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第四十一話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 何とか一命を取り留めたグラニータッヒ兵らは、同国の他派閥であるラヴェラ兵による厳重管理の下、このままアンブロー軍に保護されることとなった。
 中には、サイヤに助けられた男の姿もあり、アマンダいわく表情は硬いが内心ほっとしているように感じたらしい。
 令嬢将軍は、治療した魔女から話を聞き、その後一部の意識が戻ったと報告を受けてからすっ飛んで行った。容態を確認し、会話可能な者たちに生い立ちを可能な限り共有したという。
 初めは不信がっていたグラニータッヒ兵も、回数を重ねる度に、ほんの少しずつ顔の筋肉が解けていったと、見張り兵の中で持ちきりになっていた。偉い身分の人間が、同じ高さに座って話したせいもあるかもしれない。
 戦死者の弔いが済むと、アンブロー軍本隊は、ゆっくりとクリハーレンへ進軍を開始した。
 一方、ヒエンカプンキへと向かったヤロとギルバートが率いる攻略隊は、道中で情報屋と一人の魔法師が合流した。王都の位置からだと、ちょうど砂の隆起で姿が隠れる位置である。
 「いよお、坊主。ピッタリだな」
 「まあね。あっちの準備はととのってるよ」
 「そうかい。んま、今日は休めや。で、そいつは」
 「僕はサーク。アンブロー軍の裏方役だ」
 と、自己紹介する青年。初顔同士の挨拶を済ませ、青年は取り忘れたフードを外した。
 するとヤロが驚き、
 「お前、リューデリアを洗脳しようとした奴らのひとりじゃねえかっ」
 「ええっ、何でその事を知って」
 「様子を見に行ったとき、だったか。三人揃っておっさんの前に座らされて、すげえ怒鳴られてただろ」
 「うぐ。あの場面を見られてたなんて」
 「せんのー? どういう事」
 「あーっと、ちょっとまって」
 どこから話そうかと迷っている情報屋だが、ギルバートは、詳しくは後ででいいよー、と笑顔で返す。彼は今は敵ではないことを確かめたかっただけだという。
 「なんつーの。事件起こしたこの人たちが村長命令でアンブロー軍に従軍してるってカンジ」
 「そうそう。まんまだけど。君たちなら魔法師のことを知ってるって聞いたんだけど」
 「多少のことはな。それで裏方ってワケか」
 「うん。僕たちは魔法でしか戦えないから、表立っては動けないし」
 「なるほどねぇー」
 「で、だ。他のふたりは王城や周辺にワナをはってる。オレたちはそのことを伝えにきたんだよ」
 と、地図を広げながら説明する情報屋。傭兵たちが覗き込むと、話し手はサークに代わる。
 「僕たちが張った罠は動きを阻害するものなんだ。足止めをしたり目をくらませたりとかね」
 いわく、魔法だとバレないように細工はしているが、それでも勘の良い人間には気づかれる可能性があるという。もちろん、全てを命中させることなど至難の業だが、少なくとも掘られた落とし穴のように人の手が掛かったものだと見せかけたいらしい。
 「全部つかう必要はねーよ。時間がなくて動きにあわせたモンつくれなかったし」
 「私たちがどう動くかってことかなー」
 「そそ。オレたちは位置や効力をいいにきただけ。モノによっては動かせるんだっけ」
 「うん。兄さんたちに聞くから大丈夫」
 「だってさ。これが城内と町の見取り図」
 情報屋は道具入れから封筒を取り出し、二枚の紙を広げる。要人が普段いる場所や町の様子、見張り兵の位置や交代時間などを、地図に記入したりメモを見ながら話していく。
 「は~。前々から思ってたが。おめえ、ちっこいのにしっかりしてんなあ。大したもんだ」
 「だねー。すごいねー。話も分かりやすーい」
 「身長は関係ねーだろーがっ」
 「ま、まあまあ。小さいものはしょうがないから、ね」
 「フォローになってねーし」
 どうもこのメンバーの突っ込み役は大変そうである。
 「しっかしよお。いくら魔法とはいえこれだけ仕込んでたら気づかれるんじゃねえのか」
 「それは心配ない。エリグリッセは魔法探知はできないし、この国の魔法師は全員ラガンダ様についてるんだ。城にいる兵は普通のと変わらない」
 「万が一こちらが踏んでしまっても、怪我はしないんだよねー」
 「大丈夫」
 「うーん。地形上、正面突破しかないけどー。その後は足止め班と撹乱班と分かれての行動がいいかなー」
 「坊主、この地図貸してくれ。面子決めたら描かせる」
 「いいぜ。ここにおいとく」
 「ありがとよ。あんたはどう動くんだ」
 「私は裏から回って王子達を捕まえる。何人か身軽な人欲しいなー」
 「ならオレは表で存分に暴れてやるぜっ」
 「城下と城の鍵はオレたちがあけとく。戦いはあんたらに任せっから」
 「ほいほーい。さてと。早く人選終わらせて寝ようっと」
 背伸びしながら天幕を出るギルバート。その姿をサークは不思議そうに見つめた。
 「どしたい」
 「あ、ああ。不思議な人だなって」
 「んあー。アイツは普段トロくせえところあっけど、戦闘に関しちゃ問題ないぜ。心配すんな」
 「そうなんだ。情報屋、君も残るんだろ」
 「今日はな。明日はでかける」
 「わかった。決行は明後日がいいよ。そうしたらグラニータッヒがクリハーレンに到着する予定だから」
 「伝えとくぜ。水は天幕の横にあるからよ。飯が出来たら持って来る。何もねえけどゆっくりしな」
 「そーさせてもらう」
 話がひと区切りついたところで、ヤロも天幕の外に歩いて行った。
 少々の沈黙後、
 「あの騎士っぽい人、ギルバートだっけ。本当に魔法師じゃないのか」
 「違うんだって。本人も記憶そーしつだし、大剣は気がついたらもってたんだとさ。ぬけないみたいだよ」
 「ふーん。君なら抜けるんじゃない」
 「たぶんね。その前にあの剣の正体がわからないから、さわりたくないけど」
 「そりゃそうだね。でも、ああいう剣、どこかで見たことあるような」
 「そうなんだよなぁ。オレもずっとひっかかってるんだけど。どこだったっけ」
 首をかしげる魔法師たちだが、答えは導けなかったようだ。
 陽動隊と潜入隊の人員が決まり、サークらが仕込んだ罠の位置の確認と対策を練ること二日。彼が提示した決行日になり、全体の緊張感が太陽の動きとともに高まっていく。
 魔法師組はヤロとギルバートに通信用の魔道具を渡し、彼らの動きを見守る。
 本来なら、戦は日のあるうちに行うのが定石。何故なら、敵か味方か分からずに攻撃してしまうからだ。夜行性の動物ならともかく、土地柄とはいえど人間では危険を伴うのである。
 だが、備わっている機能以上に力を引き出せるのなら話は異なろう。ここ数日間、アンブロー軍は視力が上がる効能がある水を飲み続けた。結果、夜目が通常時より利くようになっていたのだ。
 これは魔法師の使う強化魔法を水に溶かし、効果が体に馴染むようにされたもの。直接掛けるより威力は弱くなるが、日頃から魔法を使わない者に対して用いる方法でもある。普段から魔法の影響を受けていない人間には、魔力を直に受け取れる力がほぼ無いからだ。
 とはいえ、無用な混乱を防ぐためにラガンダの名を借り、特別に作られた薬草を入れたと通してある。さすがに名の知れた魔法師による手製ならば、何も知らぬ者たちも納得がいくようである。
 ヤロは全員の心身が整ったのを確認すると、号令を掛ける。雄たけびを上げながら突撃して行くと、空から矢の雨が降り注いで来た。
 全員が大きな盾をかざしながらなるべく減速させずに王都へと近づく連合軍兵たち。ここ数ヶ月の間、アンブロー出身兵も随分と足場に慣れたらしい。
 とはいえ、やはりランバルコーヤ出身兵のほうが分があるのも事実で、最前線との間に隙間が生まれて来る。敵側はそれを読んでいたようで、指揮官は前線に集中して攻撃せよと命令を下した。
 夜目が利いていた部隊長は、敵官の動きから内容を察知し、持っていた閃光弾のピンを外してを投げつける。すると空中で炸裂した爆弾は、音とともに強烈な光を発した。
 「突撃っ」
 「援護しろ、矢を放てっ」
 先発隊はそのまま盾を構えながら王都へと向かい、ヤロ中心のアンブロー軍は仲間の援護に転進する。一気に不利になったヒエンカプンキ兵は、勝手に開いた門の音を聞くなりパニックに状態になっていく。
 魔法で城門から移動した情報屋とサークは、上空から様子を伺っていた。
 ふと、何故か楽しそうな雰囲気の子供に対し、青年は、
 「思い通りの展開かい」
 「ん? そうだね。ギルバートの指揮は的確だから、魔法がかかわってないならモンダイはおきないと思うし」
 「随分信頼してるじゃないか。変わったね」
 「かわったって。なにが」
 「上手くいえないけど。去年のようなつっけんどんな感じがないというか」
 「え。なにそれ」
 うーん、とうなってしまうサーク。彼は、情報屋が魔法師相手でも少々冷たい、距離を置くような感覚だったが、今はそれがほとんど無いように感じていた。この辺りは個人的な感性もあるだろうが。
 おそらく、子供は他人に対して少しは心を開くようになったのかもしれない。青年はそのように考えた。
 「僕はここで様子を見るよ。君は内部を案内してあげたら」
 「そーする。早く落としてもらわないとメンドいし」
 じゃ、また、と口にすると、情報屋は高さをそのままに王城へと向かっていく。
 サークは下を見ながら腕を組み、
 「出会いが人を変える、か。染みるね」
 人間は生まれたてのとき、善悪のない存在。とされている。そして、環境によって左右される生き物だ。
 サークら兄弟は以前、きらびやかな生活に憧れ、欲に目が眩んだがために同郷の人間を使い、魔法師の恩人であるライティア家の令嬢を殺めようとした。雨が降り注ぎ過ぎれば災害が起きるように、感情も過ぎれば毒となり、無さ過ぎれば心が動かない。心が存在しない人間は、はたして人と呼べるのだろうか。
 彼は身をもって体験したからこそ、情報屋の変化に気づいたのかもしれない。
 サークが罠の様子を見ている最中、情報屋は誰もいない城壁に足をつけ、城下町へと降り立つ。地面は柔らかい砂のためか、まったくといって良いほど音がなかった。
 先に入っていたギルバートを探すため、周囲を見渡しながら魔法を唱える。彼の持つ通信魔道具はわずかに光を発したが、本人たちは気づいていない。
 眉をひそめた情報屋は地図を取り出し、現在地と発信地を確認した。正確な距離は測れないが、大体の位置なら魔力の送信時間で掴めるのだ。
 「なんで反対方向にいるんだよ。あ~、方向音痴なんだっけ」
 思わず地図を握りしめた子供だが、もう一度広げてちゃんと折りたたんでしまうと、
 『ギル、聞こえる』
 『んー。誰か呼んだ』
 『オレだ、オレ。こんなときにボケんなっつーの』
 『こ、子供の声だからそのブローチからじゃないのか』
 『んんー。あ、忘れてた。そうだ、この子に聞けばいいんだ』
 情報屋はこのひと言で、不安が的中したことを悟る。
 『なにやってんだって。ユウドーするからそこ動くなよ』
 『あははー、ごめんねぇ。助かるよ』
 『やっぱりオルターかガヴィがいないとダメだな』
 傭兵たちのため息が聞こえたような気がした情報屋だが、自身も青い息を出すと、指を動かし印を結ぶ。すると、子供の前に淡い緑色の光が現れる。しかし、すぐに消えてしまった。
 『緑色の光の玉みえる』
 『うん。空飛んでるねー』
 『案内役だからついてきて』
 『ほいほい。頼んだよー』
 ってか、方角か地理わかるヤツいれなかったのか、という疑問が浮かんだが、何らかの理由があったと判断した情報屋。とはいえ似たような建物で、かつ視界が悪いのなら迷っても致し方ない部分もあるだろう。
 無事合流すると、情報屋は緑色に光る玉にお礼を言う。すると、ゆっくりと8の字に飛んだ玉は、そのまま消えていった。
 「ごめんごめん。囲まれちゃってね、逃げてたんだ」
 「かこまれ、って」
 「問題ないよー。ヤロになすりつけたまでは良かったんだけどねー」
 「北極星探しながら動いてたらお前から連絡が来たんだよ。おかげで突破できた」
 「そっか、無事でなにより。さすがエリグリッセ兵ってトコか」
 地の利を生かした配置に感心しながらも、情報屋はサークと連絡を取り合いながら状況を伺う。
 そして傭兵たちと別れると、己の役目を果たしに行った。


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 何とか一命を取り留めたグラニータッヒ兵らは、同国の他派閥であるラヴェラ兵による厳重管理の下、このままアンブロー軍に保護されることとなった。
 中には、サイヤに助けられた男の姿もあり、アマンダいわく表情は硬いが内心ほっとしているように感じたらしい。
 令嬢将軍は、治療した魔女から話を聞き、その後一部の意識が戻ったと報告を受けてからすっ飛んで行った。容態を確認し、会話可能な者たちに生い立ちを可能な限り共有したという。
 初めは不信がっていたグラニータッヒ兵も、回数を重ねる度に、ほんの少しずつ顔の筋肉が解けていったと、見張り兵の中で持ちきりになっていた。偉い身分の人間が、同じ高さに座って話したせいもあるかもしれない。
 戦死者の弔いが済むと、アンブロー軍本隊は、ゆっくりとクリハーレンへ進軍を開始した。
 一方、ヒエンカプンキへと向かったヤロとギルバートが率いる攻略隊は、道中で情報屋と一人の魔法師が合流した。王都の位置からだと、ちょうど砂の隆起で姿が隠れる位置である。
 「いよお、坊主。ピッタリだな」
 「まあね。あっちの準備はととのってるよ」
 「そうかい。んま、今日は休めや。で、そいつは」
 「僕はサーク。アンブロー軍の裏方役だ」
 と、自己紹介する青年。初顔同士の挨拶を済ませ、青年は取り忘れたフードを外した。
 するとヤロが驚き、
 「お前、リューデリアを洗脳しようとした奴らのひとりじゃねえかっ」
 「ええっ、何でその事を知って」
 「様子を見に行ったとき、だったか。三人揃っておっさんの前に座らされて、すげえ怒鳴られてただろ」
 「うぐ。あの場面を見られてたなんて」
 「せんのー? どういう事」
 「あーっと、ちょっとまって」
 どこから話そうかと迷っている情報屋だが、ギルバートは、詳しくは後ででいいよー、と笑顔で返す。彼は今は敵ではないことを確かめたかっただけだという。
 「なんつーの。事件起こしたこの人たちが村長命令でアンブロー軍に従軍してるってカンジ」
 「そうそう。まんまだけど。君たちなら魔法師のことを知ってるって聞いたんだけど」
 「多少のことはな。それで裏方ってワケか」
 「うん。僕たちは魔法でしか戦えないから、表立っては動けないし」
 「なるほどねぇー」
 「で、だ。他のふたりは王城や周辺にワナをはってる。オレたちはそのことを伝えにきたんだよ」
 と、地図を広げながら説明する情報屋。傭兵たちが覗き込むと、話し手はサークに代わる。
 「僕たちが張った罠は動きを阻害するものなんだ。足止めをしたり目をくらませたりとかね」
 いわく、魔法だとバレないように細工はしているが、それでも勘の良い人間には気づかれる可能性があるという。もちろん、全てを命中させることなど至難の業だが、少なくとも掘られた落とし穴のように人の手が掛かったものだと見せかけたいらしい。
 「全部つかう必要はねーよ。時間がなくて動きにあわせたモンつくれなかったし」
 「私たちがどう動くかってことかなー」
 「そそ。オレたちは位置や効力をいいにきただけ。モノによっては動かせるんだっけ」
 「うん。兄さんたちに聞くから大丈夫」
 「だってさ。これが城内と町の見取り図」
 情報屋は道具入れから封筒を取り出し、二枚の紙を広げる。要人が普段いる場所や町の様子、見張り兵の位置や交代時間などを、地図に記入したりメモを見ながら話していく。
 「は~。前々から思ってたが。おめえ、ちっこいのにしっかりしてんなあ。大したもんだ」
 「だねー。すごいねー。話も分かりやすーい」
 「身長は関係ねーだろーがっ」
 「ま、まあまあ。小さいものはしょうがないから、ね」
 「フォローになってねーし」
 どうもこのメンバーの突っ込み役は大変そうである。
 「しっかしよお。いくら魔法とはいえこれだけ仕込んでたら気づかれるんじゃねえのか」
 「それは心配ない。エリグリッセは魔法探知はできないし、この国の魔法師は全員ラガンダ様についてるんだ。城にいる兵は普通のと変わらない」
 「万が一こちらが踏んでしまっても、怪我はしないんだよねー」
 「大丈夫」
 「うーん。地形上、正面突破しかないけどー。その後は足止め班と撹乱班と分かれての行動がいいかなー」
 「坊主、この地図貸してくれ。面子決めたら描かせる」
 「いいぜ。ここにおいとく」
 「ありがとよ。あんたはどう動くんだ」
 「私は裏から回って王子達を捕まえる。何人か身軽な人欲しいなー」
 「ならオレは表で存分に暴れてやるぜっ」
 「城下と城の鍵はオレたちがあけとく。戦いはあんたらに任せっから」
 「ほいほーい。さてと。早く人選終わらせて寝ようっと」
 背伸びしながら天幕を出るギルバート。その姿をサークは不思議そうに見つめた。
 「どしたい」
 「あ、ああ。不思議な人だなって」
 「んあー。アイツは普段トロくせえところあっけど、戦闘に関しちゃ問題ないぜ。心配すんな」
 「そうなんだ。情報屋、君も残るんだろ」
 「今日はな。明日はでかける」
 「わかった。決行は明後日がいいよ。そうしたらグラニータッヒがクリハーレンに到着する予定だから」
 「伝えとくぜ。水は天幕の横にあるからよ。飯が出来たら持って来る。何もねえけどゆっくりしな」
 「そーさせてもらう」
 話がひと区切りついたところで、ヤロも天幕の外に歩いて行った。
 少々の沈黙後、
 「あの騎士っぽい人、ギルバートだっけ。本当に魔法師じゃないのか」
 「違うんだって。本人も記憶そーしつだし、大剣は気がついたらもってたんだとさ。ぬけないみたいだよ」
 「ふーん。君なら抜けるんじゃない」
 「たぶんね。その前にあの剣の正体がわからないから、さわりたくないけど」
 「そりゃそうだね。でも、ああいう剣、どこかで見たことあるような」
 「そうなんだよなぁ。オレもずっとひっかかってるんだけど。どこだったっけ」
 首をかしげる魔法師たちだが、答えは導けなかったようだ。
 陽動隊と潜入隊の人員が決まり、サークらが仕込んだ罠の位置の確認と対策を練ること二日。彼が提示した決行日になり、全体の緊張感が太陽の動きとともに高まっていく。
 魔法師組はヤロとギルバートに通信用の魔道具を渡し、彼らの動きを見守る。
 本来なら、戦は日のあるうちに行うのが定石。何故なら、敵か味方か分からずに攻撃してしまうからだ。夜行性の動物ならともかく、土地柄とはいえど人間では危険を伴うのである。
 だが、備わっている機能以上に力を引き出せるのなら話は異なろう。ここ数日間、アンブロー軍は視力が上がる効能がある水を飲み続けた。結果、夜目が通常時より利くようになっていたのだ。
 これは魔法師の使う強化魔法を水に溶かし、効果が体に馴染むようにされたもの。直接掛けるより威力は弱くなるが、日頃から魔法を使わない者に対して用いる方法でもある。普段から魔法の影響を受けていない人間には、魔力を直に受け取れる力がほぼ無いからだ。
 とはいえ、無用な混乱を防ぐためにラガンダの名を借り、特別に作られた薬草を入れたと通してある。さすがに名の知れた魔法師による手製ならば、何も知らぬ者たちも納得がいくようである。
 ヤロは全員の心身が整ったのを確認すると、号令を掛ける。雄たけびを上げながら突撃して行くと、空から矢の雨が降り注いで来た。
 全員が大きな盾をかざしながらなるべく減速させずに王都へと近づく連合軍兵たち。ここ数ヶ月の間、アンブロー出身兵も随分と足場に慣れたらしい。
 とはいえ、やはりランバルコーヤ出身兵のほうが分があるのも事実で、最前線との間に隙間が生まれて来る。敵側はそれを読んでいたようで、指揮官は前線に集中して攻撃せよと命令を下した。
 夜目が利いていた部隊長は、敵官の動きから内容を察知し、持っていた閃光弾のピンを外してを投げつける。すると空中で炸裂した爆弾は、音とともに強烈な光を発した。
 「突撃っ」
 「援護しろ、矢を放てっ」
 先発隊はそのまま盾を構えながら王都へと向かい、ヤロ中心のアンブロー軍は仲間の援護に転進する。一気に不利になったヒエンカプンキ兵は、勝手に開いた門の音を聞くなりパニックに状態になっていく。
 魔法で城門から移動した情報屋とサークは、上空から様子を伺っていた。
 ふと、何故か楽しそうな雰囲気の子供に対し、青年は、
 「思い通りの展開かい」
 「ん? そうだね。ギルバートの指揮は的確だから、魔法がかかわってないならモンダイはおきないと思うし」
 「随分信頼してるじゃないか。変わったね」
 「かわったって。なにが」
 「上手くいえないけど。去年のようなつっけんどんな感じがないというか」
 「え。なにそれ」
 うーん、とうなってしまうサーク。彼は、情報屋が魔法師相手でも少々冷たい、距離を置くような感覚だったが、今はそれがほとんど無いように感じていた。この辺りは個人的な感性もあるだろうが。
 おそらく、子供は他人に対して少しは心を開くようになったのかもしれない。青年はそのように考えた。
 「僕はここで様子を見るよ。君は内部を案内してあげたら」
 「そーする。早く落としてもらわないとメンドいし」
 じゃ、また、と口にすると、情報屋は高さをそのままに王城へと向かっていく。
 サークは下を見ながら腕を組み、
 「出会いが人を変える、か。染みるね」
 人間は生まれたてのとき、善悪のない存在。とされている。そして、環境によって左右される生き物だ。
 サークら兄弟は以前、きらびやかな生活に憧れ、欲に目が眩んだがために同郷の人間を使い、魔法師の恩人であるライティア家の令嬢を殺めようとした。雨が降り注ぎ過ぎれば災害が起きるように、感情も過ぎれば毒となり、無さ過ぎれば心が動かない。心が存在しない人間は、はたして人と呼べるのだろうか。
 彼は身をもって体験したからこそ、情報屋の変化に気づいたのかもしれない。
 サークが罠の様子を見ている最中、情報屋は誰もいない城壁に足をつけ、城下町へと降り立つ。地面は柔らかい砂のためか、まったくといって良いほど音がなかった。
 先に入っていたギルバートを探すため、周囲を見渡しながら魔法を唱える。彼の持つ通信魔道具はわずかに光を発したが、本人たちは気づいていない。
 眉をひそめた情報屋は地図を取り出し、現在地と発信地を確認した。正確な距離は測れないが、大体の位置なら魔力の送信時間で掴めるのだ。
 「なんで反対方向にいるんだよ。あ~、方向音痴なんだっけ」
 思わず地図を握りしめた子供だが、もう一度広げてちゃんと折りたたんでしまうと、
 『ギル、聞こえる』
 『んー。誰か呼んだ』
 『オレだ、オレ。こんなときにボケんなっつーの』
 『こ、子供の声だからそのブローチからじゃないのか』
 『んんー。あ、忘れてた。そうだ、この子に聞けばいいんだ』
 情報屋はこのひと言で、不安が的中したことを悟る。
 『なにやってんだって。ユウドーするからそこ動くなよ』
 『あははー、ごめんねぇ。助かるよ』
 『やっぱりオルターかガヴィがいないとダメだな』
 傭兵たちのため息が聞こえたような気がした情報屋だが、自身も青い息を出すと、指を動かし印を結ぶ。すると、子供の前に淡い緑色の光が現れる。しかし、すぐに消えてしまった。
 『緑色の光の玉みえる』
 『うん。空飛んでるねー』
 『案内役だからついてきて』
 『ほいほい。頼んだよー』
 ってか、方角か地理わかるヤツいれなかったのか、という疑問が浮かんだが、何らかの理由があったと判断した情報屋。とはいえ似たような建物で、かつ視界が悪いのなら迷っても致し方ない部分もあるだろう。
 無事合流すると、情報屋は緑色に光る玉にお礼を言う。すると、ゆっくりと8の字に飛んだ玉は、そのまま消えていった。
 「ごめんごめん。囲まれちゃってね、逃げてたんだ」
 「かこまれ、って」
 「問題ないよー。ヤロになすりつけたまでは良かったんだけどねー」
 「北極星探しながら動いてたらお前から連絡が来たんだよ。おかげで突破できた」
 「そっか、無事でなにより。さすがエリグリッセ兵ってトコか」
 地の利を生かした配置に感心しながらも、情報屋はサークと連絡を取り合いながら状況を伺う。
 そして傭兵たちと別れると、己の役目を果たしに行った。