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河伯と明蓮、あと五輪

ー/ー



 どうやら男はズボンをはくのが普通らしい。規則を調べてもそんなことは書いていないのだが、それが人間の常識というものなのだろう。

「それで、結局何しに来たの?」

「君がどんな生活をしているのか見にきた」

 私達は屋上に続く階段の踊り場で話している。人目に付かない場所で話したかったのだろう、明蓮が私を連れてここに来た。屋上に出る扉は鍵がかかっているのでまず他の人間はやってこないらしい。

 もちろん彼女が人目を避けたい理由は分かっている。彼女の能力が他の人間に知られてはならないということだ。なので私は神通力を使って下から誰か覗きに来ていないか監視している。特にオリンピックは私のことを気にしていたので注意が必要だ。

「はあ……竜神の考えることは分からないね。先生はアンタの正体を知ってるの?」

「いや、人間として転入するようにしたから私の正体を知っているのは君だけだ。国が管理する個人情報も全て正式に登録されたことになっているので、人間が探っても河伯という人間が確かに存在するということしか調べられない」

「なるほど。そんな下らない目的のためにとんでもないことをサラッとやっちゃうのはさすが神様ってところかしらね。まあ、アタシの秘密をバラす気がないならいいよ」

 私にとってはまったく下らなくないのだが、明蓮は納得したように頷いて階段を下りる。と、数段下りたところで振り返った。

「あ、言い忘れてた。その恰好ムカつく! なにそのサラサラヘアー。目はパッチリキラキラしててまつ毛長いし、透きとおるような白くてスベスベの肌。背も低くて肩幅も狭くて何もかもが可愛すぎるのよ! 同じ制服着て隣に立たないで!」

 どうやら彼女と同じ服を着たのが気に入らないらしい。人間は同調を好むのではないのか。難しいものだ。

「ああ、明日からはズボンをはいてくることにする」

「それはそれで違和感ありそうだけど、まあいいわ。じゃあ私は生徒会の役員会議があるから」

 生徒会は分かる。生徒の自治という建前を利用して本来教師がやるべき予算管理や学校秩序の維持活動を生徒に押し付けるための組織だ。

「君は生徒会役員なのか。役職は?」

「副会長。ただの数合わせよ」

 私立ローレンス学園の生徒会役員は生徒会長、副会長、会計係、書記係の四人と各部活の部長で構成される。部長は部の代表という立場で会議に参加するメンバーなので、実質的に生徒会を運営しているのは四人ということになる。

 階段を下りていく明蓮を見送りながら、私はこの学校のことをもっとよく知る必要があると考えていた。彼女を観察しようにも、制服のズボンとスカートのような暗黙の了解を知らずに変なことをすれば、彼女に迷惑がかかるかも知れないらしい。

「お話終わったの? 河伯ちゃ……君って副会長とどんな関係?」

 明蓮と別れて警戒を解いた途端に、オリンピックが階段を上ってきた。さっきから階段の下で待っていたから、恐らく明蓮が下りていったのを確認してこちらにきたのだろう。

「以前からネットで交流していた知り合いだよ」

 クラスでの明蓮とのやり取りを聞いていた他の生徒が納得しやすい設定を、二人で考えて決めたのだ。

「なるほどねー、副会長は女の子に人気だから、二人でいると嫉妬されちゃうかもよ」

「女の子に? 明蓮も女の子だろう。異性からは人気がないのか?」

「ふふっ、それ本人に言っちゃダメだよ。気にしてるから」

 オリンピックは悪戯っぽく笑うと、口元に右手の人差し指を立てて見せる。口外するなというジェスチャーだったな。

「分かった」

 オリンピックは色々とこの学校の不文律を教えてくれそうだ。しばらくは彼女と交友を深めるべきだろうか?


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 どうやら男はズボンをはくのが普通らしい。規則を調べてもそんなことは書いていないのだが、それが人間の常識というものなのだろう。
「それで、結局何しに来たの?」
「君がどんな生活をしているのか見にきた」
 私達は屋上に続く階段の踊り場で話している。人目に付かない場所で話したかったのだろう、明蓮が私を連れてここに来た。屋上に出る扉は鍵がかかっているのでまず他の人間はやってこないらしい。
 もちろん彼女が人目を避けたい理由は分かっている。彼女の能力が他の人間に知られてはならないということだ。なので私は神通力を使って下から誰か覗きに来ていないか監視している。特にオリンピックは私のことを気にしていたので注意が必要だ。
「はあ……竜神の考えることは分からないね。先生はアンタの正体を知ってるの?」
「いや、人間として転入するようにしたから私の正体を知っているのは君だけだ。国が管理する個人情報も全て正式に登録されたことになっているので、人間が探っても河伯という人間が確かに存在するということしか調べられない」
「なるほど。そんな下らない目的のためにとんでもないことをサラッとやっちゃうのはさすが神様ってところかしらね。まあ、アタシの秘密をバラす気がないならいいよ」
 私にとってはまったく下らなくないのだが、明蓮は納得したように頷いて階段を下りる。と、数段下りたところで振り返った。
「あ、言い忘れてた。その恰好ムカつく! なにそのサラサラヘアー。目はパッチリキラキラしててまつ毛長いし、透きとおるような白くてスベスベの肌。背も低くて肩幅も狭くて何もかもが可愛すぎるのよ! 同じ制服着て隣に立たないで!」
 どうやら彼女と同じ服を着たのが気に入らないらしい。人間は同調を好むのではないのか。難しいものだ。
「ああ、明日からはズボンをはいてくることにする」
「それはそれで違和感ありそうだけど、まあいいわ。じゃあ私は生徒会の役員会議があるから」
 生徒会は分かる。生徒の自治という建前を利用して本来教師がやるべき予算管理や学校秩序の維持活動を生徒に押し付けるための組織だ。
「君は生徒会役員なのか。役職は?」
「副会長。ただの数合わせよ」
 私立ローレンス学園の生徒会役員は生徒会長、副会長、会計係、書記係の四人と各部活の部長で構成される。部長は部の代表という立場で会議に参加するメンバーなので、実質的に生徒会を運営しているのは四人ということになる。
 階段を下りていく明蓮を見送りながら、私はこの学校のことをもっとよく知る必要があると考えていた。彼女を観察しようにも、制服のズボンとスカートのような暗黙の了解を知らずに変なことをすれば、彼女に迷惑がかかるかも知れないらしい。
「お話終わったの? 河伯ちゃ……君って副会長とどんな関係?」
 明蓮と別れて警戒を解いた途端に、オリンピックが階段を上ってきた。さっきから階段の下で待っていたから、恐らく明蓮が下りていったのを確認してこちらにきたのだろう。
「以前からネットで交流していた知り合いだよ」
 クラスでの明蓮とのやり取りを聞いていた他の生徒が納得しやすい設定を、二人で考えて決めたのだ。
「なるほどねー、副会長は女の子に人気だから、二人でいると嫉妬されちゃうかもよ」
「女の子に? 明蓮も女の子だろう。異性からは人気がないのか?」
「ふふっ、それ本人に言っちゃダメだよ。気にしてるから」
 オリンピックは悪戯っぽく笑うと、口元に右手の人差し指を立てて見せる。口外するなというジェスチャーだったな。
「分かった」
 オリンピックは色々とこの学校の不文律を教えてくれそうだ。しばらくは彼女と交友を深めるべきだろうか?