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第十三話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 夜が明け、日の光が頂点から地上に降り注ぐ時間帯に、くしゅん、と小さなく音がする。
 「お嬢様、何で外で寝てたの」
 「が、考えごとをじていだら、ねでまじた」
 たきぎの前で解熱作用のある薬を作っているイスモと、厚めの毛布に包まりながら、温かい飲み物を飲むアマンダ。前者は呆れつつも、気持ちは何となく察していた。
 長い間戻って来ないため、アードルフが心配して様子を見に来たときには、既に眠っていたのである。
 「おう、嬢ちゃん。これ食えるか」
 ほれ、と、サンドイッチを差し出す。ぼんやりまなこで、白い三角形を見ると、ありがとう、と口にした。
 小さく口に含み、まるで食べるのが遅いリスのように食べる貴族の令嬢。思ったよりも食欲があるらしく、もう一口し、胃を満たした。
 「兄貴、そう心配しなくても大丈夫だって。食べれるなら薬の効き目も早いよ」
 「そうだな」
 アマンダの右隣で食事の支度をしている彼は、手元と左側と、交互に視線を送っている。ヤロは、魔法師たちの様子を、アマンダに頼まれて見に行っていたのだ。
 「あっちは例の三人組の見張りと帰る準備をしてたぜ。砦も制圧済みだとよ」
 これはもらったもん、と、籠に飲み物とサンドイッチが入っていた。
 ちょうどその頃、夜明け前に出かけた情報屋が帰ってくる。子供は着地すると、異様に厚着をしているアマンダが目に映る。
 「なんちゅーカッコしてんだよ」
 「外で寝てカゼ引いちまったんだと」
 「アホか」
 「まあまあ、相手は病人」
 あまり刺激すると本人より保護者のほうが怖いと思ったイスモは、すかさずストッパー役を演じる。感受性が他の者より強いようで、ほとんど変わらないアードルフの表情の若干な違いもすぐ分かるらしい。
 「ヘイノが会いたがってんだけど。どーする」
 「い、いぎまず」
 「休んだほうがいいんじゃねえか」
 「らいじょうぶです」
 「ろれつが回ってないけど」
 「へいぎれず」
 「イスモ、くすりは」
 「今作ってる。これでいいかな」
 はい、と、粉状の、いかにも苦そうな色をしている薬を出されるアマンダ。上官が報告を待っている以上、時間をかけるわけにもいかなかった。
 お湯と一緒に混ぜ、飲み干すアマンダ。飲み終わると、コップを落としそうになり、まぶたはすでに閉じてしまっている。
 「ちょっと強かったかな」
 「お前、何入れたんだよ」
 「睡眠促進の薬草を少しね」
 「もしかして、完全にねちまってる」
 情報屋が近づき、顔を覗き込む。若干赤い頬をしながら、小さな寝息をたてているところを見るなり、頭を下げる。
 「あ~あ、こりゃダメだ。たたき起こすか」
 「やめないか。お疲れでいらっしゃるのだぞ」
 「わーったわーった。とりあえず、あんたら全員、もどってこいってよ」
 両手を広げ、起こさないことをアピールする子供。飯食ってからだ、と言い張るヤロに負け、情報屋も食事を共にすることに。その間、アードルフはアマンダを天幕の中に連れて行った。
 ちょうど片づけをしている最中に、リューデリアがやって来る。彼女は、魔法師たちを束ねる長に報告に国へ戻っていたのだ。
 「アマンダはどうしたのだ」
 「カゼひいてねこんでるよ」
 風邪、と聞き間違えたかのような表情をする魔女。経緯を聞くと、ため息をついてしまう。
 「初めからかけてやれば良かったな」
 「あんたのせいじゃないだろ。ところでお願いがあるんだけど」
 「何だ」
 「悪いんだけどさ。こいつらを全員、ラザンダールに送ってやってくんない。オレ一人じゃムリだからさ」
 「それは構わんが。場所が分からぬ」
 今だすよ、と情報屋は水晶と地図を取り出す。そして透明な球体に意識を集中させる。
 すると、地面が遠くなっていき、宙に浮いた状態になったではないか。
 「うわ、何じゃこりゃ」
 「落ちねーから安心しな。今いる場所がここ」
 ここから南東方角に移動するとラザンダールがあるんだ、と情報屋。話しながら高速で移動する地面は、不思議なことに実体感がない。数秒後には、目的地の上空にいた。
 水晶の光が止むと、元の景色に戻る。
 「い、今のは何」
 「名前はねーんだけど。鳥の目の視点をもてる魔法なんだよ」
 「魔法って便利なんだな。オレにも使えるか」
 「魔法は魔法師の国に生まれ育った者にしか使えぬよ」
 「ちぇっ。オレも空飛んでみてえなって思ったのに」
 「いいトシして何言ってるワケ。っとに」
 「歳は関係ねえだろうがっ」
 「はいはい。精神年齢は俺のほうが上でしたね~」
 んの野郎、とイスモにくってかかりそうなヤロだったが、アードルフに止められる。
 傭兵組のやり取りは無視し、
 「そうだ、サイヤが先にいってるから、そんなに負担はかからないと思う」
 「何故サイヤがそちらにいるのだ」
 「つなぎ役でたのんどいたんだ」
 「成程な。準備が出来次第、向かうとしよう」
 と言ったものの。まるで遠足状態になっている彼らがいつ出発出来るのかと、疑問に思ったリューデリアであった。
 何だかんだで数時間後、魔女の力で瞬時に移動してきた一行。移動先は、なんと応接室。アマンダたちが出立前に使った、あの部屋だった。
 「お疲れ様。礼を言うよ」
 声のしたほうに向くと、ヘイノとサイヤが座っていた。
 「屋上ではなかったのか」
 「あんな風の強いところに、女性を立たせるわけにはいかないさ」
 にっこりと微笑む将軍。やってくれたな、と、リューデリアは情報屋を軽く睨む。一方の当人は、左手を顔の前で、高速で左右に動かした。
 意識がまだはっきりしないものの、出発前に目を覚ましたアマンダは、ようやく現状を理解し始める。まばたきを早くし、周囲を伺う。
 「どうかしたのかな。あまり顔色が良くないが」
 「いえ、大丈夫です。ご報告します」
 「まあまあ、そう急がずに。エスコもすぐにやって来るから、席について待っててくれ」
 情報屋以外が席に着くと同時に、ノック音が部屋に響く。ヘイノが開けると、先程話しに上がった者が入ってきた。
 彼はアマンダの顔を見るなり、ほっとしたらしい。
 「無事で何よりだ。よかったよ」
 「皆さんのおかげですわ」
 「そう」
 エスコが座ると、廊下に待機していた使用人たちが、各人のところにお茶やお菓子を持っていく。全員に行き渡ると、彼女たちは一礼をして部屋を後にした。
 ヘイノは情報屋が座っていないことに気づくと、
 「そんなところに立ってないで、こちらに座ったらどうかな」
 「エンリョしとく。こっちでいいよ」
 と、彼が使っている机に座り、お茶を飲む情報屋。行儀悪い、とサイヤに注意されるも、聞く耳を持たなかった。
 「まあ、彼は良いとして。本当によくやってくれた、これで我が軍の脅威が減ったよ」
 先日見た、意地悪そうな表情とは打って変わった満面の笑顔。本心から安心し喜んでいるからこそ出来る顔だろう。
 「まったく、無茶させて。アマンダ、後でヘイノを殴っていいよ。僕が許すから」
 「あのねえ」
 似たようなやり取りを何度も経験しているためか、苦笑いしているアマンダ。多少とまどいながらも、報告いたしますね、と紙を広げる。
 エコース軍を率いていたとされるリューデリアは、操られていただけであり、敵意はないこと。
 魔法を使う者にも二パターンおり、生まれつきの魔導士や魔女と何らかの方法で魔法の力を得た者がおり、また、威力に関しては大したことはないが、魔法を使えない者が直撃を受けては危険だということ。
 さらに、純粋の魔法師たちのほとんどは、元の平穏な暮らしを望んでおり、戦争には関与したくない、ということだった。
 「ふむ、よくまとまっているね。正直驚いたよ」
 アードルフがまとめたのかな、と、笑顔でヘイノ。隣にいるエスコが、こら、と言うが、彼は気にしない。
 一方のアマンダは顔を引きつらせてしまう。彼の言う通り、アードルフがこうなることを予測して、要点をまとめたメモをこちらに来る前に渡していたのだ。
 慌てる彼女が面白かったのか、くすくすと笑う将軍は、済まない、と口にし、
 「こういう時は、嘘でもそうだとって言っても構わないんだよ」
 「は、はあ」
 「そのうち、君なら慣れるだろう」
 何かが楽しいらしく、彼はご満悦。しかし、目だけは真面目になり、細かい経緯については後で聞くとして、と口にする。
 「リューデリア殿はどちらかな」
 「私だ。隣にいるのはサイヤと申す」
 「よろしく~」
 しかめっ面の指名者に比べ、正反対の雰囲気をかもしだすサイヤ。ヘイノとエスコが思わず顔を合わせてしまうが、それが魔女に隙を与え、
 「始めに断っておくが、私はお主らに協力する気はないぞ」
 不意をつかれた将軍たちは目を見開く。
 「国がどうなろうと、我らには関係ないのでな」
 「君たちになくても、ライティア家にはあるだろう。我が国が負ければ、ライティア家もただでは済むまい」
 「そうなったときは我らが全力を持って守る」
 「その全力でも守れなかったら」
 将軍は両手をあごの下に持ってきて、少し前かがみになる。
 「ライティア家は潰され、略奪されるだろう。四大魔法師方も、力を振るえないのなら」
 耐えられるのかい、と、ヘイノ。情報屋とサイヤはリューデリアを見ながら、ハラハラしている。
 彼は、言葉が出ない気丈な魔女に笑いかけ、
 「君をここに呼んだのは、協力を取りつける為じゃない。ライティア家にどれだけ尽くされているのかを知りたかっただけだ」
 「どういう意味だ」
 「言葉通りさ。これからアマンダは司令官の一人として前線に赴くことが多くなる」
 そして、今までと違い、魔法も飛んでくるだろう、と将軍。彼は続けて、
 「アマンダを、守ってあげて欲しいと思ってね」
 ゆっくりと言葉を吐きだしたヘイノは、視線を机に落とした。エスコも、本来ならこの場にいるはずの親友を思い浮かべてしまう。
 「ならば参加させなければ良かろう」
 「それは無理だ。彼女、少し前まで傭兵になろうとしていたからね」
 今度はリューデリアの目が大きくなり、少女の顔を見る。
 「あ、あのさ、リューデリア。悪い話じゃねーだろ。あんたにとっても、さ」
 「お主、よくもぬけぬけと」
 「この話し合いのことは知らなかったんだって、ホントだよっ」
 「リューデリア、落ち着いてちょうだい。あの様子だと本当みたいだし~」
 少し時間を置いたら~、とサイヤ。ふう、と息を出した交渉者の男は、
 「アマンダを守ってくれればいい。気が向いたら、ついでに軍も、という事かな」
 まばたきを数回する魔法を使う者の代表は、艶やかな笑みを浮かべると、
 「何がという事、だ」
 始めからそのつもりだったのだろう、とリューデリア。とんでもない、としらばっくれるヘイノだが、彼のにこやかな顔が心情を表している。
 遠くのほうで胸をなでおろす気配があり、傍聴者たちも、少し和やかになった部屋の空気に安心感を覚える。
 とはいえ、一部は表情が変わっていなかったが。
 「でも、魔女がこんなに若い子だとは思わなかったよ。僕より上かと思ってた」
 「若いって。あなたいくつなの~」
 「二十四」
 「その面でオレのひとつ上かよ。ウソだろっ」
 「どーせ僕は童顔だよ、悪かったなっ」
 そーゆー家系なんだっ、と青筋を立てるエスコ。驚いたヤロに向かって、今にも噛み付きそうな勢いだ。
 「ははは。ワカイッテイイネー」
 「どの口がいうかっ」
 「そういう将軍殿はいくつなわけ」
 「ん、どう見えるかな」
 ヘイノのふざけた声に反応したエスコとイスモ。言葉を受け取ったサイヤは、
 「二十四、五かしらね~。あ、もしかして三十とか~」
 「三十は酷すぎるな。そこまでお肌は衰えていないが」
 残念そうにため息をつくヘイノ。答えはね、と、
 「十八だ」
 「ウッソだろっ。イスモよりひとつ下かよっ」
 全然見えねえ、と相手構わず口にする大柄な傭兵。その後、私と同じ~、というのんびりとした女性の声もした。
 「悪かったね、老けてて」
 「実は歳をひっくり返して、ごまかしたりして~」
 ません、とハモるアンブロー軍関係者。流れ的にまずいと感じたアマンダは、
 「と、ところで、わたくしたちは今後、どうすればいいのでしょうか」
 「ん、そうだな。まずはゆっくり休んでくれ」
 「ったくもう。部屋は男女別に用意してあるから、僕が案内するよ」
 行こうか、と促す童顔。それぞれの胸に、年齢以外の思惑と足が同時に動く。
 世情と同じ暗き過去を背負いし人間たちは、いったいどこに歩いていくのか。
 一人を除き、誰も予想がつかなかった。


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 夜が明け、日の光が頂点から地上に降り注ぐ時間帯に、くしゅん、と小さなく音がする。
 「お嬢様、何で外で寝てたの」
 「が、考えごとをじていだら、ねでまじた」
 たきぎの前で解熱作用のある薬を作っているイスモと、厚めの毛布に包まりながら、温かい飲み物を飲むアマンダ。前者は呆れつつも、気持ちは何となく察していた。
 長い間戻って来ないため、アードルフが心配して様子を見に来たときには、既に眠っていたのである。
 「おう、嬢ちゃん。これ食えるか」
 ほれ、と、サンドイッチを差し出す。ぼんやりまなこで、白い三角形を見ると、ありがとう、と口にした。
 小さく口に含み、まるで食べるのが遅いリスのように食べる貴族の令嬢。思ったよりも食欲があるらしく、もう一口し、胃を満たした。
 「兄貴、そう心配しなくても大丈夫だって。食べれるなら薬の効き目も早いよ」
 「そうだな」
 アマンダの右隣で食事の支度をしている彼は、手元と左側と、交互に視線を送っている。ヤロは、魔法師たちの様子を、アマンダに頼まれて見に行っていたのだ。
 「あっちは例の三人組の見張りと帰る準備をしてたぜ。砦も制圧済みだとよ」
 これはもらったもん、と、籠に飲み物とサンドイッチが入っていた。
 ちょうどその頃、夜明け前に出かけた情報屋が帰ってくる。子供は着地すると、異様に厚着をしているアマンダが目に映る。
 「なんちゅーカッコしてんだよ」
 「外で寝てカゼ引いちまったんだと」
 「アホか」
 「まあまあ、相手は病人」
 あまり刺激すると本人より保護者のほうが怖いと思ったイスモは、すかさずストッパー役を演じる。感受性が他の者より強いようで、ほとんど変わらないアードルフの表情の若干な違いもすぐ分かるらしい。
 「ヘイノが会いたがってんだけど。どーする」
 「い、いぎまず」
 「休んだほうがいいんじゃねえか」
 「らいじょうぶです」
 「ろれつが回ってないけど」
 「へいぎれず」
 「イスモ、くすりは」
 「今作ってる。これでいいかな」
 はい、と、粉状の、いかにも苦そうな色をしている薬を出されるアマンダ。上官が報告を待っている以上、時間をかけるわけにもいかなかった。
 お湯と一緒に混ぜ、飲み干すアマンダ。飲み終わると、コップを落としそうになり、まぶたはすでに閉じてしまっている。
 「ちょっと強かったかな」
 「お前、何入れたんだよ」
 「睡眠促進の薬草を少しね」
 「もしかして、完全にねちまってる」
 情報屋が近づき、顔を覗き込む。若干赤い頬をしながら、小さな寝息をたてているところを見るなり、頭を下げる。
 「あ~あ、こりゃダメだ。たたき起こすか」
 「やめないか。お疲れでいらっしゃるのだぞ」
 「わーったわーった。とりあえず、あんたら全員、もどってこいってよ」
 両手を広げ、起こさないことをアピールする子供。飯食ってからだ、と言い張るヤロに負け、情報屋も食事を共にすることに。その間、アードルフはアマンダを天幕の中に連れて行った。
 ちょうど片づけをしている最中に、リューデリアがやって来る。彼女は、魔法師たちを束ねる長に報告に国へ戻っていたのだ。
 「アマンダはどうしたのだ」
 「カゼひいてねこんでるよ」
 風邪、と聞き間違えたかのような表情をする魔女。経緯を聞くと、ため息をついてしまう。
 「初めからかけてやれば良かったな」
 「あんたのせいじゃないだろ。ところでお願いがあるんだけど」
 「何だ」
 「悪いんだけどさ。こいつらを全員、ラザンダールに送ってやってくんない。オレ一人じゃムリだからさ」
 「それは構わんが。場所が分からぬ」
 今だすよ、と情報屋は水晶と地図を取り出す。そして透明な球体に意識を集中させる。
 すると、地面が遠くなっていき、宙に浮いた状態になったではないか。
 「うわ、何じゃこりゃ」
 「落ちねーから安心しな。今いる場所がここ」
 ここから南東方角に移動するとラザンダールがあるんだ、と情報屋。話しながら高速で移動する地面は、不思議なことに実体感がない。数秒後には、目的地の上空にいた。
 水晶の光が止むと、元の景色に戻る。
 「い、今のは何」
 「名前はねーんだけど。鳥の目の視点をもてる魔法なんだよ」
 「魔法って便利なんだな。オレにも使えるか」
 「魔法は魔法師の国に生まれ育った者にしか使えぬよ」
 「ちぇっ。オレも空飛んでみてえなって思ったのに」
 「いいトシして何言ってるワケ。っとに」
 「歳は関係ねえだろうがっ」
 「はいはい。精神年齢は俺のほうが上でしたね~」
 んの野郎、とイスモにくってかかりそうなヤロだったが、アードルフに止められる。
 傭兵組のやり取りは無視し、
 「そうだ、サイヤが先にいってるから、そんなに負担はかからないと思う」
 「何故サイヤがそちらにいるのだ」
 「つなぎ役でたのんどいたんだ」
 「成程な。準備が出来次第、向かうとしよう」
 と言ったものの。まるで遠足状態になっている彼らがいつ出発出来るのかと、疑問に思ったリューデリアであった。
 何だかんだで数時間後、魔女の力で瞬時に移動してきた一行。移動先は、なんと応接室。アマンダたちが出立前に使った、あの部屋だった。
 「お疲れ様。礼を言うよ」
 声のしたほうに向くと、ヘイノとサイヤが座っていた。
 「屋上ではなかったのか」
 「あんな風の強いところに、女性を立たせるわけにはいかないさ」
 にっこりと微笑む将軍。やってくれたな、と、リューデリアは情報屋を軽く睨む。一方の当人は、左手を顔の前で、高速で左右に動かした。
 意識がまだはっきりしないものの、出発前に目を覚ましたアマンダは、ようやく現状を理解し始める。まばたきを早くし、周囲を伺う。
 「どうかしたのかな。あまり顔色が良くないが」
 「いえ、大丈夫です。ご報告します」
 「まあまあ、そう急がずに。エスコもすぐにやって来るから、席について待っててくれ」
 情報屋以外が席に着くと同時に、ノック音が部屋に響く。ヘイノが開けると、先程話しに上がった者が入ってきた。
 彼はアマンダの顔を見るなり、ほっとしたらしい。
 「無事で何よりだ。よかったよ」
 「皆さんのおかげですわ」
 「そう」
 エスコが座ると、廊下に待機していた使用人たちが、各人のところにお茶やお菓子を持っていく。全員に行き渡ると、彼女たちは一礼をして部屋を後にした。
 ヘイノは情報屋が座っていないことに気づくと、
 「そんなところに立ってないで、こちらに座ったらどうかな」
 「エンリョしとく。こっちでいいよ」
 と、彼が使っている机に座り、お茶を飲む情報屋。行儀悪い、とサイヤに注意されるも、聞く耳を持たなかった。
 「まあ、彼は良いとして。本当によくやってくれた、これで我が軍の脅威が減ったよ」
 先日見た、意地悪そうな表情とは打って変わった満面の笑顔。本心から安心し喜んでいるからこそ出来る顔だろう。
 「まったく、無茶させて。アマンダ、後でヘイノを殴っていいよ。僕が許すから」
 「あのねえ」
 似たようなやり取りを何度も経験しているためか、苦笑いしているアマンダ。多少とまどいながらも、報告いたしますね、と紙を広げる。
 エコース軍を率いていたとされるリューデリアは、操られていただけであり、敵意はないこと。
 魔法を使う者にも二パターンおり、生まれつきの魔導士や魔女と何らかの方法で魔法の力を得た者がおり、また、威力に関しては大したことはないが、魔法を使えない者が直撃を受けては危険だということ。
 さらに、純粋の魔法師たちのほとんどは、元の平穏な暮らしを望んでおり、戦争には関与したくない、ということだった。
 「ふむ、よくまとまっているね。正直驚いたよ」
 アードルフがまとめたのかな、と、笑顔でヘイノ。隣にいるエスコが、こら、と言うが、彼は気にしない。
 一方のアマンダは顔を引きつらせてしまう。彼の言う通り、アードルフがこうなることを予測して、要点をまとめたメモをこちらに来る前に渡していたのだ。
 慌てる彼女が面白かったのか、くすくすと笑う将軍は、済まない、と口にし、
 「こういう時は、嘘でもそうだとって言っても構わないんだよ」
 「は、はあ」
 「そのうち、君なら慣れるだろう」
 何かが楽しいらしく、彼はご満悦。しかし、目だけは真面目になり、細かい経緯については後で聞くとして、と口にする。
 「リューデリア殿はどちらかな」
 「私だ。隣にいるのはサイヤと申す」
 「よろしく~」
 しかめっ面の指名者に比べ、正反対の雰囲気をかもしだすサイヤ。ヘイノとエスコが思わず顔を合わせてしまうが、それが魔女に隙を与え、
 「始めに断っておくが、私はお主らに協力する気はないぞ」
 不意をつかれた将軍たちは目を見開く。
 「国がどうなろうと、我らには関係ないのでな」
 「君たちになくても、ライティア家にはあるだろう。我が国が負ければ、ライティア家もただでは済むまい」
 「そうなったときは我らが全力を持って守る」
 「その全力でも守れなかったら」
 将軍は両手をあごの下に持ってきて、少し前かがみになる。
 「ライティア家は潰され、略奪されるだろう。四大魔法師方も、力を振るえないのなら」
 耐えられるのかい、と、ヘイノ。情報屋とサイヤはリューデリアを見ながら、ハラハラしている。
 彼は、言葉が出ない気丈な魔女に笑いかけ、
 「君をここに呼んだのは、協力を取りつける為じゃない。ライティア家にどれだけ尽くされているのかを知りたかっただけだ」
 「どういう意味だ」
 「言葉通りさ。これからアマンダは司令官の一人として前線に赴くことが多くなる」
 そして、今までと違い、魔法も飛んでくるだろう、と将軍。彼は続けて、
 「アマンダを、守ってあげて欲しいと思ってね」
 ゆっくりと言葉を吐きだしたヘイノは、視線を机に落とした。エスコも、本来ならこの場にいるはずの親友を思い浮かべてしまう。
 「ならば参加させなければ良かろう」
 「それは無理だ。彼女、少し前まで傭兵になろうとしていたからね」
 今度はリューデリアの目が大きくなり、少女の顔を見る。
 「あ、あのさ、リューデリア。悪い話じゃねーだろ。あんたにとっても、さ」
 「お主、よくもぬけぬけと」
 「この話し合いのことは知らなかったんだって、ホントだよっ」
 「リューデリア、落ち着いてちょうだい。あの様子だと本当みたいだし~」
 少し時間を置いたら~、とサイヤ。ふう、と息を出した交渉者の男は、
 「アマンダを守ってくれればいい。気が向いたら、ついでに軍も、という事かな」
 まばたきを数回する魔法を使う者の代表は、艶やかな笑みを浮かべると、
 「何がという事、だ」
 始めからそのつもりだったのだろう、とリューデリア。とんでもない、としらばっくれるヘイノだが、彼のにこやかな顔が心情を表している。
 遠くのほうで胸をなでおろす気配があり、傍聴者たちも、少し和やかになった部屋の空気に安心感を覚える。
 とはいえ、一部は表情が変わっていなかったが。
 「でも、魔女がこんなに若い子だとは思わなかったよ。僕より上かと思ってた」
 「若いって。あなたいくつなの~」
 「二十四」
 「その面でオレのひとつ上かよ。ウソだろっ」
 「どーせ僕は童顔だよ、悪かったなっ」
 そーゆー家系なんだっ、と青筋を立てるエスコ。驚いたヤロに向かって、今にも噛み付きそうな勢いだ。
 「ははは。ワカイッテイイネー」
 「どの口がいうかっ」
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 「ん、どう見えるかな」
 ヘイノのふざけた声に反応したエスコとイスモ。言葉を受け取ったサイヤは、
 「二十四、五かしらね~。あ、もしかして三十とか~」
 「三十は酷すぎるな。そこまでお肌は衰えていないが」
 残念そうにため息をつくヘイノ。答えはね、と、
 「十八だ」
 「ウッソだろっ。イスモよりひとつ下かよっ」
 全然見えねえ、と相手構わず口にする大柄な傭兵。その後、私と同じ~、というのんびりとした女性の声もした。
 「悪かったね、老けてて」
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 ません、とハモるアンブロー軍関係者。流れ的にまずいと感じたアマンダは、
 「と、ところで、わたくしたちは今後、どうすればいいのでしょうか」
 「ん、そうだな。まずはゆっくり休んでくれ」
 「ったくもう。部屋は男女別に用意してあるから、僕が案内するよ」
 行こうか、と促す童顔。それぞれの胸に、年齢以外の思惑と足が同時に動く。
 世情と同じ暗き過去を背負いし人間たちは、いったいどこに歩いていくのか。
 一人を除き、誰も予想がつかなかった。