「聞いてみます。三兄弟をご存知なのですか」
 「魔法師は仲間意識が強いのです。殆どが知り合いですよ」
 彼自身も魔法の国には何度も足を運んだらしく、その際に沢山の出会いがあったとか。
 その表情は、穏やかで微笑んでいるようにも感じられる。
 「私たちはどうしようね~」
 「うむ」
 「アマンダ様のお傍に。目に見える魔法は必要以上に晒さないほうが宜しいかと」
 「それがいいわね~。広すぎて結界はれないし~」
 「そうだな」
 「では、相手の出方を伺いましょう。私が上空で見張っておきます」
 「了解。サークたちがきたら知らせる」
 「頼みました」
 サンプサは子供の両肩に手を乗せる。
 「無理はしないように。良いですね」
 「え。う、うん」
 きょとんとした声を聞いた付き人は、微笑むと立ち上がる。
 「身内も数人来ております。御身を第一になされますよう」
 「心得ました。お気をつけて」
 一礼をしたサンプサは、瞬時に姿を消した。
 半ば放心している情報屋の肩に、再び男性の手が置かれる。
 「君は、とても大事にされているんだな」
 と、将軍。サークに連絡を取った後、確認をしに外に出る姿を、子供は見つめていた。
 数時間が経過した現地だが、人波の風景は殆ど変わっていない。人数が多く手続きに手間取っているのだろうことは容易に想像出来た。
 民たちの中には、歩が進まない苛立ちや理不尽さも相まってか、言い争いが起こっている場所も見受けられる。
 様子を見ているサンプサからの連絡もなく、時間だけが過ぎて行く。
 さらに数時間が経過したとき、情報屋が荷台の中に入って来た。子供は水晶を出現させると、魔力を集め始める。
 暗がりの中に存在感を増していく青白い光は、ざっと千人はいそうなコラレダ軍を空から映すと、
 「どう見ても視察では無いな。戦闘を意識した先発隊だろう」
 「こんだけドードーとしてんもんな。どうすんの」
 「そう、だな。狙いはやはり我々か」
 水晶からは、コラレダ兵が難民に詰め寄り、尋問しているらしい様子が見受けられる。中には、暴力を振るっている様な仕草も見て取れた。
 騒ぎを聞きつけ、フィランダリア兵も関所から姿を現し、近くにいるコラレダ兵と接触をするが。
 「イチャモンつけられてるっぽいな、これ」
 「声を拾う事は出来るか」
 情報屋がしばらく動かなくなる。数分後、
 「無理。妨害されてる」
 「魔法師や魔道具の気配は無いが」
 「うーん。でもサンプサもできないんだって」
 「おや。君達はどうかな」
 「私は出来ぬ」
 「雨がふってればね~。あるいは霧とか~」
 「そうか」
 あごに手を置き考え込むヘイノ。そうこうしているうちに、コラレダ兵が列に合わせて隊形を変えて行く。ここにたどり着くのも時間の問題である。
 ギルバートの言う通り、戦闘になるのは避けたい。とはいえ、民を放って置くわけにも。
 魔法を駆使すれば足止めはおろか、殲滅すら可能であろうが、それは短絡的な発想に過ぎない。魔法師にとっての忌まわしい歴史が繰り返されるだけだ。
 「情報屋。グラン殿はどちらにいらっしゃるか分かるか」
 「グラン? なんで」
 「こちらに来ているはずだ。腹に背は変えられん」
 「あ~、なるほど。もう中にはいってるって聞いたけど」
 「旦那、今いいか」
 情報屋がサンプサに連絡しようとしたとき、ヤロが布を少し動かしながら話しかけて来た。
 「どうした」
 「実はよ、この馬車を貸して欲しいって奴が来ててよ」
 「馬車を? 話をしよう」
 将軍はいぶかしげに思いながらも対応しようとした。相手は意外な人物で、左手にスカートの裾を持ち、右手は胸の辺りに置きながら、一礼をする。
 「お久しぶりです」
 「カレン、か。どうしてここに」
 「まあ。覚えててくださったんですね。嬉しいわ」
 「あんな素敵な踊りを魅せられてはな。忘れる事なんて出来ないさ」
 「もしかして口説かれてるのかしら。うふふ」
 と、冗談めいた表情のカレン。町の娘がまとう格好だが、凛とした顔立ちは、薄化粧でも隠せていない。
 「実は仲間が病気にかかっちゃったみたいで、たくさんの人を乗せられるほどの馬車を探してたの。町のは出払ってて困ってて」
 「いいんじゃない。かしてやれば」
 と、中から子供の声。カレンの顔に、一瞬緊張が走る。
 「今からくるフィランダリア兵と一緒に中はいればいいみたいだぜ。許可もおりてるって」
 眉をひそめるヘイノだが、カレンを見ても笑顔のまま。彼女は、四大魔法師のひとりラガンダお気に入りの、実力派の踊り子でもある。
 口を緩めながらため息をついた彼は、
 「肝が据わっているな」
 「そうね。この業界で、踊り一本だけで生きてきたんだもの。ラガンダ様のお陰でね」
 「分かった。ライティア家には後で断りを入れておこう」
 話がまとまった瞬間、異様に歩の早いフィランダリア兵たちがやって来た。人の身長よりはるかに大きい大剣を担いだ兵が、
 「大きな馬車、これだな」
 「あっ。兵士さんじゃない」
 「おお、そなた自身が来るとはな」
 「本当は止められたんだけど。私のほうが早いと思って」
 「はっはっはっ。一理ある。話は済んだのか」
 妙な話しかたをする大柄な一般兵。しかし、かぶとの中から見える眼光は、異常な強さがある。
 兵士は、前の難民に対し、事情を説明。一行の後ろにいた難民たちを進ませ、集団は列を抜けて前へと進む。なお、ヘイノは荷台に戻り、カレンは御者台に座っていた。
 しばらく進むと、とある武装した集団と出くわした。彼らの格好は、フィランダリア兵と違い、各々バラバラである。
 「止まれ。中を調べさせろ」
 「何故だ」
 「探し人がいる可能性があるからだ」
 「ほお。誰を探しておられる」
 「貴様には関係のないことだ。早くどけ」
 妙な口調の兵士の周りにいる、同じ姿をした兵士がにじり寄る。
 「どくのは貴様らのほうだ。こちらは人の命が掛かっているのでな。急がねばならん」
 「すぐに終わる。中を見るだけだ」
 「話が通じんのか、それとも耳が悪いのかどちらだ。一刻を争うと言っておる」
 「知ったことか。とっととどっ」
 コラレダ兵が吹っ飛ぶ。
 「こちらとて貴様らの事情など知ったことではないわ。どけ、さもなけば切り捨てる」
 剣を、ゆっくり動かす兵士。地面に近づいた刃は、日の光でギラリと輝いた。
 尋常ではない雰囲気に、コラレダ兵は顔を真っ青にして一目散に逃げ去る。
 呆れた様子の兵士は、再び剣を担いだ。
 外に出ていた傭兵たちは、感じたことのある威圧に、冷や汗が止まらないでいる。
 コラレダ兵との衝突が何度かあったが、全員、大剣の兵士におののいて脱兎の如く散って行ったため、スムーズに関所の入口まで進んだ一行。兵士が剣をおろしながら、先頭にいる難民に、
 「怖がらんでも良い。済まぬが、国内に重篤人が中におってな。運び出すのにこの馬車が必要なのだ。譲ってはくれぬか」
 「は、はい。どど、どうぞ」
 「助かる。そなたに加護があらんことを」
 「は、はあ、どうも」
 きょとんとした難民は、再度大剣を肩に乗せた男を、ずっと見つめていた。
 大急ぎで手続きを終わらせたヘイノたちは、無事国内に入り、カレンたちが泊まっている宿へと足を運ぶ。
 「随分と端っこのほうに泊まってんだな」
 「身の安全のためよ。女が多いし、準備段階をお客さんに見られたくないし」
 「そう言えば会場が近かったな」
 「え、ええ」
 「ふん。まあ、致し方ないか」
 と、兵士はかぶとを外す。
 「ごめんなさいね。今までと違うのは、頭ではわかってるのよ」
 「それだけの事をして来たのだ。公なら不敬罪だが、わしは気にせん。だから貴様らも構えを解いてはどうだ」
 剣柄に手を掛けいつでも抜けるようにしていたアードルフとギルバート。ヤロは開いた口が塞がらず、イスモは暗器を構えている。
 「感謝致します、グラン殿」
 と、荷台から出て来たヘイノ。緊張感こそあれど、両手はがら空きである。
 「グランで良い。今のわしは一介の傭兵よ」
 「とはいえ、目上の方ですし」
 「はっはっ、堅いな。一般人にそう畏まっては、事情を知らぬ者らに不審がられよう。動きにくくなるわ」
 と、豪快に笑う、元コラレダ王国国王。グランとは、グラニータッヒ前王の愛称だ。
 「とまあ、雑談はここまでにしておこう。カレン、大儀であったな」
 「いいえ。お力になれてよかったですわ」
 「ゆるりと休むが良い。良き演出をな」
 「はい。では、失礼します」
 踊り子流の挨拶をした後、カレンは宿へと入って行った。
 「姫君はしばらく、着替えたこ奴らに見させる。場所は宿屋に了承を得ているゆえ、問題無い」
 「ズイブンとヨウイシュートーじゃん」
 と、情報屋。軽い音を立てて、普段通りの様子だ。
 「即興よ。コラレダが姫君を狙っていると、サンプサから受けたのでな」
 「まあ、その、助かったよ。どうしようかとおもってたし」
 「ほお? 貴様にしては素直ではないか」
 「う、うっさいっ。で、これからあんたらはどーすんの」
 「ふん、知れた事を。わしを陥れた借りを返すまで」
 「お待ち下さい。フィランダリア王国を戦場にするという意味ですか」
 「だから敬語は、いや良い。安心されよ。そんな愚行などせぬ」
 フィランダリア兵に借りたかぶとを部下に渡しながら、
 「わしは、な。だが相手はどう思っておるかは知らんぞ」
 「話が見えねえ。どういうこった」
 「お、おい」
 「はっはっはっ。威勢の良い怖いもの知らずの若造だ、面白い」
 慌てて止めたイスモは胸をなでおろす。
 「考えてもみよ。コラレダの狙いは姫君の身柄とヘイノ殿の命。だが、関所を越えてしまっては手出しが難しかろう」
 「宣戦布告するってのか」
 「余程の阿呆ならな。普通なら暗殺者を送り込んで来よう」
 「人数がふえるってコトか」
 「そうなろう。水面下で動かざるを得んからな」
 「かといって現状ではフィランダリア兵の助力を得ることは難しいでしょう。防衛な、ら」
 若い将軍は、思わず傭兵王を睨んでしまう。頭の回る若者を見たグランは、怪しく笑う。
 「わしに付いて来た酔狂な連中は戦好きでな。だが、戦えぬ者には手出しはせん」
 「何人いるんですー」
 「む。そうだな、何人だ」
 「五十人はいますね」
 シュンと、傭兵の傍に現れた男性。サークと二人の魔導士も一緒だ。
 サンプサは、
 「既にグループ分けして並ばせてありますよ。他は護衛をしております」
 「良くやった」
 「護衛?」
 「わしらは傭兵だ。仕事をしておるだけよ」
 「一般公募している仕事で、難民の誘導や警備をしているのですよ」
 「あー、そういう事かー」
 「察しが良いではないか。小事が大事になるのは致し方あるまい。そこで、だ」
 グランは、万が一のことがあったら、すぐに逃げるようにと警告して来た。どうやら、一行の目的を知っているらしい。
 「詳しくは聞いておらんが、姫君の身に起きていることは知っている。手立てがあるのだろう」
 「まあね。にしても、ずいぶん肩入れすんじゃん」
 「ふん。貸し借りはせぬ主義でな」
 「は?」
 「実は、ラガンダ様にきつくお灸を据えられましてね」
 「貴様、余計な事を言うでない」
 「本当の事でしょう。こんな見た目ですし、ひねくれてますので、お察し頂ければ」
 「サンプサ。今からあの世に送っても良いのだぞ」
 「やれるものなら。すぐに逃げれます」
 にっこり笑いながら、主をからかう部下。顔を真っ赤にしているグランを目に入れる一行は、笑いたくても笑えない状況であった。