第六十二話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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情報屋が飛び回って関係者各位に伝えてから一ヶ月。ライティア領にある港町、ミルディアの検問に人だかりが出来ていた。
「ほら、これも持ってお行きよ」
「いつもすまない。助かる」
「はっはっは、何言ってんだい。世話になってるのはこっちのほうさ」
と、エプロンをした四十代の女性。アードルフに干し肉や乾燥した野菜が入った袋を渡している。
「これが傷薬で、これが解熱剤だ。他のもラベル貼ってあるから大丈夫だと思うけど」
「においかいで確かめるよ。ありがとう」
と、こちらはイスモ。にっこり微笑むと、話していた夫婦の顔が赤くなった。
「ちょっとあんたっ」
「お、お前だって」
表情を変えずに呆れる暗殺者。だが、町の人々は、ライティア家の従者というだけで職業には気にとめていないようだった。
「また帰ってくるんだろ。そんときゃもっと派手に飲もうじゃねぇか」
「いいな。この前勝ったから、あんたの奢りだぜ」
「うへぇ。程ほどにしてくれよ」
「かてえこと言うなよ。だっはっはっ」
「人のお金で飲むお酒はおいしいもんねー」
「お前にゃあ奢らねえぞっ」
「ええー。そう言わずにー」
「ちゃっかり便乗してんじゃねえよ。ったく」
と、数本の酒を渡す漁師。ヤロとギルバートは、アードルフに代わって町の警護をしていたのである。
「もうそろそろ宜しいか」
「そうだな。皆、問題ないか」
「薬は平気」
「飲み物も揃ったぜ」
「そうか。食料や着替えもある。そろそろ出発しよう」
「気をつけて。開門っ」
四人の従者に囲まれた二台の馬車は、大勢の人々に見送られながらミルディアを後にした。
北に向かうこと小一時間。周りの安全と喧騒が無いことを確認すると、荷台の布を動かし、一人の男性が顔を出す。
「凄い人だったな。驚いた」
「アマンダ様がお乗りになっていたからでしょう。心配して見に来たのだと」
「成程。民に愛されていているな」
と、フードを外した黒髪の青年。馬車の中に視線を送るも、薄暗くて横たわっている令嬢の姿はあまり見えない。
「ヘイノ様、似合ってますねー」
「ありがとう。妙な感じだが」
と、前髪をいじる将軍。彼とアマンダの出国手続きはセイラックが直に携わり、念の為に変装をしているという。
なお、アマンダはそのままだ。
「尻尾を出させるために架空申請を行うとは。思いつかなかったな」
「大丈夫なの、それ。バレたらまずいんじゃ」
「基本は魔法と魔道具で誤魔化すそうだ。万が一は私が直接赴くことになっている」
「直接って。どうやって」
「魔法師の誰かが迎えに来てくれる」
「ふうん。魔法師の情報網ってとんでもないね」
「どうやってやってるんだろうねー」
「良く分からんが。個人間で契約を交わして、らしい」
「あー。もしかして感覚でやってるカンジなのかな」
「おそらくな。フィリア様や情報屋に聞いてみたが、伝えづらそうだった」
「育った文化なんだろうねー、きっと」
と、後方は穏やかに歩いている。
「まさかまた、あの町に三人揃って行くなんてな」
「そうだな。色々あったな」
「ああ、大変だったぜ。そういやあよ、あの後の事って話したっけか」
「直後の話は聞いていないな。ヴァロスがいたが」
「そのまさかでよ。実はあの野郎と殴り合いになって。今なら生きかたの違いだって理解出来るけどよ。あん時あヤバかったな。住民に止められた気がする」
「お前は昔から血の気が多いからな」
「しょうがねぇだろ、あの頃は。兄貴ほどじゃねえが、オレも大分丸くなったもんだぜ。だっはっはっ」
「丸くなり過ぎて手玉に取られるなよ」
「うっ。それは自信ねえ」
「全く。良いコンビだな」
と前方のヤロとアードルフ。少し後ろにいる馬は、表情を変えずに常歩していた。
三時間程歩くと、裾野が見えて来た。この辺りには休憩可能な小さな宿場がある。
「ここに情報屋たちと待ち合わせなんだが」
「たち?」
「リューデリアとサイヤも一緒のはずだ」
「あんた、やっぱり話聞いてなかったね」
「え、えーっと」
あははは、と誤魔化すギルバート。文化改革の一環で、手始めに二人を外部との接触頻度を高めようというものらしい。
「すまないが、誰か一人迎えに行ってあげて欲しい。私が顔を出す訳にも行かなくてな」
「なら私が行ってくるー」
「寄り道すんじゃねえぞ」
聞いたか聞かずか不明だが、何だか楽しそうに建物へと向かっていく彼。残った一行は、馬場へと向かった。
十分程経過した後、情報屋とギルバートが馬場に顔を出して来た。
「ここにあったんだねぇー」
「すぐ裏側にあんのにどーして見落とすんだよ」
はあ、と情報屋。ヘイノたちがいるところは、若干奥ばった場所で、宿場との間には木々がある。
「無事に合流出来て良かった。二人は」
「今メシ食ってる」
「そうか」
「そうだ。天候が変わるらしいから、今日はあきらめたほーがいいらしいぜ。ワナのニオイはない」
「なら安心だな。皆、歩いて疲れただろう。英気を養ってくれ」
「そりゃありがたいけど。将軍殿たちはどうするの」
「一度ライティアの館に戻る。明朝合流しよう」
「畏まりました」
「では、わたくしめは馬の管理を致しましょう」
「ああ、頼む」
御者は一礼をし、早速準備に取り掛かった。
翌朝、貴族と女性を乗せた馬車はレンダスタへと出発。スピードを調節しながら、ゆっくりと山を越えて行く。
上空には、情報屋の相棒である大きな鳥が、どちらかが必ず飛んでいた。
轍(わだち)の上に小さな雑草が生えている道は、思いの外歩きにくくなっていたが、鍛え抜かれた足に問題なかった様子の一行。
そのままのペースなら早くついていただろうレンダスタにも、予定の狂いなく到着することが出来た。
休養と補給のために一泊した後、日の出と共に町を後にした集団は、少々感情の温度差があった。
「ば、馬車は結構揺れるのだな」
「あら~、酔っちゃったかしら」
「今は大丈夫だ。気分が悪くなったら飛ぶようにする」
「解消方法が凄いな」
「高所恐怖症じゃなきゃてきめんよ~」
「アードルフから聞いたが、私達の生活感覚と相当異なっているらしいが」
「そうだな。酔ったら横になる位だろう」
「子供のいたずらのお仕置きに掘りがないなんて驚いたもんね~」
「我々では手間が掛かって仕方がないよ」
「スコップだと難しいな、確かに」
「花壇ぐらいよね~。使うの」
「そこは魔法で何とかしないのかい」
「さすがに壊れちゃうのよ~」
「成程。加減が難しいんだな」
「そうね~。逆に力が強すぎると料理が炭になっちゃったりとか~」
「私が良い例だ。火の魔法は得意だが、サイヤに弱めてもらわないと焚き火が爆発する時があってな」
「ほお。それで二人で準備していたのか」
「もあるわね~。手分けしてたのが大きいけど~。逆に私は火の魔法が苦手だから、火種がほしいときはいつもお願いしてるのよ~」
「では得意分野を補い合っているのか。素晴らしい文化だ」
「そうね~。それぞれが得意分野を持ち寄って暮らすのが、生活の基本ね~」
と、道中は殆どお互いの文化の会話だった。個人的な好奇心もあるが、失われた交流を取り戻すには、まず互いを知る事だと判断したのもあろう。
数百年前までは、それが当たり前の光景だったのだ。偏見さえなくなれば、言葉の疎通が簡単な以上、元に戻せるだろう。
四大魔法師をはじめ、アンブローやフィランダリア、そしてランバルコーヤの主要人物が導き出した結果である。
魔法師に対する風当たりは、主にコラレダにいた者たちが強く感じだという。
そうこうしているうちに、問題もなくフィランダリア国境へとたどり着いた一行。関所の前には、最後尾が見えない長蛇の列が見えた。
「何だこりゃ。混みすぎじゃねえか」
「難民が流れてきてるんじゃない。服装がコラレダのだし」
「割り込むわけにもいかん。とりあえず最後のほうまで行こう」
ギルバートは、眉をひそませたまま無言であった。
外から聞こえて来た中身を考慮しているヘイノの隣に、突然情報屋が出現する。
「うわっ」
「わりぃわりぃ、でる場所間違えちまった」
「あら~、座標がずれるなんて珍しいわね~」
「ああ、ちょっとな。急いでたんだ、ワザとじゃねぇよ」
「何かあったのか」
なるべく平静を保つようにした将軍だが、まだ心臓の鼓動が早いよう。
「傭兵軍がこっちにせまってる。団長自らのおでましだ」
「何だと」
子供は、大勢の難民も彼らの仕業だと話した。先に行って様子を見てきたのだという。
「空ならはえぇからな。一足先にって思ったんだけど」
「妙な状況だったから調べてくれた訳か。礼を言う。目的は何か分かるか」
「さあ。このコトは極力外部にバレないようにしてたし」
と、首をかしげる情報屋。考えられるのは、難民たちの回収かと思ったらしいのだが。その割りには物々しく、殺気立っていたと続ける。
「ここに来た人たち、数週間前に無法者に襲われてたんだ」
「一気にか?」
「そ。んで、そいつらも捕まってない」
「犯罪者をのさばらせていると? いや、待てよ」
「もしそれ自体が仕組まれてたんだとしたら、ヤバいぜ」
「我々だけならともかく、民までは守りきれない」
ましてや本来なら、海を隔ててフィランダリアに入国している手筈になっている。もし、ここから入国しようとしたのが露見すれば、つけ込まれる隙になる。
目の前にいる情報屋は、ましてライティア家や魔法師に関わる事柄に関してならいっそう、売ったりはしない。
だとすれば答えはひとつだ。おそらくコラレダにいる参謀兼魔法師だろう、とヘイノは考えた。
魔法を使えば応戦しながら守ることは可能かもしれない。だが、そんなことしたら本末転倒になってしまう。
かといって、今から引き返すことも不可能だ。
「まだ見えねぇな。どんだけの人間がいんだよ」
「兄貴、ちょっと聞き込みしたほうがいいんじゃない。様子がヘンだし」
「そうだな。最後尾に着いたらそうしよう」
「ちょっとしつれーい」
トン、と足をかけ、垂れている布を開けると、ギルバートが荷台に入って来る。
「あ、情報屋。ちょうど良いところにー」
「なんだよ」
「近くにさ、コラレダ軍来てない」
少し間をあけて、子供は肯定する。
「そっか。ヘイノ様。提案なんですけど」
「提案?」
「ええ。貴方とアマンダ様はすぐに魔法で移動して身を隠したほうが良いかと」
「逃げろ、と」
「そうです。後々のことを考えたら、鉢合わせはまずいでしょう」
「困っている民を見捨てろと言うのか」
「軍単位なら、私達の戦力ではどうすることも出来ません。一部だけなら守れますが」
「ここが空けば、何人か入れるか」
「それも出来ますね」
眉間にしわを寄せるヘイノ。考え込んでいると、ヤロの驚いた声が聞こえる。
「何であんたがここにっ」
「おや、覚えて下さっていたとは。光栄にございます」
「あ、わりい、名前までは覚えてねえや。顔はすぐ覚えられんだけどよ」
「そうでしたか。それでも素晴らしい記憶力です。一度ライティアのお屋敷でご挨拶しただけですから」
外に視線を送る面々。傭兵は外に出て、情報屋は水晶を出現させて確認することに。
「私はサンプサと申します。ところで」
彼は一番近くにいたヤロに近づき、
「荷台に魔法師がいますね。どなたですか」
「え、いや、その、それは」
「オレだよ」
と、声を出しながら、情報屋は降りて姿を現す。
「おお。元気そうだな」
「おかげさまで。にしても、どうしてここに」
「何、君程じゃないが、私もスパイだったからな。経験を生かしたまでだ」
「どういうコト」
大人と子供の会話は、見ず知らずのコラレダの民には聞こえていないようで、並びながらうつむいている。
「アマンダ様を捕獲する計画が急遽コラレダの会議に上がったんだ。ヘイノ様は始末してな」
「ちょちょ、ちょっと。なんで一緒にいることがバレて」
「漏れたからだろうな。君が一人の時に突き破られたのかもしれない」
拳を作りながら歯軋りをする情報屋。震える肩に手が添えられると、
「相手が悪かっただけだ。気にするな」
サンプサは、ある案を持って来ていた。
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「ほら、これも持ってお行きよ」
「いつもすまない。助かる」
「はっはっは、何言ってんだい。世話になってるのはこっちのほうさ」
と、エプロンをした四十代の女性。アードルフに干し肉や乾燥した野菜が入った袋を渡している。
「これが傷薬で、これが解熱剤だ。他のもラベル貼ってあるから大丈夫だと思うけど」
「においかいで確かめるよ。ありがとう」
と、こちらはイスモ。にっこり微笑むと、話していた夫婦の顔が赤くなった。
「ちょっとあんたっ」
「お、お前だって」
表情を変えずに呆れる暗殺者。だが、町の人々は、ライティア家の従者というだけで職業には気にとめていないようだった。
「また帰ってくるんだろ。そんときゃもっと派手に飲もうじゃねぇか」
「いいな。この前勝ったから、あんたの奢りだぜ」
「うへぇ。程ほどにしてくれよ」
「かてえこと言うなよ。だっはっはっ」
「人のお金で飲むお酒はおいしいもんねー」
「お前にゃあ奢らねえぞっ」
「ええー。そう言わずにー」
「ちゃっかり便乗してんじゃねえよ。ったく」
と、数本の酒を渡す漁師。ヤロとギルバートは、アードルフに代わって町の警護をしていたのである。
「もうそろそろ宜しいか」
「そうだな。皆、問題ないか」
「薬は平気」
「飲み物も揃ったぜ」
「そうか。食料や着替えもある。そろそろ出発しよう」
「気をつけて。開門っ」
四人の従者に囲まれた二台の馬車は、大勢の人々に見送られながらミルディアを後にした。
北に向かうこと小一時間。周りの安全と喧騒が無いことを確認すると、荷台の布を動かし、一人の男性が顔を出す。
「凄い人だったな。驚いた」
「アマンダ様がお乗りになっていたからでしょう。心配して見に来たのだと」
「成程。民に愛されていているな」
と、フードを外した黒髪の青年。馬車の中に視線を送るも、薄暗くて横たわっている令嬢の姿はあまり見えない。
「ヘイノ様、似合ってますねー」
「ありがとう。妙な感じだが」
と、前髪をいじる将軍。彼とアマンダの出国手続きはセイラックが直に携わり、念の為に変装をしているという。
なお、アマンダはそのままだ。
「尻尾を出させるために架空申請を行うとは。思いつかなかったな」
「大丈夫なの、それ。バレたらまずいんじゃ」
「基本は魔法と魔道具で誤魔化すそうだ。万が一は私が直接赴くことになっている」
「直接って。どうやって」
「魔法師の誰かが迎えに来てくれる」
「ふうん。魔法師の情報網ってとんでもないね」
「どうやってやってるんだろうねー」
「良く分からんが。個人間で契約を交わして、らしい」
「あー。もしかして感覚でやってるカンジなのかな」
「おそらくな。フィリア様や情報屋に聞いてみたが、伝えづらそうだった」
「育った文化なんだろうねー、きっと」
と、後方は穏やかに歩いている。
「まさかまた、あの町に三人揃って行くなんてな」
「そうだな。色々あったな」
「ああ、大変だったぜ。そういやあよ、あの後の事って話したっけか」
「直後の話は聞いていないな。ヴァロスがいたが」
「そのまさかでよ。実はあの野郎と殴り合いになって。今なら生きかたの違いだって理解出来るけどよ。あん時あヤバかったな。住民に止められた気がする」
「お前は昔から血の気が多いからな」
「しょうがねぇだろ、あの頃は。兄貴ほどじゃねえが、オレも大分丸くなったもんだぜ。だっはっはっ」
「丸くなり過ぎて手玉に取られるなよ」
「うっ。それは自信ねえ」
「全く。良いコンビだな」
と前方のヤロとアードルフ。少し後ろにいる馬は、表情を変えずに常歩していた。
三時間程歩くと、裾野が見えて来た。この辺りには休憩可能な小さな宿場がある。
「ここに情報屋たちと待ち合わせなんだが」
「たち?」
「リューデリアとサイヤも一緒のはずだ」
「あんた、やっぱり話聞いてなかったね」
「え、えーっと」
あははは、と誤魔化すギルバート。文化改革の一環で、手始めに二人を外部との接触頻度を高めようというものらしい。
「すまないが、誰か一人迎えに行ってあげて欲しい。私が顔を出す訳にも行かなくてな」
「なら私が行ってくるー」
「寄り道すんじゃねえぞ」
聞いたか聞かずか不明だが、何だか楽しそうに建物へと向かっていく彼。残った一行は、馬場へと向かった。
十分程経過した後、情報屋とギルバートが馬場に顔を出して来た。
「ここにあったんだねぇー」
「すぐ裏側にあんのにどーして見落とすんだよ」
はあ、と情報屋。ヘイノたちがいるところは、若干奥ばった場所で、宿場との間には木々がある。
「無事に合流出来て良かった。二人は」
「今メシ食ってる」
「そうか」
「そうだ。天候が変わるらしいから、今日はあきらめたほーがいいらしいぜ。ワナのニオイはない」
「なら安心だな。皆、歩いて疲れただろう。英気を養ってくれ」
「そりゃありがたいけど。将軍殿たちはどうするの」
「一度ライティアの館に戻る。明朝合流しよう」
「畏まりました」
「では、わたくしめは馬の管理を致しましょう」
「ああ、頼む」
御者は一礼をし、早速準備に取り掛かった。
翌朝、貴族と女性を乗せた馬車はレンダスタへと出発。スピードを調節しながら、ゆっくりと山を越えて行く。
上空には、情報屋の相棒である大きな鳥が、どちらかが必ず飛んでいた。
轍(わだち)の上に小さな雑草が生えている道は、思いの外歩きにくくなっていたが、鍛え抜かれた足に問題なかった様子の一行。
そのままのペースなら早くついていただろうレンダスタにも、予定の狂いなく到着することが出来た。
休養と補給のために一泊した後、日の出と共に町を後にした集団は、少々感情の温度差があった。
「ば、馬車は結構揺れるのだな」
「あら~、酔っちゃったかしら」
「今は大丈夫だ。気分が悪くなったら飛ぶようにする」
「解消方法が凄いな」
「高所恐怖症じゃなきゃてきめんよ~」
「アードルフから聞いたが、私達の生活感覚と相当異なっているらしいが」
「そうだな。酔ったら横になる位だろう」
「子供のいたずらのお仕置きに掘りがないなんて驚いたもんね~」
「我々では手間が掛かって仕方がないよ」
「スコップだと難しいな、確かに」
「花壇ぐらいよね~。使うの」
「そこは魔法で何とかしないのかい」
「さすがに壊れちゃうのよ~」
「成程。加減が難しいんだな」
「そうね~。逆に力が強すぎると料理が炭になっちゃったりとか~」
「私が良い例だ。火の魔法は得意だが、サイヤに弱めてもらわないと焚き火が爆発する時があってな」
「ほお。それで二人で準備していたのか」
「もあるわね~。手分けしてたのが大きいけど~。逆に私は火の魔法が苦手だから、火種がほしいときはいつもお願いしてるのよ~」
「では得意分野を補い合っているのか。素晴らしい文化だ」
「そうね~。それぞれが得意分野を持ち寄って暮らすのが、生活の基本ね~」
と、道中は殆どお互いの文化の会話だった。個人的な好奇心もあるが、失われた交流を取り戻すには、まず互いを知る事だと判断したのもあろう。
数百年前までは、それが当たり前の光景だったのだ。偏見さえなくなれば、言葉の疎通が簡単な以上、元に戻せるだろう。
四大魔法師をはじめ、アンブローやフィランダリア、そしてランバルコーヤの主要人物が導き出した結果である。
魔法師に対する風当たりは、主にコラレダにいた者たちが強く感じだという。
そうこうしているうちに、問題もなくフィランダリア国境へとたどり着いた一行。関所の前には、最後尾が見えない長蛇の列が見えた。
「何だこりゃ。混みすぎじゃねえか」
「難民が流れてきてるんじゃない。服装がコラレダのだし」
「割り込むわけにもいかん。とりあえず最後のほうまで行こう」
ギルバートは、眉をひそませたまま無言であった。
外から聞こえて来た中身を考慮しているヘイノの隣に、突然情報屋が出現する。
「うわっ」
「わりぃわりぃ、でる場所間違えちまった」
「あら~、座標がずれるなんて珍しいわね~」
「ああ、ちょっとな。急いでたんだ、ワザとじゃねぇよ」
「何かあったのか」
なるべく平静を保つようにした将軍だが、まだ心臓の鼓動が早いよう。
「傭兵軍がこっちにせまってる。団長自らのおでましだ」
「何だと」
子供は、大勢の難民も彼らの仕業だと話した。先に行って様子を見てきたのだという。
「空ならはえぇからな。一足先にって思ったんだけど」
「妙な状況だったから調べてくれた訳か。礼を言う。目的は何か分かるか」
「さあ。このコトは極力外部にバレないようにしてたし」
と、首をかしげる情報屋。考えられるのは、難民たちの回収かと思ったらしいのだが。その割りには物々しく、殺気立っていたと続ける。
「ここに来た人たち、数週間前に無法者に襲われてたんだ」
「一気にか?」
「そ。んで、そいつらも捕まってない」
「犯罪者をのさばらせていると? いや、待てよ」
「もしそれ自体が仕組まれてたんだとしたら、ヤバいぜ」
「我々だけならともかく、民までは守りきれない」
ましてや本来なら、海を隔ててフィランダリアに入国している手筈になっている。もし、ここから入国しようとしたのが露見すれば、つけ込まれる隙になる。
目の前にいる情報屋は、ましてライティア家や魔法師に関わる事柄に関してならいっそう、売ったりはしない。
だとすれば答えはひとつだ。おそらくコラレダにいる参謀兼魔法師だろう、とヘイノは考えた。
魔法を使えば応戦しながら守ることは可能かもしれない。だが、そんなことしたら本末転倒になってしまう。
かといって、今から引き返すことも不可能だ。
「まだ見えねぇな。どんだけの人間がいんだよ」
「兄貴、ちょっと聞き込みしたほうがいいんじゃない。様子がヘンだし」
「そうだな。最後尾に着いたらそうしよう」
「ちょっとしつれーい」
トン、と足をかけ、垂れている布を開けると、ギルバートが荷台に入って来る。
「あ、情報屋。ちょうど良いところにー」
「なんだよ」
「近くにさ、コラレダ軍来てない」
少し間をあけて、子供は肯定する。
「そっか。ヘイノ様。提案なんですけど」
「提案?」
「ええ。貴方とアマンダ様はすぐに魔法で移動して身を隠したほうが良いかと」
「逃げろ、と」
「そうです。後々のことを考えたら、鉢合わせはまずいでしょう」
「困っている民を見捨てろと言うのか」
「軍単位なら、私達の戦力ではどうすることも出来ません。一部だけなら守れますが」
「ここが空けば、何人か入れるか」
「それも出来ますね」
眉間にしわを寄せるヘイノ。考え込んでいると、ヤロの驚いた声が聞こえる。
「何であんたがここにっ」
「おや、覚えて下さっていたとは。光栄にございます」
「あ、わりい、名前までは覚えてねえや。顔はすぐ覚えられんだけどよ」
「そうでしたか。それでも素晴らしい記憶力です。一度ライティアのお屋敷でご挨拶しただけですから」
外に視線を送る面々。傭兵は外に出て、情報屋は水晶を出現させて確認することに。
「私はサンプサと申します。ところで」
彼は一番近くにいたヤロに近づき、
「荷台に魔法師がいますね。どなたですか」
「え、いや、その、それは」
「オレだよ」
と、声を出しながら、情報屋は降りて姿を現す。
「おお。元気そうだな」
「おかげさまで。にしても、どうしてここに」
「何、君程じゃないが、私もスパイだったからな。経験を生かしたまでだ」
「どういうコト」
大人と子供の会話は、見ず知らずのコラレダの民には聞こえていないようで、並びながらうつむいている。
「アマンダ様を捕獲する計画が急遽コラレダの会議に上がったんだ。ヘイノ様は始末してな」
「ちょちょ、ちょっと。なんで一緒にいることがバレて」
「漏れたからだろうな。君が一人の時に突き破られたのかもしれない」
拳を作りながら歯軋りをする情報屋。震える肩に手が添えられると、
「相手が悪かっただけだ。気にするな」
サンプサは、ある案を持って来ていた。