第十一話
ー/ー
月が半分より多く顔を出している夜空は、薬草を摘んだ日より薄暗くなっている。そんな足元が悪い中、情報屋、アマンダ、アードルフ、ヤロの四人は、圧倒的な戦力差を覆すため、先頭の案内の元、敵将の天幕へと向かう。
「ワナはオレが解除しといたから、気配だけけしてくれよな」
「気配、ですか。どうやって消すのかしら」
転びそうになる子供。
「テキに見つからねーようにしろってコト」
「わかりました」
ホントかよ、と突っ込みを入れたかった情報屋だが、目的地が視界に入ったためか口を閉める。
「オレの役目はここまでだ。あとはあんたらの仕事だぜ」
「ついでに魔法をぶっ放してくれてもいいじゃねえか」
「ヤだね。ケーヤク外だし」
このガキ、と言いそうになったヤロだが、今はそんなことを気にしている場合ではないこと位は察している。
「ヤロ、お前は左に回れ。私は右から行く」
「おうよ。嬢ちゃん、正面は任せたぜ」
「え、ええ」
「安心しな。お前のことはフォローしてやるよ」
お前、と言われて少しムッとしたアマンダだが、それよりも気がかりなことがあった。
そのとき、天幕の中から悲鳴が聞こえる。金属が抜き放たれる音がした瞬間、アードルフとヤロは飛び出し、天幕の左右から中に侵入。
同時に走り出したアマンダと情報屋は、少し遅れて正規の出入り口から入っていく。
中に踏み込むと、イスモが振り返り、左人差し指で床を指す。彼の足元には、首から血を流して倒れている派手な宝石を身に付けた小太りの男と、後ろには二人の傭兵に剣を向けられている数名の部下らしき人物がいた。
アマンダは剣を抜き、彼らに先を突きつける。
「将はうちとりました。降伏なさい」
「ひっ。い、命だけは」
「降伏するのなら助けましょう」
「わわ、わかった。降伏する」
縄で縛るようアードルフたちに頼み剣を収めながら背を向ける。瞬間、彼女の頭上に一人の人間が突如として姿を現し斬りかかろうとした。
しかし、情報屋の魔法で阻まれるやいなや、彼女は再び振り向きながら剣を振るう。
相手の心臓を貫いた衝動に、腕が直角に曲がり、敵が落ちてからようやく両手で引き抜いた。
気持ち悪い音が聞こえたような気がして、思わず剣から手を離してしまうアマンダ。隣に並んだ情報屋は、左手をかざし風で敵を吹き飛ばす。
血のついた細剣をぼう然と見つめる貴族の令嬢。長い長い刹那の時間から目覚めた彼女は、剣を拾い、状況を把握。
敵将の部下が動けなくなっていることを確認すると、すぐに次の場所に移動した。魔法師を束ねている者のところである。
情報屋の案内の元、木々の間をかいくぐっていると、闇色のローブをまとった者が二人が現れる。
「いよぉ。アイツ、くたばったぜ」
「そうか。案内つかまつろう」
ライティアに連なる人間は顔を合わせたが、情報屋は問題ないという。疑っても仕方がないので、言われるがままについていく。
案内人のローブと同じ色をした天幕に入ると、ひとりの若い男が座っていた。
「ようこそ、ライティア家の方」
「あなたが部隊の統括者ですね」
立ち上がりながら話す細身の男は、アマンダの前にひざまずき、まず謝罪をする。
「此度、我ら魔法師を助けていただけるとのこと。感謝致します」
「いいのです。この軍についての説明をおねがいします」
「はい。我らの大半は、リューデリアと同じく戦を望んでいません。ですが、一部は違います」
「魔法師の方々が戦いを望んでいるのですか」
「ええ。閉鎖的な生活に嫌気が差した者たちが望んでいるのです」
「だったら出ればいいじゃねえかよ」
「そういう訳にはいきません。人間は欲深いですから」
意味わかんねえ、とヤロ。頭をかきながら文化の違いに戸惑っているようだ。
「アンジェロ、ぐずぐずしてっと見つかるぞ」
「そうだな。こちらにどうぞ」
アンジェロと呼ばれた少年は、一行を伴って天幕の裏側から表へ向かう。そして、全員が外の空気に触れたことを確認すると、一振りの杖を取り出そうとした。
「ここにいたか」
いつの間に囲まれていたのか、茶色いローブを羽織った者たちが集まっていた。彼らとアマンダたちの間には、先ほど案内した者らしき人の動かぬ体が横たわっている。
「この裏切り者が、この者たちと共に死ねっ」
一斉に短剣と構えながら魔法を唱える相手たち。逃げ場を失った外部者たちは背中を合わせ、武器を構える。
しかし、目深いフードをかぶった者がアマンダと敵の間に姿を現す。その者が左手を天にかざすと、二羽の大きな烏が舞い降りた。
「コイツらを死なせるわけにはいかねーな」
「き、貴様はっ」
「くたばんのは、そっちのほうだぜっ」
情報屋は手に大人の頭程の水晶玉を取り出し、自分たちの周りに円を描いた烏を空に舞わせる。白い光の柱を発した円は、アマンダたちの視界を奪い、姿を包み込んでいく。
直後、立っていられない突風が起こり、全員が膝をついてしまう。
光が止むと、周囲にある細い木々がなぎ倒されており、太い幹には切りつけられたような跡が。地面には切り刻まれた茶色いローブが変色させ、変わり果てた者たちの姿があった。
子供の左手にあった水晶玉は、シュンと音をたて姿が見えなくなる。
「いそげ。連発できねー」
「わかった」
無意識に顔を隠していたアマンダは、まだ立ち上がることが出来ず、座り込んでしまっている。
その間、アンジェロは魔法を使う者にしか分からない言葉を発し、空間を歪めさせ、どこかに移動する。
体の自由を奪われた傭兵たちは、周囲の景色が現実味を帯びたのを確認すると、何が起きたのかを確かめる。どうやら、魔法で移動したとのことだった。
「アンジェロ、だったよね。裏切り者ってどういう意味なわけ」
「あちらから見れば、我々は命令に逆らってますから」
「なるほどね。で、さっきの連中は」
「彼らは純粋な魔法師ではありません。力を与えられ、魔法を使えるただの人ですよ」
「魔法師の血を体のなかにいれたんだと。どーやったのか知らねぇけど」
禁忌の域だな、とアンジェロ。話の舵を変え、
「純粋な魔法師や魔女は、魔法で隠れています。あとは茶色いフードをまとっている者たちを殲滅すれば、問題ありませんよ」
「なにが、問題ないの、ですか」
涙声で、搾り出すようにいう少女の声。近くには、長く仕える大柄な男がしゃがみこみ、様子を見ていた。
「彼らは、たしかに敵です。でも、いくらなんでも、あんな」
「バカかお前。ヤらなきゃこっちがヤられてたんだ」
「嬢ちゃん、坊主の言うとおりだぜ」
声を出さず、頭を横にふるアマンダ。一度とめては、もう一度同じ動作を繰り返す。
「今まで戦に出ていなかったのでしょう。仕方がありません」
「そういうあんたは随分落ち着いてんだね」
「人も動物と同じですから」
「どういう意味だ、そりゃ」
「んなコト話してる場合じゃねーだろ」
イスモ、アンジェロ、ヤロに言葉を投げかける情報屋。確かに、と同じ魔法を使う者がいうと、再び空気が緊張状態になる。
彼いわく、故郷の生活を嫌がった一部の魔法師たちが、タトゥに力を貸し、コラレダ領地で貴族のような生活をしているらしい。つまり、戦争に加担する代わりに、華やかな日常を約束しているのだという。
「だが、あなたのように嫌がっていない方々も参戦しているのだろう。それは何故だ」
「洗脳ですよ。リューデリアが受けていたものと同じものです」
リューデリアはここにいる魔導士と魔女を守るため、彼らに掛けられた魔法すべてを己の身に転換させたらしい。さすがの彼女も、十数人の魔法には耐えられなかったのだという。
本来なら一人一人解除するはずだったのだが、ゼッシュに見つかってしまい、今回のようなことになったというのだ。
「あのデブも、いちおー役にたったってコトだな。ま、指揮官能力ゼロだけど」
「それはいいとして。我々もリューデリアのおかげで解けましたから、あなた方に協力します」
「それは助かるね。魔法でこられたらたまったもんじゃないし」
「おい、嬢ちゃん。しっかりしてくれや」
まだ座り込んでいるアマンダに、少し怒りながらいうヤロ。大将なんだからよ、と座りながら付け加えると、指で頬を軽く叩いた。
「詳しい事情は知らねえが、こんなことでヘバってるんなら、大人しく家に帰んな。仇なんか討てっこないぜ」
「同感。君には無理なんじゃない、向いてないよ」
「そう、かも、しれませんね」
ゆっくりと、震える足で立ち上がる貴族嬢。珍しく何も言わないアードルフが手を貸すと、彼女はつかまる。
「でも、魔法師の方々を、助け、たいです」
「気持ちだけじゃなにもできねーぜ。力がなきゃ意味がねぇんだぞ」
どうする気なんだ、と情報屋。アマンダは足と同じようになっている口で、
「今は、この軍を、何とかしましょう」
アンジェロは、真っ青な彼女を見ながら、
「先程も話しましたが、茶色いフードをまとっている者は、正規の魔法師ではありませんから力は脅威ではありません。問題は数です」
「ざっと数百人はいるぜ。こいつらをどーするかだな」
「あ、あの」
森の奥から、聞き覚えのない少女の声が。黒い服を着、ふたつの黒いおさげをしている、アマンダと同じ年頃の女の子だった。
その手にはコップがあり、アマンダの前に差し出される。
「どうぞ。か、体にいいので」
「まあ。ありがとう」
い、椅子、持ってきます、と、おどおどしながら木々の間に消える少女。少しすると、木で出来た座る道具を持ってきて、続いて複数人の黒服がやってきた。彼らはそれぞれ、サンドイッチやフルーツなどを携えている。
「つまみながらどうぞ」
「おっ、ありがてえ。腹減ってたんだ」
ヤロががっつくのを微笑みながら見た魔導士は、
「アンジェロ、こちらの準備はできてる」
「了解。あとは情報屋たちに任せる」
「あんたも考えてくれよ」
「そういうのは君のほうが得意だろ」
はあ、とため息をつく情報屋。どうやら、魔法師の間では、年齢差はあまり関係ないようである。
話を戻し、
「で、この数百人をどうやって対処するか、なんだけど」
「こちらの人数は」
「ここにいる魔道師たちは十四名です」
「私たちを含めると二十人か」
「あ、私は抜かしてください。私は移動魔法しか使えませんので」
「それじゃわかんねーってば。えーっと、アンジェロは攻撃魔法が使えないんだ。ほかにも攻撃出来ないのがいる」
前線に参加できる魔法師は九人だ、と、情報屋。戦いに参加できるのは十五人、ということになる。
「魔法にもイロイロあるんだよ」
「そうか。厳しいな」
「情報屋。魔法が使えるっていっても、生身の人間なんだろ」
「ああ」
「森の規模はどれぐらいなわけ」
アンジェロは、持っていた地図をイスモに渡す。現在地と敵陣が敷かれている場所を確認すると、彼の表情が怪しくなる。
「絶好な場所じゃないか。兄貴、見てみなよ」
アードルフは、弟分に渡された地図を見、イスモの説明を受ける。すぐに納得した彼は、どれぐらい減らせるかを聞いた。
「上手くハマれば三分の一は減るんじゃないかな」
「坊主、この近くに湖なかったっけか」
「あるぜ」
「兄貴、それも何かに使えねえか」
「ふむ」
「アードルフ、地図を見せてください」
彼以外のベテランたちの顔が曇るが、彼女は気にせず、内容の説明を受ける。イスモが地の利を生かして数を減らす方法と、湖の位置の確認をした。
「魔法師の方は、たしか空を飛べましたね」
「一部だけですが」
「なら、湖側に追いこんで、陸と空から攻撃しましょう。注意を分散、させ、湖の中に、落として、そう、すれば」
「ローブは重いからな。全身ずぶぬれになっちまえば動けねーだろう」
「決まりましたね。皆に伝えてきます」
うつむき小刻みに肩が動いているアマンダに、身につけていたローブをかけるアンジェロ。彼が去ると、新しく従者になった二人が、頭と肩に手を置く。
飲み終わったコップが役目を果たそうとしたかっただが、一滴の液体が注がれたのだった。
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「おうよ。嬢ちゃん、正面は任せたぜ」
「え、ええ」
「安心しな。お前のことはフォローしてやるよ」
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同時に走り出したアマンダと情報屋は、少し遅れて正規の出入り口から入っていく。
中に踏み込むと、イスモが振り返り、左人差し指で床を指す。彼の足元には、首から血を流して倒れている派手な宝石を身に付けた小太りの男と、後ろには二人の傭兵に剣を向けられている数名の部下らしき人物がいた。
アマンダは剣を抜き、彼らに先を突きつける。
「将はうちとりました。降伏なさい」
「ひっ。い、命だけは」
「降伏するのなら助けましょう」
「わわ、わかった。降伏する」
縄で縛るようアードルフたちに頼み剣を収めながら背を向ける。瞬間、彼女の頭上に一人の人間が突如として姿を現し斬りかかろうとした。
しかし、情報屋の魔法で阻まれるやいなや、彼女は再び振り向きながら剣を振るう。
相手の心臓を貫いた衝動に、腕が直角に曲がり、敵が落ちてからようやく両手で引き抜いた。
気持ち悪い音が聞こえたような気がして、思わず剣から手を離してしまうアマンダ。隣に並んだ情報屋は、左手をかざし風で敵を吹き飛ばす。
血のついた細剣をぼう然と見つめる貴族の令嬢。長い長い刹那の時間から目覚めた彼女は、剣を拾い、状況を把握。
敵将の部下が動けなくなっていることを確認すると、すぐに次の場所に移動した。魔法師を束ねている者のところである。
情報屋の案内の元、木々の間をかいくぐっていると、闇色のローブをまとった者が二人が現れる。
「いよぉ。アイツ、くたばったぜ」
「そうか。案内つかまつろう」
ライティアに連なる人間は顔を合わせたが、情報屋は問題ないという。疑っても仕方がないので、言われるがままについていく。
案内人のローブと同じ色をした天幕に入ると、ひとりの若い男が座っていた。
「ようこそ、ライティア家の方」
「あなたが部隊の統括者ですね」
立ち上がりながら話す細身の男は、アマンダの前にひざまずき、まず謝罪をする。
「此度、我ら魔法師を助けていただけるとのこと。感謝致します」
「いいのです。この軍についての説明をおねがいします」
「はい。我らの大半は、リューデリアと同じく戦を望んでいません。ですが、一部は違います」
「魔法師の方々が戦いを望んでいるのですか」
「ええ。閉鎖的な生活に嫌気が差した者たちが望んでいるのです」
「だったら出ればいいじゃねえかよ」
「そういう訳にはいきません。人間は欲深いですから」
意味わかんねえ、とヤロ。頭をかきながら文化の違いに戸惑っているようだ。
「アンジェロ、ぐずぐずしてっと見つかるぞ」
「そうだな。こちらにどうぞ」
アンジェロと呼ばれた少年は、一行を伴って天幕の裏側から表へ向かう。そして、全員が外の空気に触れたことを確認すると、一振りの杖を取り出そうとした。
「ここにいたか」
いつの間に囲まれていたのか、茶色いローブを羽織った者たちが集まっていた。彼らとアマンダたちの間には、先ほど案内した者らしき人の動かぬ体が横たわっている。
「この裏切り者が、この者たちと共に死ねっ」
一斉に短剣と構えながら魔法を唱える相手たち。逃げ場を失った外部者たちは背中を合わせ、武器を構える。
しかし、目深いフードをかぶった者がアマンダと敵の間に姿を現す。その者が左手を天にかざすと、二羽の大きな烏が舞い降りた。
「コイツらを死なせるわけにはいかねーな」
「き、貴様はっ」
「くたばんのは、そっちのほうだぜっ」
情報屋は手に大人の頭程の水晶玉を取り出し、自分たちの周りに円を描いた烏を空に舞わせる。白い光の柱を発した円は、アマンダたちの視界を奪い、姿を包み込んでいく。
直後、立っていられない突風が起こり、全員が膝をついてしまう。
光が止むと、周囲にある細い木々がなぎ倒されており、太い幹には切りつけられたような跡が。地面には切り刻まれた茶色いローブが変色させ、変わり果てた者たちの姿があった。
子供の左手にあった水晶玉は、シュンと音をたて姿が見えなくなる。
「いそげ。連発できねー」
「わかった」
無意識に顔を隠していたアマンダは、まだ立ち上がることが出来ず、座り込んでしまっている。
その間、アンジェロは魔法を使う者にしか分からない言葉を発し、空間を歪めさせ、どこかに移動する。
体の自由を奪われた傭兵たちは、周囲の景色が現実味を帯びたのを確認すると、何が起きたのかを確かめる。どうやら、魔法で移動したとのことだった。
「アンジェロ、だったよね。裏切り者ってどういう意味なわけ」
「あちらから見れば、我々は命令に逆らってますから」
「なるほどね。で、さっきの連中は」
「彼らは純粋な魔法師ではありません。力を与えられ、魔法を使えるただの人ですよ」
「魔法師の血を体のなかにいれたんだと。どーやったのか知らねぇけど」
禁忌の域だな、とアンジェロ。話の舵を変え、
「純粋な魔法師や魔女は、魔法で隠れています。あとは茶色いフードをまとっている者たちを殲滅すれば、問題ありませんよ」
「なにが、問題ないの、ですか」
涙声で、搾り出すようにいう少女の声。近くには、長く仕える大柄な男がしゃがみこみ、様子を見ていた。
「彼らは、たしかに敵です。でも、いくらなんでも、あんな」
「バカかお前。ヤらなきゃこっちがヤられてたんだ」
「嬢ちゃん、坊主の言うとおりだぜ」
声を出さず、頭を横にふるアマンダ。一度とめては、もう一度同じ動作を繰り返す。
「今まで戦に出ていなかったのでしょう。仕方がありません」
「そういうあんたは随分落ち着いてんだね」
「人も動物と同じですから」
「どういう意味だ、そりゃ」
「んなコト話してる場合じゃねーだろ」
イスモ、アンジェロ、ヤロに言葉を投げかける情報屋。確かに、と同じ魔法を使う者がいうと、再び空気が緊張状態になる。
彼いわく、故郷の生活を嫌がった一部の魔法師たちが、タトゥに力を貸し、コラレダ領地で貴族のような生活をしているらしい。つまり、戦争に加担する代わりに、華やかな日常を約束しているのだという。
「だが、あなたのように嫌がっていない方々も参戦しているのだろう。それは何故だ」
「洗脳ですよ。リューデリアが受けていたものと同じものです」
リューデリアはここにいる魔導士と魔女を守るため、彼らに掛けられた魔法すべてを己の身に転換させたらしい。さすがの彼女も、十数人の魔法には耐えられなかったのだという。
本来なら一人一人解除するはずだったのだが、ゼッシュに見つかってしまい、今回のようなことになったというのだ。
「あのデブも、いちおー役にたったってコトだな。ま、指揮官能力ゼロだけど」
「それはいいとして。我々もリューデリアのおかげで解けましたから、あなた方に協力します」
「それは助かるね。魔法でこられたらたまったもんじゃないし」
「おい、嬢ちゃん。しっかりしてくれや」
まだ座り込んでいるアマンダに、少し怒りながらいうヤロ。大将なんだからよ、と座りながら付け加えると、指で頬を軽く叩いた。
「詳しい事情は知らねえが、こんなことでヘバってるんなら、大人しく家に帰んな。仇なんか討てっこないぜ」
「同感。君には無理なんじゃない、向いてないよ」
「そう、かも、しれませんね」
ゆっくりと、震える足で立ち上がる貴族嬢。珍しく何も言わないアードルフが手を貸すと、彼女はつかまる。
「でも、魔法師の方々を、助け、たいです」
「気持ちだけじゃなにもできねーぜ。力がなきゃ意味がねぇんだぞ」
どうする気なんだ、と情報屋。アマンダは足と同じようになっている口で、
「今は、この軍を、何とかしましょう」
アンジェロは、真っ青な彼女を見ながら、
「先程も話しましたが、茶色いフードをまとっている者は、正規の魔法師ではありませんから力は脅威ではありません。問題は数です」
「ざっと数百人はいるぜ。こいつらをどーするかだな」
「あ、あの」
森の奥から、聞き覚えのない少女の声が。黒い服を着、ふたつの黒いおさげをしている、アマンダと同じ年頃の女の子だった。
その手にはコップがあり、アマンダの前に差し出される。
「どうぞ。か、体にいいので」
「まあ。ありがとう」
い、椅子、持ってきます、と、おどおどしながら木々の間に消える少女。少しすると、木で出来た座る道具を持ってきて、続いて複数人の黒服がやってきた。彼らはそれぞれ、サンドイッチやフルーツなどを携えている。
「つまみながらどうぞ」
「おっ、ありがてえ。腹減ってたんだ」
ヤロががっつくのを微笑みながら見た魔導士は、
「アンジェロ、こちらの準備はできてる」
「了解。あとは情報屋たちに任せる」
「あんたも考えてくれよ」
「そういうのは君のほうが得意だろ」
はあ、とため息をつく情報屋。どうやら、魔法師の間では、年齢差はあまり関係ないようである。
話を戻し、
「で、この数百人をどうやって対処するか、なんだけど」
「こちらの人数は」
「ここにいる魔道師たちは十四名です」
「私たちを含めると二十人か」
「あ、私は抜かしてください。私は移動魔法しか使えませんので」
「それじゃわかんねーってば。えーっと、アンジェロは攻撃魔法が使えないんだ。ほかにも攻撃出来ないのがいる」
前線に参加できる魔法師は九人だ、と、情報屋。戦いに参加できるのは十五人、ということになる。
「魔法にもイロイロあるんだよ」
「そうか。厳しいな」
「情報屋。魔法が使えるっていっても、生身の人間なんだろ」
「ああ」
「森の規模はどれぐらいなわけ」
アンジェロは、持っていた地図をイスモに渡す。現在地と敵陣が敷かれている場所を確認すると、彼の表情が怪しくなる。
「絶好な場所じゃないか。兄貴、見てみなよ」
アードルフは、弟分に渡された地図を見、イスモの説明を受ける。すぐに納得した彼は、どれぐらい減らせるかを聞いた。
「上手くハマれば三分の一は減るんじゃないかな」
「坊主、この近くに湖なかったっけか」
「あるぜ」
「兄貴、それも何かに使えねえか」
「ふむ」
「アードルフ、地図を見せてください」
彼以外のベテランたちの顔が曇るが、彼女は気にせず、内容の説明を受ける。イスモが地の利を生かして数を減らす方法と、湖の位置の確認をした。
「魔法師の方は、たしか空を飛べましたね」
「一部だけですが」
「なら、湖側に追いこんで、陸と空から攻撃しましょう。注意を分散、させ、湖の中に、落として、そう、すれば」
「ローブは重いからな。全身ずぶぬれになっちまえば動けねーだろう」
「決まりましたね。皆に伝えてきます」
うつむき小刻みに肩が動いているアマンダに、身につけていたローブをかけるアンジェロ。彼が去ると、新しく従者になった二人が、頭と肩に手を置く。
飲み終わったコップが役目を果たそうとしたかっただが、一滴の液体が注がれたのだった。