表示設定
表示設定
目次 目次




不思議の森の少女

ー/ー



「というわけで学園裏の森にやってきたのだ!」

 元気よく森の中を歩くオリンピックについていく。なるほど、確かに幽世の気配を強く感じる。すぐ近くに目当ての場所があるなら、調べ物がすぐに終わるのも当然と言えよう。

「この森には昔から伝説があって、道に迷った人の前に小さい女の子が現れて、一緒に遊んであげると森の外まで案内してくれるんだって!」

 小さい女の子……か。その漠然とした伝承とこの濃密な神気から考えられるのは、あの神だな。人間にとっての危険度は極めて高いと噂に聞くが、力が強いからこそただの人間の前には姿を現さないのでかえって安全とも言える。

「ふむ。オリンピックはこの森に詳しいのか?」

「もちろん! すぐ目の前にある森だからね。ちゃーんと地図もこのヘッドターミナルに入ってるし、怪しい場所はしっかり把握済みだよ!」

 オリンピックはヘッドギア(タイプ)携帯端末(モバイルターミナル)を左手で指し示しながら言う。右手には小型の神気抑制器(ハンドジャマー)を持っている。人間が科学技術を結集して作った対マレビト用兵器だ。人間には効果がないので子供でも持ち歩くことが許されている。さすがに何の装備も持たずにマレビトを探すほど無謀ではないようだ。

 得意げなオリンピックだが、私は彼女の話に重大な論理的破綻(ロジック・フェアリア)を見つけた。

「道に迷った人間の前に姿を現すのなら、道が分かっているオリンピックの前には姿を見せないのではないか?」

「あっ……!」

 ハッとした表情で固まる。やはりそこに気付いていなかったか。

 そもそも、人間に自分と遊ぶことを要求するようなマレビトが、いかにも狩りをしますと言わんばかりの装備で自分の縄張りに入ってきた人間の前に姿を見せるものだろうか?

 それが圧倒的強者であるなら、なおさらだ。弱き者の前にわざわざ姿を現して力を誇示するのは半端者の行いである。

「……よし、ここは河伯君が先に進むのだ!」

「なるほど」

 道を知らない私が先導すれば道に迷う。とっさに考えたにしては悪くない発想だ。だが私は『道に迷った人間』ではない。そもそもこの森の地理も知り尽くしている。噂のマレビトが現れるとは思えないが、オリンピックを満足させて安全に帰ることが出来そうなので言う通りにしよう。



「クスクス……お姉ちゃん達、楽しそうね」

 だが、どうやら私の考えが甘かったらしい。森の中をしばらく歩いていると、私達の前に突如として幼い少女が現れた。

「出たー!」

 歓喜の声を上げるオリンピックを尻目に、私はこの少女を観察する。輝くような金髪に透きとおる青い目、青いワンピースドレスの上に白いエプロン。頭にはご丁寧に青いリボンまで付けている。この姿、間違えようもない。

「……『アリス』か」

「そうよ、私はアリス。お姉ちゃん達は私に会いにきたんでしょ?」

「えっ、河伯君この子のこと知ってるの?」

 驚いたような顔をするオリンピックだが、マレビトを調べている彼女が知らない方が意外だ。

「お姉ちゃん、カハクって言うんだ」

 どうやらアリスは私のことを女だと思っているらしい。スカートは女が着るものという認識はマレビトにもあるようだ。本来の姿から人型だからだろうか?

「西暦1865年にルイス・キャロルという作家が刊行した有名な小説、その主人公だ」

「ええーっ!? 小説の登場人物がなんでこんなところにいるの?」

 オリンピックはマレビトに興味があっても関連する知識はほとんど持ち合わせていないみたいだ。

「クスクス……」

 アリスは私達のやり取りを見て楽しそうに笑っている。敵意は無さそうだが、どうしたものか。

「小説の登場人物そのものではない。『幼い少女』というフレーズから多くの人間が想像するイメージ、その象徴として扱われることが非常に多かったために生まれた神だ。人間の信仰が幽世に神を生むものだが、その力は信仰の強さに比例する。アリスはあまりにも多くの人間から好意的な感情と具体的な姿で受け入れられたために、極めて強力な神として誕生した。あまりに強力なので、『幼い少女』という噂のある場所ならどこにでも現れる」

「すっごーい! 河伯君ってマレビト博士?」

 私の説明を聞いたオリンピックは、私の知識に感心する。もっと気にするべきことがあるだろうに。

「あははっ、面白いお姉ちゃん達! ねえ、私と一緒に遊んでよ」

 そんな私達に興味を持ったらしいアリスは、伝説通りに遊びを要求してきた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む アリスと鬼ごっこ


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「というわけで学園裏の森にやってきたのだ!」
 元気よく森の中を歩くオリンピックについていく。なるほど、確かに幽世の気配を強く感じる。すぐ近くに目当ての場所があるなら、調べ物がすぐに終わるのも当然と言えよう。
「この森には昔から伝説があって、道に迷った人の前に小さい女の子が現れて、一緒に遊んであげると森の外まで案内してくれるんだって!」
 小さい女の子……か。その漠然とした伝承とこの濃密な神気から考えられるのは、あの神だな。人間にとっての危険度は極めて高いと噂に聞くが、力が強いからこそただの人間の前には姿を現さないのでかえって安全とも言える。
「ふむ。オリンピックはこの森に詳しいのか?」
「もちろん! すぐ目の前にある森だからね。ちゃーんと地図もこのヘッドターミナルに入ってるし、怪しい場所はしっかり把握済みだよ!」
 オリンピックはヘッドギア|型《タイプ》の|携帯端末《モバイルターミナル》を左手で指し示しながら言う。右手には|小型の神気抑制器《ハンドジャマー》を持っている。人間が科学技術を結集して作った対マレビト用兵器だ。人間には効果がないので子供でも持ち歩くことが許されている。さすがに何の装備も持たずにマレビトを探すほど無謀ではないようだ。
 得意げなオリンピックだが、私は彼女の話に重大な|論理的破綻《ロジック・フェアリア》を見つけた。
「道に迷った人間の前に姿を現すのなら、道が分かっているオリンピックの前には姿を見せないのではないか?」
「あっ……!」
 ハッとした表情で固まる。やはりそこに気付いていなかったか。
 そもそも、人間に自分と遊ぶことを要求するようなマレビトが、いかにも狩りをしますと言わんばかりの装備で自分の縄張りに入ってきた人間の前に姿を見せるものだろうか?
 それが圧倒的強者であるなら、なおさらだ。弱き者の前にわざわざ姿を現して力を誇示するのは半端者の行いである。
「……よし、ここは河伯君が先に進むのだ!」
「なるほど」
 道を知らない私が先導すれば道に迷う。とっさに考えたにしては悪くない発想だ。だが私は『道に迷った人間』ではない。そもそもこの森の地理も知り尽くしている。噂のマレビトが現れるとは思えないが、オリンピックを満足させて安全に帰ることが出来そうなので言う通りにしよう。
「クスクス……お姉ちゃん達、楽しそうね」
 だが、どうやら私の考えが甘かったらしい。森の中をしばらく歩いていると、私達の前に突如として幼い少女が現れた。
「出たー!」
 歓喜の声を上げるオリンピックを尻目に、私はこの少女を観察する。輝くような金髪に透きとおる青い目、青いワンピースドレスの上に白いエプロン。頭にはご丁寧に青いリボンまで付けている。この姿、間違えようもない。
「……『アリス』か」
「そうよ、私はアリス。お姉ちゃん達は私に会いにきたんでしょ?」
「えっ、河伯君この子のこと知ってるの?」
 驚いたような顔をするオリンピックだが、マレビトを調べている彼女が知らない方が意外だ。
「お姉ちゃん、カハクって言うんだ」
 どうやらアリスは私のことを女だと思っているらしい。スカートは女が着るものという認識はマレビトにもあるようだ。本来の姿から人型だからだろうか?
「西暦1865年にルイス・キャロルという作家が刊行した有名な小説、その主人公だ」
「ええーっ!? 小説の登場人物がなんでこんなところにいるの?」
 オリンピックはマレビトに興味があっても関連する知識はほとんど持ち合わせていないみたいだ。
「クスクス……」
 アリスは私達のやり取りを見て楽しそうに笑っている。敵意は無さそうだが、どうしたものか。
「小説の登場人物そのものではない。『幼い少女』というフレーズから多くの人間が想像するイメージ、その象徴として扱われることが非常に多かったために生まれた神だ。人間の信仰が幽世に神を生むものだが、その力は信仰の強さに比例する。アリスはあまりにも多くの人間から好意的な感情と具体的な姿で受け入れられたために、極めて強力な神として誕生した。あまりに強力なので、『幼い少女』という噂のある場所ならどこにでも現れる」
「すっごーい! 河伯君ってマレビト博士?」
 私の説明を聞いたオリンピックは、私の知識に感心する。もっと気にするべきことがあるだろうに。
「あははっ、面白いお姉ちゃん達! ねえ、私と一緒に遊んでよ」
 そんな私達に興味を持ったらしいアリスは、伝説通りに遊びを要求してきた。