第四十二話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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城内へと潜入した情報屋は、まず第一王子エリグリッセの様子を見ることにした。実は、顔を合わせたのは父王の隣にいるときのみで、本人とは会話をしたことが無い。そのため噂でしか性格を知らず、弟のラヴェラ王子と比較するのにもちょうど良いと思ったのだ。
まるで猫みたいに気配を消し、若干口が緩んだ状態で天井から覗き込む子供。姿は魔法で消しており、物音を立てなければ認知されることは無い。
「くそ。戦況はどうなってる」
「城に向かう者共は追い返しています。ここには入って来ていません」
「そうか。市街地で撹乱させ、個別で撃破するのがやはり上策か」
「は、はい」
「何だ。何か文句があるのか」
「め、滅相もございませんっ」
情報屋は、お前が考えたんじゃなくて父親の策だろーが、と口にしかけたが、何とかこらえた。代わりに笑いがこみ上げて来るのは止められないようだが。
「だがいつ鼠が入ってくるかは分からん。主要所の警備を怠るな」
「はっ」
敬礼をした伝令兵は急いで各所に通達しに行く。ドサッっと王座に座ったエリグリッセは、親指の爪を噛むと、ブツブツと独り言を口にし始める。
情報屋は風魔法を使って聞き取ってみると、ただの愚痴であった。
言い飽きたのか、エリグリッセは玉座から立ち上がり、周辺をうろうろし始める。
近くに設置された軍会議用のテーブルの傍まで歩くと、見取り図を見つめた。紙の上にはいくつかの駒が置かれており、複数の通路で繋がれている部屋の上に乗っかっている。
なお、情報屋がアンブロー軍に持っていったものと同じものである。
「配置を変えるか。通りは人一人が通れる広さしかない、部屋におびき寄せて取り囲めば」
情報屋は入口付近に移動し、魔法を解除する。
「よぉ。もしかしてお困り」
「うわっ。なな、何だ貴様はっ」
「おっと、怪しいモンじゃないよ。ほら、このカッコウ見覚えない。王子サマ」
両手を広げ、全身を覆っているマントをパサパサと動かす情報屋。エリグリッセは怪訝な顔をしたが、ああ、と口にする。
「父上が気に入られている情報屋か。そう言えば話すのは初めてだったな」
「おっしゃるとおりで。ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ありません」
左手を胸の前にかざし一礼をする情報屋。第一王子は鼻をならしたが、すぐに切り替える。
「尻尾を振る相手を違えていない様だな。情報屋、アンブロー軍の事を調べて来い。配置や人員などをだ」
「それなら知ってるよ。だからここにきたんじゃないか」
話しかたが普通に戻ったのが気に食わなかったのか、表情を歪める第一王子。だが、良かろう、と言うと、近くに呼び寄せる。
一方、情報屋は口を歪めながら歩いて行った。
「アンブロー軍はヤロ・ハーパコスキを中心に攻めてきてる。腕っぷしはつよいけど単細胞なヤツさ」
「ほう、力押しの連中なのか。他には」
「ゲリラ戦が得意みたいだぜ。あの男がひきいた隊の生存率はすごく高いって有名」
「ふむ。そ奴の弱点は」
「頭を使った作戦がニガテらしいんだと。ただ機転はきく。あと酒かな」
「成程。褒めて遣わす」
「そりゃどーも。どうする気」
「今から考える。一人にしてもらえるか」
「はいよ。また必要になったらこれで呼んでくれよ」
チリン、と小さな鈴を出す情報屋。目を細めたエリグリッセは、おずおずと受け取る。
「またゴヒイキに」
そう言いまた一礼した子供は、姿を消した。
再び天井に体を浮かせた情報屋は、うわさほどバカじゃないな、と感じた。父であるグラニータッヒから吹き込まれた可能性もあるが、この職業、しかも初対面の人間に対してごく普通の接しかただったためである。
たしか初陣は十三のときで、それ以降はろう城戦が主な戦場だったっけ。親子同士は連絡がとりあえたはず。
情報屋は、一度ギルバートと合流することにした。
ヒエンカプンキには、夜半が過ぎても戦闘音が響き渡っていた。アンブロー軍は未だに、三分の一も占拠出来ずにいる。本来ならば城付近にある、食料庫や武器庫を抑えていた予定だったが、城下民が方々に逃げ迷っていたため、保護を優先したのだ。
魔道具を通じてヤロから救助要請を受けたギルバートは、一旦軍へと合流し、部隊を再編成して前線を援護に回った。
命からがら逃げ出した一般人には戦えぬ女子供や老人が多数おり、ほとんどが着の身着のままの者である。
普段はにこやかなギルバートも、顔に憤怒を出しながら、
「信じられない。本来なら城内に匿うだろうっ」
「落ち着けや。民間人を人質に取りながら戦う連中だったんだ、しょうがねえだろ」
「た、確かに思い込みだ。褒められたものじゃないけど、方法論、としては」
「勝つためにゃあアリなんじゃねえのか。胸クソ悪ぃがよっ」
ダン、と机を叩くヤロ。外からは赤ん坊や子供の泣き声が聞こえてくる。
「あんたも落ちつけって。ヘイノに連絡とったら、あんたらの動きに感謝してたぜ。人命を優先するようにってさ」
「それは良かったー。今繋げるかい」
「やってみっけど。本人直通じゃないからちょっとまって」
情報屋は一度天幕の外に出た。鳥の鳴き声がすると、数分後に羽ばたく音が。
再び中に入って来た子供は、歩きながら頭部と同じぐらいの水晶玉を出現させる。腰に付けている道具袋から台を引っ張り出し、その上に柔らかそうな薄めのクッション、そして水晶玉を置く。
しばらく三人で淡く光った水晶玉を見つめていると、リューデリアの顔がうっすらと浮かんで来た。
『おお、お主か。どうしたのだ』
「夜中にごめん。ヤロとギルバートがヘイノと話したいんだって。今いる」
『構わぬよ。呼んで来よう』
輪郭とともに光も消える。十分程経過したが、まだ返事が無い。
夜食を取りに行っていたヤロから食事をもらった一同は、しばらく雑談をしながら待っていた。
さらに数十分が過ぎた頃、ようやく水晶玉に光が戻る。今度はゼンベルトが対応した。
『お待たせ致しました。ヘイノ様と繋ぎましょう』
老執事が左にずれると、座っている将軍の姿が映し出される。
『待たせて済まない。何かあったのか』
「現状報告ー。進捗が大分遅れててねー、ようやく三分の一を占領したんだけどー」
ギルバートは、魔法師たちの罠のお陰でここまで来れたが、サポートが無かったらおそらく城下にすら入れなかった可能性があったという。理由は城下民がいるため、不用意に突撃出来ないからだ。
「状況はまあともかくとしてー。問題は民達なんだ。このままだと物資が不足する」
『成程。スピード重視で最低限しかないからな』
「うんうん。エリグリッセの命令で家財が没収されちゃったんだってー。たぶんもう荒らされちゃってるー」
『持って行くなと王子が命令したのか? 何と愚かな』
「持ってた荷物も奪われちゃってね。目の前で起きた事は対処したけど」
『十分良くやってくれた。感謝する。しかし弱ったな』
ヘイノはこちらで起きた出来事を彼らに伝える。なお、こちらは現在はゆっくりとクリハーレンへと進軍中であり、ヤロたちが王城を取り次第動く算段である。
『地理的にも人員を割くのは厳しい。彼らは動けるか』
「動けはするけど戦えない」
『やはり護衛が必要か』
「旦那、こっちにも余裕がねえぞ。感覚だが数もそんな変わらねえ」
『そうか。少し待ってくれ』
と、ヘイノは退席する。数分後、ヤロとギルバートは初顔を目にした。
『初めまして。私はラヴェラ・ランバルコーヤと申します。この度は民を救って頂いたと。ありがとうございます』
と、頭を下げるラヴェラ王子。二人のうち片方は慌てて同じ動作をし、もう一人は遅れて頭を下げる。
『結論を先にお伝えしましょう。民達に西にあるオアシスへと移動してもらうように伝えて頂きたいのです』
ヒエンカプンキの西側には大陸最大のオアシスがあり、クリハーレンにとっても重要な水源でもある神聖な場所だという。
『実は、クリハーレンの民達は、ラガンダと共にオアシスを横断しているのです。陥落したヒエンカプンキに隠れてもらう為に』
「んー。だとすると、合流させるってコトですかねー」
『そうです。ラガンダが民達を保護すれば、貴方方が動きやすくなりましょう』
「確かにな。それで、ラガンダの旦那はいつ来るんだ」
「ちょっと、ヤロ」
ギルバートに肩を叩かれるヤロだが、あんだよ、という返事を平気でしてしまう。だが、その様子を楽しそうに王子は見ていた。
『正確な日数は本人ではないと分かりかねますが。おそらく早くても数日は掛かるでしょう』
『持ちそうか』
「持たねえな。さっきちらっと見ただけだがよ。民間人の分含めっと、一食にしても一日分だと思うぜ」
『ラヴェラ王子、現地での食料を調達する方法はございますか』
『オアシスに行けばペッカリーという生き物がおります。数は多くありませんが、一時的には凌げましょう。ラガンダに当人と数人に動いて貰う様に頼んでみます』
『ありがとうございます。ヤロ、ギルバート。占拠場所の防衛を主力とし、民達の護衛を』
「承知ー。その辺りは調整するー」
『頼んだぞ』
『どうか、民達をお願い致します』
「出来る限りのことはしますよー」
お互い一礼をすると、通信は終わった。
「そうだ。坊主、お前の魔法で荷物持って来れねえのか」
「んな大量にうごかせねーよ。できて一人ぶん」
「そうなのか。前にじいさんたちが一気に動かしてただろ」
「人によるんだよ。得手不得手だったり、もってる魔力の量だったり」
つかえる武器と筋力量ってカンジ、たぶん、と情報屋。ヤロも何となく理解したらしい。
「魔法にもいろいろとあるんだねー」
「まあな。なんでもできるワケじゃねーんだよ、コレがまた」
んー、と背伸びをする子供。明日に備えて休むという。
「情報屋君。明日は何吹き込むのー」
「まだ考えてねぇ。いいノある?」
「使えるかは分かんないけどー。ラガンダ様が参戦したってのはー」
一瞬動きが止まる情報屋。フードの下で瞬きをすると、見えている口元がにやける。
「本人と相談してみるよ。勝手に名前使ったら燃やされっかもしんないし」
「ひぇー。おっかないー」
「死なねえ程度だって。子供のケツ叩くのとおんなじさ」
「どこがだ、どこが。それで生きてんのが不思議でしょうがねえ」
「それで魔法力きたえてんの。魔法師にとって魔法は日常の一部だから」
武器もそーだろ、と子供。それぞれの文化があるということだろう。
「あ、そうだ。オレは情報屋だからこっちの状況をあっちに流すぜ。仕事なんだからうらまないでくれよな」
「程々にねー。心は味方なんだからさー」
「はぁ? なにいってんの」
「私達に何かあったら、最終的にはアマンダ様が危なくなるよねー。いいのかなー、魔法師なんでしょ」
と、満面の笑みで話すギルバート。隣で大笑いしているヤロは、言ったれ言ったれと援護する。
「いいセーカクしてんな、あんた」
「お互い様じゃない。君の立場も理解はしてるつもりだよー」
「まあな。塩加減は頼んだぜ。また飯食おうや」
「オゴリならいーよ」
「当たり前だ。ガキに払わせられっかよ、カッコ悪い」
いつも奢ってもらってなかったっけ、とギルバートは思ったが、ややこしくなるので黙っておいた。単なる売り言葉だと判断したし、彼自身も同意だからだ。
「んじゃ、ちょっとでかけてくる。またな」
「おう。またな」
「またねー」
情報屋は姿を消し、傭兵二人も天幕を後にする。
勝利を求めて動くアンブロー軍関係者。
それぞれ人としての道がどこに向かっていくのかなど、この時は誰も想像出来ていなかった。
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まるで猫みたいに気配を消し、若干口が緩んだ状態で天井から覗き込む子供。姿は魔法で消しており、物音を立てなければ認知されることは無い。
「くそ。戦況はどうなってる」
「城に向かう者共は追い返しています。ここには入って来ていません」
「そうか。市街地で撹乱させ、個別で撃破するのがやはり上策か」
「は、はい」
「何だ。何か文句があるのか」
「め、滅相もございませんっ」
情報屋は、お前が考えたんじゃなくて父親の策だろーが、と口にしかけたが、何とかこらえた。代わりに笑いがこみ上げて来るのは止められないようだが。
「だがいつ鼠が入ってくるかは分からん。主要所の警備を怠るな」
「はっ」
敬礼をした伝令兵は急いで各所に通達しに行く。ドサッっと王座に座ったエリグリッセは、親指の爪を噛むと、ブツブツと独り言を口にし始める。
情報屋は風魔法を使って聞き取ってみると、ただの愚痴であった。
言い飽きたのか、エリグリッセは玉座から立ち上がり、周辺をうろうろし始める。
近くに設置された軍会議用のテーブルの傍まで歩くと、見取り図を見つめた。紙の上にはいくつかの駒が置かれており、複数の通路で繋がれている部屋の上に乗っかっている。
なお、情報屋がアンブロー軍に持っていったものと同じものである。
「配置を変えるか。通りは人一人が通れる広さしかない、部屋におびき寄せて取り囲めば」
情報屋は入口付近に移動し、魔法を解除する。
「よぉ。もしかしてお困り」
「うわっ。なな、何だ貴様はっ」
「おっと、怪しいモンじゃないよ。ほら、このカッコウ見覚えない。王子サマ」
両手を広げ、全身を覆っているマントをパサパサと動かす情報屋。エリグリッセは怪訝な顔をしたが、ああ、と口にする。
「父上が気に入られている情報屋か。そう言えば話すのは初めてだったな」
「おっしゃるとおりで。ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ありません」
左手を胸の前にかざし一礼をする情報屋。第一王子は鼻をならしたが、すぐに切り替える。
「尻尾を振る相手を違えていない様だな。情報屋、アンブロー軍の事を調べて来い。配置や人員などをだ」
「それなら知ってるよ。だからここにきたんじゃないか」
話しかたが普通に戻ったのが気に食わなかったのか、表情を歪める第一王子。だが、良かろう、と言うと、近くに呼び寄せる。
一方、情報屋は口を歪めながら歩いて行った。
「アンブロー軍はヤロ・ハーパコスキを中心に攻めてきてる。腕っぷしはつよいけど単細胞なヤツさ」
「ほう、力押しの連中なのか。他には」
「ゲリラ戦が得意みたいだぜ。あの男がひきいた隊の生存率はすごく高いって有名」
「ふむ。そ奴の弱点は」
「頭を使った作戦がニガテらしいんだと。ただ機転はきく。あと酒かな」
「成程。褒めて遣わす」
「そりゃどーも。どうする気」
「今から考える。一人にしてもらえるか」
「はいよ。また必要になったらこれで呼んでくれよ」
チリン、と小さな鈴を出す情報屋。目を細めたエリグリッセは、おずおずと受け取る。
「またゴヒイキに」
そう言いまた一礼した子供は、姿を消した。
再び天井に体を浮かせた情報屋は、うわさほどバカじゃないな、と感じた。父であるグラニータッヒから吹き込まれた可能性もあるが、この職業、しかも初対面の人間に対してごく普通の接しかただったためである。
たしか初陣は十三のときで、それ以降はろう城戦が主な戦場だったっけ。親子同士は連絡がとりあえたはず。
情報屋は、一度ギルバートと合流することにした。
ヒエンカプンキには、夜半が過ぎても戦闘音が響き渡っていた。アンブロー軍は未だに、三分の一も占拠出来ずにいる。本来ならば城付近にある、食料庫や武器庫を抑えていた予定だったが、城下民が方々に逃げ迷っていたため、保護を優先したのだ。
魔道具を通じてヤロから救助要請を受けたギルバートは、一旦軍へと合流し、部隊を再編成して前線を援護に回った。
命からがら逃げ出した一般人には戦えぬ女子供や老人が多数おり、ほとんどが着の身着のままの者である。
普段はにこやかなギルバートも、顔に憤怒を出しながら、
「信じられない。本来なら城内に匿うだろうっ」
「落ち着けや。民間人を人質に取りながら戦う連中だったんだ、しょうがねえだろ」
「た、確かに思い込みだ。褒められたものじゃないけど、方法論、としては」
「勝つためにゃあアリなんじゃねえのか。胸クソ悪ぃがよっ」
ダン、と机を叩くヤロ。外からは赤ん坊や子供の泣き声が聞こえてくる。
「あんたも落ちつけって。ヘイノに連絡とったら、あんたらの動きに感謝してたぜ。人命を優先するようにってさ」
「それは良かったー。今繋げるかい」
「やってみっけど。本人直通じゃないからちょっとまって」
情報屋は一度天幕の外に出た。鳥の鳴き声がすると、数分後に羽ばたく音が。
再び中に入って来た子供は、歩きながら頭部と同じぐらいの水晶玉を出現させる。腰に付けている道具袋から台を引っ張り出し、その上に柔らかそうな薄めのクッション、そして水晶玉を置く。
しばらく三人で淡く光った水晶玉を見つめていると、リューデリアの顔がうっすらと浮かんで来た。
『おお、お主か。どうしたのだ』
「夜中にごめん。ヤロとギルバートがヘイノと話したいんだって。今いる」
『構わぬよ。呼んで来よう』
輪郭とともに光も消える。十分程経過したが、まだ返事が無い。
夜食を取りに行っていたヤロから食事をもらった一同は、しばらく雑談をしながら待っていた。
さらに数十分が過ぎた頃、ようやく水晶玉に光が戻る。今度はゼンベルトが対応した。
『お待たせ致しました。ヘイノ様と繋ぎましょう』
老執事が左にずれると、座っている将軍の姿が映し出される。
『待たせて済まない。何かあったのか』
「現状報告ー。進捗が大分遅れててねー、ようやく三分の一を占領したんだけどー」
ギルバートは、魔法師たちの罠のお陰でここまで来れたが、サポートが無かったらおそらく城下にすら入れなかった可能性があったという。理由は城下民がいるため、不用意に突撃出来ないからだ。
「状況はまあともかくとしてー。問題は民達なんだ。このままだと物資が不足する」
『成程。スピード重視で最低限しかないからな』
「うんうん。エリグリッセの命令で家財が没収されちゃったんだってー。たぶんもう荒らされちゃってるー」
『持って行くなと王子が命令したのか? 何と愚かな』
「持ってた荷物も奪われちゃってね。目の前で起きた事は対処したけど」
『十分良くやってくれた。感謝する。しかし弱ったな』
ヘイノはこちらで起きた出来事を彼らに伝える。なお、こちらは現在はゆっくりとクリハーレンへと進軍中であり、ヤロたちが王城を取り次第動く算段である。
『地理的にも人員を割くのは厳しい。彼らは動けるか』
「動けはするけど戦えない」
『やはり護衛が必要か』
「旦那、こっちにも余裕がねえぞ。感覚だが数もそんな変わらねえ」
『そうか。少し待ってくれ』
と、ヘイノは退席する。数分後、ヤロとギルバートは初顔を目にした。
『初めまして。私はラヴェラ・ランバルコーヤと申します。この度は民を救って頂いたと。ありがとうございます』
と、頭を下げるラヴェラ王子。二人のうち片方は慌てて同じ動作をし、もう一人は遅れて頭を下げる。
『結論を先にお伝えしましょう。民達に西にあるオアシスへと移動してもらうように伝えて頂きたいのです』
ヒエンカプンキの西側には大陸最大のオアシスがあり、クリハーレンにとっても重要な水源でもある神聖な場所だという。
『実は、クリハーレンの民達は、ラガンダと共にオアシスを横断しているのです。陥落したヒエンカプンキに隠れてもらう為に』
「んー。だとすると、合流させるってコトですかねー」
『そうです。ラガンダが民達を保護すれば、貴方方が動きやすくなりましょう』
「確かにな。それで、ラガンダの旦那はいつ来るんだ」
「ちょっと、ヤロ」
ギルバートに肩を叩かれるヤロだが、あんだよ、という返事を平気でしてしまう。だが、その様子を楽しそうに王子は見ていた。
『正確な日数は本人ではないと分かりかねますが。おそらく早くても数日は掛かるでしょう』
『持ちそうか』
「持たねえな。さっきちらっと見ただけだがよ。民間人の分含めっと、一食にしても一日分だと思うぜ」
『ラヴェラ王子、現地での食料を調達する方法はございますか』
『オアシスに行けばペッカリーという生き物がおります。数は多くありませんが、一時的には凌げましょう。ラガンダに当人と数人に動いて貰う様に頼んでみます』
『ありがとうございます。ヤロ、ギルバート。占拠場所の防衛を主力とし、民達の護衛を』
「承知ー。その辺りは調整するー」
『頼んだぞ』
『どうか、民達をお願い致します』
「出来る限りのことはしますよー」
お互い一礼をすると、通信は終わった。
「そうだ。坊主、お前の魔法で荷物持って来れねえのか」
「んな大量にうごかせねーよ。できて一人ぶん」
「そうなのか。前にじいさんたちが一気に動かしてただろ」
「人によるんだよ。得手不得手だったり、もってる魔力の量だったり」
つかえる武器と筋力量ってカンジ、たぶん、と情報屋。ヤロも何となく理解したらしい。
「魔法にもいろいろとあるんだねー」
「まあな。なんでもできるワケじゃねーんだよ、コレがまた」
んー、と背伸びをする子供。明日に備えて休むという。
「情報屋君。明日は何吹き込むのー」
「まだ考えてねぇ。いいノある?」
「使えるかは分かんないけどー。ラガンダ様が参戦したってのはー」
一瞬動きが止まる情報屋。フードの下で瞬きをすると、見えている口元がにやける。
「本人と相談してみるよ。勝手に名前使ったら燃やされっかもしんないし」
「ひぇー。おっかないー」
「死なねえ程度だって。子供のケツ叩くのとおんなじさ」
「どこがだ、どこが。それで生きてんのが不思議でしょうがねえ」
「それで魔法力きたえてんの。魔法師にとって魔法は日常の一部だから」
武器もそーだろ、と子供。それぞれの文化があるということだろう。
「あ、そうだ。オレは情報屋だからこっちの状況をあっちに流すぜ。仕事なんだからうらまないでくれよな」
「程々にねー。心は味方なんだからさー」
「はぁ? なにいってんの」
「私達に何かあったら、最終的にはアマンダ様が危なくなるよねー。いいのかなー、魔法師なんでしょ」
と、満面の笑みで話すギルバート。隣で大笑いしているヤロは、言ったれ言ったれと援護する。
「いいセーカクしてんな、あんた」
「お互い様じゃない。君の立場も理解はしてるつもりだよー」
「まあな。塩加減は頼んだぜ。また飯食おうや」
「オゴリならいーよ」
「当たり前だ。ガキに払わせられっかよ、カッコ悪い」
いつも奢ってもらってなかったっけ、とギルバートは思ったが、ややこしくなるので黙っておいた。単なる売り言葉だと判断したし、彼自身も同意だからだ。
「んじゃ、ちょっとでかけてくる。またな」
「おう。またな」
「またねー」
情報屋は姿を消し、傭兵二人も天幕を後にする。
勝利を求めて動くアンブロー軍関係者。
それぞれ人としての道がどこに向かっていくのかなど、この時は誰も想像出来ていなかった。